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女の子の恋

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第三章


第三章

「私の方こそね」
「はい」
「宜しくね」
「わかりました」
 こうして二人はペアでの練習をはじめた。二人は一緒にいる時間が長くなり、練習もよく一緒にやることが多くなった。ランニングやサーキットトレーニングも。そしてテニスの練習も。二人は一緒に練習していた。やがて二人は一緒に帰ることも多くなってきた。
「先輩、一緒に帰りませんか」
「そうね」
 今日は男子の方は早く終わっていた。幸平は先に帰ってしまっており杏奈と由美子は最後まで残って練習をしていたのであった。これは杏奈があまりにも熱心に練習し、由美子がそれに付き合っていたのである。
「私達で最後だし」
「はい」
 二人は着替え終わって部室を後にした。見ればもう太陽は赤くなっており地面に沈もうとしていた。世界も赤く染まっていた。
「もう夕方なのね」
「時間が経つのって早いですね」
 杏奈はその夕陽を見て言った。
「朝学校に来たと思ったらあっという間で」
「時間なんてそんなものよ」
 由美子は優しく笑って語った。
「それを考えると大会まで本当に時間がないわね」
「はい」
「明日もやるわよ。そして本当に優勝しましょうね」
「はい、私本当に先輩の足を引っ張らないように」
「だから引っ張るなんていうのはないのよ」
 そんな真面目な杏奈の態度がいとおしくなってきた。
「必死にやれば結果はついてくるから。いいわね」
「必死に、ですか」
「そうよ。二人でやればね。きっといい結果が出るわ」
「わかりました、それじゃあ本当に喰らいついていきます」
 杏奈はまた真剣な顔で返した。
「そして優勝を」
「ええ、きっとね」
 そんな杏奈が可愛くなってきた。段々と可愛い後輩から別の存在に思えてきていた。しかしそれはまだ本人は気付いてはいなかった。しかし少しずつ変化が現われようとしていた。
 二人での練習は続き大会を迎えた。杏奈はシングルでもいい成績を残し、ダブルスでも順調に勝ち進んでいた。遂には準決勝まで進んだ。
「いよいよね」
「はい」
 二人は試合を前に最後の打ち合わせに入っていた。
「ここまで来たらね。何も言うことはないわ」
「頑張るだけ、ですか」
「そうよ、健闘を祈るわ」
 由美子は強い声で言った。
「いいわね」
「はい」
 杏奈はそれに頷くだけであった。由美子はまた言った。
「大事なのはね。力を全部出すことよ」
「力を、ですか」
「悔いのないようにね。そうすえば結果は自然についてくるから。いいわね」
「わかりました、それじゃあ」
「頑張ってね」
 杏奈はまた頷いた。そして二人は立ち上がりコートに向かった。そこはもう試合前の熱気に覆われていた。今将に試合開始のホイッスルが鳴ろうとしていた。
 コートに入り暫くするとそのホイッスルが鳴った。こうして準決勝がはじまった。
 試合は一進一退であった。流石に相手は強い。だが杏奈もその持ち前の反射神経を使い何とかボールに追いすがる。由美子は後ろでそんな杏奈をフォローする。二人は動きもぴったりと合っており、それで相手と五分に渡り合っていた。そのまま試合は進んだ。
 最後の勝負。どちらかがポイントを取れば全ては決まるという場面になった。ここで相手がスマッシュを放った。
「これなら!」
 いける、杏奈はそう思った。さっとボールに飛びつく。
 だが一瞬だがボールの方が速かった。ボールはラケットを通り抜け、コートも抜けてしまった。残念なことにポイントを取られてしまった。杏奈達は最後の最後で試合に敗れてしまったのであった。
「そんな、ここまで来て」
 杏奈はそのままコートに崩れてしまった。泣きそうになる。だがここで後ろにいた由美子が声をかけてきた。
「泣いては駄目よ、杉本さん」
「先輩」
 その声に顔をあげる。するとそこには由美子が立っていた。
「力を出し尽くしたんでしょう?」
「けれど」
「けれどはないわ。力を出し尽くして負けたのなら仕方はないわ」
 由美子はこう言った。
「負けたのはね、確かに口惜しいわ」
「はい」
 杏奈は立ち上がってそれに頷いた。
「けれど、さっきも言ったわね」
「結果ですか」
「そう、その結果が出るまではね、負けても泣いては駄目なのよ」
「どうしてですか?」
「泣くのはね、嬉しい時にだけ泣くべきだからよ」
 由美子はにこりと微笑んでこう言った。
「嬉しい時にですか?」
「そう、悲しい時はね、泣いちゃ駄目なのよ。その時は堪えるの」
「堪える」
「そして堪えて堪えて。嬉しい時に泣くのよ。そうでなければ泣いちゃ駄目なのよ」
 それがどうしてか杏奈にはわからなかった。だが由美子が今は泣いては駄目なのだと言っているのははっきりとわかった。そしてそれに素直に頷こうと思った。
「いいわね」
「わかりました」
 杏奈は決めた。頷いた。
「私、泣きません」
「そう、それでいいわ。泣く時は」
「次に勝った時。いえ、嬉しい時ですね」
「そうよ、いいわね」
 こうして杏奈は泣かなかった。そして同時に由美子に対する尊敬の念がさらに強くなった。前よりも彼女と一緒にいたがるようになりその仲はさらによくなった。彼女は完全に由美子にべったりといった状況であった。
「最近さあ」
 そんな日々の中幸平は由美子に対して言った。彼は夏休みの部活のない日に由美子とデートしていたのであった。二人は私服で街の公園を歩いていた。杏奈はこの時友達と遊びに行っていたらしい。

 
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