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面影

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第八章


第八章

「その日は。どうかしら」
「別に」
 つっけんどんに言葉を返す智哉であった。
「どうでもいいよ。とにかくいいんだね」
「だから。何度も言うけれど」
 にこにことしたまま息子に言葉を返すのだった。
「私の料理が食べたいなんて見所のある娘、是非招待しないとね」
「わかったよ。じゃあそういうことでね」
「あちらにも伝えておいて」
 今度は純に自分の言葉を伝えるように智哉に告げた。
「是非共ってね。いいわね」
「わかったよ。じゃあね」
「ええ。土曜日のお昼ね」
 こうして時間まで決まった。そしてその土曜日まだ困った顔のままの智哉が駅前の本屋の前で純を待っていると。そこに赤とえんじ色の赤系統で揃えた純がやって来た。赤いパーカーに下はえんじ色のロングスカートだ。靴下も赤で靴まで赤だ。首にかけてあるカーディガンはピンクでやはり赤系統で統一させていた。その彼女がやって来たのであった。
「お待たせ」
「うん」
 まずはその純の格好を見たのであった。顔もよくメイクされているが見れば口紅まで赤だった。本当に赤系統で何もかもを統一させていた。
 あまりにも赤ばかりなのでつい。智哉は純に対して問うのであった。
「赤、そんなに好きだったっけ」
「そうよ、赤好きだから」
 相変わらずのにこりとした笑みで智哉に答えてきた。
「だからここぞっていう時はいつも赤で揃えるのよ」
「そうだったんだ」
「智哉君は別にこだわらないのね」
「まあそれはね」
 彼は青い上着に黒いズボンだ。これといって統一はされていない普通の格好である。
「それに今日は僕の家だし」
「だからなのね」
「純ちゃんだってそんなに気合入れる必要ないのに」
「それが甘いのよ」
 右手の親指をちっちっちっ、といった感じで動かして智哉に告げる。
「それがわかっていないのがね。まだまだ甘いわね」
「甘いんだ」
「彼氏のお母さんのところに行く」
 まずはこのことを言う。
「これだけでかなりの勝負なのよ」
「だからなんだ」
「そういうこと。わかったわね」
「まあそう言われると」
 ここでもやや純に強引に押される。
「そうなんだね」
「そういうことよ。じゃあ」
 こうして今回も純のペースで話が進む。
「いざ智哉君のお家へ」
「結局行くんだ」
「勿論」
 強引に純に押し切られて彼女を家に招くことになった。この段階でも迷っていたのだがそれは無駄なことだった。程なくして純を家に連れて行くと。まずは玄関まで迎えに来たお母さんの格好に絶句した。
「何だよその格好」
「おかしい?」
「おかしいも何も」
 玄関で純を横に立たせたまま抗議する。
「派手過ぎるだろ。真っ赤なんて」
「赤好きだから」
「理由になってないよ」
 見ればお母さんまで赤尽くしであった。スカーレッドの上着に紅のズボン、エプロンは鮮やかなピンクでありスリッパも真っ赤だ。何処までも赤系統で統一されていた。見ていて目がチカチカする程だ。
「大体何でここで赤なわけ?」
「決まってるでしょ。赤はお洒落な色なのよ」
「お洒落って」
 話を聞いていてデジャヴューを覚える智哉であった。
「話がわからないんだけれど」
「お客様が来られるじゃない。だから」
「お洒落したってこと?」
「そうよ。これでわかったわね」
「わかったって思う方がおかしいよ」
 うんざりとしたような口調で言葉を返してみせた。
「全く。何かって思えば」
「それで」
 お母さんの方で話を打ち切ってきて別の話題にしてきた。
「この娘なのね。あんたの横にいるこの娘が」
「はい、智哉君のガールフレンドです」
 純の方からにこにこと笑って名乗り出たのであった。
「純といいます。宜しく御願いします」
「純ちゃんね。いい娘ね」
「いい娘かなあ」
「だって服全部赤じゃない」
 お母さんが言うのはそこであった。今気付いたがお母さんも純も服を赤で統一しているのだ。おかげで目がかなり疲れてしまう。
「わかってるじゃない。お洒落が」
「そうですよね。赤ですよね」
 純もまたにこにこと笑ってお母さんの言葉に応える。
「お洒落する時は」
「そういうこと。あんたにしては珍しくいい娘を選んだこと」
「俺が責められるのかよ」
「当たり前でしょ。あんた何時でもセンス悪いんだから」
 ボロクソに言われる智哉であった。しかも自分の家の玄関でお母さんに。
「そのあんたがどうして。こんないい娘を選んだのよ」
「それはまあ」
「智哉君の方から声をかけてきたんですよ」
 またしても純がここぞというタイミングで述べる。
 
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