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ロード・オブ・白御前

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オーバーロード編
  第1話 ファーストコンタクト


 ベースキャンプからオフィスにいた凌馬に連絡が入った。

《被験者№2がインベスと異なる高エネルギー反応とコンタクトしました》

 耀子はいつも通り凌馬の近くにいたので、その報を共に聞くことができた。

「さて。待ち侘びた第一報だ。湊君、行ってくれるかい?」
「私でよろしいのですか?」
「もちろん。駆紋戒斗じゃ血気盛ん過ぎて戦闘データが取れるか怪しい。あ、何なら角居君も連れてっていいよ。慣らし運転にちょうどいい」
「畏まりましたわ。プロフェッサー凌馬」

 耀子はオフィスを出て行った。


 歩きながらスマートホンを操作し、電話をかける。

《はい、角居》
「湊よ。出かける用意をしてらっしゃい」

 着いた場所はロッカールーム。耀子はずらりと並ぶロッカーから自分のナンバープレートのものを開錠した。中にはゲネシスドライバーとピーチエナジーロックシード。もはや手になじんだそれらの武装を取り出す。

《了解。ヘルヘイムの森っすか》
「ええ。駆紋戒斗とオーバーロードが接触したらしいわ」
《分かりました。すぐラボ行きます》

 角居裕也は呑み込みが早くて助かる。

 耀子はスマートホンをポケットに戻し、ラボに向かうべくエレベーターを目指した。




 裕也がベースキャンプに着いてから、耀子は研究員に命じてチューリップホッパーを2機用意させた。裕也と、互いにドライバーとロックシード、それにチューリップホッパーを持って、彼女たちはベースキャンプを出発した。

 マリカとなった耀子、シャロームとなった裕也を乗せ、それぞれのチューリップホッパーが森を駆ける。

『レーダーの反応、この辺だったんすよね』

 小さな平地で停まり、シャロームは辺りを見回した。
 一見して仕事熱心な新社員だ。4月を過ぎたから特にそう錯覚してしまいそうになるほど、裕也はユグドラシルになじんでいる。

『――あなた、よく私たちの言うことを聞くわね。一度は実験体にされた身だっていうのに』

 シャロームが顔を上げた。表情はマスクのせいで見えないものの、いい顔はしていないだろう。

『恨んでない、って言ったら嘘ですよ。でもあんたたちが俺を人間に戻してくれたのも本当だから』
『恩返しってわけ』
『それもあるけど―― ! 耀子さんっ』

 シャロームに促され、マリカもレーダーを見た。
 アーマードライダーの反応一つ、インベスに似た高エネルギー体の反応一つ。戒斗とオーバーロードに違いない。

『急行する!』
『了解!』

 マリカとシャロームはそれぞれにチューリップホッパーのアクセルをかけた。




 マリカとシャロームが駆けつけたそこには、一方的に、弄ばれるように、紅いオーバーロードに嬲られるバロンがいた。

『耀子さん、援護射撃、頼む。あいつは俺が』
『お願い』

 マリカがソニックアローを番える。その軌道を避けてシャロームはバロンと紅いオーバーロードの戦いの場に走った。

 桃色のソニックアローが幾重にも異なる軌道で射られ、紅いオーバーロードをバロンから引き離す。
 その隙にシャロームはバロンに近づき、彼の腕を肩に回させた。

『もう充分だっ』
『まだだ!』
『こいつに勝つのは次でいいんだよ!』

 無理にバロンを引っ張って行った。それを追って紅いオーバーロードが来る――しかしそれを、桃色のソニックアローが形成した粒子の檻が阻んだ。

 シャロームはバロンを抱え、マリカと合流してからその場を離脱した。




 裕也が満身創痍の戒斗を適当な木の幹に凭れさせて座らせた。
 今は耀子も、裕也も戒斗も変身を解いている。戒斗の場合のみ、ダメージからの強制解除だが。

「まったく! あれだけの戦闘データが取れれば充分な成果だったのに。あなた、引き時ってものが分からないの?」
「奴らのことを調べて、っ、理解するのが目的だったんだろ――だったら」

 戒斗はおもむろに裕也に拳を振りかざした。裕也はそれを手の平で受け止め、顔をしかめた。

「俺には『こいつ』が一番分かりやすい!」
「お前な……」

 裕也は戒斗の拳を受け止めた手の平をぷらぷらと振った。それなりに効いたらしい。
 やる戒斗はもちろんだが、暴力を揮われて何も言わない裕也も裕也だ。

(今時の若い子って、みんなこうなのかしら。ほんっと疲れる)

 耀子は深く溜息をついた。凌馬の前では溜息を禁止されているので、その我慢分も含めて。

「……とにかく一度戻りましょう。あなた、投薬の時間もあるでしょ。そこの分からず屋を運んでちょうだい」
「はいよっと」

 裕也は再び、強引に戒斗の両腕を両肩に担ぎ、そこからおんぶの形に持って行った。戒斗は暴れたが、傷に響いたらしく、すぐ大人しくなった。

 ふと、裕也が顔を上げる。あらぬ方向を見つめている。

「どうかした?」
「いや、なんか……いえ、何でもないっす。行きましょう」

 耀子も密かに裕也の見ていた方向に視線を流したが、そこには何もいない。よって湊耀子は異常なしと判断し、戒斗を背負った裕也を先導して歩き出した。


 ――耀子は知らない。裕也が見つめた位置に、数瞬前まで翠のオーバーロードがいて、耀子たちを観察していたことなど。 
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