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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第8話 「白き剣」

 
前書き
無事免許証を取得できたGASHIです。いやぁ、長かった・・・。 

 
「・・・なあ、零。」
「言うな。分かってる。」

時は経って遂に決闘の日。会場である第三アリーナは大勢の見物人によって埋め尽くされていた。上級生までいるのがはっきり分かる。まあ、物珍しい男性操縦者の初陣だ、興味を抱くのも頷ける。一部の一夏や俺の存在を嫌悪する女子が笑い者にしてやろうという悪意を持って見物に来ているのもまあ良しとしよう。問題はそこではない。問題は・・・、

「・・・来ないな。」
「言うなと言ったろうが。」

そう、未だに一夏の専用機が届いていないということだ。束さん、大丈夫って言ってたはずなんだけどなぁ・・・。それに結局一夏の奴、剣道しかしてこなかったらしい。一応、基本制動の理論は俺が叩き込んだし、問題なければいいんだが・・・。

「織斑くん、織斑くん、織斑くん~!」

大声をあげてピットに駆け込んできたのは山田先生。相変わらず一つ一つの所作が子供っぽいな、この人。今にも転びそうな走り方してるし。

「山田先生、ストップ。落ち着いてください。はい深呼吸。」
「は、はい。すー、はー・・・。」
「はい、止めて。」
「うぷ。・・・ぷはあ!ま、まだですかぁ?」

顔を真っ赤にして本気で息を止める山田先生が面白かったのでついからかってしまった。俺が山田先生の反応を楽しんでいると脳天に出席簿が直撃した。おおう、強烈・・・。

「目上の者には敬意を払え、馬鹿者。」

えー、文句があるなら束さんに言ってくださいよー。俺、束さんにそんなこと習ってないですもん。いや、束さんがそんな教育すること自体あり得ませんけど。

「で、来たんですか?一夏の専用機。」
「あ、はいっ、来ましたよっ!織斑くんの専用機が!」

ピット搬入口が開き、現れたのは一面の『白』。かつての《白騎士》を想起させる、圧倒的なまでの『白』だった。一夏は何かに導かれるかのようにそのISに歩み寄った。

「これが・・・。」
「はい!これが織斑くんの専用機《白式》です!」

一夏はその純白のISに触れる。何かを感じているようだ。実に興味深い。《白式》の解析か、一夏の解剖か、迷うなぁ・・・。

「神裂、時間がない。至急初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を済ませろ。織斑、すぐに装着しろ。そうだ、背中を預けるように、座る感じで良い。」

千冬さんはテキパキと指示を出す。いや済ませろって、あと5分もないんですけど!?・・・仕方ない、可能な限りやるっきゃねえ。

「問題なく稼働しているようだな。一夏、気分は悪くないか?」
「大丈夫だよ、千冬姉。いける。」
「そうか。」

何処となくほっとしたような声。何だかんだでやっぱり良い姉弟だよな、この2人ってさ。思いやりが伝わってくる。・・・おい《白式》、もうちょっと言うこと聞け。終わらないだろうが。

「神裂、どうだ?」
「・・・ハイパーセンサーの稼働に問題なし。機体の状態はオールグリーンです。ただし、初期化、最適化は無理です。実戦で促すのが一番ですね。やれるな、一夏?」
「勿論いけるぜ。サンキュー、零。」

一夏はカタパルトに《白式》を固定すると、箒の方を向く。箒はというと、何を言っていいか分からないようで髪を弄りながら複雑な面持ちだ。

「箒。」
「な、何だ?」
「行ってくる。」
「・・・ああ、勝ってこい!」

この短い会話にこの2人の気持ちの全てが含まれているような気がした。俺にはきっとこんな会話出来ないんだろうなと心の中で苦笑しながら一夏が翔び立つのを見守っていた。さあ、期待してるぜ、一夏。




『あら、逃げずに来ましたのね。』

一夏とオルコットがアリーナの上空で対峙する。既に管制室に移動した俺はその様子を静かに見つめていた。汚れのない白と鮮やかな青がよく映える。・・・そういえばオルコットの専用機のスペックを確認していなかったな。どれどれ・・・。

『最後のチャンスをあげますわ。』
『チャンスって?』
『わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。今ここで謝ると言うのなら、許してあげないこともなくってよ?』

いちいち勘に触る言葉を聞き流しながら、《武神》のヘッドセットのみを部分展開して解析を始める。解析が終了し、求めていたデータが目の前に表示されるのにそう時間はかからなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ISネーム《ブルー・ティアーズ》
世代区分『第三世代』
戦闘タイプ『遠距離射撃型』
武装一覧
BTエネルギーライフル『スターライトmk-III』
近接ショートブレード『インターセプター』
BT兵器『ブルー・ティアーズ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(イギリスの第三世代、BT兵器の実験稼働機だな。BT兵器は操縦者の素質が色濃く反映される。どれ程のものか、少し興味はあるな。)

とはいえ今は一夏の方だ。アイツに戦闘のセンスがあるかどうか見極めなくちゃならん。それによって訓練メニューを組み立てて・・・、おっと《白式》の実戦データも採らないと。忙しいなぁ、もう。

『それはチャンスとは言わないな。』
『そう?それは残念ですわ。それなら・・・』

オルコットが長大な『スターライトmk-III』を構え、射撃体勢に移行する。一方、一夏は武器も展開していない。いや、単に忘れてるのだろう。

『お別れですわね!』

直後、一夏を野太い閃光が襲う。一夏は人間の反射行動のままに目を瞑って顔を手で覆い隠す。その結果、左肩にレーザーが直撃してしまった。

『うおっ!?』

レーザーに撃ち抜かれた衝撃と衝撃波(ソニック・ブーム)、更にはISの自動姿勢制御機能に振り回される一夏。ISには他にも操縦をサポートする便利な機能が色々搭載されているが、操縦に慣れていない一夏は上手く扱えないだろう。

『さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》の奏でる円舞曲(ワルツ)で!』

その言葉を皮切りに一夏をレーザーの嵐が襲う。一夏は必死に回避するが未だ武器も展開せず防戦一方、避けきれなかったレーザーによってじわじわとシールドエネルギーを削られていく。ジリ貧の典型だ。

(射撃の正確性は高い。だが、単調で何の芸もない。素人の一夏だからこそ苦戦しているが、少し実戦慣れした奴なら余裕を持って回避できそうだ。)

一夏も段々慣れてきたのか、徐々に動きが良くなっているのが分かる。流石は千冬さんの妹、戦闘のセンスはやはり受け継いでいるのだろう。

『わたくしと《ブルー・ティアーズ》を前にして初見でここまで耐えたのは初めてですわ。誉めて差し上げてよ。』
『そりゃどうも。』
『ですが、これで閉幕(フィナーレ)ですわ!』

オルコットは4機のビットを空に放った。多角的な機動と複数の方向からの同時射撃が一夏を襲う。一夏はいよいよ逃げ惑うがどこへ行ってもレーザーが追ってくる。ありゃ素人の一夏じゃ凌げないな。

(なかなか円滑に操作できてる。BT適性はAかAに近いBか。だが、さっきの狙撃と変わらず単調で教科書通りの射撃。偏向射撃(フレキシブル)は使わないのか使えないのか。何にせよ大したことないな。)

『装備、装備は・・・!?これだけか!?』

流石に回避だけでは負けると判断したのか、一夏が武器を探し始める。目の前に展開された画面に表示されたのは名称未設定の近接ブレード一本のみ。少なからず面食らった一夏だったが、状況が迷いを許さなかった。

『素手でやるよりはマシか!』

腹を括った一夏はその近接ブレードを展開(オープン)し、オルコットに向かって突っ込んでいく。

『遠距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうなど・・・、笑止ですわ!』

・・・さっきからちょくちょく発言がプロらしくないんだよなぁ、この女。さっきの初見云々は最近の代表候補生のレベルの低さを思わせるし、今回の発言も遠距離射撃型と近距離格闘型が互いに天敵同士だと理解していないようだし。確かに近づけさせなければ遠距離射撃型の方が圧倒的に有利だが、間合いさえ詰めれば近距離格闘型に敵う訳がないのだ。

『左足、いただきますわ!』
『させるかああああっ!』

オルコットがいよいよ一夏を仕留めにかかる。これ以上攻撃を受ければ《白式》は確実に絶対防御を発動し一夏の負けはほぼ決定するだろう。それだけは避けたい一夏は無理矢理加速してオルコットに接近すると『スターライトmk-III』に当て身をして銃口を逸らした。目に余る暴挙だが、なかなか面白い。

『うわっとっと。』
『なっ!?無茶苦茶しますわね!けれど、無駄な足掻きですわ!』

オルコットは距離をとった後、左手を微かに振る。直後、ビットが再び一夏を襲い出した。・・・うん?再び?

(待てよ?一夏は当て身をした後、機体を安定させるのに手間取ってその場からほとんど動けなかった。つまり隙だらけ。なのに、そのタイミングでビットは動かなかった。それにさっきの左手。まさか・・・。)

『分かったぜ!』

一夏も何かに気づいたらしい。目に見えて動きが変わった。まるでレーザーが来る方向が分かっているかのように縦横無尽に上空を飛び回り、更には手にした近接ブレードで1機のビットを真っ二つにしてみせた。

『なんですってっ!?』
『この兵器は毎回お前が命令しないと動かない!しかも、その時お前はそれ以外の攻撃ができない。制御に意識を集中させているからだ。そうだろ?』
『くっ・・・。』

そう、オルコットのビットの操作は不完全なのだ。ビットのコントロール中はそれに一点集中、しかも注意すれば腕の振りで命令の有無が判断できる。解析すれば何を命令したかも粗方読み取れるかもしれない。更にはビットの配置や軌道も必ず相手の反応が最も遅れる場所に限られている。意識さえすればビットの動きを完璧に予測することも可能だろう。現に一夏はそれを利用してビットを誘導し、ビットを次々と斬り伏せている。

「スゴいですね、織斑くん。ISを使うのが2度目だなんて思えません。」
「そうですね。正直驚いてますよ。代表候補生相手にここまで善戦するとは。」

一夏の試合を見て山田先生が驚嘆の声をあげる。これには俺も同意した。初見で明らかに格上の相手とここまで渡り合っているのだ。いくらひねくれ者の俺でもこれがどれだけ凄いことかは理解できる。

「あの馬鹿者、浮かれてるな。」

千冬さんが相変わらず冷静に口を開く。弟さんがこうも活躍してるんだから少しは喜んでやっても・・・、いや軽く口角が上がってるな。やっぱり嬉しいみたいだ。

「え?どうして分かるんです?」
「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あの癖が出ている時は、大抵簡単なミスをする。」

画面を見ると確かにそんな動作が見受けられる。箒も知っていたようで先程から心配そうな表情を浮かべている。流石は姉弟と幼馴染み、よく一夏を理解している。

「へえ~、流石はご姉弟ですね~。そんな細かいことまで分かるなんて。」
「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな。」
「あ、照れてるんですか~?照れてるんですね~?」

からかう山田先生に千冬さんがヘッドロックが炸裂する。山田先生、俺が言えなかったことを平然と言うとは・・・、度を越えた天然ですね。少し考えればこうなることは分かり切ってたでしょうに。

「いたたたたたっ!!」
「私はからかわれるのが嫌いだ。」
「はっ、はい!分かりました!分かりましたから!早く離し・・・あうううっ!」

俺は先程から騒がしい大人2人から視線を外し、箒に目を向ける。彼女は教師たちとは対照的にただ黙って一心不乱に試合の様子を見つめている。その目は一夏のみを映し、その表情は心配を物語るかのように険しい。まったく、大人組にも少しは箒の態度を見習ってほしいものだ。

「そこの教師2人、じゃれあってないで静かに観戦したらどうです?そろそろ決着がつきますよ。」

俺は千冬さんと山田先生を制しながら画面に視線を戻す。いよいよ試合は終盤に差し掛かっていた。



全てのビットを破壊し終えた一夏は満を持してオルコットに突っ込む。その顔には確信が窺える。『ブルー・ティアーズ』の制御に全力を注いでいたオルコットは射撃体勢を整えるのに多少時間がかかる。。この間合いでは『スターライトmk-III』を構えるのより一夏の斬撃が届く方が確実に早い。しかし、オルコットの表情は焦燥を感じさせなかった。

『・・・かかりましたわ。』

不敵な笑みを浮かべたオルコットの腰部、スカートアーマーの突起が動いた。本能的に危険を感じた一夏が急いで距離を取ろうとするが間に合わない。

『お生憎様、ティアーズは6機あってよ!』

そう、『ブルー・ティアーズ』の総数は6機。先程一夏が破壊したレーザー発射型のビット4機の他に、『弾道(ミサイル)型』の2機が残っていたのだ。《白式》を理解するのに時間を割いていた一夏は対戦するISの情報をよく確認していなかった。それ故の落ち度。目の前で放たれた誘導ミサイルを振り切れず、轟音と共に一夏は爆炎と光に包まれた。

「一夏っ!」

それを見た箒が思わず叫ぶ。山田先生も今までにないほど真剣な面持ちで煙に包まれた画面を注視している。俺と千冬さんも真剣な表情で画面を見つめていたがすぐに安堵の表情を浮かべた。

「ふん。機体に救われたな、馬鹿者が。」
「そんなドンピシャな調整した覚えないんだけどなぁ。運が良い奴。」

余裕の感じられる発言に怪訝な表情を浮かべる箒と山田先生だったが、すぐに理由が分かった。目の前の画面には変貌を遂げた白い鎧を纏った一夏が佇んでいた。

『これは・・・。』
『ま、まさか・・・、一次形態移行(ファーストシフト)!?あ、貴方、今まで初期設定だけの機体で戦っていたっていうの!?』

そう、俺が途中まで仕上げていた初期化と最適化、それに伴う一次形態移行が奇跡的なグッドタイミングで終了し、遂に《白式》が一夏の専用機になったのだ。

『これは・・・。』

一夏が武装を確認して驚愕を露にする。近接特化ブレード『雪片弐型』。太刀のように僅かに反りのある刀身、鎬の溝から漏れ出す光。そして何より一夏の興味を誘ったのはその名前だった。

『雪片って千冬姉の・・・。はは、俺は世界で最高の姉を持ったよ。』

『雪片』は現役時代千冬さんが使っていた愛機《暮桜》の唯一の装備。彼女はこの刀一本でモンド・グロッソを勝ち抜き、ブリュンヒルデの名を欲しいままにしたのだ。今それが弟に受け継がれ、更に洗練された形に生まれ変わった。

『俺も、俺の家族を守る。』
『は?貴方、何を言って・・・。』
『とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ。』

一夏の目には強い決心が窺える。世界一の姉を守る、か。正直実力が全く伴っていないし、いつもの俺なら躊躇わず鼻で笑っているだろう。しかし、今の一夏その戦いぶりを見て、その覚悟を垣間見た俺にそれを馬鹿にする気は一切起きなかった。これが織斑 一夏という人間か・・・。

「やっぱり面白いよ、お前は。」

俺はそう呟きながら決心を新たにした。俺は一夏と一夏が守りたいものを守る。あんな良い男、死なせてたまるかっての。

『貴方はさっきから何の話を・・・?ああもう、面倒ですわ!』

痺れを切らしたオルコットの命令で、一夏を再び2機のミサイルが襲う。多角的な高速機動を前に一夏に迷いはなかった。

(見える・・・。いける・・・!)

一夏は2機のミサイルの動きを見切り、横一閃に一刀両断する。慣性に従って一夏の横を通り過ぎ、後方で爆発したミサイルの衝撃よりも速く一夏はオルコットに突撃する。

『おおおおっ!』

一夏はオルコットの懐に飛び込み、逆袈裟に『雪片弐型』を振るう。その瞬間、アリーナにブザーが鳴り響いた。

『試合終了。勝者・・・』

勝負が、決着した。  
 

 
後書き
一夏vsセシリア、決着ですね。戦闘シーンは、まあ大目に見てください。初めてなのでちょっと変かもしれません。次話からいよいよ零の独壇場です。 
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