ソードアート・オンライン 幻想の果て
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一話 剣の世界で
第六十五層、主街区近くの街道から程近い針葉樹がまばらに立ち並ぶ森林地帯。
その中を巡回するように三匹の人型モンスター、バーグラー・ゴブリンがうろついていた。
緑色の体皮に突き出た長い鼻が特徴的なそのモンスター達は僅かに出で立ちが異なる一匹を中心に両側のゴブリンがきょろきょろと首を動かし周囲を警戒している。あくまで規定されたプログラム通りの行動を繰り返しているに過ぎないがSAOの中ではまるで自らの縄張りを守ろうとする本当の一生命体であるかのような生々しさだ。
ゴブリン達が木々の感覚がやや開けたエリアに差し掛かった時、後方の樹木の陰から歩み出てきた気配に気づき一斉に振り返る。
「クァッ!」
ゴブリン達は奇声を上げ威嚇を発する。SAOのプレイヤーであることを示すグリーンのカーソルを頭上に浮かべたその人物はまだ少年と言える若さだった。亜人の金切り声を受ける金属鎧に身を包んだ少年は日本人にしては少しばかり彫りが深く見える顔立ちに落ち着きをたたえたまま、構えを取った。
左手に持つ逆雫形の金属盾を体の前に、右手には少年の獲物であるらしき槍身と一体化した護拳が印象的な白い短突撃槍。武器をはじめそれらの装備は典型的なタンカーに比べ全体的に一回り軽装に見える。
戦闘姿勢に入った少年に対し、能動的にプレイヤーへ襲い掛かるアクティブモンスターであるゴブリン達が先んじて動いた。中心の一匹が腕を振ると左右のゴブリンが同時に少年へ迫り右手に持っていた棍棒で打ちかかった。
「――っ」
鈍い金属音が二度、響く。盾と突撃槍の護拳で左右からの攻撃を同時に受けた少年と打ちつけた棍棒を押し込むように力を込めるゴブリン達。一人と二匹が硬直する中、ゴブリン達を指揮するリーダー格らしき一体は分厚い刃を持った獲物を振りかぶる、すると構えられた山刀が青く光を放ち始め、次の瞬間一気に加速したリーダーゴブリンが少年に迫った。
片手直剣用突進技《レイジスパイク》
MMOにして魔法という要素のほぼ存在しないソードアート・オンラインにおいて必殺技となる《ソードスキル》だ。
「ふっ!」
手下に足止めさせた所を仕留めにかかる、といった段取りだったのだろうがしかし、少年はリーダーの動きを確認するやいなや短い呼気と共に両サイドのゴブリンを押し払う。拘束を解かれた少年は迫る山刀が描く青い軌跡に沿わせるようにして盾を傾けた。
金属同士が擦れる甲高い音が鳴り響き、突進の威力をいなされたゴブリンが脇を抜けていく、その足元にスッと伸ばされる足。
「ゴァァッ!?」
蛙の潰れたような声を上げながらソードスキルを放ったリーダーゴブリンは足を引っ掛けられ突進の勢いそのままに転び崩れる。盛大に地面へ顔を打ち付けることとなったゴブリンはHPまで僅かに現象してしまっていた。《転倒》状態に陥ったリーダーを助けようとするように押し退けられた二匹のゴブリンが体勢を立て直し再度少年に迫る、が。
即座に浮かせた足を踏み込み、右腕を体に巻きつけるように振りかぶった少年の突撃槍が青く輝き始める。ソードスキルの発動に気づいたゴブリン達が足を止めるが既に彼らは間合いの内に入ってしまっていた。ゴブリン達目掛けてペールブルーのライトエフェクトを発生させながら白銀の突撃槍が薙ぎ払われる。
突撃槍用打撃技《リペルスイング》
突撃槍の特性上、高いダメージの望めない技ではあったが武器の重量とシステムアシストによる強烈な一撃を叩き込まれゴブリン達はHPバーを減少させながら吹き飛ばされるようにノックバックし、背中から倒れこむ。分断された三匹のゴブリン、少年が挟まれる形になったとも見て取れるが――そこに新たな人影が飛び込んでくる。
木々の間を抜けてきた、こちらも年若い少年は気合を口から叫びながら《転倒》状態から脱しようとしていたリーダーゴブリンへ一直線に向かっていく。革装備で固めた装備にブレストアーマーを着込んだ少年が右手に携えた長剣には既に黄緑の光が生まれていた。
「おおおっ!」
片手剣用突進技《リープスラッシュ》の斬撃がゴブリンの矮躯を切り裂く。
「アルバ!……スイッチ!」
「おう!」
一撃を浴びせた少年は鋭く呼びかけその場から飛び退くとまた別方向からアルバと呼ばれた少年だろう、革鎧のみという他の二人に比べ更に軽装だ。怯んでいるゴブリンに向かい駆けながら長大な両手剣が高く掲げられ発動条件であるモーションが感知されると頭上の剣がオレンジの輝きを放ち始める。同時に働くシステムアシストにより疾走が加速、瞬く間に距離が詰まり上段の構えから一気に振り下ろされる大剣。
頭からゴブリンを両断した大剣の軌跡には赤々としたダメージエフェクトが刻まれ頭上にあったHPバーが急激に減少、消滅した。生命力を削り尽くされたゴブリンはビクビクと振るえ断末魔の悲鳴を上げたかと思うと次の瞬間、乾いた音を立ててその全身を構成していたポリゴン体が白い輝きを発しながら弾け、ガラス片のように変化した残骸が散って消えた。
「さーてと?」
おどけるような口調で大剣使いが言うと飛び出してきた二人の剣士は突撃槍使いの少年に並び油断無く武器を構えながらリーダーを失った二匹の子鬼を睥睨する。打撃の衝撃から立ち直ってはいたがどこかおどおどとした動きは先刻までと比べ明らかに精彩を欠いている。
「すぐに片づけよう」
左の手に小盾を握る片手剣使いがそう言い放ってから二体のゴブリンがその身を消滅させるまで、一分とかからなかった。
後書き
話数はきりのいいところで区切っていきたいと考えていますが短いですね……遅筆なため更新速度上がりませんがあまり停滞しないように書いていけるよう頑張ります。
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