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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  試練

 カトナはタズナが別にこの任務を受け入れなくてもいいと言われたとき、その言葉のとおりに里に帰るつもりだった。彼女にとっては、人が何人死のうが生きようが、どうでもいい。彼女にとってはナルトが世界であり、その世界の中にサスケやサクラが存在している。ナルト以上の人間はおらず、ナルトが全てを構成している。
 ゆえに、彼女は帰るつもりだったけれど、タズナのあの言葉を聞いた瞬間、木の葉の里を馬鹿にされたと思って、頭が真っ白になった。

 『木の葉の里を恨んで生きていくだけじゃ』

 カトナにとって木の葉の里は、ナルトにとっての家であってほしい場所だ。いつの日か、ナルトが英雄になった時に受け入れてもらえる場所だ。
 その場所を不用意に貶されて馬鹿にされて傷付けられて、ナルトが英雄になった時に、その里の評判が悪かったならば、嫌だなと本能的に思った。
 だからこそ、怒った。
 それ以外の他意はない。
 木の葉の里を馬鹿にされても特にカトナには関係ないし、カトナには何の支障もない。
 サスケが傷つけられて怒ったのは、サスケがナルトのライバルだからでしかない。それだけでしかない。

 (それ以上は、望んじゃ、駄目だ)

 ぎゅっと、握りしめた短刀を、カトナは少しの間にらみつけた後、ふと顔を上げてカカシを見つめる。カカシは静かな瞳で辺りを見回すと、サスケ達に向けて人差し指と中指を二本、下に向けた、と同時に一気にその場を走り抜け、近くの大木に苦無を投げる。
 と、その大木から同時に苦無を弾くように、カトナと同じ大太刀に分類されるだろう刀が投げられる。

 「伏せる!」

 驚きに目を見開き固まったタズナの足を踏みつけ、頭を押さえつけて無理矢理しゃがませたカトナは、その大太刀を見る。自分のよりもはるかに太く、巨大。長さもカトナの大太刀の1,5倍はあるだろう。
 …もし手合せした時にあれを使われたら、この短刀じゃ太刀打ちできない。青い鞘にいれた短刀にチャクラを込め、すぐさま、大太刀に変換させると、カトナはふっと腰を深く沈め、意識を沈める。
 いつもよりも長く、細く。刀身どころか、柄をも長く。相手と打ち合えるほどに長く。それでいて硬さは失わず、脆くないそれを、イメージする。

 そんなカトナの浸りきった思考に気が付かず、目の前の敵に集中しきったカカシは、大木に突き刺さった大太刀の柄に立っている男を見て、舌を打った。

「…霧の抜け忍、桃地再不斬くんじゃないですかー」
「はっ、流石だなぁ、コピー忍者のはたけカカシ」

 親しげとはとてもいえず、憎み合っているようなそんな声色でお互いを呼びあったと同時に、カカシは額当てを上げ、再不斬は大太刀を大木から抜いたと思った瞬間、水の上に立ち、構える。
 そして同時に現れる赤い瞳に、再不斬はにやりと笑った。

 「写輪眼のカカシ…噂通りみてぇだな」

 写輪眼。うちは一族だけに伝わる瞳術。いわゆる血継限界というものである。幻術、体術、忍術、ありとあらゆる術を見抜くことが出来、それを跳ね返しすることが出来る。また同時に、この瞳の一番恐ろしいところは、相手が使った術をコピーできるという事だ。

 そんな目玉があることに、驚いたタズナを見つつ、三人は内心で舌を打った。何せ、あの瞳の所為で仕掛けた罠が悉く見破られてしまうのだ。まったく、仕掛けかいがない教師だと思いつつも、三人は、カカシが何か言う前に卍の陣をとる。
 カカシ相手に容赦なくトラップを仕掛けている三人だが、それは奇襲だからこそ、カカシに攻撃できるのであって、自分たちが絶対に上忍に勝てる力量を持っていないことを、彼らは知っている。
 ただ、いつでもフォローは入れるようにしておこうと、腰から背中に鞘を移動させた瞬間、再不斬の体が霧に消える。

 「霧がくれの術」

 その言葉が聞こえた瞬間、カトナの目がせわしなく動いたかと思うと、霧の中に紛れる直前だった再不斬の姿をわずかにだが捉え、そして細められる。

 「気をつけて。チャクラが変な動きかたしてる。別の術行使中、…大技じゃない」

 カトナのそのチャクラコントロールは卓越しており、ゆえに、術にどのくらいの量を消費するかを、印ではなく、チャクラの流れで見抜くことが出来る。が、それは今までの経験…白眼や写輪眼など、相手のチャクラを見抜く人間を相手にしてきたからこその洞察力であり、相手の姿が無いと確認することはできない。
 消える少し前に確認できてよかったと思いつつも、小さくそう言ったカトナの声を聞き、カカシはとっさに霧のなか、相手が使っている忍術をコピーする。

 「咽頭、脊柱、肺、肝臓、頸静脈に鎖骨下動脈、腎臓、心臓。どの急所がいい?」

 同時にたたきつけられる激しい殺気。
 内臓が締め付けられ、心臓の音がうるさくなり、脳がかきまわされ、体が鎖で縛られてるような、そんな感覚の中、のほほんとした二人の会話が響き渡る。

「俺は腎臓だな。片方かけても、もう片方があれば機能できる」
「でも、肝臓のほうが直すの楽」
「それは医療忍者からしたらだろう。痛さ的には腎臓の方が結構楽だぞ。ってか、眼球貫いて脳を殺した方が、最短じゃねぇか?」
「眼球は鍛えられない、最大の人間の急所。でも、相手は大太刀だから、そこだけは狙いにくい。脳を狙うなら、ぶった切る、頭ごと」
「けど、この状況で大太刀を振り回す馬鹿はいねぇだろ」
「確かに。サスケのいうこと、正しい」

 いや、お前等なんて会話してんの!? というか、それをしたら、居場所が把握されるんだが?! と内心で叫んだカカシは、サスケとカトナがじりじりと自分の方に近づき、サクラとタズナとの距離が離れていることに気が付く。しかも、絶妙に、二人の会話が響き渡っているせいで、サクラとタズナとの距離がわかりにくい。

 …音を頼りに人を殺す再不斬をかく乱させるため、会話をしているのか!!

 それを利用させてもらおうと、先ほどタズナが居た位置に、こっそり忍び寄ったカカシを黙視したカトナは、印を結んだあと、サスケの喉を撫でる。サスケはにやりと口角をあげると、この状況にそぐわない間延びした声を上げる。

 「安心しろ、サクラ」

 次の瞬間、サスケの喉だけが、カカシの喉に変化し、カカシの声が出る。部分変化の術とでもいうべきか、カトナのチャクラコントロールで、そこだけ部分的に変化させたのだと気が付いたカカシは、いきをのむ。
 カカシでも出来ないレベルのチャクラコントロール、プロフェッサーと言われた三代目火影でさえもできないだろう。
 そんな風に驚愕していたカカシの視線を受け止めていたサスケは、ふとにやりと笑うと、絶対に自分は言わない、というか、カカシだってあまり言いたくなくなるような、優しく甘い声で言った。

 「お前たちは俺が死んでも守ってやる。俺の仲間は、絶対に殺させやしないよ」

 サクラの顔が真っ赤になる。カカシの顔も真っ赤になる。
 唯一、カトナだけは再不斬の声に耳を澄ませ、そして聞く。

 「それはどうかな?」

 ―かかった!!

 二人の声を、そしてカカシの声を頼りに、タズナの前に現れたはずの再不斬は、いつの間にか、陣が変更されていることに気が付き、タズナが居る筈のその場所に、カカシが居ることを黙視する。

 「俺の生徒、悪知恵がよく働いてな!!」

 慌てて飛ぼうとした再不斬を当然逃がすはずがなく、カカシの苦無が再不斬の腹に突き刺さったと思った瞬間、カカシの後ろに再不斬が現れる。
 驚きに目を見開いたタズナが声を上げるよりも先に、カカシの体が真っ二つに切られた、と思った次の瞬間、切り終えた再不斬の首筋に苦無が当てられる。

 「おわりだ」

 そういったカカシに、再不斬が何か言おうとした瞬間、カトナが声を上げる。

 「終わってない!!」

 その言葉にカカシが反応するよりも先に、カカシの前の再不斬が溶け、背後から現れた再不斬に蹴飛ばされる。完全なる不意打ちに反応できなかったカカシは、せめてものあがきでまきびしをまき、水中に一時的に撤退する。
 しかし、それは失策だった。
 カカシが沈んだ水が固まりとなり、再不斬がにやりと笑う。

 「水遁、水牢の術」

 状況が絶望的になる。自分たちの味方であるカカシが捉えられ、タズナはひぃっと悲鳴を上げる。サクラの頭が冷静に判断を下す。逃げなければいけない、任務優先、はやくいかなければ。
 そう思いながらも、サクラの足は動かない、動けない。
 恐怖で動かない?

 ―いや、違う。

 彼女が動かなかったのはほかでもなく、

「先生、ださい」
「水遁使いの前で水に潜るか、普通」

 彼女の仲間が立ち上がったから。

 それだけで、彼女は湧き上がる恐怖を押し殺し、震える体を止まらせ、苦無を構える。

 「…二人とも、がんばって!」

 カトナはその応援の言葉に「当然」と言い放ち、サスケはひらひらと手を振りかえす。
 余裕綽々。
 目の前で、再不斬の水分身が作られる。
 けれどカトナは、サスケに軽い調子で話しかける。

「サスケ、水分身はあげるから、あの大太刀持ってる本物ほしい」
「…はっ、水分身一体と本気の彼奴じゃ、天秤があわないだろうが」

 その軽い言葉に、再不斬は少しだけ目を細める。再不斬の殺気に怯えていないわけではない、その証拠に、再不斬が真ん中にいたのに、反応が遅かった。あれはどう考えても殺気に体が竦んだからだろう。
 ならば、何故、彼らは今、自分に立ち向かおうとして来る…?
 疑問に首をかしげた再不斬を視界の端で見たカカシは、必死に声を上げる。

 「お前等! さっさといけ!! この任務はタズナさんを守ることだ! 俺なら大丈夫だから、いいからいっ」



 「仲間を見捨てる奴は屑だ」



 カカシの耳を、その言葉が貫く。
 カトナはまるでそれが当たり前の様に言い放った後、背中に背負っていた鞘を、再不斬の眼前に晒すように胸元に抱え、そして、抜く。
 銀色の刃が、鈍い光を浴びて、その場に降臨する。 
 カトナは大太刀をもちあげ、その切っ先を再不斬に突き付ける。

「じゃあ、先に水分身やった方が、あっちもやれるってことで」
「…言ってくれるなぁ、おい」

 再不斬の見下すような目が、興味を持ったような目に変わる。自分と同じ大太刀を扱う、まだ下忍の子供を、彼は興味深げに眺める。

「ガキが。いきがるなよ」
「子供の成長って速いんだぜ、おっさん」

 サスケが挑発し、その目が赤く光る。
 それを見た再不斬が、カカシの写輪眼と同じものであるという事に気が付くより先に、カトナの大太刀が無造作に、地面にたたきつけられる。
 がんっと、叩きつけられた大太刀の切っ先は地面に食い込み、そして、その衝撃は水分身の再不斬の元にまで亀裂を作り、一瞬だが動きを停止させた。

 「すたーと」

 その瞬間を見逃さず、彼らは飛び掛った。 
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