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滅ぼせし“振動”の力を持って

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彼と歓迎会・・・と黒い影

 
前書き
始めは六式使いで麒麟人間だったり、火をも焼きつくすマグマだったりにしようとも考えていましたが、何も知らないのに六式を使うのは無理だし、マグマ人間だと攻撃利かないわ殺傷力が馬鹿にならないわで、結局何とか加減できそうなオヤジの力にした・・・という経緯をこの小説は持っています。

 自分好きなんですけどね・・・特に赤犬・サカズキが。友達からはエースを殺したから嫌いだって批判されてますけども。

 

 
 夜の学園長室で仕事が終わっていないらしく書類を繰る実は、作業する手をいったん止めて、頭をガシガシと乱暴に掻いた。



「あ~もう・・・入学式、エレメント検査と続いて・・・また問題が起こる何て厄介だよほんとにもう」
「あら? どうしたの実」



 そんな彼女へ検査の時にいた保険医の女性が、コーヒーを運びながら悩みの種の元を聞くべき問う。軽く息を吐いてから、実は顔だけ向けて答えた。



「今日の昼ごろさ、地震があっただろ秋」
「ええ、震度はかなりの物だったけど、すぐ終わった地震が・・・」
「それってな、人為的なものだったんだよ・・・入学式のときにやらかした新入生の」
「うそ・・・?」


 驚愕に口を押さえる秋と呼ばれた保険医は、まだ信じられないといった表情で実を見ている。



「信じられないとは思うけどね。大山海童の証言をもとに確認して見た所・・・抉れていた位置が見事に震源地だった訳だ。岩盤に亀裂も確認されていなかったし、入学式がまだ全力じゃ無かった事に加えて、衝撃波が拡散した事を入れると・・・やっぱり真実じゃないかって思うのよ」



 幸い、地震という自然現象だったからこそ、他の生徒には回りくどくない単調なごまかしで、騒ぎになる事無く事無きを得た。

 しかし、新たな問題が浮上してきている。



「まだ、いわゆるビギナーランクであれかぁ・・・こりゃもしかすると―――」
「魔剣『ムラクモ』を超えるかもしれない?」
「だって地震だよ? 下手すれば自分の知らない所にいる人間を、一回の攻撃に付き街一つの単位で滅ぼせてしまうかも」
「・・・破壊能力だけでも凄いのに・・・」
「厄介だね、こりゃ本当に」



 本人が意図して問題を起こしている訳ではなく、そして手探り状態で使っており、何より問題が多すぎる学校なので、これからも考えて絶対に禁止する訳にもいかず、問題の複雑さに実は頭を振った。



「もっと簡単な問題ならなぁ・・・こう、拳一つでバシッと解決できるような!」
「学園長が出張る必要のある問題で拳なんて、そうあるものじゃないわよ」
「分かってるよ。でもさ、やっぱり簡単に解決したくなるじゃん? 面倒事だしね」



 相変わらずだとお互いに笑い合いながら、実は秋の持ってきたコーヒーを手に、書類仕事を進めるのだった。
















「全くもう・・・怪我人が出なかったから良かったものの一歩間違えたら・・・」



 部活見学期間と仮入部期間が終わり、一年が全員正式に入部する事となった日。


 他に行く所も無いので、イナホや碓と同じく検警部に入る事となった海童は、春恋に愚痴られながら部室へと案内されていた。

 ちょっと声の大きい愚痴を聞いた碓が、声を潜めて海童へ声をかける。



「なあ・・・天谷先輩は一体何を怒ってんだ?」
「地震のあった日に、ちょっと、俺がヘマやらかしてな」
「ヘマを? でも三日経ってるぜ?」
「三日間ずっと愚痴られてんだよ・・・俺が悪いから仕方けどな・・・」
「そうですよ? もっと考えて行動してください海童様」
「あ、ああ・・・」



 海童の力が空中で拡散し、強烈なその力が結果地震を引き起こした・・・その事実が分かった当初こそ顎が外れんばかりに驚いていたものの、マケンにもそれなりの力を持っている代物はあるのか、春恋はすぐに愚痴りモードへと突入したのだ。

 自分の所為とはいえ、海童はお陰で三日間ずっと同じ愚痴を聞かされている始末である。


 ちなみにイナホも気にしていない訳ではないが、そこまで気にしない性格だからか、愚痴らず普通に接してきている。


 流石に碓へ地震の真相を話す事は出来なかったので、代わりにヘマをやらかしたと伝え―――間違ってはいない―――、いずれ分かる事であろうが誤魔化した。



「まあ良いじゃねえぇか、羨ましいぐらいだぜ?」
「なにがだ」
「天谷先輩にそれだけ心配されているって事は、その分惚れられてるって事だろ?」
「はぁ? ハル姉が? 俺に? 何の冗談だ」
「・・・お前はもう少し女心を分かった方がいいぜ?」
「そうですよ、海童様」
「イナホまで何なんだ・・・」



 ジトッとした眼で二人に見られるも、本人は本気で有り得ないと思っているのか、眉をしかめるのみ。
 そんなやり取りをかわしている内に、『検警部』と達筆な手書きで書かれたプレートのある部屋の前に付いた。



「ここが魔導検警機構・・・マケンキの部室。他のメンバーも居ると思うから、挨拶をしておきましょ」
「はい、リョーカイです!」
「天谷先輩! 姫神先輩も此処にいますかね!?」
「ええ、呼んでおいたから居るとは思うけど・・・でも気を付けてね? マケンキのメンバーは」
「おじゃましまーっす!」
「あっ・・・!? ちょっと碓君!」



 春恋が手を伸ばして止める前に、碓は引き戸をガラリと開けて元気よく入室・・・した瞬間。



「へ?」



 ガスッ! という音が彼の横から聞こえ、ブリキ人形の如くゆっくりそちらを向くと、漫画で見るような大きさの手裏剣が碓のすぐ横に突き刺さっていた。



「しゅ、しゅしゅっ手裏剣・・・!? ア、アハ、アハハ」
「オイ碓!? 大丈夫か!?」
「な、なんとかな・・・腰ぬけただけだ・・・」



 倒れかかった碓を支えて、部屋の中に目線を向けた海童が、何やらマケンキの部室内がおかしな事になっているのに気がつく。



「ハル姉、ここって本当にマケンキの部室か?」
「そうだけど・・・」
「本棚のラインナップといい、奇妙なものが多数置いてある事といい・・・どう見ても漫研なんだが」
「・・・うっ」



 他にも、ポスターや時代劇に出てきそうな小道具、挙句の果てには据え置きから携帯機を含めた、ゲームハード各種と対応したソフトまで置いてある。

 海童の言うとおり誰がどう見て考えても、ここは学園の警邏を任された者達の部室では無く、漫画・アニメ好きな者達の部室にしか見えない。


 そんな雑多な物が置いてある部屋の奥から、申し訳なさそうな表情を浮かべ、ファンタジー仕様の忍び装束を着た褐色肌の一人の女生徒が歩いてきた。



「Ohースマン! 驚かせてしもたな。本当は歓迎のしるしで、そこにあるくす玉割ろうとしたんやけどなぁ・・・ホント申し訳なかったってよ!」



 ちらりと目線を上に向けると、確かにそこにはくす玉が吊るされていた。廊下からの会話を聞いて、部屋へ入ってくると同時に割ろうとしたのであろうが、狙いが外れたらしい。

 すると、頭を掻きながら謝る彼女へ、本を読んでいた女子生徒が顔を上げて、呟く様な声で忍び装束の女子生徒へ注意した。



「違うよチャチャ・・・それをいうなら、申し訳なかったって『ばよ』! ・・・だよ?」
「おお、そやったそやった!」



 納得したようにチャチャと呼ばれた女子生徒がポンと手を叩く。当然ながら手裏剣を投げた事を春恋が許す筈もなく、ビシッと指をさしてチャチャをカチューシャを付けた女子生徒とは違い、本当に注意する。



「チャチャ! 前から言っているでしょ部室で手裏剣を投げないでって! 何度言ったらわかるの!?」
「Oh、手裏剣はあかんのやったな・・・なら刀の練習を」
「刀もダメ!」
「ふ~む・・・なら鍵爪の縄で―――」
「それも! ダメですっ!!」
「いけず~」



 やり取りからするにしょっちゅうここで練習しているようだ。だからこそ春恋は部室に入る前に、マケンキのメンバーの事に付いて教えようとしたのだろう。

 手裏剣投げたりする人が居るから、変っているから気を付けて、と。



「フ、あと三十㎝ばかりずれていれば眉間へ大当たりだったんじゃが・・・中々に惜しかったの」
「姫神さんも、ここで漫画読まないでって言っているのに・・・」
「いや、眉間がどうこうはスルーか? ハル姉」
「ひ、姫神先輩だ♡」
「碓、お前はそろそろ自分で立て」



 今の今までずっと海童にすがっていた碓を彼は無理矢理立たせた。碓も腰は回復していたので、コダマに会えた事による気力回復も合わせて、崩れる事無く立っている。

 呆れた様子で腰に手を当てた春恋だがまだ問題があるのか、今度はカチューシャを付けた本を読んでいる女子生徒へ指差した。



「砂藤さんもよ! 本ばかり読んでないで『統生会』の仕事をしなさい!!」
「あっ・・・すい、ません・・・ううっ」



 大声に弱いのか、本に顔を隠して涙声になる砂藤に、ちょっと声を張りすぎたかと春恋の勢いは失速した。


「えっと、御免なさい、大きな声出しちゃって・・・でも、これから皆の紹介をするし、本を読んでいたらすぐ準備が出来ないから・・・」
「分かりました・・・でも少し待ってて下さい」


 そこで顔を何故か赤らめ、少しばかり恥ずかしそうに砂藤は呟く。



「大和君とアスラ君のキスシーンを見てからで・・・」
「Oh! 言う所の萌えシーンやね、キミー!」
「学校にBL本なんか持って来ないのーっ!? それだけは駄目ーっ!!」

「碓、BLってのは?」
「さあな。ベーコンレタスとかか?」
「な訳あるか」



 その後、BL本とはボーイズラブ・・・即ち男性同士の恋模様を描いた作品だと聞いて、碓は感想をどう示して言いか分からず苦笑いし、海童は知った後に若干ながら引いていた。

















 検警部・・・というより漫画研究部もどきの部室からでて、一年生三名、検警部の三名、副会長の一同は、統生会室まで足を運んでいた。

 部屋の中には上記七名の他にも、アズキやうるち、身体検査当日に春恋を引きずって行った会長に、海童達にとってはも何処となく見覚えのある女生徒が一人居た。


「今年は三名も加入してくれるなんて、賑やかになるわね嬉しいわ~~」
「か、歓迎いたしますわ。検警部新入部員の皆さん・・・」

(なあ、あの眼鏡かけた美人さん、何で引き攣ってるんだ海童)
(何でも男性恐怖症らしい)
(ああ~・・・そりゃ歓迎しきれないよなぁ)
(それよりも・・・もう一人何処か見覚えがあるんだが・・・)
(彼女は貴方達のクラスの担任、雨渡豊華先生の妹さんなの)
(なるほど、道理で似ている訳ですね)



 四人が軽く会話を交わし、それが終わるのを待っていたか雨渡担任の妹であるらしい女子生徒が、自己紹介を始めた。



「それでは~~・・・新入部員の皆さんへ、三年で統生会会計である私・雨渡 穣華(ゆうか)が、統生会及びマケンキメンバーの紹介をいたしますね~~」



 姉妹揃って間延びしているなと如何でもいい事を考えながら、海童は穣華の紹介文句を聞く。



「まず、三年で統生会会長の高貴楓蘭(たかきふらん)さん」
「皆さん始めまして、これからよろしくお願いいたしますわ」



 流石会長と言うべきか、恐怖症による公私混同はせず、しっかりと見据えて挨拶をした。



「次に貴方達はもうご存じでしょうけど~~、二年で副会長天谷春恋さん。そして同じく二年で書記の砂藤季美(きみ)さん」
「よろしくね」
「えっと・・・よ、よろしくお願いします・・・」


 穣華が言った通り既に見知った中である春恋は簡単に、今日が初めてである季美は控えめながらも礼をした。



「続いて魔導執行部ね~~。此方は一年の水屋(みなや)うるちさん。二年の志那都アズキさん」
「よろしくお願いします(なんで・・・なんであの大山(ゴミ)がここにっ・・・!)」
「全く、何で私が・・・まあ、よろしく」



 不本意ながらも呼ばれてきたらしいアズキは半ばテキトーに挨拶し、うるちは海童へ鋭い視線を向けている。



「最後に検警部。二年の(あかざ)チャチャさんと姫神コダマさん」
「ハァイ! これからよろしゅうなー!」
「・・・」


 元気良く手を振って来たチャチャとは対照的に、コダマは一言も発さずただ黙っていた。

 次に穣華は、海童、碓、イナホの一年生三人の方を向く。


「それで、貴方達は~~・・・」

「ハイ! 一年生の櫛八イナホです! よろしくお願いしますです!」
「・・・一年生、大山海童です。どうぞ、よろしく(睨むなっての・・・)」
「同じく一年、碓健悟です! 以後お見知りおきを」

「はい、よろしくお願いしますね~~。それで~~、今回マケンキの顧問になって下さる―――」



 そこで扉が開き、保険医である女性教師・秋がはいってきた。



「二条秋です。改めてよろしくね♡」
「あ! 保険の先生です!」
「おおお! マジですかぁ!?」
「うおっ・・・耳元で騒ぐな」



 三者三様の返答を返して(約一名は隣への返答)、ここの紹介は終わりとなった。次の事柄に移る為かポフッと言った感じで手を叩いた穣華が、一歩踏みだして一年生三人の前に出る。



「先生達や春恋さんから既に聞いていてご存じかも知れませんが、統生会もマケンキ内の組織の一つと思って下さい。役職の違いはあれど個人管的な立場の差は無い仲間同士ですから・・・それで~~」



 体を傾けにっこり笑って、穣華は本当に嬉しそうに告げた。



「入部歓迎会もかねて~~、仲間同士の絆を深める親睦会、開いちゃおうと思いま~~す!」
「親睦会?」
「・・・」
「なんでしょうかね?」



 単語単語の意味は分かるものの、何をするかなど当然分からない三人は、ハテナな表情を浮かべていた。


「では、行きましょうか~~」















 一行は統生会室を出たあとに外に出て校門を抜け、今は学園のそばにある背の高い山、霊峰アマノハラの麓に来ている。

 長い階段をひょいひょい登って行くマケンキの面々やイナホを見ながら、海童と碓は後から登って行っている。

 ・・・といってもキョロキョロ見まわしている辺り、海童はどうやら景色を見ながら登っている所為で遅れているらしい。



「お前体力あるな、同じペースで登ってんのに・・・」
「いや、ここまで登ってちょいと息切らせるだけのお前も充分体力がある方だ」
「でもさ・・イナホちゃん、身軽すぎだろ・・・」
「それには同意する」
「海童様! 碓さん! ガンバです!」



 数段先で待っているイナホが、眼下の二人に励ましの声をかける。心なしかペースの上がった碓と並んで登りながら、海童は同じく案内の為か待っている穣華に質問した。



「ところで雨渡先輩。何処に向かっているんですか?」
「うふふ、もう少しで見えてきますよ・・・ほら」
「あれは・・・湯気か?」
「さあ、もうひと踏ん張りしましょうか」



 やっと階段を上り切り目的地に着く。その目的地である場所にあったのは―――



「これ、温泉ですか?」
「ピンポーン、正解で~~す」
「うわぁ、ヒノキの香りがします」
「こりゃ立派だな」



 木造で立派な構えの温泉であった。湯気はここから出ていたのだ。

 汗をかいているしここで温泉はグッドタイミングだと、海童と碓が男湯に行こうとしたのを、穣華は待ってと声を掛けてとどめる。



「殿方はこれを持って行って下さい」
「これは・・・海パンか?」
「みたいだな」
「ええ、それを穿いてはいってくださいね」



 何でまた風呂に入るのに水着なんか・・・その疑問の答えは、穣華の口から開かされた。



「でないと困るんです・・・ここは混浴ですから」
「ええーーっ!?」
「えぇー・・・?」


 穣華の思わぬ答えに、文字面は同じなれど全く違う反応を示すのだった。









 男性用の脱衣場に入り、早速海童と碓は着替え始める。



「何と言う幸運! 何と言う至福! まさか学園トップスリーの爆乳乙女達と混浴とはっ! しかも姫神先輩も居るし!!」

「・・・そりゃ良かったな、碓・・・そういえば、乳がどうこう言っているのに、何故姫神先輩を入れているんだ?」

「別腹って奴だよ。美人なのに小さく可愛くて、でも性格キツそうな所もまたな・・・ファンクラブだって出来たらしいぜ!」

「・・・そうかい」

「元気ないな? 階段登っていた時はまだ余裕あったろ、どうしたんだ?」

「風呂は静かにゆっくり入りたいんだよ・・・男子も女子も大勢だと結局騒ぐからな。二人だからと期待したが・・・竹垣越しならまだ良かったんだがなぁ・・・」

「お前枯れてんなあ、モロ爺じゃねえか」

「やかましい」

「まあ、それはさておき―――待っていろ俺のパラダ――イス!!」

(さて、何分もつか・・・)





 イナホを待っていたらしい女子生徒達も、女性用脱衣場で着替え始める。



「ここって本当に立派ですよね。本当に無料でいいですか?」

「ええ、天日の施設は一部を除き無料で利用できますの」

「なんや、誰も居らんなんて珍しい。人はらいでもしたか?」

「なんでもここら辺で黒い影を見たって報告があってね、今回はその調査もかねているの」

「ですけど何でまた男子達と一緒に・・・私の男性恐怖症はご存じでしょう? 穣華さん」

「勿論・・・でも、今回はマケンキの仲間の為の親睦会。男子二人だけ仲間外れにするのもねぇ・・・フフフ」

「顔が何故に嬉しそうなんじゃ・・・」

「あの~、私水着を持って来ていなくて」

「それなら用意してありますから、好きなのをどうぞ」

「・・・穣華さん? まさかそれは」

「えへへ♡ ごめん楓蘭、会費使っちゃった♡」

「穣華さあぁん!!??」



 女子達が水着選びや勝手に会費を使った事による説教で時間を食っている一方、着替えが速い男子達は一足先に風呂場へ出ていた。



「うはあ、でけぇ・・・すげえなこりゃ」
「立派な造りに天然温泉、か・・・是非とも静かにゆっくり入りたいもんだ・・・」
「だからジジイかってのお前」
「うるせぇな」



 言いながら海童は少しでもゆっくり浸かれる場所を確保するべく、女子達を待たずに湯船へ歩き出していく。
 そんな海童が岩場の陰に行き入口が見えなくなった時、ようやく一悶着終わったのか、女子達も入ってきた様で声が聞こえてくる。



「ワー! すっごく広いです!」
「すげぇだろ? しかも景色まで最高だし、人気ある訳よここの温泉はな」
「ん? ケンゴだけか? カイドウは何処行ったんや?」
「・・・ハッ! あ、あいつならゆっくり浸かりたいって岩場の陰に行きましたよ・・・えへへ」
「昔から変わらないわね、海童君は―――」
「あ、あなたっ!?」



 と、行き成り楓蘭は声を上げた。何事か岩場の陰に居る為分からない海童だったが、次の音でなに事かを悟った。



「キャアアアッ!!」
「はぶっ!」



 悲鳴と共に何かを投げつける音、続いてカポーンという高い音。恐らく、鼻の下伸ばして見ていたら、女子達にでかくなった『アレ』を見られ、桶を投げつけられたのだろう。

 予想通り丸い後を作った碓が、海童の居る岩場の陰へやってきた。



「ハハハ、一分も持たなかったか」
「くっそ~・・・しょうがないだろ男の性なんだしよ・・・」
「それには同意する、碓」
「おお、ありがとうな大山! 完全に枯れてたわけじゃねえんだな!」
「余計な御世話だ」



 大きな岩を挟み、暫くは会話も無くゆっくりのんびりと浸かっていた女子達も、イナホの言葉を皮切りに話し始めた。



「私、露天風呂って初めてなんです。気持ちいいですね~・・・ふぅ」
「ふふ、気に入って貰えた様で何よりよ」

「・・・・? む・・・!」



 イナホと穣華のやり取りに目を向け、それからボーっと空を見ていたコダマは、軽く視線をずらした先にいた春恋を見て、何かに気付いたような表情をするとずんずんと近づいて行く。

 そして徐に春恋の水着に手を掛けて・・・軽く上へずらした。途端に、何かが湯船へ落下していく。



「きゃああっ!?」
「はうあっ!? ・・・は、鼻から何だか熱いモノが・・・っ」
「やはり、パットを仕込んでおったか・・・!」



 春恋は勿論傍にいたうるちも驚き、何やら鼻を押さえるうるちには構わず、コダマは鬼気迫る声色で詰め寄って行く。

 

「ハルコ・・・貴様はそこまでの巨乳なのにもかかわらず、まだ大きく見せようなどとっ・・・! 貧乳に対する気遣いを知れいっ・・・!!」
「い、いやこれはその、形の問題があると言うか」
「大山海童の眼が他の者に行くのを恐れた為とするにしても・・・幼馴染ならあやつがどんな人間か知っておろうが! やはりただ大きく見せたいだけか!?」
「ち、違うの! 違うんだってば姫神さん!」
「そんなにデカくなりたいならば、わしが垂れ落ちる程に揉んでやるわあっ!!」
「きゃぁーっ!?」



 やたらドタバタし始めた春恋とコダマ周辺から少し離れた場所では、季美が秋の豊満な胸を羨ましそうにマジマジと見ていた。



「春恋もチャチャもおっきいですけど・・・秋先生は特に凄いですよね・・・ごくりっ」
「うふふ、ならちょっと触ってみる?」
「では御言葉に甘えて――――えいっ」
「あっ♡」



 てっきり前から来るものだと思っていたらしい秋は、後ろに回られてから行き成り着た所為か、口からいやに色っぽい声が漏れた。



「ホントおっきぃ・・・何カップあるんですか?」
「ヒントなら教えてあげるわ。H・I・J・・・・フフ、さて幾らかしら♡」
「それで型いいなんて、うらやまです」



 その会話を大岩の裏からモロに聞いていた男子二人はというと、海童は五月蠅くてかなわんといった感じで顔をしかめ、碓はやっぱり男の子か魅惑の会話で何やら妄想している。



「くぅっ・・・見るなというのならそれ相応の態度というモノがあるだろうにこの会話っ・・・もう我慢の限界だっ!」
「やめておけ、どうせ眼潰しかまされるだけ―――――ん?」


 海童が止めておけと言いかけた・・・その時、ガサリと言う音を聞き何事かと目線をそちらへ向けると、何やら黒い影がのそりと木陰から出てきているのが見えた。

 太い四本の足、まるい耳、特徴的な顔、胸の月の様な白い模様・・・まず間違いなく―――


「グルルゥゥゥ・・・」

「熊か!!」
「えぇ!? クマぁーっ!?」
「・・・丁度良いな」

「何ですって?」
「クマが居たみたいよ」
「クマ!?」
「クマじゃと!」



 碓の叫び声で女子達も気付いたか、大岩の周りに集まってくる。・・・一部の、嬉しそうな声を聞いたのは気のせいだろうか。



「ちょ、ちょちょっ、ああそこにクマが!!」
「アレは・・・ツキノワグマですわね。個体的に見てかなりの体躯ですわ」
「パンダやないの? 湯かければオッサンに戻るやろ」
「・・・近くに美少女や黒豚が居たりして・・・」
「もしかして報告された黒い影ってクマなの?」



 一同いきなり登場したクマに驚く中、海童は腕を後ろに振りかぶって、クマへ向かって走り出している。
 もしかしなくとも、衝撃波を叩き込むつもりだ。



「弱肉強食だ、悪く思うな! 『裂し―――」
「駄目じゃーっ!? 傷付けて追い返すなどとんでもないっ!」
「うおぉっ!?」
「そうだぞ! クマだぞ! テ○ィがついたらとんでもないんだぞっ!」



 しかし、嬉しそうな声を上げていた一部の人間であろうコダマとアズキに組み付かれ、衝撃波は実質的に不発で終わってしまう。



「なっ、放してくださいって先輩!!」
「嫌じゃ! 力で無理矢理追い返すなど可哀そうじゃ!」
「そうだそうだっ!」

「はぁ・・・つまり力で無理矢理追い返さなきゃいい訳ですわね」
「で、でもそれって結構無茶じゃ・・・」
「大丈夫やってハルコ。無茶でもやり遂げるんがウチら『マケンキ』やろ」
「・・・そうね!」



 それから短く作戦をまとめ終え、春恋は竹刀を手にしチャチャは木の板の位置部を圧し折った。



「全く、足滑って地面にぶつかってたらどうしたんだっての」
「お前羨ましいぞこの野郎!! 姫神先輩に抱きついて貰えるなんて!!」
「俺としては不発にさせられていい迷惑なんだよ!!」



 ようやくコダマとアズキから解放された海童は、凄い勢いで駆け寄ってきて羨ましそうに言う碓へ、行き成り組み付かれて邪魔された不満を隠しもせず言い放つ。
 それにちょっとムカついた碓が何か言おうとして、後ろを見てかたまった。



「ぬおおおっ!? クマが俺らの方に来てやがるぅ!?」
「チッ・・・はぁぁ―――」

「「ダメえぇぇーっ!!」」

「うぐっ!? ああもう!」



 何も出来ないなら逃げるしかない、海童は碓と共にクマへ背を向けて逃げ出した。気の所為かクマは海童達を狙っているかのように、右へ左へ曲がる彼等をひたすら追っている。



「何で俺らを狙ってんだよこのクマ! 俺が何かしたかよ!」
「知るかそんな事!」

「カイドウ! ケンゴ!」



 走りながら喧嘩しているさなか、進路上にいるチャチャが板を持ったまま彼らへとを振って叫んだ。



「ええか! 板伸ばすから上飛び越えや!」
「の、伸ばすって・・・」

「いくでぇ、ウチのマケン! 魔建(スケール)『コンプレッサー』でのぉ・・・質量の破壊(フィジカルドライヴ)!!」

「板が伸びた!」
「でかくなった!?」


 チャチャの右腕にグローブが現れ光った瞬間、細く二十センチほどの長さだった板っきれが、数十倍以上の長さと幅になったのだ。

 言われたとおり板を飛び越え、まだ追ってきていたクマを春恋が転ばせて板の上に乗せる。

 ニッと笑ったチャチャは、落下しながら踵落としを板の端に決めた。



「そらぁっ!! 後は頼んだでキミー! ・・・そぉれ日本ではおなじみぃ」

「グルルゥ?」

「たーまやーっ!!」


 大きくしなった板はシーソーの要領で跳ねあがり、上に乗っていたクマを大きく跳ね飛ばす。



「着地地点に岩が!?」
「きゃあっ!?」

「!?(え? ・・・志那都先輩が“きゃあ”?)」



 弧を描いて勢いよく向かう先は、大きな岩の上だった。このままでは怪我どころでは済まない。



「・・・大丈夫だよ・・・怪我は、させない・・・」



 すかさずペンの様なマケンであろうそれを取り出した季美は、空中に文字を描き出した。漫画の効果音の様なその文字を、彼女は岩の方へ飛ばす様にペンを振る。



「・・・描き出す効果(エフェクトワークス)・・・」




 直後、岩に『ポヨーン』と言う文字が浮かび上がり、クマが岩へ勢いよく衝突した途端、普通ならガツンといって砕ける筈なのに、何故だかポヨーンと言う音と共に岩がクッションのように凹んで、クマを見事に受け止めたのだ。



「何でだ? 岩に突っ込んだのにまるでクッションに突っ込んだみてぇな・・・」
「これが、先輩二人のマケンの力か・・・!」
「その通りですわ」



 驚く海童と碓の二人へ楓蘭が短く告げ、穣華がそれを繋いで解説し始める。



「季美さんの魔鍵(タブレット)『コミックスター』は、漫画の擬音や効果の特性を想像し、現実へ描き出して実際に投影することが可能なの。チャチャさんの魔建(スケール)『コンプレッサー』は、無機物の質量や大きさを自在に操作可能なんです」
「公私共々ベストなパートナー、それが彼女達ですわ」
「これが・・・」
「マケンキか・・・」
「せいか~~い」



 再びポフッと手を叩き、穣華は海童と碓、イナホの新入部員三人の方を向いて、手を大きく広げた。



「コホン、では改めて・・・入部歓迎いたします、「マケンキ」へようこそ! 海童くん、健悟くん、イナホちゃん」

「はい」
「あっ・・・ハイッ」
「うっす!」



 ここよく迎えてくれた面々に感謝しながら、三人とも笑顔のまま頷くのだった。
















 後日、一週間の終わりと言う事で実へ報告しに行った海童と春恋は、学園長の様子が何やらおかしい事に気がついた。


「う~ん、えっと、えっとな?」
「なんですか?」



 気まずそうに表情を崩しながら、実は誤魔化し笑いをして衝撃の事実を口にした。



「実はあの熊さ、今年の春辺りだったかな~・・・そこらへんから飼いだした、言わば私のペットなんだよね~、うん」
「・・・はい?」
「で、でもでもクマハチは人間襲わないしさ! 別に危険ではないよ?」
「俺と碓、しつこいほど追われたんですけど」
「ああ、クマハチって名前だけどメスだから、きっと男子とじゃれあいたかったんじゃないかな~と・・・アハハ」
「・・・」



 溜める様に春恋は震え、大きな音を立て机を叩いて実へ顔を突き出した。



「そういうことは事前に報告してくださいって何時も何時も言っているのに・・・何度目ですか学園長ーーっ!!」
「ゴメンよ副会長~~っ!?」

(・・・俺、判断を間違ったかな・・・)



 顔を押さえて項垂れながら、海童はマケンキに入った事をちょっと後悔するのであった。

 
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