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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  9話

さて、交流戦当日だが……まぁなんとも貧相な会場だ。グラウンドに柵を立てただけ……もう少しやりようがあっただろうが、所詮は子供の行事の一環なので仕方ないか。
観客も生徒とその保護者がちらほらか……こちらももう少し集まるものかと思ったが仕方ない。
正直、ハナビの頼みがなければ天地が返ろうと出るつもりはなかったが、出てしまったのだから諦めるとしよう。
「ヒジリ様、ハナビ様の仰った通りにはくれぐれもなさらぬよう頼みますよ」
「分かっている、本気は無しだ。柔拳にチャクラを使わずただの打撃として使う、人体破壊も無しで眼の能力もある程度抑えて戦う、この二つを守ればいいんだろ?」
「ええ、そうです」
「妹の頼みとはいえ、我ながら面倒な判断をしたものだな」
いかん、これ以上愚痴を零していると気が滅入って仕方が無い。そろそろ控えねば精神衛生上よろしくないし、不機嫌になることで加減が効かなくなる。
「それでは行ってくるぞ」
これ以上ネジの小言を聞くのは面倒だからな。さっさと言って、さっさと済ませるとしよう。


私が柵の中に入ると一瞬会場がざわめいた。どうにも噂では私を知っていても実物を見たことがない、もしくはよく知らないといった輩が珍獣でも見るかのような好奇の視線を向けているのだろう。
まったくもって失礼な話だ、私のような少女に何を期待しているのだ?
「ねーちゃん!!あんなスカした野郎なんかに負けんじゃねーってばよ!!」
……ナルトか。応援はありがたいのだが、少し声の量を抑えてくれ。君の隣にいるヒナタの声が聞こえない。
一方、サスケが柵の中に入ると女子生徒達の黄色い声援が一斉に上がる。ふむ、確かにあの年頃の少女は少し影のある男子を好むと聞いたことがあるな。それに、容姿端麗、文武両道となればあの様に人気がでるのも確かか。
とはいえ、当の本人はその声援に対して無関心どころか、相手である私にさえも関心を持っていないようだな。境遇から察するにイタチ以外に興味がないと言った具合か。
「両者、礼!」
私達が揃ったことを確認して、教員がそう告げた。
「日向 ヒジリだ、今回はよろしく頼むぞ」
「うちは サスケだ、その巫山戯た面はなんだ?」
「家庭の事情というやつだ。では、かかってくるがいい、お姉さんが相手をしてやろう」
「始め!」
教師の合図と共にサスケは私から距離を取りつつ手裏剣を三つ投擲、成る程身のこなしは中々だな。とはいえ、所詮は人の動き。
この眼の前ではアカデミーだろうが上忍だろうが人の動きである限り無意味、私を倒したくば予測しようが私の動きが欠片も追いつかない速度の体術か、私の視認できない距離から高威力の忍術で一帯を焼き払う位はして貰わなければな。
私はその場から動かず、手にチャクラを纏わせて飛んできた手裏剣を叩き落とす。
私が避けるとでも踏んでいたのだろう、彼の表情に驚きの感情が浮かんだ。
とはいえ、それで動きを止めるほど彼も愚かではない。即座に印を結び何かしらの術を発動させようとするが、そんなうちはの代名詞のような術など書で読み尽くしている。
「火遁 豪火球の術!!」
「水遁 弁財天の舞」
今回は相手がうちはということもあり、着物の裾に合計4Lのペットボトルを入れておいた。その全てを使っての弁財天の舞だ、いくら天才と言われてもアカデミーの生徒のチャクラ量ではこの水を全てを蒸発させるのは不可能だ。
そもそも、火遁で水遁を押し切ろうと思えば水遁の術者の数段上のチャクラが必要だからな。総チャクラ量で言えばサスケの方が上だが、相性をひっくり返せる程の差はない。
加えて言うならば、私の術はそこにあった水をチャクラで覆う事で様々な機能を持たせているのに対し、サスケの術は自らのチャクラを炎に変換させた上でそれを制御する事で放っている。要するにチャクラの消費量が彼の術は私のものより遥かに多いのだ。
結果として、サスケのチャクラ量と私のチャクラ量はほぼ等量とまで言える状態になった。
「どうした、この程度か?」
「まだまだ!!」
ふむ、ワイヤーを使っての先ほど弾いた手裏剣の擬似的な遠隔操作か……死角からのいい攻撃だが、この白眼に死角などない。
流石に飛んでくる手裏剣を掴むのは危険なので、ワイヤーを掴むとしよう。
「捕まえたぞ」
「なっ!?」
先程のやりとりから私に近距離戦を挑めばどうなるかは察せているようで、サスケは焦るこそすれど冷静にワイヤーを外して再び距離を取る。
むぅ、白眼で捉えられるサスケのチャクラ量から考えて、先程の火遁は残り二発……いや、残りのチャクラを全て使えば三発か。少々残りの水の量では不安があるものの、遠距離での向こうの手は大体対処できるな。いざとなれば水にチャクラを継ぎ足せば、防御性能は十分に補えるのでな。
とはいえ、防戦一方というのは気に食わないな。……少し苛めてやるか。
「おいおい、どうした天才?もう少しお姉さんの傍に寄り給えよ、男だろう?
それとも逃げて……逃げて……無様に生にしがみつくのが君の矜恃なのか?」
その直後、サスケの眼に変化が生じた……私と同じ赤の瞳に加えて黒の勾玉が一つ、あれが写輪眼か。先程の言葉のどこかに反応したのかは何となく察しはつくが、逃げるという単語か生にしがみつくかは分からんな。いや、後半全部かもしれんな。
どちらにせよここからは先程よりは幾分楽しめそうじゃないか。
サスケはその眼で私を捉えたまま、苦無を逆手持ちにして格闘戦を挑んでくる。彼からは敵意ではなく殺意がひしひしと伝わってくるな……ならばそれに応えるとしよう。
まずは苦無を持たない手で打撃による牽制だが、流石うちはと言うべきか私の予測に付いて来る。だが、サスケは私の予測とは違い、動きを見てからの行動と言うべきか?
私は相手の筋肉の動きや呼吸などから次の動きの予備動作を見て予測し、一手早く動くというものだ。
一方サスケのそれは私の動作を捉えてからの対応、恐らくは写輪眼は動体視力の向上によって相手の動きをスローモーションで捉えるといった所か。言うなれば半手先に動くと言うべき能力だな。
とはいえ、私も一手先を予測できるといっても刹那の間は思考を挟まねばならない分、結果的には同じような予測速度か。
では、勝敗も差は何が決めるかとなるわけだが。結局はどちらが先にバテるかという泥臭い消耗戦になる。



が、そんなものは御免被る。そもそも、私は乱打戦などやるタイプではないのだ。
それにしても、写輪眼の性能がどの程度か知りたかったが、まさかここまでとは思わなかったぞ。いや、違うな。写輪眼の性能に見合うだけの動きのできるサスケの技量を読み違った、ということだろうな。
だが……ただ負けるというのはハナビの期待を裏切る事になってしまうので、一手だけ残してから負けるとしよう。
サスケの横一文字に振るった苦無をワンテンポ遅れて回避し、苦無の刃に私の前髪を僅かに切らせる。それに対してサスケは自分の動きが私に追い付いたと思ったようで、その驕り故に私の右手の動きを見ていなかった。
私は無防備な左胸に十分な溜めを作っての掌底を打ち込む。サスケは吹き飛びつつも空中で体勢を整えて、地面に着地した。
どうやらサスケは先程の一撃の意味が分かっているらしいな。
「教員、降参だ」
私の不意の発言にアカデミー教員は眉を顰めるが、サスケに切られた髪を見せる。
「私だって刃物は怖いのだ。それにそもそも、この戦いは降参を認めるのではないのか?」
「あ、ああ、勝者うちは サスケ!!」


ハナビとネジを連れてアカデミーから出て、私は近くの茶屋で一息つく事にした。
そして、着いて早々ネジはため息混じりに私に苦言を呈する。
「ヒジリ様、貴女は俺の胃を殺す気ですか?」
「そういうな、言われた通りチャクラは込めなかっただろう?それに急所を破壊することもなかったはずだが?」
「最後の一撃、もし貴女がほんの僅か加減を誤っていれば、あの生徒が死んでいたと考えると監視を任されている俺の立場としては気が気でないんですよ」
「姉上、どうして降参なんてなさったんですか?相手も最後の柔拳の意味を理解していたようですし……姉上の勝ちなのに他の生徒は姉上を刃物を恐れた臆病者と呼んでいるのは不快です」
「ハナビ、私には少し気になる事があってな。それを知るためなら、世間一般の風評などどうでもいい。
それに私はハナビやヒナタのように私が愛する者だけに私の勝利を知ってもらえれば、それ以上の賞賛などどうでもいいのだ」
「そ、それは言われて悪い気分はしませんが……姉上の知りたい事って一体?」
「なに、大した事ではない」
以前から暇潰しに考えていた事があったのだが、些か私だけでは手に入る情報に限りがあり過ぎてな。私より詳しい人物からその情報を得ようと思っているのだよ。
「……見つけたぞ」
「遅かったじゃないか、サスケ」
うちは一族を皆殺しにしたうちはイタチがただ一人見逃したあの事件の生き証人うちはサスケ、彼が私より詳しい情報の持ち主だ。



 
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