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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  暗示

 変化の術ほど、どんなにも優れた術のなかで、忍を体現した術はないだろう。
 自らを化けさせ、誤魔化し、欺き、偽り、騙す。
 その術は、使用者の経験と実力が実に顕著にでる。どんなにチャクラコントロールが優れていたとしても、こればかりは、使用者の実力によって左右される。
 現に、他には追随を許さない…どころか、追い付けるかすらわからない、カトナのチャクラコントロールでさえも、変化の術というものは極めれていない。…つまりは、見破られることもあるのだ。
 それは仕方のないことである。
 カトナには、圧倒的なまでに実践経験がたりていない、不足している。
 それは彼女の若さからすれば、どうしても不足してしまうものであるし、こればかりは修行をしてもどうにもならない。
 習うより慣れろ、という言葉があるが、まさにその通りとしかいえない。
 どんなに術を研究しても、それが机上の空論であり続けるように、いざやってみないと何が起きるかは、分からないものである。
 どんなに努力し、力をもっていたとしても、結局は今までの経験と勘がものを言い、生き残れる世界…それが忍者の世界。
 だからこそ、生き残るために、カトナは変化の術に、更に重ねがけをしていた。
 …自らが開発した、逸脱の術を、である。
 逸脱の術は変化の術にさえも有効なのである。おかしなところから目をそらさせることもできるそれは、変化の術に生じる違和感を解消してくれる。
 これにより、カトナはある程度可笑しいことをしても、すべて見逃されている。
 例えば、私という一人称。
 そこそこ年をとった男性ならば、使ってもおかしくないが、まだまだ小さな少年が好き好んで使うものではない。
 普通ならば違和感をもたれ、そこからばれていく可能性だって存在する。それでもスルーされているのは、ひとえに逸脱の術がうまく作動しているからでしかない。

 自らを守る術…逸脱の術。
 それをサスケが使えたのが、幸いだった。
 知っていなければ、今ごろ、先程の人間に襲われていたところだったと、安心した拍子に、どっと、汗が吹き出す。
 全身で、強者と感じるような気配。それに、チャクラ。戦っても、きっと、勝ち目はなかった。
 勘が鈍り、カトナは実力を把握しきれなかったが、先程の人間の襲撃と、写輪眼をもっているサスケは正確に量ることができたのもまた、運が良かったのだろう。

 しかし、相手が戻ってこないとも限らない。カトナをつれて、一刻もはやくこの場から離れようと、サスケは緊迫した表情で告げる。

「…すぐにカトナを探すぞ、サクラ!!」
「うん!」

 うなずき、サクラは辺りを注意深く見回しながら、サスケのあとについていく。
 本当ならば、二手に別れた方が効率がいいのだが、先程のあれに出会う可能性は低くはない。もし出会ったら、一人よりも二人のほうが生き残れる可能性は高い。
 そういう打算的な思いだったが…。
 二人が最初に見つけたのは、カトナではなく、

 「あ、いた」

 シカマルに遭遇した。

……

 シカマルにつれられて、大木に導かれた二人を見て、えへと、カトナは笑った。
 実のところ、それだけで体の節々は痛んだが、気力でそれを押さえ込む。
 なんていうボロボロの姿だと、サスケは呆れたように頭を押さえる。サクラは慌ててカトナにより、傷がないかと、その場で慌てて屈み、体を触診する。
 チャクラが乱れて激痛が走っているだけなので、傷らしい傷はない。よかったと安心しつつ、立ち上がるサクラに、いのはフレンドリーな様子で話しかける。

「いやーん、でこりん。久しぶりー!!」
「あんたもね…いのぶた」

 ぼりぼりとポテチを貪りつつ、よくあきないなぁと、ぼんやりしながら、チョウジはその様子を見つめる。
 その間にも、彼の横にポテチの空き袋が積まれているのは、さすがとしか言えないだろう。
 そんな軽い悪口の応酬と、バリバリという粗食音を聞きつつも、少しばかり精神的に参っていたらしいカトナは、頼れる仲間の存在に、ほっと息をつく。
 と、共にシカマルにお礼を言う。

 「奈良、さんきゅ」

 珍しく、満面の笑みで、しかもご丁寧にピースまでしたカトナに、軽く驚愕しながら、おおっ、とうなずいたシカマルに、サスケの厳しい視線が刺さる、ささる。
 …こいつホモなのかと、少々動揺したシカマルをおいて、カトナは近寄ってきたサスケの肩を借りて立ち上がりつつ、ぺこりとまた頭を下げた後、シカマル達にあるものを投げる。

 「お礼、これで貸し借りなし」

 それは天の巻物だった。
 驚いたように目を見開き、カトナの方を見やれば、サスケとサクラの二人から拳骨をもらっていた。
 怪我人だというのに容赦しねぇなぁ、と思いながらも、シカマルがカトナを見れば、カトナはくすくすと笑っていう。

 「いいことには、いいことを。それに、サスケとサクラ、巻物の違うの、あるでしょ?」

 その言葉に、へ? とサスケ達を見れば、少々驚いたように、サスケがたずねる。

「いつ、気づいた?」
「最初。チャクラコントロール、下手。一点、こめすぎ。分かりやすい。すぐ、見抜ける」
「お前だからだろ」

 ポケットの中には、カトナの言うとおり、先ほどの男から奪った巻物が入っていた。大蛇丸が帰ってくる少し前に、男から仲間の居場所を吐かせ、巻物を取ってきていた。
 地の巻物である。
 これで一息つけると、安心していた矢先のこの台詞だが、なんだかんだいってこの班のまとめ役というか、リーダーと言うか、特攻隊長はカトナなのである。勝手につっぱして問題を起こして、それをまとめるのも鎮静させるのも、サクラとサスケの仕事なのだ。
 カトナは自分勝手に振る舞えばいいのだ。
 呆れたように肩をすくめつつも、サスケは優しく笑う。

 「…はぁ、ったく、仕方ねぇな」

 その表情を見て、いのは少しばかりむっとする。その微笑みは、いのどころか、カトナ以外には向けられたことがない。
 …羨ましい。
 そう思い、少し妬ましそうに目を細めれば、いち早くその視線の意味に気がついたらしいカトナが、サスケの服を引っ張り、歩いていく。
 サスケはいきなり歩き出したカトナ呆れつつも支え、サクラが慌ててその二人を追いかけ、サスケと同じくカトナを支えた。

……

 カトナはぱくぱくと、サスケが焼いた肉を食べつつ、言う。

「…敵に遭遇した。変化つかってるかもだから、女、黒髪長髪の情報、間違いかも」
「ほかにはないの?」
「サスケ狙い。舌ながい。口から剣はく。強い。多分、三代目殺せるレベル。こっちの情報は確定」

 注意ぶかく、その言葉を聞いていたサスケは自分の名前をだされて目を見開く。

「俺狙いだと?」
「多分、血継限界欲しい。特にサスケ、ブランドものだから…。あと、多分…」
「たぶん?」
「器っていってたから、何かの入れ物にされると、思う」
「尾獣とかか…?」
「かも」

 そこまでいうと、カトナは自らの髪をかきあげ、首筋を二人の方に見せる。

「呪印。チャクラに反応、肥大。激痛走る。経絡系、無理矢理ずらして、押さえ込んでる。けど、時間の問題」
「…封印はできるか?」
「首の真後ろ、しようにも見えない。術式書くの無理」
「チャクラのほうは?」
「流せる。けど、点わかんないから、無理」
「点……?」

 不思議そうに声をあげたサクラに笑いかけ、カトナは分かりやすく説明する。

「そう、点。封印や呪術の術式は、弱点あり。弱いとこチャクラ流し破壊可能。もしくは、上から押さえ込めれる。それで破壊か、封印出来る。けど、見なきゃ無理」
「へぇー。そんなこと出来るの?」
「普通、封印だけ。でも、逸脱の術、使用すれば、一点集中、把握できる。まぁ、サスケとサクラレベル、無理」

 逸脱の術の効果は、視線などの誘導である。
 見たくないものを見せないようにし、見たければ見たいほど見せないようにできるその技は、裏を返せば、見えたくないものを無理矢理突きつけることが出来、見たいものをすぐにでも見つけれるようにできるという事だ。
 まぁ、それで術の弱点を見つけたとしても、普通の人間には破壊すら出来ないのだが。
 ぐさっと、心に刃が突き刺さった音を聞きつつ、サクラは感心したようにカトナを見つめた。
 そんなことも出来るのかという視線に、恥ずかしさを感じて目をそらすカトナの首もとで、黒い呪印は何度もうごめく。
 これははやく対処したほうがいいなと、真剣な雰囲気になったサスケに、カトナは息をはく。

「鏡とか、あれば変わったけど、無いなら、何にもできない」
「…術式だけでも、地面に書いとくか? 弱点までは把握できなくても、ある程度の仕組みならわかるだろ」
「じゃあ、しとく」

 そういって、サスケはそこらへんの木片をひろい、すらすらと地面にかきだす。やはり写輪眼というべきか。流れるように描かれていく絵は、本物と寸分違わない上手さだ。
 きゃー、すごい!! と自分のことでもないのにはしゃぐサクラをしりめに、カトナは目を見開くと、慌てて首を抑え、そして笑う。

「やっぱ、いいことはすべき」
「は?」

 カトナのその様子にいぶかしげになったサスケに、カトナは嬉しそうに言う。

 「この前、この術式封印したばっか。封印できる、よ」

 やはり、親切はすべきだと。
 カトナはあの女性の術式を思い出しながら、自らのなかのチャクラを総動員した。
 一気にカトナの体を取り巻いたチャクラが、ぐるぐると渦巻き、呪印に集結しては固まり、塊となり、封印式となった。 
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