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妖精の義兄妹のありきたりな日常

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きのこ狩り

ある日の昼下がり
タクヤとウェンディはとある山にきのこ狩りに来ていた。ハコベ山のような雪山ではなく、普通の雪山である。
秋になり山の木々は赤と黄色のグラデーションを輝かせていた。
「きれいだね、お兄ちゃん。」
「上ばっか見てないでちゃんと下見ろよー。」
ウェンディは紅葉に目を奪われているのに対し、タクヤは木の根元を隈無く見ていた。
正確にはきのこを探していたのだが。
「もう!少しは上も見てよ。紅葉がきれいだよー。」
ウェンディが強引にタクヤを紅葉に向けたが、興味無さそうに再びきのこを探しだした。
「オレたちは紅葉狩りに来たんじゃなくてきのこ狩りに来たんだっつーの。」
「それはそうだけど、本当にこんなきのこ生えてるの?」
ウェンディは一枚の紙をポケットから取り出した。
「いや、それを探すのが依頼だから。」
そうなのだ。今日、この山に来たのは単にきのこ狩りをしに来たのではない。
この山の持ち主から一年に一度だけ生えるという幻のきのこを探すという依頼を引き受けたからであった。
「ほかのきのこはそこら中に生えてるのにこれだけどこにもないよ。」
「まぁ、幻って言われてるぐらいだからな。簡単には見つからねぇよ。ほら!探した探した。」
「はーい。」
何故、二人がこんな依頼を引き受けたのかと言うと、今から4時間前に遡る…。

































朝、妖精の尻尾内にて
「これと言った仕事はないですね。」
「そうだなー。ファァッ…」
タクヤとエマは依頼板“リクエストボード”に佇み良い依頼がないか探していた。
「ほら、シャキッとしてください!」
「そんな事言われても朝は弱いってエマも知ってるだろう…?」
タクヤは朝から無理矢理エマに起こされ、前ほどから何度もあくびをしていた。
タクヤは普段なら昼過ぎまで寝ており、ギルドに来るのも昼過ぎになってしまうのだ。
なので、タクヤが朝からギルドにいるのは非常に珍しい事なのだ。
「これを期にちゃんと早寝早起きを心掛けてくださいね!」
「むーりー…。ファァッ…」
「おう!タクヤじゃねーか。」
後ろから名前を呼ばれたので振り返るとそこにはナツとハッピーがいた。
「あの寝坊助のタクヤが朝からいるなんて珍しいね。」
「余計なお世話だっつーの。」
「で、何やってんだ?」
「良い仕事がないか探してんだよ。これと言ったのが無いけどな。ファァッ」
タクヤは今日何度目とも言えないあくびをしながらナツとハッピーに説明した。
「だったら、これ行こーぜ!!報酬50万J!!」
ナツは依頼板から取った依頼書をタクヤに見せた。
「なになに…。『森で暴れてるバルカンの討伐』?…ん、ダメだな。」
「はぁ!?何でだよ!!」
「オレはポーリュシカのばあさんから魔力と体力は極力使うなって言われんだよ。まだ欠乏症気味だとよ。」
タクヤはナツの取った依頼書を元の位置に戻しながら説明した。
「そんなの気合でどーにかしろー!!!」
「気合じゃどーにもなんねーんだよ。ま、そういう訳だからほかのな。」
「じゃ、これだ。」
ナツはまた別の依頼書を取った。
「いや、だから!!!人の話聞いてたか!!?討伐系の仕事はダメだって言ってんだろうがーーーっ!!!!」
またしてもナツは討伐系の依頼書をタクヤに見せたためこっぴどく怒鳴られてしまった。
「ちぇー、ならルーシィ誘って行くかー。」
「そうだねー。家賃が払えないって言ってたもんねー。」
「多分ルーシィもやだって言うぞ。」
タクヤは依頼板にある依頼書を見ながらナツとハッピーに忠告した。
「あ、お兄ちゃん、エマ。」
そうしているとナツたちと入れ替わるようにウェンディとハッピーがやって来た。
「よう、おはよーウェンディ。」
「おはようございます。」
「おはよう。それにしてもお兄ちゃんが朝からいるなんて珍しいね。」
妹であるウェンディにも言われるのだからやはり余程の事である。
「エマ曰く早寝早起きだそうだ。ファァッ…」
「ところで、アンタたち。仕事は見つかったの?」
シャルルがタクヤとエマに質問した。
「それが良いのがないんですよー。討伐系はタクヤがダメだし。」
「ふーん…。それならこれなんか良いんじゃない?」
そう言ってシャルルは一番高い所にあった依頼書を翼を出して取りタクヤに渡した。
「えーと…『エアロ山で幻のきのこを採ってほしい。報酬は100万J』…。」
タクヤたちはしばらく手に取った依頼書を見て固まった。
「ひゃ、」
「「100万Jゥゥゥゥゥっ!!!?」」
驚いた事にキノコを取ってくるという仕事だけで報酬額が100万Jという破格の内容だったのだ。
「ひゃ、ひゃ、100万Jって、…マジか。」
「なんかインチキくさいね。」
「そ、そうですよね。キノコ取ってくるだけで100万は…。」
ウェンディとエマは体をガクガク震わせながら言った。
「でも、100万Jもあったらしばらくは仕事しなくてプライベートを満喫できるわよ。タクヤは療養できるしね。」
「それはそうだけど…。」
やはり、どこか胡散臭い依頼にウェンディは信用できない様子だ。
「ま、いんじゃねーか。これで。」
タクヤは深くは考えずにウェンディとエマに言った。
「でもお兄ちゃん…。」
「あ、それと依頼書には条件があって男女のペアで来るようにだって。」
「「え?」」
タクヤは再度依頼書を見直した。すると、左下に注意書で小さく男女ペアで来られたしとあった。
「私たちは女の子同士だからあんたたちだけで行ってきなさい。」
「ちょ、シャルル!!」
「そういう事なら仕方ねーか。じゃあ、さっさと準備して行こーぜ。」
タクヤはそう言ってあらかじめ持ってきていたリュックの中に食料やらなんやらを入れた。
「え、いや、ちょ、待ってよ!!」
「ん?どうしたんだ。」
ウェンディは顔を赤くして左を見たり、右を見たりと挙動不審になっていた。
「私、一回家に帰ってから準備するから…!!」
「なら、30分後にマグノリア駅集合な。」
「う、うん。」
そう言い残してタクヤはギルドを後にした。

ドキドキ ドキドキ

(「お、お兄ちゃんと二人きりで仕事なんて…ちょっとしたデートみたいで嬉しい…。」)
「あらあら。ウェンディ、タクヤと二人きりがそんなに嬉しいんですか?」
エマが下からニヤニヤしながらウェンディに言った。今のエマの顔はなんともおせっかいなおばさんのようだった。
「えっ!?いや、これはその…!!」
「そんな事よりすぐに準備しに帰らないと時間に間に合わないわよ。」
「あっ、じ、じゃあ、行ってくるね!!」

タッタッタッタッ

ウェンディも仕事の準備をしに家へと戻っていった。
「うふふ。分かりやすい反応ですねー。」
「あの子達には幸せになってもらいたいしね。」
小さくなったウェンディの後ろ姿を見送りながらエマとシャルルは微笑んでいた。














そして、30分後
マグノリア駅前にタクヤは佇んでいた。
「おせーなー。列車出ちまうぞ。」
「お兄ちゃーん!!」
タクヤが駅に取り付けられていた時計に目をやっているとき、前方から手を降っているウェンディが見えた。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「よし、じゃあ行くか。」
「はーい。」
タクヤとウェンディは駅の中に入り、エアロ山に行くために列車に乗り込んだ。
もちろんウェンディはタクヤにトロイアをかけてからだ。
「そういえば、これから行くエアロ山って今の時期は紅葉が綺麗なんだって。」
「へー、なら帰ったらエマに紅葉の天ぷらでも作ってもらうか!」
「もう!お兄ちゃんったら。」
列車の中でタクヤとウェンディは他愛もない話をしながら時間を過ごした。
「お兄ちゃん。体の方は大丈夫なの?」
「ん?あぁ、はあさんの薬が効いてんだろーな。この頃は調子がいいぜ。」
「良かったぁ。あの時はどうなるかとおもったよ。」
あの時とは先日、正規ギルドの連合軍で行われた作戦の事だ。
ニルヴァーナというニルビット族が残した魔法を巡って六魔将軍と闘ったのだ。
双方ともに熾烈を極め、ついにはニルヴァーナを止め六魔将軍を打ち砕いたのだ。
その時にタクヤが体力、魔力共に限界以上に使ってしまいさ数日間の魔力欠乏症にかかってしまったのだ。
まだその時のダメージが僅かばかり残っている。
「まぁ、あん時はマジで焦ったよ。」
「あんまり無理しちゃダメだよ?わかった。」
「あぁ。」

ピーンポーンパーポーン

『まもなくエウロ山駅~エウロ山駅~。』
「さて、じゃあ行きますかな。」
「うん!」
タクヤたちは駅を後にしてエウロ山に向かったのだった。





















そんなこんなで現在に戻るわけだが、依頼人がとにかく天然ボケしたおじいさんで、
二人には曖昧な情報を教えてすぐさまほかの仕事場へ向かっていってしまったのだ。
「ったく、あのじいさんいい加減だよなー。」
「もう少し情報があればいいんだけど、この写真だけじゃ…。」
二人とも愚痴をこぼしながらも必死に根元をくまなく探す。
「おっ!もしかしてこれなんじゃねーか?」
「写真と一緒だね。でも注意書きでよく似た毒キノコもあるって書いてある。」
「…なんかお決まりの展開だな。」
などとタクヤが言っているのに反応を示さずウェンディは一応そのきのこを採った。
「とりあえず毒キノコとかは一旦おいといてどんどん採っていこうよ。」
「それでいいのかー…?」
タクヤは渋々ウェンディの提案にのり片っ端からきのこを採っていった。























1時間後
「もうあたりにはないな。」
1時間のきのこ狩りの末、ざるいっぱいのきのこを採ることができた。
「でも、毒キノコだらけかもね…。」
「い、いや!!もっと前向きに考えようぜ!!これ全部依頼のきのこかもしれねぇ。」
タクヤはウェンディから立ち込める不安の風を取り払うかのように言った。
「とにかく、きのこを見比べようぜ!!」
「でも、どうやって?」
「……食べてみる、とか?」
「それは絶対にダメ!!」
「ですよねー…。」
ウェンディから当たり前の怒鳴り声が飛んできた。
「そうだ!匂いで毒があるかわかるんじゃないのか?試しにやってみよう。」
さっそくタクヤはざるの中にあるきのこを一つ一つ匂いを嗅いでいった。

クンクン クンクン

「どう?お兄ちゃん。」
ウェンディがタクヤに様子を聞いてみる。
「…ん?この二つのきのこだけほかのとは違う匂いがする。」
「もしかしてそれが幻のきのこ!?」
「まじか!!これで100万J!!!」
タクヤは幻のきのこを天にかざした。心なしかきのこが黄金に輝いている気がする。
「やったね!!お兄ちゃん。」
「よし!さっそくじいさんのトコに戻ろう。」
タクヤはざるの中にきのこを二つだけにしておじいさんの所に向かったのだった。























「…。」
「どうしたの?」
タクヤがざるのきのこを見つめているのを見てウェンディが聞いてみた。
「依頼には一本だけでいいって書いてたな…。」
「え、まさか…食べたいの?」
ウェンディは少々引き気味で聞いた。
「なんかこれ見てるとすげー腹が減って…。」

グゥゥゥゥ

そう言うとタクヤのお腹が唸りを上げた。
「えぇい!もう我慢できねぇ!!」
「あっ、ちょ…!!」

パクッ

タクヤはウェンディの制止を無視してきのこをかじりついた。

もぐもぐ もぐもぐ ごっくん

「……。」
「…お兄ちゃん?」
「ウェンディ…。」
タクヤはウェンディに詰め寄り始めた。
ウェンディも顔を赤くしながら後ずさりしていくが木に背中がぶつかり距離を詰められた。

ジー

「えっと…。」
これはこれで嬉しい展開だけどとウェンディはついつい考えてしまう。







「…好きだ。」








「え。」
一瞬の間をおいて、














「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
突然タクヤからの告白に頭の中がオーバーヒートを起こしてしまった。
「オレ、ずっと前からウェンディの事が好きだったんだ!!もうこの気持ちを抑える事なんてできねぇ!!!」

グイッ

タクヤはウェンディの肩を掴み徐々に顔を近づかせてきた。
「え、ちょ、ま、まだ心の準備が…!!!」
ウェンディも顔から湯気が出そうなほど顔を赤くしながらタクヤを押し退けようとする。
だが、腕に力が全く入らない。
「ウェンディ…。」
(「だ、ダメーーーー!!!!!」)
























パッカァーン




「え?」
突然、何かを弾いた音がした。その正体はおじいさんがタクヤを箒で叩いたものだった。

バタッ

「ったくのぅ。何発情しとるんじゃ、まったく。」
そこには依頼主であるおじいさんが立っていた。
「お、おじいさん。どうしてここに?」
「山に芝刈りに出てたんじゃよ。そしたらアンタらがいたから声をかけようとしたらこのありさまじゃ。
大方、毒きのこを食べたんじゃろ。」
「えっ、毒きのこ?」
ウェンディは数本匂いが違うきのこが依頼にあったものだろうと思っていた。
「だったら、さっき捨てたのは…。」
「おぉ!!あんな所に幻のきのこさあるじゃないか。」
おじいさんはタクヤたちが毒きのこだと思って捨てたきのこを見つけ大いに喜んだ。
「さすが妖精の尻尾の魔道士じゃなぁ!!こんなに見つけてきてくれるんなんて!!」
「はははっ、ははっ……ハァ。」
ウェンディはとてつもないほどの脱力感にしばらくは動けなかった。























「いやーありがとうな。これが依頼料じゃよ。」
「さんきゅ…。」
「じゃあ、またなんかあったら頼んじゃよ。」
「はい、お世話になりました…。」
二人はおじいさんと別れ山のふもとの駅に向かった。あれからタクヤの毒をウェンディが治癒し、
一晩おじいさんの家に泊まったのだ。

ヒュウゥゥゥ

秋の空に冷たい風が吹いた。
「…寒い。」
「…。」
予想以上に冷え込んできた。二人は薄着で来ていたためかなり体温が下がっていく。
そんなウェンディを見兼ねかねたのかタクヤはバックから何かを取り出した。

バフッ

「!!」
ウェンディの首元に水色の大きなマフラーが巻かれた。こんなものどうしたのかウェンディはタクヤに聞いた。
「じいさんが今日は冷えるだろうからって帰りに貰ったんだ。それでさっきよりはマシだろ。」
「でも、私がするには大きすぎるよ。」

バフッ

「えっ。」
ウェンディは残っていたマフラーをタクヤにも巻いた。二人で巻いたらちょうどいい長さになっている。
「…こうした方が暖いでしょ?」
「でも歩きづらくないか?」
「いいの!これで。」
ウェンディはタクヤにさらにくっついてそう言った。
「…ま、いいか。」
二人は紅葉で覆われた山道をゆっくりと歩いた。






















 
 

 
後書き
これ考えついたのが去年の秋が終わる頃だったような気がします。もう3月ですし…。
ま、いいか。時期なんてクソくらえじゃー!!!!
 
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