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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  血継限界

 泥と土だらけになって汚れに汚れたカトナは、ぶるぶると犬のように頭を振り回して汚れを落とそうとしたが、流石にそれだけでは汚れが落ちないようだ。
 無理もない。つるはしで岩を掘り起こし、その破片を浴びているのだ。汚れもするし、落ちにくくもなるだろう。
 それがわかっていながらも、めんどくさいと内心で罵りつつ、サスケとサクラが修行していると聞いていた川へと顔を覗かせた。

 「カトナ!? なんでそんなに汚れてるのよ!?」

 どうやら、サクラしかいないらしいと首を振って辺りを確認したカトナは、ざぶりと体を川に沈めると、水面に立っているサクラを見て、言う。

 「左足のチャクラコントロールが、お粗末になってる。他は綺麗なのに」

 そういって誉めながらも、むむむとほほをふくらませ、目を細めて睨んだカトナに、サクラは眉間にシワを寄せた。

「え、嘘。うまく浮かべてると思ってたんだけど?」
「まぁ、そこが少し悪いだけで他には支障ないから…。でも、そのまま覚えてたら、悪いくせが、いっぱいつくよ。今のうちに直しとかないと、後々厄介…」

 そういうと、適当に水を流して起き上がり、すいすいと泳ぐと、いきなりサクラの右足を掴み、沈める。
 サクラは必死にカトナの両腕から逃げようと足にちからを籠めるが、しかし、カトナの生半可ではない握力に、すぐさま引っ張られる。

「ギャー!?」
「ほら、しっかりコントロールする」

 スパルタ教育だ。鬼教師だ。そう内心で罵ったサクラの声も知らず、カトナは手のひらにチャクラを集中させ、サクラの体内のチャクラ乱れを統一化させると、ふふっと笑う。

「こんなの、できるはず、ないでっ、しょお!?」
「出来るよ、サクラ。チャクラコントロールうまいから」
「え?」

 ぐぐっと何とか踏みとどまり、水面の上にたったサクラに、嬉しそうにほほを緩ませたカトナは、足を離して言う。

 「サクラは幻術か、医療忍術向きだろうね」

 カトナのチャクラで一度乱れを直したとはいえ、もうきちんとした形になっているそれに、教えがいがあると一人喜んだカトナの手が、足を撫でる。

「そっ、そうなの?」
「そう、だよ」

 へにゃりと柔らかな笑みを浮かべて、優しくそう言い切ったカトナは、サクラの体の中に流れるチャクラが一定に保たれているのを黙視し、よしと頷く。
 まだまだ上忍レベルには届かないが、最低限のチャクラコントロールは出来ている。これなら、考案したあのコントロール法も出来る筈だと確信し、カトナはサクラの両足を掴み、ずりずりと岸の方へ引っ張っていく。

「チャクラコントロール、もうちょっとレベルあげてみようよ」
「え、でもカカシ先生に水面で練習してろって…」
「そこまでやれたら、こっちの方が効率よくなるよ」

 そういって、無理矢理川から陸へと引きずりだしたカトナは、近くをくるくると回って見回すと、お目当てのものを見つけたらしく、サクラの腕を引っ張り、お目当ての場所によって屈みこむ。
 それに倣うように屈みこんだサクラは、カトナの目的であるそれを目にする。

 「蟻塚?」

 そう、蟻塚。
 結構何処にでも有るような、平凡で普通なもの。なのに、何故、カトナが探していたのかが分からず、首をかしげたサクラの前で、カトナが、ありえないことをする。

「え?」

 信じられなくて瞬きを繰り返したサクラにつきつけるように、カトナはもう一度行う。

 「人差し指から、チャクラの糸、だして」

 彼女の言葉通りに、言われなければ気付かない…どころか言われても気付かないほど細い糸が、動き回っている蟻の触覚を貫く。

 「ツボをつく」

 カトナのチャクラの糸に触れた蟻が、いきなり青いチャクラを纏って、凄まじい早さで走り出す。
 それを見て、サクラは間違いないと確信する。
 チャクラで蟻のツボを押した。単純に考えたその結果に納得がいかず、サクラは首をふる。
 カトナはそのサクラの行為を違う意味と受け取ったらしく、ぽんぽんと頭をたたく。

「難しいなら、最初は蟻を仕留める練習でいいよ。うまく殺せるようになったら、次は部位の選定。頭から足に。大きいものから小さいものに変えていって、最後はツボって言う風に、レベルを上げればいいだけだから、慣れたら簡単」
「…ちなみに、サスケ君は何処までやれるの?」
「サスケは下手だから、ひとつきだけ。上忍レベルだからまぁ、いいんだけど…」

 そういって、新しく出てきた蟻の腹を青いチャクラが貫いた、かと思うと、また蟻が青いチャクラを帯びて、ぐるぐるとその場を回り出す。

 「ここまでにはまだまだ」

 辛口な評価だと思いつつ、サクラは出来るはずないと自分を否定して、カトナに訪ねる。

「…他に何か修行はないのかしら?」
「他? ……今の時期なら雨粒か、水滴かな?」

 そう言うと、カトナは川に近づき、近くにあった石を掴んで、勢いよく投げる。

 「跳ねさせて」

 石が川に投げられ、水が空にむかって跳ね、そして雨のように降った瞬間。

 「貫く」

 カトナから放出されたチャクラの糸が、降り注ぐ水滴すべてを貫き、それが霧のように散らばる。
 一瞬、白いものがカトナの体を取り巻いたが、すぐに風が吹いて元のように散っていく。
 ぽかんと、呆気にとられたサクラに気がつかず、のんびりとした様子で、水面を眺めて言う。

 「雨粒を、チャクラで、貫いたり、弾いたりする、のも、修行には適してる。けど、雨粒は、日によるし、第一、的が大きすぎる。小さかったら遅いし、要素が不十分」

 カトナが言うと、まるで簡単に思えるが、全然簡単ではない。
不規則に落ちてくる雨粒を、自分に当てないように、色んな方向からチャクラの糸を放出し、それで自分の体に触れる寸前で雨粒をチャクラの糸で貫く。
 蟻のツボを貫く修行と同レベルの難易度を誇るだろう。カトナはそんな修行をあっさりこなせる。それほど努力してきたのだろう。
 …なんでそんなに修行するんだろう。
 サクラはちらりとカトナを伺う。集中しきり、今日とれた鉄を刀に纏わせているカトナは全く気づかなかったが、サクラはどこか睨み付けるような視線で彼女を見る。

「どうしてそこまで…」
「忍びで、居たいから」

 強く、それでいて脆く、気高く、誇り高く、あのときから忘れられぬ、忘れがたき忍びのようになるために、カトナは努力を惜しまない。

 「それが理由だよ。努力する、理由だよ」


 『それ以上は要らないよ』


と、言い切り、カトナは刀を背負い、サクラを見る。サクラはうつむいて、あり塚から出てくる蟻をじぃっと見つめる。
 恥ずかしくて、死にそうだ。死にたくて死にたくて死にたくて、忍びを止めたくなってしまった。
 サクラが忍びになったのは親の期待で、別になりたくてなったわけじゃないのに、どうして頑張らなければいけないのと、いつも思っていた。
 でも、カトナにとっては、それが全てだったのだ。それほど、忍びを重んじているのだ。
 そんなカトナを前にしていたのに、なのに…、努力しようともしなかった自分が恥ずかしくて、苦しくて。
 
 人指し指から出たチャクラの糸は、カトナの糸よりも100倍太くて、なのに蟻すら貫けない。
 けれど、それでも。
 サスケくんのように強くなくても、いののように立てなくても、ナルトのように頑張れなくても、カトナのように覚悟が決めれなくても。
 それでも、それでも。



 「忍びでいよう」



 言い切って、人指し指からチャクラを伸ばす。
 もう日が暮れるというのに、張り切り出したサクラを見て、くすりと微笑んだカトナは、それを見て、自分も元気付けられるように洞窟へと歩き出した。

……

 ふと見つけた影に、ゆっくりと歩みより、か細い声をかけたカトナは、

「誰?」
「…君こそ誰だ」
「私? うずまきカトナ」

 あっさりとそういうと、カトナは少年を見つめる。
 少年はその言葉にどう答えるべきだと迷いながら、背中に自分の腕と武器を隠し、自分の名前を思い出す。

 …思い出すつもりはなかったのに、自分の名前を思い出して、同時に思い出す気のなかった、あのときの記憶が頭を叩いた。

 あの日、彼は、碌に自分に会いにすら来ず、自分を檻の中で閉じ込めるだけの男に、霧の里を襲えと命令され、霧の里から出てきた二人を襲った。
 そして、二人に完敗した。
 白にはぎりぎりの接戦で勝ったけれども、再不斬には負けてしまった。
 殺されるのだと、そう思ったのに、なのに二人は生かしてくれた。有用な道具になるからと、彼らは傍に居ることを許してくれた。彼等は生きることを許してくれた。
 その時初めて、彼は愛されている自分という存在があることを知った。檻の中に入れられて、誰にも触れさせないように閉じ込められて、戦闘兵器として戦う自分しかいないと思っていた彼には、とてもそれが衝撃的で、それ以上に、嬉しくてたまらなかった。
 子供であるながらも一族全員誰もが恐れ、逃げてしまうほどの強さを持った彼を、誰も見なかった。
 彼の強さは一族全員が抱えている戦闘本能ではなく、殺戮本能でもなく、何かを守ろうと思って発揮されていることなど、誰も見なかったのに、見ようとすらしなかったのに、彼等だけは振り向いて、そして両目を見開いて、その暖かい瞳で見てくれた。
 だから、少年にとって、彼らが生きる意味となってしまった。

 ぽつりと、少年が名前をこぼす。
 彼らが呼んでくれた、生きていいと言ってくれた『少年』の名前を言う。

 「僕の名前は、君麻呂…」

 けれど、そこで彼は戸惑うように言葉を詰まらせる。きっと、知られたくないことなんだろうと思いながらも、カトナは促すように頷く。
 それに安心したように、彼は息をつき、名前を告げた。

 「かぐや、君麻呂だ」

 カトナは知らない。
 君麻呂が再不斬の仲間であることを。
 君麻呂の生まれた一族『かぐや一族』が霧の里を襲撃し、唯一の生き残りが、今、目の前にいる少年であることを。
 まだ、幼く若いカトナは、知らなかった。
 
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