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ガラクタ街

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第七章

 彼にリンデンと共にお礼を言った、それから。
 そのうえで長老と共に甘味処に入った、そうして日本の団子やお茶を飲みながらだ、そのうえで話をするのだった。
 ロートは長老にこの街のことを問うた、すると長老は街のはじまりから聞いた。
「この市が出来た頃からな」
「あったのですか」
「最初はただ除け者が集まっただけじゃった」
 市の彼等が、というのだ。
「それが自然とな」
「人が集まってですか」
「地下にも建物にも色々と集まってな」
「そうしてですか」
「次第の今の様な形になった」 
 そうなったというのだ。
「自然とな」
「自然とだったのですか」
「人が集まりな」
「そして」
「こうした形になったのじゃ」
「ドイツ以外の国からもですね」
「うむ、色々な人が来たのじゃ」
 長老は歯が殆ど残っていない口で団子を食べつつ答える、歯はなくともそれでも団子を充分に噛んで楽しんでいる。
「自然とな」
「集まって来た理由は、人が」
「それはわからぬ、ただ」
「市の除け者が集まって出来たことが」
「はじまりじゃからな」
 だからだというのだ。
「おそらくあちこちの除け者が自然とここに来てじゃ」
「それで住む様になったのですね」
「おそらくな。わしにしてもな」
 長老は自身のことも話した。
「親父がカモラのドンの情婦とちょっとな」
「ああ、ナポリの犯罪組織の」
「そこの神聖なるママの情婦とできてな」
 カモラは南イタリアの犯罪結社だ、そしてそのドン達は神聖なるママという呼び名で呼ばれているのである。
「追われてな」
「ここまで、ですね」
「一家で逃げてな。浮気されてカンカンじゃったお袋とも一緒に」
「逃げて来られたのですか」
「自然とここに来て落ち着いてじゃ」
 それからだというのだ。
「ずっとここで暮らしておる」
「左様でしたか」
「ここに入ってからナチスなり戦争なりと色々あったみたいじゃが」
「ここだけはですか」
「そうした連中は一切入って来ずな」
 そしてだったというのだ。
「わし等は生きてきておる」
「様々な人達が」
「ナチスの話をしたがな」
 ここで彼等のことを話したついでの言葉だった。
「連中から逃れたユダヤ人も多いぞ」
「ここには」
「うむ、おる」
「そういえばラビの人もいましたね」
 そしてユダヤ系の寺院やベーグルを売っている店もだ。
「あちこちに」
「散らばっておるのう」
「こうした日本のお店もあって」
「中国もあればアメリカもあってな」
「他にもですね」
「ここはまことにな」
「様々な人がですね」
「動物までもがな」
 その犬や猫達もだ、見ればこの店の水槽には金魚達がいる。如何にも日本だ。
「おるからのう」
「混沌としていますね」
「カオスじゃな、まさに」
「はい」
 その通りだとだ、ロートも答える。 
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