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閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー

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第8話~再会~

 
前書き
一週間ぶりの更新です。執筆スピードがなかなか上がらなくて無力感を感じますが、文才のない脳を振り絞ってこれからも頑張っていこうと思います。さて、自虐はこのぐらいにしまして、ストーリーの方をどうぞ! 

 
七耀暦1204年 4月25日(日)

「よくも私の屋台を滅茶苦茶にしてくれたな、この卑しい田舎商人め!!
 どうせ君がやったんだろう!?正直に白状したまえ!!」

「んだと、帝都の成金があ!
そっちこそ、俺の場所を独り占めしようとしたんだろうが!?」

翌朝、リィンとラウラが和解(?)し、マゴットさんから実習2日目の封筒を受け取って開始しようとした時、宿に駆け込んできたルイセが大市で盗難事件があったと言い、A班全員で状況を確認しに行くことにした。すると、この有様だ。昨日屋台の場所で揉め合っていた二人の商人が昨日以上の怒号を発して互いを罵っている。お互い、盗難被害にあった上に屋台も壊されたらしい。元締めのオットーさんが仲裁に入っているのを気にも留めず、喧噪はより激しくなる。

「しらばっくれた上に俺のせいにしようってか!?ふざけんなよ、コラァ!!」

「フン、やるのか!?望むところだ!!」

見かねたケインたちが止めに入るが、屋台の仇を討つなどと言って完全に聞く耳持たずだ。
終いには首まで掴んで取っ組み合いまでし始める。そこに、昨日は来なかったはずの領邦軍たちが、大市に顔を出した。早朝から何事だと元締めに話を聞き、事件についてオットーさんが話したところで少々考え込んだそぶりを見せた領邦軍隊長が口を開く。

「ならば話は簡単だ。おい、二人とも引っ立てろ」

「ハッ!」

隊長の言葉に2人の商人が驚きを隠せないでいるのも最もだ。あまりにも横暴過ぎる。

「互いの屋台が破壊され、商品までもが盗まれた・・・いがみあう二人の商人が同じ事件
 を同時に起こした。そう考えれば辻褄は合うだろう」

「ずいぶん強引な物言いだな。あんたらが盗んだんじゃないのかよ?
 もしくは『本当の犯人』、でも庇っているのか?」

(イヌ)風情が図に乗るなよ・・・そんな証拠がどこにある」

「へぇ、そのイヌ風情にムキになってるあんたは何なんだよ・・・図星か?」

「・・・何も知らない小僧が。フン、領邦軍にこんな小事に手間を割く余裕などない。
 このまま騒ぎを続けるならそのように処理するだけだが」

証拠が無いぶん、このままいっても平行線だ。そう思ったケインは黙っておき、商人たちも最終的には折れ、領邦軍たちは詰所に去っていった。やるせない気持ちでいっぱいであろう二人の商人を、オットー元締めがとりあえずクールダウンさせ、壊された屋台を撤去するべくその場の全員の商人に声をかける。ケインたちもそれを手伝い、多少の遅れこそあったが、大市は無事開かれることに。
その後、再びオットーさんの家へ招待されたケインたちは、改めて彼に礼を言われる。が、根本的な解決には当然なっていない。根の深いケルディックの問題は、容易なものではないだろう。誰もがそう思う中、リィンが今回の事件の調査を申し出る。納得がいかない。あまりにも理不尽だ。A班全員がそう思ったのだろう。彼の意見に賛同し、くれぐれも深入りはしないようとオットーさんから報告を受け、その場はひとまず失礼した。

「・・・・・・」

「・・・どうしたのだ?」

「・・・みんなは実習の依頼を片付けていてくれ。この事件は、俺一人で解決する」

オットーさんとの話の時もずっと黙り込んでいたケインがそんなことを口にした。
もちろん、他4人の驚きと反感を買った。さすがに一人では危険だ、と。

「頼む・・・!領邦軍(あいつら)が関わっている以上、危険なんだ!
 君たちにまで迷惑はかけられない。敵対するのは・・・俺だけで十分なんだよ」

「そなたが危険だと判断しているところに、単独で行かせられるものか!
 私は・・・そなたが心配なのだ。そなたの、力になりたいのだ」

「ラウラ・・・」

ラウラのどこまでも真っ直ぐ真剣な眼差しに狼狽えるケイン。君は足手まといだ。
そう言ってしまえば済む。たとえ自分が忌み嫌われようとも他者に迷惑はかけられない。自身のいざこざに巻き込むなどもっての他だ。そう思っていたが、口から出たのはまるで正反対の言葉だった。

「分かった。俺とラウラの少数精鋭で行こう・・・君は必ず、守ってみせる」

「ふふ、承知した。ならば私も、ケインの背中ぐらいは守ってみせよう・・・!」

「ちょ、ちょっと!二人だけで勝手に話を進めないでよね!!」

ケインとラウラは、アリサのツッコミでようやく他3人の存在を失念していたことを悟る。
当然彼らもまだ反対するだろうと思っていたが、最終的にはリィンが二人の実力なら大丈夫だと一任し、アリサ、エリオットと共に依頼の場所へ向かった。無理はしないように言われたが、彼なりに気を遣ってくれたのだろう。とにかく、ケインたちも事件の調査を開始することに。

(俺は、ラウラに嫌われたくないと思っているのか?・・・くっ、どうしてなんだよ!)

「ケイン?」

「・・・すまない。調査を開始しよう」

怪訝な顔を見せるラウラだったが、それも一瞬で、今なら揉めていた商人たちも落ち着いているだろうと言い、まずは被害者の話を聞いてみた。互いに互いの事を非難していたが、夜中、事件が起きた時間帯に彼らは屋台におらず、どちらかが犯人であるという線は消えた。昨夜盗まれた盗品で、それらの数も考えるとケルディックに隠したとも、鉄道等を利用したとも考えにくい。

「どうやら行き詰ってしまったようだな」

「いや、そうでもないよ・・・ラウラ、俺の直感に付き合ってくれないかな?」

「???」

-西街道 ルナリア自然公園前-

「・・・とりあえず、着いたな」

「うん。しかし、どうしてこのようなところに?」

「事件が起こったのは昨夜。目算だけど、あの量の盗品を町の中に隠しておくとは考えにくい。街道も魔獣がいる以上、安心できないからな。自然公園ならある程度管理も行き届いているはずだし、敷地も広い。一旦隠すぐらいなら簡単にできそうかな、って」

「そなたはそこまで考えていたのか・・・流石だな」

ラウラのその言葉に、ケインは苦笑した。実は前にも似たような事があったのだ。
ある没落貴族の商人が、大市の利益を独占せんと数人の傭兵を具して、市の倉庫を破壊。
倉庫の品をできる限り自然公園へと運び込み、数台の私用飛行艇でそれらを回収という手口のものだった。偶然ケルディックに来ていたため、その事件のことを知り、飛行艇の操縦士ごとのしておいたのでそれは阻止されたが。

「けど、分からないことがあってさ」

「?何なのだ、それは?」

「領邦軍とグルっている第三勢力らしき、『何か』の存在だよ」

「・・・!」

そんなことよりも先に進むことが重要だと判断したケインは、少し考え込む。
公園前の門は、内側から施錠されている。きな臭い感じだ。

「まぁ、今は関係ないよな・・・さて、ラウラ。ちょっと失礼」

「え、ひゃっ!?」

「・・・可愛い声だな」

「そ、そなたという男は・・・!」

良案を思いついたケインは、突然ラウラの片手を引き、腰から抱きかかえて彼女をお姫様抱っこする。その後、十数アージュほど助走をつけてから跳躍し、門を飛び越えた。

「よし・・・!侵入成功、だな。ラウラは・・・大丈夫?」

「・・・・・・」

ラウラは驚きのあまり、無言で口を閉口させているようだ。まるでマキアスのようだと思うケインであったが、彼女の顔の前で「お~い、戻ってこいよ」と手を振っておく。
少しして我に返ったのか、すぐにケインから離れた。

「~~~~っ・・・!」

「やっぱり、嫌だったよな・・・すまない、これ以外思いつかなかったんだ」

「い、嫌というわけではない。その、あまりに唐突だったから驚いただけだ」

「気遣ってくれてありがとう。やっぱり君は、優しいんだな」

微笑しながら礼を述べたケインは、そのまま先へと進んでいく。ラウラもそれに続いた。
公園には街道とは違った異質な雰囲気があったが、ラウラいわく地方に残っている精霊信仰の名残なのだそうだ。確か、レグラムにもそんなものがあると聞いた気がする。
予想に反して魔獣が徘徊していたが連携して難なく倒しながら、曲がりくねった道を走る。
これでは自然公園ならぬ魔獣公園だとぼやきたくなるのを抑えつつ、ケインたちは人の気配を感じて立ち止まった。四人の男たちが話しているようだ。その奥には、盗品もあった。

「いい稼ぎになったな。これで連中が陳情を取り下げなけりゃ、もうちょい稼げるってか」

「ま、程々にしとけ。報酬だって用意されてるんだ。普段の稼ぎからしたら十分だろ」

「しっかしあいつら、何者なんだろうな?領邦軍の連中にも顔が利いてるみてーだし」

「さてな・・・何を考えているのかさっぱり判らん男だったからな」

(あいつらはミラで雇われた錬度の低い猟兵か傭兵崩れだな。領邦軍に顔が利くってこと
 は貴族派に協力的な組織か?何にせよ、この陰険なやり口は策謀家だな。慎重に行くか)

物陰に隠れて彼らの会話を盗み聞きし、ケインは頭の中で情報を整理する。

「流石に捨て置けぬな・・・どうする、ケイン?」

「俺が特攻するから、ラウラはその三秒後に頼む」

「心得た・・・!」

ラウラに作戦をを告げたケインはトップスピードで彼らに肉薄し、篭手で即座に二人を無力化する。不意を突かれ、残りの二人も反撃むなしく、ラウラの大剣の餌食になっていた。

「ウソだろ・・・こんなガキどもに・・・」

「大人しく投降してくれ。あんたらの命を奪うことに意味はない」

「誰に頼まれたのかは話してもらう必要がありそうだが」

どうやらそれを言うつもりはないらしい。暫くの間、硬直状態が続いていたが、どこからともなく笛の音が聞こえ、巨大なヒヒ型の魔獣が現れた。何者かの介入も予測済みだったらしい。この場の全員を消しかけるつもりなのだろう。野盗らは竦んでおり、助力は見込めない。

「あの魔獣を討伐する。ラウラ、力を貸してくれ!」

「任せるがよい!」

巨体の割に俊敏な動きで振り回してくる前足の一撃を、紙一重で避けたケインは、魔獣の剛腕に一突きを入れる。ラウラはそれに続いて同じ部位に大剣の振り下ろしを叩きこむ。
立て続けに同じところにダメージを負い、憤慨した魔獣は反対の前足で、ラウラめがけて巨大な拳を振り下ろすが、間に割って入ったケインの拳に弾き返され、数歩後ずさる。
その隙に後ろに回り込んでいたラウラが両方の後ろ足を叩き、ケインは魔獣の両目を狙って黒剣で一閃した。ケインの目論見通り視界を奪われた魔獣は、暴れるが、体勢を崩されていて思う様に動けないようだ。ケインは、駄目押しにと魔獣の片腕を斬り飛ばした。

「ラウラ、今だ!」

「我が渾身の一撃、喰らうがよい・・・!奥義・洸刃乱舞!!」

膨大なエネルギーを纏った青白い光に包まれた大剣を振りかぶり、袈裟斬りから一閃、最後は回転斬りで華麗にフィニッシュする。ラウラの奥義により、魔獣は断末魔もなく消滅した。連携が上手くいったことに満足し、ケインはラウラと勝利のハイタッチを交わす。

「綺麗な剣技だな。正直、見とれてしまうほどだった」

「ふふ、そうか。だが、そなたほどの使い手なら奥義もあるのだろう?」

「・・・まぁ、あんまり使いたくないけどな」

たった二人で巨大な魔獣をあっさり片付けてしまったため、野盗たちは驚きの声を上げる。
何にせよ、ここで彼らを捕まえれば事件は解決する。さっそくケインが行動に移ろうとしたその時だった。何者かの気配を感じ、身構える。現れたのはケルディックの詰所にいた領邦軍たちだ。彼らの姿を視界に捉えた瞬間、ケインは一目散に駆けた。

「いたぞ・・・ぐあっ・・・!」

「連中も一緒、だあぁっ!」

野盗が失敗しても、この場だけは抑える算段だったのだろう。それに気づいたケインは、彼らを制圧しにかかった。全員を伸したはずだが、隊長がいないことに遅まきながら気づく。背後を見れば、ラウラが銃口を突き付けられていた。

「ラウラ!・・・くっ、あんたらは俺に用があるんじゃないのかよ!?その銃を下ろせ!!」

「フン、随分とご執心のようだな。これ以上、貴様に引っ掻き回されるわけにはいかん。
 手を引かぬというならばこの娘共々、容疑者としてバリアハートに送ってもいいが?」

気づけばケインも囲まれていた。数分気絶させたつもりが拙速だったため、浅かったのだろう。万事休すか、と諦めかけていたところで聞き慣れた涼しげな声がする。
灰色の軍服を着た淡いスカイブルーの髪をした女性を筆頭に、複数の兵士が横に立ち並んでいる。帝国正規軍の中でも最精鋭と言われる、T・M・P(Train Military Police)、通称鉄道憲兵隊だ。この地の治安維持については我々が行っていると不満げに声を上げる領邦軍隊長に対し、女性将校は、大陸横断鉄道網の中間地点でもあるこの地においては、自身らにも捜査権が発生するとあくまで冷静に返す。

「そして元締めの方たちを始め、関係者の証言から判断するに・・・こちらの学生さんたちが犯人である可能性はあり得ません。何か意義はおありでしょうか?」

領邦軍隊長は苦虫を噛み潰した表情になりながらも、「特にない」と告げ、残りの兵を率いて撤収した。野盗たちは話が違うなどとぼやいていたが、女性将校の拘束の指示によって憲兵隊の兵士にあっさり取り囲まれてしまう。

「ふふ、お疲れ様でした。帝国軍・鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。
 ・・・ケインの方は久しぶりですね。2か月ぶりくらいですか」

「ご無沙汰しています、クレア大尉。その・・・」

「今は構いませんよ。ただ、調書を取りたいので少々お付き合い願えませんか?」

「・・・了解です。ラウラも、来てくれるか?」

「・・・承知した」

ケインは平生より声のトーンが一段下がっているラウラを気にかけつつ、どこか重たい足取りでケルディックへと戻ることになった。
 
 

 
後書き
実にどうでもいい話ですが、何とか文字数の均一化が図れてきました。当初は2、3話構成で書くつもりでしたが、次の話で特別実習を終えたいと思います。 
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