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気の強い転校生

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第一章


第一章

                   気の強い転校生
 何気ない日常だった。それは誰もがそうで何時までも続くものだと思われていた。
 ここにいる平凡な高校生竹村恭輔もそれは同じだった。ところがそうした何気ない日常というものは多分に砂上の楼閣でしかなく壊れる時は見事なまでにあっさりと壊れるものだ。この時もそうであった。
「おおい御前等」
 朝のホームルームでだ。担任の乾先生が皆に声をかけていた。若くてやたらと無愛想な先生である。
「転校生を紹介するぞ」
「転校生ですか」
「昨日言ったぞ」
 先生は朝からその無愛想さを思いきり発揮して生徒に応えてきた。
「一人来るってな」
「そうだったっけ」
「初耳だよな」
「じゃあ初耳にしとけ」
 先生はやはり無愛想であった。
「それでだ」
「はい」
「で、どんな転校生ですか?」
「とりあえず人間だ」
 あまりにも酷い言葉であった。
「だから安心しろ」
「そりゃそうでしょ」
「なあ」
 皆それを聞いて口々に言い合うのだった。
「いきなりリトルグレイが来たらなあ」
「矢追さんと一緒にな」
 生徒達も乗ってそんな話をするのだった。かなり有り得ないことを平気で言い合う。
「宇宙人でもないぞ」
 先生もまたとんでもないことを言う。
「そこも安心しろ、御前等」
「じゃあ誰ですか?」
「男ですか?女ですか?」
「女だ」
 先生はそう答えた。
「女が好きな奴は喜べ」
「だってさ」
「じゃあ一応喜んでおくか」
 男の生徒が口々に言う。しかし無愛想なことこの上ない乾先生の前なのでそうした言葉が異様なまでに浮き上がったものになってしまっていた。
「じゃあ今から呼ぶぞ」
 先生は生徒達に告げる。
「いいな」
「はい、どうぞ」
「是非共」
 先生にその転校生を呼ぶように御願いした。何かここまで話を持っていくのに随分苦労した印象を受けながら。それでもそれは心の片隅に置いておき転校生を待つのだった。
「入れ」
「はい」
 転校生はもうこの学校の制服を着ていた。黒のブレザーに赤いプリーツスカートだ。黒いハイソックスは自前のものだが白い靴と合わさりかなり似合っている。
 髪は黒く長いものでそれを後ろで束ねていた。目鼻立ちは整っていて釣り目気味だが二重で奇麗な目をしている。その目が妙に気が強そうだったが。
 口は小さい。そしてきりっとしている。それが目と合わせて彼女の顔と表情を形作っていた。奇麗だがかなり気の強そうな女の子であった。
「龍華美有よ」
 転校生はそう名乗った。立っている姿勢も堂々たるものであった。
「どうぞ宜しく」
「京都の学校からこっちに転校してきた」
 横にいる先生がそう説明する。
「へえ、京都の娘なんだ」
「そういえばそんな感じかしら」
 皆先生の言葉を聞いて口々に言う。
「席はとりあえず一番後ろだ」
 転校生の席の定番だった。
「それでいいな」
「はい」
 その少女美有は先生の言葉に頷いた。その白い顔を微動だにさせずに。
「わかりました。それでは」
「じゃあこれでホームルームは終わりだ」
 他にも何か言いそうなものであるがこの先生は違う。とにかく愛想というものがないのだ。顔はわりかしどころではなくいい感じなのだがそれでも人気が今一つなのはそうした理由だからだ。これで結婚しているというのも皆かなり不思議がっている。
「じゃあな」
 先生はすぐに教室を出た。それからすぐに別の先生が来て一限目の授業が行われた。それが終わってから皆で美有を囲んで話をするのだった。
「京都からなのね」
「ええ」
 美有は女の子の一人の言葉に応えた。皆で自分の席に座っている彼女を囲んで話をしている。
「それでどうしてここに?」
「家の仕事の関係なの」
 美有はそう彼女に答えた。
「こちらにも道場を置くことになったから」
「道場!?何の?」
「華道よ」
 そう述べた。
「うちの家華道の家元なの。次男の家でこっちに移ったの」
「へえ、華道の」
「じゃあお嬢様なんだ」
「それは別に」
 美有はそれは否定した。だが顔は変わらない。クールなままだ。
「そうなんだ」
「ええ。ところでね」
 彼女はちらりと恭輔の方を見てきた。しかし皆はそれに気付かない。
「よかったら。この学校のこと色々と教えて」
「ええ、勿論よ」
「これからずっと一緒なんだしね」
「そうよね」
 美有ははじめて笑った。笑顔もとても奇麗でそれはクラスの皆を魅了するのに充分であった。しかしちらりと見られた恭輔はそうではなかったのだ。
 彼も見られたことに気付いていた。それを妙だとも感じていた。
「何なんだろう」
 そう思ったがこの時はそれで終わりだった。美有は皆に案内されて学校の見学に出たのであった。それはその日のうちに終わったが彼は一緒に行かずに特に何とも思わなかったのだ。
 次の日。ホームルーム前に彼はクラスメイト達と話をしていた。
「あの転校生だけれどな」
「龍華さんのこと?」
「他に誰がいるんだよ」
 クラスメイトの一人松前昭文はそう彼に言葉を返した。
「いないだろ?」
「まあそうだけれど」
「だろ?その龍華さんだよ」
 昭文はまた言う。
「いいと思わないか?美人で」
「って御前彼女いるんじゃ」
 恭輔は昭文に彼女がいることを知っていた。同じクラスの女の子だ。
「それはそれこれはこれだよ」
 だが昭文はこう返すのだった。全然気にしていないのがわかる。
「だろ?」
「何かいい加減だなあ」
 恭輔は彼の言葉を聞いてそう思った。実際にそれを言葉にも出したがあえて強くは言わなかった。
「お嬢様だしね」
 もう一人のクラスメイト日上信が言った。
「それポイント高いよね」
「お嬢様だとそうなんだ」
 しかし恭輔はそれを聞いても相変わらずの様子であった。
 
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