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ZIGZAGセブンティーン

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第三章


第三章

「そんなことな」
「白を切るの?」
「何でそうなるんだよ」
「だって」
 今度は口を尖らせてだ。俺に言ってきた。
「あんたっていつもそうだから」
「いつもかよ」
「いつもじゃない」
 いつもの売り言葉に買い言葉だった。
「すぐ他の女の人見るんだから」
「あのな」
 俺は少しうんざりとした顔になっていた。それを自覚しながらだった。
「目に入ったら見たってことになるのかよ」
「そうよ」
「無茶言うな。じゃあ何だって言えるだろうがよ」
「要はそうならないように気をつけることよ」
「目に入るのなんて意識できるかよ」
「できるわよ。視線逸らしなさいよ」
「一瞬でも入ったら駄目なんだろうが」
 その論理ならどうなるか。俺は考えながらまた言い返した。
「それって無茶苦茶にも程があるだろ」
「だから気をつけなさいって言ってるの」
「気をつけられるか、そんなこと」
「そうよ」
 ここでも言い合う俺達だった。何から何まで喧嘩ばかりだった。そして俺達のその喧嘩はだ。向こうの親父さんとお袋さんにも伝わった。
 それでだった。俺達はそのうどん屋に呼ばれた。土曜の閉店後にだ。もう誰もいなくなった店の中で向かい合って座ってだ。親父さん達に言われた。店の中はまだ灯りが点いたままなのに寂しい感じがした。お客さんがいなくなった後の店の寂しさがそこにあった。
「聞いてるぞ、色々とな」
「あんた達のことをね」
 俺達は四人用の席に座っていた。向こうには親父さんとお袋さんがいつ。俺と彼女は親父さん達と向かい合う形で横に並んでいる。そこで言われた。
「喧嘩ばかりしてるそうだな」
「それも毎日」
「悪いの?」
 彼女がまず言った。
「それが」
「そう言うか」
「相変わらず気が強いわね」
「ええ、悪い?」
 悪びれずに言う。本当に鼻っ柱が強い。
「だってね。こいつが悪いのよ」
「おい、俺かよ」
 俺も口を尖らせて反論した。
「俺が悪いのかよ」
「あんたがすぐ他の女の子見るからでしょ」
「そういう御前だってな」
 俺はすぐに言い返した。
「何かっていうと他の男をな」
「私が何したってのよ」
「笑顔向けてな。あれは何だよ」
「笑顔って何よ」
「他の奴に気があるんだろ」
 こう言うのだった。
「違うのかよ」
「あのね。学校とかお店にいたら他の人と会って話をしたりするでしょ」
 こいつもこいつで言う。いつも通り。
「それの何処がおかしいのよ」
「おかしいだろ。それってよ」
「あんただってそうじゃない」
 何か話していて堂々巡りになってきている気がした。けれどそれでも俺達はムキになってだ。それで言い合う。お互いにだ。
「他の娘見て」
「御前この前な」
 昨日のことを思い出してだった。
「俺が小学生の女の子見ても言ったよな」
「それが悪いっていうの?」
「そりゃないだろ。相手小学生でも三年位だったぞ」
「七年後にはいい歳になってるじゃない」
「七年ってどれだけあると思ってるんだ」
 俺にとっちゃ七年はとんでもなく長い時間だ。それこそ小学校生活より長い。そんな長い年月を一体どうしろかと思った。
「御前どんだけ嫉妬深いんだよ」
「嫉妬じゃないわよ」
「じゃあ何だっていうんだよ」
 こんな調子で俺達はとことんまで言い合った。もう親父さんとお袋さんのことは忘れていた。それで二時間位言い合うとだった。
 
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