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早死に

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第一章

                    早死に
 稲垣新太郎は友人の中村仁にだ、恐怖している顔でこう言った。二人で居酒屋に入ってそこのカウンターで一緒に飲みながらだ。
「俺な、怖いんだよ」
「怖いって何が?」
 仁はその眼鏡をかけている顔を新太郎に向けて尋ねた。白めの細面の顔にそれがよく似合っている。目ははっきりとしていて京都のお菓子であるおたべに似た形だ。その目の上にに曲がった釘に似た形の眉があり天然パーマ気味の髪の左右と後ろを刈って上だけ伸ばしている。背は一八〇程あり結構な高さだ。
「また急に言うけれど」
「いやな、前に親父が死んだだろ」
「この前四十九日だったね」
 仁も葬式に出た、だからこのことは知っている。
「まだ四十五だったのにね」
「早死にだよな」
「四十五だとね」
 そう言ってもいいとだ、仁も答える。
「残念だけれどね」
「実は俺の家系な」
 日本酒をどんどん飲みつつだ、新太郎は言う。見れば痩せており顔は黒い。しかも飲みながら肉等脂っけの多いものを大量に食べている。
「早死にばかりなんだよ、親父の家系な」
「その亡くなられたお父さんの」
「ああ、そうだよ」
 それで、というのだ。
「怖いんだよ、俺もな」
「早死にするんじゃないかって」
「そうなんだよ、俺まだ二十だけれどな」
 大学生である、酒を飲んでもいい年齢ではある。
「親父が四十五で死んで祖父さんもな」
「お祖父さんも亡くなっておられるんだ」
「親父が就職してすぐに死んでるんだよ」
「年齢はお幾つで?」
「四十八でだよ」
 彼の祖父はその歳で、というのだ。
「死んだよ、癌でな」
「お父さんは脳梗塞だったね」
「ああ、それに叔父さん二人もな」
 その父の兄弟もだというのだ。
「四十代でだよ、どっちも」
「お亡くなりになってるんだ」
「何でもひい祖父さんもな」
 その人もだというのだ。
「五十前で死んだらしいし祖父さんの兄弟も」
「皆なんだ」
「早死になんだよ」
 そうなっているというのだ。
「だから俺もって思ってるんだよ」
「そうなんだね」
「怖いんだよ、正直」
 その早死にが、というのだ。
「どうもな」
「考え過ぎじゃないかな」
「だといいけれどな」
「ああ、そうだよ。というかね」
「というか?」
「早死にには原因があるんじゃないかな」
「そうか?」
 新太郎は飲み放題なのでだ、酒を飲み終えるとすぐにカウンターからまた酒を注文してから仁に応えた。
「それは」
「何も原因がなくて死ぬとかね」
「それはないよな」
「うん、だからね」
「絶対に訳があるか」
「代々早死にならね」
「じゃあ何だろうな」 
 コップの酒を一気飲みして言う新太郎だった。
「その原因は」
「それはよく調べてみよう」
「わかった、それじゃあな」
 こうしてだ、新太郎は仁の言葉を受けてそのうえで父の家系が代々早死にである原因を調べることにした。そのことを決めた居酒屋においてだ。  
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