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噂話

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第一章


第一章

                     噂話
 ある高校の近くにある上坂公園には一つ噂がある。それは有り触れていると言えば有り触れているがそれでもある人達にとっては聞き捨てならない噂であった。
「そんな噂があったのか!?」
 そのある高校の生徒の一人である上西靖はその噂をクラスメイトから聞いて思わず驚きの声をあげた。目が細く鼻が透き通った感じで髪を少し茶色にした細い少年である。背は普通で可愛いと言えば可愛い顔をしている。
「ああ、知らなかったみたいだな」
「初耳だよ」
 詰襟の制服で身を包んだ身体を窓に寄せて友人に応える。目をくるくると動かさせていた。
「そんな話があったなんてな」
「噂は噂だけれどな」
 その友人は彼にこう述べた。あらかじめ断るかのように。
「そうらしいぜ」
「それ知ってる奴いるかな」
「いや、そんなに」
 彼は靖の問いに首を横に振って応える。靖はそれを聞いてその目をまばたきさせた。
「あまりいないのか」
「ああ、俺も昨日はじめて聞いた」
 また靖に述べる。
「そんな噂があることもな」
「ふうん、あまり知らないんだ」
 靖はそれを聞いて教室の天井を見上げた。そこを見ながら考える顔をしていた。
「あまりね」
「そうか、じゃあいいな」
「いいなって何がだ?」
「あっ、いや何も」
 友人に問われて顔を下にやって慌てて応える。目が白黒としていた。
「ただ気になってね」
「まあ噂だしな」
 彼は前以ってといった感じで靖に述べる。悪い話をしていないといった感じだがやや曖昧なのは噂でしかなかったからだろうか。首を少し右に傾けている。
「本当に」
「よし、だったら」
「だったら!?」
「あっ、何でもないから」
「怪しく思えてきたぞ」
 友人はいぶかしむ顔で彼に言葉を向けてきた。靖はそんな彼に対して目をかなり泳がせた。目を見ればかなり狼狽しているのがわかるが友人は特にこれといって言わなかった。
「随分な」
「そうかな」
「まあいいか。そういう噂があるんだ」
「わかったよ。じゃあ覚えておくよ」
 その言葉に応える。応えて頷いていた。
「面白そうだし」
「ただ、実際にやったって話は聞かないな」
 友人は少し考えてから言った。靖はそんな彼をじっと見ている。
「この噂だって最近みたいだからな」
「最近なんだ」
「ああ、実際のところどうなのかはわからないな」
 彼は目を左右に少し揺らしている。そのうえで靖に述べている。靖はそんな彼をじっと見ているが同時に何かを考えているといった感じの顔であった。
「それにあれだぜ」
「あれ?」
「こういう話って何処にでもあるよな」
 また靖に言うのだった。いささか保険めいた言葉に聞こえるのは気のせいであろうか。
「学園の七不思議とかと同じでな」
「まあ大体はそうだね」
 靖は彼の言葉に頷く。言われてみれば似ている。怪談にしろ噂話にしろ大体において根元は同じなのである。だから彼も頷いたのである。
 そのうえで話を聞いている。話す彼は靖の顔には気付いてはいなかった。
「やってみようっていう奴もいるかもな」
「そうだろうね」
 その言葉に頷く。頷いてからまた言う。
「こういう話は」
「御前はどうなんだよ」 
 彼は今度は靖に話を聞いてきた。特に目の表情を変えるわけではなくただ靖の話を聞いているだけであった。やはり彼の考えは読んではいなかった。
「やってみようとは思わないのか?」
「いや、別に」
 本心を隠して言う。しれっとした芝居であった。
「相手もいないし」
「そうだよな、まあやってみる状況ならばやってみたらいいさ」
「わかったよ、そういう状況ならね」
「ああ」
 そんなやり取りを教室でした。その時はそのままで終わった。しかし話はまだ続くのであった。
 学校が終わってからそこに行ってみる。見れば静かな場所でそんな話があるとはあまり思えないような、そうした場所である。靖はそこを見て思った。
「やってみようかな」
 教室ではああは言ったが実は思うところがあるのだ。それをしてみようと思った。それで実際に仕掛けるのであった。
 
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