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喪服の黒

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第四章

 実際に美也子はまだプロポーズされた、それは式に出ていた彼女の会社の人からもだった。彼女はそのことに困りきりだった。
 だがそれはだった、暫くすると。
 本当に終わった、美也子に声をかけてくる男、殆どはやもめだが中には所帯や彼女持ちの人も声をかけてきた。しかし。
 それが終わったのだ、そうしてだった。
 美也子はほっとした、それで今は笑顔で娘に言うのだった。
「本当に何で皆私に声をかけてきたのかしら」
「終わったでしょ、もう」
「ええ、侑里ちゃんの言う通りにね」
 実際にというのだ。
「よかったわ、困っていたから」
「結構色々な人にお声をかけられていたのね」
「そうなの、それがやっと終わったわ」
 彼女にしてはだ、よかったことである。
「ほっとしてるわ。けれどね」
「けれど?」
「お母さんこれまでもてたことなかったのよ」
 このことをだ、娘に言うのだった。今は二人で家のリビングでソファーに並んで座ってテレビを観ている。その中での言葉だ。
「それが急にだったわ」
「お母さんもてたことないの」
「お父さんと高校生の時に知り合ってね」
 侑里との父のこともここで話す。
「それからずっとお父さんと交際してね」
「結婚してだったの」
「ずっとお父さんだけだったのよ、お母さんと一緒にいたの」
「それが急にだったのね」
「そうなの、どうしてかしらね」
「お母さん綺麗だから」
 このことはだ、ここで出した侑里だった。テレビの画面からちらりと母の整った顔を見てそのうえでの言葉だ。
 自分と同じ顔だ、だが綺麗に歳を経たその顔を見て言うのだった。
「もてなかったのはお父さんがいたからよ」
「彼氏がいて人妻だったから」
「そう、それにお母さんいつも服地味だから」
 このことも言う、実際に美也子の露出は低い。スカートも長く胸も見せない。正直ファッションセンスはださい。
 髪型も地味だ、それでだったのだ。
「だからよ」
「誰からもお声がかけられなかったのね」
「そう。けれどね」
「けれど?」
「そこで違う服を着て皆が見たらね」
「違う服?」
「そう、その時はね」
 喪服のことは言わない、今も。
「違ったりするから」
「違う服って?」
 母にそれはわからなかった、それでテレビから娘の顔にその顔の向きを動かしてそのうえで言ったのだった。
「それって何なの?お母さんずっと普通の服よ」
「いや、それはね」
「それは?」
「わからないならいいから」100
 言おうとしたが止めた、考えが変わった。
 それでだ、こう言い換えたのだった。
「別に。大したことじゃないから」
「そうなの」
「ええ、じゃあね」
「それじゃあ?」
「もうお母さんに声をかけてくる人はいないから」
「安心していいのね」
「そう、特にね」
 こう言うのだった。
「それじゃあね」
「お母さん後はね」
 ここでだ、母に完全に戻って言う美也子だった。笑顔はまさに母親のものだ。 
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