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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第93話 少年達はOHANASHIするようです


Side ―――

「ああ、フェイト。答えは否だ。」

「では、残念だが交渉は決裂だ。」
ドギァッ!

言い終わると同時、僅か1m手前の地面が隆起し、岩石の槍が刹那を襲った。

明らかに腹部を貫通する長さを持った槍はしかし刹那の背から生える事はなく、血の代わりに出たのは

呆れと怒りの混じった溜息だった。


「やれやれ……過保護も大概にしなさい松永。この程度の攻撃を私が防げないとでも思いましたか?」
ザザザン!
「それこそまさか、であるな。しかし、事があればDNAの一遍たりとも残らず消えるのは我輩だからね。」
ドォン!ドドォン!

喋りながらも刹那は剣戟を、松永は爆撃を飛ばすが、当のフェイトは指先に出した障壁で座ったまま防ぐ。

そのまま何事も無いかのように立ち上がり、その場の全員に向けて殺気を放つ。


「やれやれ神楽坂明日菜……君にはいつも肝心な所で邪魔をされる。ネギ君と君と、かな?

だけど礼を言うよ。こんな作戦失敗して良かった。罠に嵌めて"あの二人"の息子の自由を奪うなんて

つまらない。これで僕達は晴れて世界を賭けた敵同士。僕と"彼等"の願いは叶った。」

「あの二人……って!?」

「ではネギ君、まずは代償を―――」
フォッ

明日菜の驚きを無視し更に魔法を放とうとしたフェイトだが、その視界が何かに塞がれ、驚愕に開かれる。

ほんの僅か遅れ、それが急接近して来たネギのマントだと認識すると同時に上へ跳ぶ。

その陰から遅延していた魔法を『闇の魔法(マギア・エレベア)』で取り込んだネギの拳が打ち貫いて来る。

トッ
「成程、『闇の魔法(マギア・エレベア)』か。」

「ッ!」
ボッ
「"ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト おお 地の底に眠る 使者の宮殿!『冥府の石柱《ホ・モノリートス・キォーン・トゥ・ハイドゥ》』"!」
ゴゥン――

ネギは死角からの拳に着地したフェイトを苛立ちと共に払い除け追撃しようとするが、一瞬早く宙高くまで

避けられ、フェイトは観光客ごと攻撃すべく30m以上はある六角柱を複数召喚する。

しかしそれを一瞥しただけで、ネギは石柱に飛び乗り更に魔法を詠唱する。


「"ラステル・マスキル・マギステル! 来れ深淵の闇 燃え盛る大剣 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!

我を焼け 彼を焼け 其はただ焼き尽くす者!『奈落の業火(インケンディウム・ゲヘナエ)』 『固定(スタグネット)』"!

術式兵装(アルマティオーネ)"獄炎煉我(シム・ファブリカートゥス・アブ・インケンディオー)"』!!」

「フン。」


闇と火の炎を取り込むと、ネギの体は僅かに黒化し、纏わりつく蛇のような炎が表れる。

『闇の魔法』、知っている者が聞けば狂人確定の術だが、それを見てもフェイトはつまらなそうに

溜息をついただけだ。そもそも、愁磨が更なる改良をしたのは"墓守人の宮殿"内。

フェイトはその術式を完全に理解している。尤も、魔法世界準最強に設定されているせいで術式を

理解するだけに留まっているのだが。


「やれやれ、千の刃の元に居ると聞いたから少しは期待したんだけど。エヴァンジェルの固有技能か。

受け継ぐ者が居たのは驚きだけれど……つまらない選択をし――」

「"ラステル・マスキル・マギステル! 炎上する氷河 不動の灼熱 轟く火炎! 地獄を灰に!

天を塵に! 海を枯らせ!『終焉の咆哮(ラグナード・アルドノア)』 『固定(スタグネット)掌握(コンプレクシオー)』!

魔力充填(スプレーメントゥム・プロ)術式兵装(アルマティオーネ)"暴暁落暉(ヴィーリンス・スィオングアング・スィペレ・ギオンス)"!!」
ゴゥォォォオオァァアアオォアァアアア!!
「……!?」


追加の魔法を取り込んだ瞬間、僅かに纏っていただけの炎が燃え盛りフェイトに燃え移る。

ネギの拳を受け流そうと構えていたが完全に虚を突かれ、今まで見せなかった石から石への転移で距離を

離す。しかし、燃え移った炎は石柱内部に置き去られる事無く、更に火力を増してフェイトを焼く。

一瞬フェイトを見失ったネギだったが、その炎を見つけ即座に追撃をかける。

ドッ! 
「……成程、面白い魔法だ。でも『闇の魔法(マギア・エレベア)』とは所詮ドーピングの様なものだ。
ズガガガガガガガガ!
そんなもので僕や彼等に並べると思ったのかい?」

「(このいなし方、八卦掌の……!やっぱりこいつも……。)」

「如何に強力な力も相手に当たらなければ無駄。なんだ……精神的に僕に屈しかけ、女の子に助けられて、
キュンッ
肉体的にもこの程度か………残念だよ。また、期待外れだね。」
ボッ!

ネギの踏み込み突きを右手で打ち落とし、開いた左手を使い無詠唱の氷の槍を空中へ作り出し、放つ。

ズ ンッッ!
「―――!!?」

「何か言ったか?フェイト。君の方こそ功夫が足りないんじゃないか?」


払われた力も利用して加速した鶴打頂肘がフェイトの胸を貫き、フェイトは後ろへ弾かれる。

そのままネギの眉間を貫くかと思われた氷槍はネギのこめかみを僅かに掠り、反対の後方へ飛んで行く。

明日菜の力ならまだしも、ネギにまで、しかも二度も直撃を食らった事に驚きを隠せないフェイトだが、

驚く間にも炎に魔力を吸われつつあるのに気付き、急ぎ消す。ネギはその一瞬をつき、再度肉薄し近距離で

連撃を入れる。

ボッ ガッ ズンガッ
「む……。」
ドッ!
「ぁあっ!!」
ドンッ!

攻撃を避けつつ、確実にフェイトを押して行く。更に炎付きの托天掌で打ち上げ、叩き落とし(メテオ)

同時に左腕を開放、『終焉の咆哮(ラグナード・アルドノア)』による多方向からの火炎放射で焼き尽くす。

強化値は若干落ちるものの、ここで全てを出し切る気で追撃をかける。

ドボァアアアアアァアッ!!
「(いける……!)"ラステル・マスキル・マギステル!"
ガキュンッ
(今ここで、奴を……倒せば!!)『右腕解放(デクストラー・エーミッタム)』!!!」
ズンッ        ガキュンッ!!

石柱を崩すほどの高速落下と、上空からの打ち下ろし。フェイトの腹に拳を突き付けたままの状態で

『雷の投擲』を解放し、ついに石柱が差した部分から断ち切られる。

倒すまで行かずとも、幾らフェイトでも―――


「成程、つまりはこれが君の"功夫"と言う訳か。」
ガッ
「……!?」


少しは攻撃が通じたかと思ったネギだったが、『雷の投擲』が僅かに逸れ直撃していない事と同時、

全くの無傷に戦慄を覚える。


「向上努力の必要のない僕には分からないけれど、何が君をここまで鍛え上げるのか興味があるね。

……認めよう。君は僕が戦うに値する。」

「(効いていない!障壁で防ぎ切られた!?)」
ボッ
「「!?」」


戦いが次の局面に移ろうかと言う時、二人が乗っていた石柱が跡形も無く消え去る。

それは二人が戦い始めた直後――と言っても十数秒だが――下に残された明日菜と刹那の成果だ。


「ネギの奴こっちにこんなんほっぽって、全くもう!」

「ふむ、我輩達では周囲に被害を出さずにアレを壊すのは少々厳しい。頼めるかね、お嬢さん?」

「ふふん、まっかせなさい!私が居れば大丈夫!」
ォオッ――!

松永に乗せられた様に、翼の剣――愁磨以外知らないが、名を"神剣 桜神楽"と言う――に咸卦法の力を

纏わせ、地球で会得し、魔法世界に来てから遂に習得した技を今までの鬱憤と共に放つ。


「舐めんじゃないわよ……!!『無極而太極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)』!!!」
ボキュッ!!
「おぉ……!見事。」


一振りでフェイトの出した石柱のうち半分を、真ん中程まで"消し飛ばす"。

驚くべきはその効果範囲で、横幅はオープンテラスのある広場とほぼ同等、高さは建物の約3倍。

約50m×20m以上にも及ぶ魔力消失攻撃。

その圧巻の光景に松永と周囲から感嘆の声が上がるが、まだ明日菜は手を休めない。


「やぁああっ!」
ドパァンッ! ボパパッ 
「す、スゴイ、明日菜さん!」

「いやぁ~ホンマに凄いですなぁ。」


フェイトがネギを認めたと同時、後ろから明日菜達・・・いや、刹那に声がかけられる。

松永の警戒にもかからずそれに引っかからなかった京都弁の少女。

一度しか戦った事が無いとは言え、その狂気は忘れられるものではない。


「うふふふ………この時が来るのを心待ちにしていましたわぁセンパイ♡」

「月詠!!」

「この数週間がどれ程長く感じられた事か……目の前に旨そうなお肉をぶら下げられてずっと『待て』

ですもん。もう………ずぅっとおあずけくろてて、ウチ…ウチ、もう…………我慢できひん。」


目端に涙を浮かべつつ、頬を赤らめ、息も絶え絶えな所を見れば何をしているのか勘違いしてしまいそうな

様子の月詠。・・・それが、自身の刀を舐め上げつつでなければ。

それを真正面に受けている刹那と明日菜は背筋に氷が走る。恐怖と言うより、嫌悪と言う感情で。


「明日菜さん、松永、行ってください。」

「でもっ!」

「武士の決闘を邪魔するものではないよ、お嬢さん。こちらは大丈夫だが、あちらの童の方が危険だ。」

「~~~~っ!すぐ戻って来るから、気を付けて!」


どちらを優先すべきか即座に理解した明日菜はネギの元へ走り、松永は影へ沈んで行く。

その間、刹那は月詠から目を離さず殺気を当てているのだが・・・当の月詠は何やら悦び、体をなめまかしく

くねらせ続けていた。


「センパイ、桜咲センパぁイ♡ウチを満足させてください。センパイが満足させてくれへんかったら……

ウチ、周りにいる木偶まで斬って舞いそうですぅ。」


刹那の事を"センパイ"と呼び続ける月詠は遂にその目までも闇の者と同等に昏く染め、ザワリと

空気を歪める。それに深呼吸一つ、刹那は魔刀を二本抜き、応える。


「安心しろ、月詠。」

「ほぇ?」

「……キッチリ、お前が満足するまで―――逝かせてやろう。」
バサッ!
「あ………ぁ♡」


右手に魔王刀"不動行光"を、左手に魔刀"十束"を握り、忌んでいた純白の翼をも広げ・・・奔った。


「京都神鳴流、翼族"白組"流、桜咲刹那――――参る!!!」
―――フッ
ギギィン! ギン!  ギキキキキン!

最速の移動法の一つ"縮地"を更に翼の推進力で底上げし、"翼族流"速度強化の『空神』に迫る速度で

斬りかかる。しかし、それを受けても月詠は恍惚とした表情を崩すどころか更に崩し、最早卑猥とでも

言うべきレベルに達している。その上、楽しそうに笑いながら刹那の剣戟を受け切る。


「うふふふふ、あはは……アハハハハハハハハハハハハ!!キャーーー!♡

一撃一撃が重ぉなりましたなぁセ・ン・パ・イ♡もう……もうウチぃーー!!」
ガギィィン! ギン キキキギィン!
「相変わらず五月蠅い女だ……!年頃ならもう少し恥じらいを持ったらどうだ!!」
ギンギギギン キィン! ガガガガガガガガギィィン!
「あぁん、そら無理ですぅ。もう我慢できひん言うたやないですか。だ・か・ら!!」
ォオオッ――

徐々に押されつつあった月詠だったが、目が黒く染まると剣と身体の端々から魔力よりも黒いモノ・・・

"魔素"が溢れ出て、限界と思われた速度が跳ね上がり、剣も重く鋭くなる。

魔力とは即ち魔の素である"魔素"を世界に満ちる"大源(オド)"が吸収・浄化し生成されるモノだ。

元のまま使えば還元分、強力な"力"だが、そもそもが人体に悪影響しか起こさないこれを使えるのは人外か

若しくは余程の異端者のみだ。


ゴギィン!
「ぐ……!!貴様、その魔素は……!?」

「あらぁ流石センパイですわぁ。これを初見で魔力と見分けるなんて、そう簡単な事やないですよ。

ちょこーっとフェイトはんの主様に頼んだらくれはったんです。」


嗤いながらつけていたマフラーをずらすと、細く白い少女の首に禍々しい角ばった涙型の黒い塊――

魔龍の鱗が一枚埋め込まれていた。最上位の屍龍や黒竜しか持たない、その鋼よりも硬くしなやかなそれは

たった一枚で人間を人外のモノへと変化させる程の"毒"だ。


「(それをこいつは使いこなしている……!如何に狂人だろうが、人間でしかない筈なのに!)」

「悩んどる暇があるんですかぁ、センパイぃぃぃいいいい!!」
――ウォッ!!
「くっ!!」


しかし月詠は"魔素"を身体と刀に満たし、"愛"に似た何かを持って刹那に斬りかかる。

限界を悟った刹那は"翼族流"強化術の『空神(速度強化)』と『光皇(筋力強化)』を併用し立ち向かう。

そして、その先では――

Side out


Side ネギ

ザザァッ――
「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
トッ
「さぁ戦おう、ネギ君。その為に得た力なんだろう?」


石柱の上から落とされて空中で戦っていた僕らだったけど、フェイトの猛攻に耐えきれず下に落とされた。

しかもその先が浅いとは言え水場。あいつの魔法が得意とするフィールドな上、僕は水に足が浸かり、

対してあいつは水の上に立っている。

そのハンデ無しでも今までのどんな敵より強いのは分かっていた。集中しろ―――!!


「(以前より更に多重化された曼荼羅障壁……。これで貫通重視の雷魔法でも防がれていたのか。
フッ
人間技じゃな)――!!」
ガゴッ!!

瞬間移動のような速度の跳び蹴りを防ぎ受け流して、後方へ態と弾かれる。

その先への高速移動からの八極拳以外の拳法も使った猛攻を受け流し、受け、距離を取る。

術式兵装と研鑽を積んで漸く、こいつの拳を受けられる。強い・・・・・でも!


「『雷の断頭(ディオネス・グローティネ)』!!」

「フッ。」
ガキキキキン!!

詠唱破棄して放った雷のギロチンは下の水を利用し巨大化した『氷の盾』に防がれるけど、十分だ。

前とは違う。あいつに防御させ、拳を当てる事も出来た。・・・戦える!!


「それだ。いいよネギ君。それでこそだ……!」
ガッ! ガガガガガ ガキィィン!!
「ふぅぅっ!!」
ガッ!

連打を受け、氷の刃を『劣化・断罪の刃』で受け、鍔競あう。くそっ、こっちはこんなに必死だって言うのに

あんな涼しい顔をして・・・!攻撃が効かないんじゃ、こうしててもいずれ魔力切れで――

ドクンッ
「……!?」
ズンッ!!
「フン……。」


闇の魔法(マギア・エレベア)』の反動で意識が飛びかけ、その隙をついたフェイトの攻撃が直撃する。

ダメージと弾き飛ばされた衝撃と、既に限界ギリギリだった術式兵装が完全に解けてしまった。

マズイ・・・!遅延している魔法もないし、体勢を・・・!


「どうしたんだい?立ちなよネギ君。失望させないでくれ、その程度ではない筈だろう?

全てはここからだ。この程度で終わるなんて……許さない。」
ヒュオッ

一瞬鬼気迫る何かを見せ、フェイトは動けない僕に氷の刃を振り下ろす。

手も無く、ここまでかと諦めたその時・・・空からいつもの声が聞こえて来た。


「どぉぉっせぇぇぇええええええええええええええええいい!!」
ズッドォーーーーン!!
「………やれやれ、君も随分洒落た真似をするね神楽坂明日菜。でも……無粋だよ。」
ガ――ズパッ!
「うっさいわね!こちとらお上品に構えてる奴は嫌いなのよ!!」


降って来た明日菜さんの剣をスルリと躱して、僕に振り下ろしていた刃を明日菜さんへ振るう。

それを明日菜さんが受けると、あんなに硬かった氷の刃はバターの様にドロリと斬れる。


「成程、普通の魔法では対処出来ないようだね・・・!」
ガッ!
「おぉっと!女の子にマジになるってぇのもどうよ、フェイト?」

「千の刃の……「行け、嬢ちゃん!!」

「はいっ!」


再度、逆の手に特殊な術式で編まれた氷の刃が現れ不可避の一撃が明日菜へ襲い掛かったけど、

今度は気合ジャンプで現れたラカンさんが掴んで、その背中からヒョコッと出て来た・・・のどかさん!?

の手には一冊の本と、人指し指には爪と羽をくっつけた様な魔法具。あれは、僕との仮契約品―――


「"我、汝の真名を問う!"」

「………君は。」
ボッ!
「……ッそいじゃあ俺らはここまでだ!あばよぉー!」


のどかさんの持った魔法具を一瞬にして察したのか、フェイトはさっきとは比べ物にならない本気の裏拳を

放つけど、何とか躱したラカンが再度気合ジャンプで戦場から即座に退場した。


「……逃げられるとで「【そこまでだ、フェイト。今すぐ帰還しろ。】」ッ、何故?計画を知られるよ。」

「【真なる所を知る訳でもないし、それでよい(・・・・・)。二度言わせるな。】」

「仕方ないね……。今日はここまでだ、ネギ君。僕らをあまり失望させないでくれ。」
トプン
「ま、まて……!」


逃げたラカンさん達をフェイトが追おうとした瞬間、空間を切り裂いて黒いローブを纏った何かが現れて

フェイトを止めた。背は多分170ちょっと。肩幅も異様に狭く、声からしても恐らく女性。

なん、だ、これは・・・?フェイトが言う事を聞いたって事は、まさかこいつがあの時言っていた

"主達"の一人・・・!?


「【まだだ、まだその時ではない。お前達は弱すぎる……。】」

「何言ってんのよ、あんたはぁ!!」
ブォッ――!
「だ、駄目だ明日菜さん!!」


その何かが去ろうと後ろを振り向いたと同時。明日菜さんが振り被った大上段を黒ローブに打ち下ろす。

これで防御するにしろ反撃してくるにしろ、能力上どちらかが傷ついてしまう。

もし相手が戦おうとするなら・・・何としてでも、明日菜さんだけは生きて帰らせ――


トッ
「【困ったものだ………あれ程初撃はコンパクトに行けと教えたのに。】」

「「な……!!?」」


しかし黒ローブは反撃も防御もしなかった。いや、一応防御はしている。

後ろを向いたまま指一本で明日菜さんの本気の一撃を止めているのだから。だけど・・・拙い!!

気や魔力による強化無しで真剣を受けるなんて、この細見でラカンさんと同等の近接戦闘能力!?

いや、そこじゃない。こいつ、今なんて言った?"教えたのに"?明日菜さんに剣を教えたと言ったのか?

そんなの、だって、まさか・・・!


――ズドォン!!
「ぐ……!!」

「ウフフフフ……!流石センパイ、伊達に"創造主"はんに稽古つけてもらってませんなぁ。

その上魔刀2本、鳥族の翼、"翼族"の奥義。今の私と打ち合える人間なんてそうおりまへんよ。」

「刹那さん!と、月詠……!?」

「あ、あららぁ?ひょっとして「【しょうの無い奴め………。】」あ、あはははは。創造主はんも

おりましたか……。その、いや、これは………そう!センパイへの愛が溢れて!」

「【………良い。先に帰っていろ。】」
パシュゥッ

見慣れた仕草で(・・・・・・・)頭を抱え、月詠をどこかへ転移させた黒ローブ。

・・・違う。尊大な言葉遣いをしていて声もちょっと変だけれど、もう、間違えようが無い。

コレはフェイトの言う"主"でも、ヴァナミスでもない。この、この人は―――


「【―――まだだと言ったろう。俺が相手をするのはまだ先だ。お前の答えを見つけてから来い。

待っているぞ……"最後の地"で。】」
バクッ
「ま、待ってくださ……!!」


好きな事だけ言って、"黒ローブ"は宙に空いた縦に開いた眼のような空間へ入り、それが閉じた後は

跡形も無く消えていた。

僕の、勘違いだろうか・・・・・違う、それはただの願望だ。僕は皆を向うの世界に帰す為に、あらゆる

物事に対して"最悪"を想定して動かなきゃだめだ。だから。もし、あの人達が敵なら・・・。


「…………………あれ!?フェイトの提案に乗っておけばよかった!?」

「はぁ!?今更何言ってんのよあんたは!」

「安心したのかは知りませんが、早く逃げましょう。警備兵が来てしまいます。」

「そ、そうですね。では僕が囮をしますから、二人は一緒に逃げてください。」


最悪を想定したら『絶対に無理』って結論が出ちゃったけど、うん、あくまで最悪だからね。

それよりも今は刹那さんの言う通り逃げないと。さっきの戦闘で認識阻害も解けちゃって周りの人達が

僕らが賞金首だって分かって騒ぎ出してるし。


「警備兵程度ならば大丈夫だと思いますが……お気をつけて。」

「はい、そちらも!」
ドゥッ!

二人が走り出すのと同時、僕は魔法の矢を使って派手に空を跳んで行き、適当に離れた所で長距離の

虚空瞬動で一気に離れる。・・・一気にいろんな事が起こりすぎてちょっと疲れたな。

これ以上何かあったら困る――と思った時、前方から騎士甲冑に身を包んだ2人組が飛んで来た。

くそっ、思った以上に警備の動きが遅かったみたいだ・・・!


「コレット、今度はあの闘技場の方で騒ぎとの通報です!」

「えぇっ!?さっきのカフェの騒ぎはどうしたのー!」

「そんな事私に言われても……む、何か来るです!障壁展開!」


飛んでた一人に勘付かれて、装備に備わっているんだろう同じ紋様の障壁が展開される。

仕方ない、先頭の人の脇をすり抜けて・・・って、あれ?あの声と、喋り方、どこかで?

バッ!
「「……!?」」


丁度虚空瞬動の移動が切れる一瞬、警備兵とすれ違い、目が合った。

兜の間から見えた顔は間違いなく・・・え、まさか・・・・夕映さん!?

タンッ!
「夕映さん!?夕映さんなんですか!?」

「ネッ……!~~~~~~~~っ!」


ちょっと追い越した所で再び虚空瞬動を使って、槍のような杖の上に着地してその顔を間近で見る。

ま、間違いない!今僕の事呼ぼうとしたし!よかった、無事だったんだ・・・・・。

ってあ、そうか!僕今追われてるんだから警備の夕映さんと知り合いじゃダメじゃないか!


「ユエ!そいつ賞金首の超凶悪犯だよ!可愛らしい外見に騙されちゃダメだヨ!

そこの少年、大人しく観念なさい!直ぐに応援も来るわ、抵抗は無駄だよ!」

「くっ……!」
ヒュオンッ!
「そこの賞金首!武器を捨てて投降なさい!」


夕映さんと一緒にいた人がリストから僕を発見して警戒を強め、更に言う通りすぐさま同じ格好の4人が

飛んで来た。くそっ、漸く夕映さんと合流出来たのに!

だけどオスティアに居る事も分かったし、仮契約カードの"念話"でも話せるか。


「(ネギ先生早く逃げるです!私を気絶させて囮に!)」

「(……っすみません!)」
バシンッ!
「ユエさんっ!?」


仕方なく夕映さんを弱めの『白き雷』で気絶させて下に降りる。雑踏に紛れてしまえばと思ったけれど、

上空に居る四人から魔法弾が何発も降り注いで、地面に当たっては結界が展開される。

警備兵が使う"捕縛用結界展開弾"。捕縛特化の障壁術式を20程重ねた代物で、僅かでも掠れば

A級魔法使いでも数秒は動きを止められる。けど今の僕は当たる事も無く、隠れ家代わりにしている

決闘場の地下に来られた。・・・のどかさん、無事かな。今はそれだけが気がかりだった。


Side out
 
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