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統一されたが

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第六章

「凄いだろ」
「どれだけ乗ってるんだ、それで」
「もう十年、いやもっとか」
「それだけ乗ってるのか」
「兄貴は違うだろ」
「ベンツだよ」 
 カールは弟に正直に答えた。
「二年前に買い換えたよ」
「おいおい、それかよ」
「そうだ、安かったんでな」
「鉄の車だよな」
「ああ、紙じゃなくてな」
「あの車はな」
 口の端を歪めてだ、オスカーはそのでこぼこ道を今にも停まりそうな感じで走っているトラバントを指差しながらカールに話した。
「東ドイツの誇りだったんだよ」
「だった、か」
「ああ、だっただよ」
 あえて過去形で言ったオスカーだった。
「誰もが車を持てるってな」
「フォルクスワーゲンだったんだな」
「そうだったんだよ、けれどな」
「それはか」
「西の車は凄いな」
「その質はか」
「それにな」
 それに加えてだとだ、オスカーは久しぶりに再会した兄と東ベルリンの大戦前の姿をそのまま再現したかの様な街並みを進みつつ話すのだった。
「数だってな」
「ああ、そういえばな」
「全然違うだろ」
「正直に言わせてもらうとな」
 実際にだった、東ベルリンの街の車はだ。
 相当に少ない、それで言うのだった。
「西と比べるとな」
「どうしてもな」
「けれどなんだな」
「これでも東側だとな」
「一番よかったんだな」
「ああ、そうだよ」
 これでもという口調だった。
「東ドイツは東側の優等生だったんだよ」
「そうか」
「それがこれか。どうしたものだよ」
「これから統一するがな」
「兄貴、言っていいか?」
 シニカルな笑みから真剣な顔になってだ、彼は兄にこう言った。
「真面目な話でな」
「ああ、何だ?」
「統一だけれどな」
「そのことか」
「するんだよな」
「もう確実だな」
「そうだよな、それはいいことだよな」
 言葉は寂しげなものもあった。 
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