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Fate Repeater ~もう一人のクルスニク~

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一話:男の思い

 
前書き
最初はプロローグ的な感じでヴィクトル戦、終盤からです。
では本文をどうぞ。
 

 
悲鳴を上げ崩れ落ちる自分の肉体、吐き出される血の固まり……。
そして何より、愛娘―――エルの首筋に見える時歪の因子化(タイムファクターか)……。
間に合わなかった…!!……己の体の限界も…エルの力の限界も……!!。

ルドガー………“本物”の自分に一族の力―――骸殻を使える限度は決まっていること
そしてその代償こそが時歪の因子化(タイムファクターか)……逃れる術のない一族の力の代償だと教える。

茫然と私を見つめるルドガーにかつての私を思い起こす……。
立ち止まり、正しい選択をすることが出来なかった自分を。
……私にはもうエルと共に“カナンの地”にまで行く時間は残されていない。
だから―――

「お前はどう選択する!!」

最後の力を振り絞りフル骸殻になり“本物”の自分に向かって行く。
そして既に限界を越え、薄れゆく意識の中でかつて自分が犯した過ちを思い出す。
かつて私が―――俺が破ってしまった少女との約束。

――――――・・・




初めての出会いは最悪だったと言ってもいいかもしれない。
初出勤の日に無賃乗車のダシに使われて痴漢冤罪をかけられたのだ。
思わず自分の不幸を神に呪ったよ。
だが、その後直ぐに起きたテロによって俺と少女の運命の糸は急速に引き寄せられていった。

列車に乗り込んだ先に居た少女を助け、後に親友となる男の子と出会った。
飼い猫ともそこで再会した。
テロを止めるために進んだ車両の先にいた兄とその頃は父とも知らなかった人物。
そして初めて迷い込んだ此処とは異なる“世界”
全ての始まりがあの日だった。少女との旅と―――呪われた宿命。

旅を続けていくうちに知った“一族の宿命”そして――“カナンの地”
少女と共に行くと誓った約束の地、その時“審判”の過酷さなど知らなかった
俺にとっては少女と交わした約束こそがそこに行く全て理由だった。


『ホントのホントの約束だよ、“エル”と“ルドガー”は、一緒に“カナンの地”に行きます。』


約束した………守ろうとした……だが―――っ!!!


『“ルドガー”の………嘘つき。』


俺はその約束を―――破ってしまった…!!
世界の為と……精霊と人間の為とうそぶいて……俺は少女を見捨てた!!!
約束したのにだ……必ず一緒に“カナンの地”に行くとそう目を合わせて約束したのにだ。

あの時の……見捨てた時の少女の目を俺は未だに忘れられない、見捨てられたと知った絶望、
そして俺への憎悪……忘れられるものか。
いや、これは俺への罰だ、決して忘れてはならない。
それは俺が選択を誤ったと言う“証”なのだから。

――――――・・・





さあ、ルドガーお前はどう選択する?
私の様に言い訳をして“エル”を見捨てるか?それともエルの為に―――自分を殺せるか!!

ドシュッ!!

静かな空間に響き渡る肉を貫く音………。



「パパッ!?」



ああ……お前は―――誤らなかったのだな。
目を閉じ苦しそうに私の胸に槍を突き刺す“俺”を見る。
いや、ルドガーは私ではない、ルドガーは選択を誤らなかった。
かつて誤った選択をしてしまった私とは違う―――“別の人間”なのだ。

ああ……私は何と愚かなことをしていたのだろうか……
そうだ、私とルドガーが違うように“正史世界”で生まれるエルも違う人間だ。
今になって気づくとは…私は馬鹿だ……また過ちを犯してしまった……。
だが、ルドガーなら必ず―――正しい未来を掴みとれる…!!
だから―――

「エルを……頼む。」

お前に託そう……“エルの未来”を。
かつて俺が果たすことが出来なかった“約束”を……
“カナンの地”へ…“オリジンの審判”を越えて……。

既に限界を越えていた体はゆっくりと崩れ落ちる……長い…人生だったな。

「パパッ!!?死んじゃ、やだよ、パパッ!!!」

エル……お前はこんな私を―――お前を偽物だと言った私を……
まだ……パパと呼んでくれるのか……?
ああ……私は幸せ者だな………。
今思えばどうして全てと引き換えにしてまで守った娘を利用しようなどと思ったのだろうか?

ラル……馬鹿な私を許してくれ。
まるで今起きていることかのようにはっきりと自分の大切な者に手をかけたあの日を思い出す。

――――――・・・





『どうして…どうして!?ルドガー!!!』

血塗れで倒れる己の幼馴染みを抱きかかえながら叫ぶジュード。
周りにはかつて共に旅をした仲間達の死体が転がっている。
残っているのは既に虫の息のガイアスに苦しそうな顔を浮かべている兄さんだけ。
この惨状を作りだしたのは誰か?決まっている―――俺だ!!

『どうしてかって?決まってるだろ…エルを守る為だ!!!』

“鍵”であるエルを守る為にはそれを利用しようとするビズリーが邪魔だ。
それを止めようと邪魔をするかつての仲間達も……。
そして、絶対に俺の味方だと思っていたのに裏切った―――兄さんが!!

『あの子は―――エルは渡さない!!!』

かつての親友の元へ近づきそして、その首を―――刎ねる。
まるで噴水のように吹き出る血が俺の体を生暖かく濡らす……さて、後は兄さんだけだ。
先程から動こうとしない兄さんに向き直り時計を構える。

『ルドガー……お前は…本当にこれでいいのか?』

これでいいのかだって?他にどんな方法があるっていうんだ!!?
エルを守るには、エルとラルで一緒に暮らすにはこうするしかないんだよ!!!
だから―――

『俺は自分の選択に後悔しない!!!例え世界を―――兄さんを殺すことになっても!!!』

光に包まれ骸殻になる……スリークウォーター……俺の意志に反応して進化したのか…。
槍を構えを兄さんを貫くために駆けだす。当然、兄さんなら反応してくると、俺に反撃してくると思っていた。でも………

『そうか……なら…もう武器はいらないな。』

そう一言つぶやくと兄さんは手に持っていた剣を捨て、俺の攻撃を受け入れた。
何度となく感じたことのある肉を貫く感触、槍を伝い流れてくる生暖かい血……なんで?
なんで?兄さんは避けなかったんだ?どうして武器を捨てたんだ?

『ルドガー……俺はお前のことを見くびっていたよ。』

槍に貫かれながら俺の体に寄りかかり、かすれる声で話しだす兄さん。

『お前は…優しいから……世界を…人々を…犠牲にしてまで…大切な物を守れば……必ず後悔すると…傷つくと思っていた……。』

何を……何を言っているんだ?兄さんは。体を震わせながら兄さんの顔を見る。
なんで…俺に殺されようとしているのにそんな優しい目で俺を見てくれるんだ?
どうしてだよ…どうしてだよ!?兄さん!!!

『だから……俺は…お前に…父親殺しを…させたくなかった……世界を見捨てさせたく…なかった……。』

俺の為に?どうしてだよ……どうして俺なんかの為にそこまでしてくれるんだよ!!?
俺はみんなを……兄さんを殺したんだぞ!!?

『ずっと…子供だと……俺が武器を持って守ってやらないと……そう…思っていた。だが……お前は……もう…守る側に……なって―――ガハッ!!』
『兄さん!!?』

骸殻を解き、血を吐き出し今にも崩れ落ちそうな兄さんを支える、そして露わになった右腕を見てゾッとする……黒ずんだ腕……時歪の因子化(タイムファクターか)がここまで……俺を守る為に……っ!!
兄さんはずっと傷ついてきたって言うのかよ!!!なんだよ…!!なんだよ、それ!!?

『俺の……時計を…持ってけ……お前の為なら……ボロクズに…なるまで……使ったって構わない……。』

震える手で俺の手に傷だらけの時計を押し付けてくる兄さん。
そうだ、最初から兄さんは……裏切って何ていなかったんだ。
……俺の為に全てを捧げて…!!頬を熱いものが伝っていく感触が止まらない……。
兄さんは俺の事を…最後まで…!!!

『お前は……お前の世界を…作るん…だ………』
『っ!?』

かすかに聞こえてくる鼻歌……これは……証の歌…?
かすれながらも……最後の一瞬まで俺の事を思って歌ってくれる……歌。

絶対に聞き逃さない…!!兄さんの最後の歌を絶対に聞き逃さない!!!
俺を世界で一番愛してくれた兄さんの最後を絶対に―――忘れない!!!
兄さんの歌声はだんだんと小さくなっていきそして―――

『………………………………』
『兄さん?兄さん…兄さん!!!うわああああああああああっ!!!!!』

兄さんは……死んだ……いや、殺されたんだ……誰に?
俺に―――殺されたんだ!!!

『ユリウスを殺したか……ルドガー。』

その声にハッとして振り返ると認めたくはないが自分の父親である、ビズリーが立っていた。
珍しいな、この男なら俺に構うことなくエルの元に行ってそうだというのに……。
何のつもりだ?

『ビズリー……エルとラルの元には行かないのか?』
『この期に及んで野暮なことはせん。クルスニクの父親として成すべきことを成すまでだ。』

そう言い放ち時計を構えるビズリー……。
兄と弟が…父と子が…骨肉の争いを繰り広げてきたのが“クルスニク一族”
なるほど、やるべきことは一つか……そうだな、俺も覚悟が決まったよ。
自分の時計…そして、兄さんの時計を両手に構える。

『俺は…俺の世界を作る!!!!!』

俺の世界は誰にも邪魔はさせないっ!!!!!

――――――――・・・





「パパァッ!!!」

エルの泣き声であの日の思い出から引き戻される。ああ…エル……。
私の胸元で泣くエルが愛おしくて頬をそっと撫でる、
勝手な願いだが許してくれ、エル。

……お前を偽物だと言った馬鹿なパパを恨んでくれても構わない、
忘れてくれても構わない……だから―――幸せになってくれ。

かつて兄さんがそうしてくれたように証の歌を歌う……声がかすれて思うように歌えないが…
歌いきるさ、心残りなど残したくはないからな。

ふと気づくとルルが私を励ますように頭を叩いてきていた。
ルル……お前はこんな私にも優しくしてくれるのか……。
私の“ルル”とは違うがやはり最高の猫だよ、お前は。

ああ、ラル……もうすぐ私もそっちに行くよ。
エルならきっと大丈夫だ、ルドガーが守り抜いてくれるさ。彼は私とは違うからね。
そう言えば、ラル……君に会ったら謝らないといけないな。
君との約束も私は破ってしまうところだった。


『また、あなたと……逢えるかしら?』
『ああ、もちろんだ。約束する。』


私が兄さん達を殺したことを自分のせいだと気に病み体を壊していった君と交わした
最後の約束……もう一度巡り会う。
そんな突拍子もない約束だったが……私は叶えようとした。

“正史世界”に生まれ変わるという方法で……でもそれは間違いだったのだな。
私は君ではない“ラル”と逢うつもりだった。

私のラルとエル……君達がいなければ私の望んだ世界ではないのにな……。
愚かだった…私が愛したラルは君だけなのに……君の事だ、嫉妬しているかもしれないな。
でも安心してくれもうすぐ君のところに―――


『あなたはまだ来たらダメです。』


最後に聞こえたのは聞きなれた世界が壊れる音ではなく君のそんな言葉だった。

 
 

 
後書き
ヴィクトルが好きで書いてしまった。 
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