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ゾンビの世界は意外に余裕だった

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16話、閑話

 それから俺はB棟最上階にある教授達の秘密の花園に向かった。

 ここにはやたらと無駄なスペースがあるので、2Fの各研究室から資材の半分と完成率の高いアンドロイドを運び込んだ。

「キャリー。彼らの開発目的はなんだ?」

 2Fから六階の悪魔の研究室に連れてこられた可哀想なアンドロイド達がずらりと並んでいる。

 キャリーのデータベースで見た記憶のないタイプもかなり居る。まあ、あの時は戦闘アンドロイドのカタログをざっと見ただけだが……

 特に気になった鎧を纏ったノスタルジックな格好の巨体を脇に置き、俺はまずお揃いの軍服を着ている八体に言及する。

「戦車を動かすアンドロイドです。人口知能に戦車そのものを動かさせる研究を、中央軍事研究所でしていたのですが、その派生研究でアンドロイドに戦車を動かさせる研究を当研究所でしていました」

 簡単に言えば、戦車を動かす戦闘アンドロイドか。 アンドロイドはある程度なんでも作業できる。が、専門的に調整された人口知能の方がその分野で良い成績をもたらすのも確かだ。

 逆に言えば、汎用のS3を改良した戦闘アンドロイドとM-27戦闘ロボットのペアで代用できるということでもある。

 まあ、いくら問題点やら不必要な理由を上げても、アンドロイドの数が多いにこしたことはない。

 二時間後、戦車長一号二号と戦車兵一号から六号が稼働した。

 一応言っておくがこのシンプルかつエレガントなネーミングは、当研究所に限らずよく開発者に採用される。今回のネーミングも開発者の意向に敬意を払った結果だ。

 さらに俺は基本に忠実な設計の砲撃指揮型戦闘アンドロイドニ体を稼働させる。これもまあS3戦闘アンドロイドでも代用できるが、一応稼働させておく。

 勢いのついた俺は「6Fの悪魔の研究室に居たら穢れる」とか、「戦闘ロボットの方が楽だ効率的だ」と健全な独り言をつぶやきながら、隣のS3戦闘アンドロイドを次々に稼働させた。

「それにしても重武装大型戦闘アンドロイドなんか、本気で開発している奴がいたんだな」

 S3十六体を稼働させた後、俺は最初に目を付けて後回しにした三体の新型アンドロイドにようやく手をつける決心を固めた。

 この戦闘アンドロイドはやたらとでかい。身長ニメートル四十センチ、本体の体重三百五十キロ。さらに防弾仕様の本体に防弾仕様の鎧兜を着せて重くしている。

 それでもロケットランチャーや対戦車ミサイル発射器を担いでそれなりに動きまわれるらしい。ついでに大きな日本刀が腰に差しているように見えるが、おそらく疲れから来る幻覚だろう。

 まあ、戦闘アンドロイドの研究者なら誰もが一度は重武装タイプを考えて、費用対効果の壁に阻まれて挫折する。本気で作る奴は本当にまれだ。

「開発者は巨大軍需企業会長の孫か……金の使い方を知っていたな」

 こんな好き勝手な研究をしていた奴がいたなんて若干羨ましくなる。俺なんか戦闘アンドロイドの外見を女性にしようとしただけで、軍に却下されていたぐらいだ。

 俺はハンベー、マゴベー、ジロベー、という名の三体の重武装大型戦闘アンドロイドを稼働させる。もちろんこの名前を決めた制作者に敬意を払って俺も使うつもりだ。

 俺は自分の作った戦闘アンドロイドのレグロンをチラッと見た。

 たぶんレグロンは俺のネーミングセンスに感謝しているだろう。

 実際シンプルかつエレガントな一号機かレグロンのニ択で悩んだのだが、戦闘アンドロイドにハンベー、ジロベー、マゴベーなんて名前はあり得ない。

 それに末尾に『ベー』を入れることが重要なら、普通ヤジロベーを入れるべきだろう。

 俺はそんな不満を覚えつつ、稼働したアンドロイド達に武装を整えて地下駐車場に待機するよう命じた。

 まだ2Fから運んできた戦闘アンドロイドが十体ほど並んでいたが、いずれも未完成なので技術チームに完成させるよう伝える。

 ここまでの作業でもう外は暗くなってしまっていたが後悔はしていない。多少疲れたがやる気満々でさらにD棟に向かった。

 M-25戦闘ロボットは研究所に千体以上居て最大勢力を誇っている。だがいかんせんバッテリーが八百個しかないことが玉に瑕だ。

 M-25戦闘ロボットはバッテリーを最大五個搭載できるが、仮に一個に抑えたとしても八百体しか稼働させられない。

 しかも俺は最初の百体を稼働させた時に、気分でバッテリーを五個づつを搭載させた。つまり既に五百個のバッテリーを使ってしまった計算になる。

 もちろん、取り出すことは可能だ。

 俺は少し悩んでからバッテリーを五個使っているM-25を遠征用に定め、残っているバッテリー三百個で防御部隊のロボットを稼働させることにした。

 電気が通り、最低限の自家発電もできる研究所では、簡単にバッテリーの充電をできる。従って、ここを守る戦闘ロボットはバッテリーを五個も使う必要はない

 三個、いや二個でも十分だろう。そうなると、バッテリー二個搭載の研究所防衛特化型のM-25型戦闘ロボットが新たに百五十体配置できる。

 俺はいつもの護衛チームにバッテリーの設置を命じて、地味な作業を開始した。

 戦闘ロボットの稼働は日付の変わる前に終わった。
 
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