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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  演習

 「蹴落としあい? ずいぶんとまぁ、物騒なことをいうなぁ、先生様は」

 最初に言葉を出したのは、くつくつと、その面の下で笑みさえ浮かべているらしい湖面だった。
 湖面はいきなりそう切り出したカカシのもとに、気楽そうな様子で椅子から立ち上がり、向かっていこうとし、

 「で、蹴落としあいって今からか?」

 自分の横にいる、カトナの首に苦無を当てた。
 場の空気が、再びひきしめられ、ナルトとサスケから純度の高い殺気が、湖面にたたきつけられる。
 しかし、湖面はその殺気をまるでそよ風のように感じているのか、涼しい顔のまま、カトナに当てた苦無で、首をつんつんと付く。
 カトナと言えば、こちらはこちらで、いきなり突飛な行動をした湖面に対して、ナルトに攻撃したら容赦はしないと、少しばかりずれた覚悟を抱きつつ、湖面を見る。

「…私、から?」
「まぁ、それが今現在始まるっていうことになったらだけどな」

 その言葉に、ナルトがポケットに入れておいた苦無を握り、サスケがこっそりと印を組もうとしたのを見咎め、湖面はけらけらと笑いながら言う。

「近くにいたってのが理由だからよー、そう睨むんじゃねぇよ、お二方。俺は、別にこいつを殺したいんじゃないからな」
「そう、それならよかった。後ね、蹴落としあいって言っても、今からするわけじゃないからね」
「ちっ、なんだよ。仕掛けといて損した」

 そう軽い口調で言って、彼は持っていた苦無を懐に仕舞うと、元の場所に座り、興味なさげに、はぁ、とため息をつく。
 湖面。五歳児の頃、木の葉の里の火影邸の前に捨てられていた少年。それ以前の記憶はなく、里の間では他里のスパイではないかという噂から冷遇されていたが、三代目火影により、忍びになることを許された。その件からか、彼はあまり人に懐いておらず、唯一懐いているのが三代目だけらしい。
 いつも狐の面をつけており、外そうとしない。誰もその顔を見たことが無いらしく、見たことがある三代目いわく、醜い火傷の痕が残っているため、見せたがらないらしい。
 アカデミー内では、うずまきナルト、奈良シカマル、秋道チョウジ、犬塚キバ、そしてたまにうちはサスケを交えた五人で、「悪がき五人衆」として名をはせていたが、そのうえをいく問題児中の問題児。
 悪がき五人衆が、教師(サスケが混ざるときはカトナの扱いが酷い奴が多かった)をメインのターゲットとしていたのに対し、湖面は木の葉の里全員に対し、大規模ないたずらを仕掛けることがある。
 一番の悪戯と言えば、四代目火影の火影岩に「くそったれ!!」と描いた事件だろう。
 他の一代目、二代目には何も書かれておらず、三代目に至っては「最近、少しずつ疲れが溜まってきているから、五代目火影を新しく就任させて、安穏とした老後生活を送らせてあげたいのですが、みなさんいい案はありませんか?」ということをかいた紙を張り付けていたのに対し、四代目には、そりゃあもう、容赦がなかった。
 発見したイルカが彼に罰としてそれをぬぐわせようとしたが、その夜に季節外れの大雨が降り、どうやら水に溶けやすい素材を作っていたらしく、くそったれの文字が消えてしまった。
 どうやら天気予報を見て、悪戯する日を決定していたらしい。その大雨で絵の具が流れるのも計算のうちだった様。
 おかげで、彼に罰を与えられなかったという事件は、里中で有名である。
 問題児中の問題児。何故、火影はこんな問題児(コメン)と無表情KYな暗部(サイ)血縁関係問題児(サスケ)と変人ホイホイな似非人柱力(カトナ)とトラブルメーカー兼、人柱力(ナルト)常識人(サクラ)を混ぜ合わせてしまうのだと思いつつ、カカシは説明する。 

 「まず、カトナ・サクラ・サスケは俺と、ナルト・サイ・湖面はヤマトと、四人でサバイバル演習をしてもらう。この演習はクリアしたものだけを下忍と認める。、卒業生三十名中、下忍と認められるのはわずか十名。残り二十名はアカデミーへ戻される。脱落率六十六パーセントの超難関テストだ」
「十人!?」

ナルトが驚きに目を見開き、サスケは冷静にカカシのいったことを理解する。

「…随分とまぁ、減らされるな」
「サスケ君の言うとおりですよ!! 大体、それだったら、アカデミーで受けた試験は一体なんだったんですか!?」

 サスケの意見に賛同する形でそう反論したサクラにカカシが何か言うよりも先に、現在、この部屋の雰囲気を悪くした原因でもある湖面が笑い声を交えさせつつ、言う。

 「大方、アカデミー卒業の試験は、単純に下忍になる道があるかどうかを確かめるだけの試練だった、ってことか。まぁ、そうだよな、普通に考えれば、あんな簡単なテストで下忍になれたら、今頃、俺達忍は任務に飢えてるだろうしな」

 最後は少しばかりシビアな話であったが…、その湖面の意見に「そっ、そういうこと」と大きく頷いたカカシは、沈黙を保つ六班と七半の面々に笑みを向け、行った。

 「詳しいことはこの紙に書いてあるから、読んどけ。あっ、後、明日、朝食食べて来るなよ?」  

 わざとらしくそこで切り、カカシはマスク越しで見えないが、雰囲気から伝わってしまうほどに分かりやすい、満面の笑みを浮かべた。

 「吐くぞ?」 

 ぶちりと、ナルトは己の血管が切れる音を聞きながら、カカシに向かって指を突きだし、勢いよく怒鳴る。

「上等だってばよおお!! 朝食、きっちり食べてきてやるってば!! カトナの! お手製味噌ラーメン、朝から食べてきてやるってばよ!!」

「ここに居る皆で!!」
「え?」

 きょとんと、いきなり出されたその言葉にサクラは思考を停止させる。ここにいる、皆で? それはつまり…サスケ君と朝から一緒ってこと!?
 すぐさま、彼女の目がハートの形になり、賛成賛成!! とはしゃぐ。

「味噌ラーメンの、材料、ないよ?」
「買いに行けばいいだろ」
「そっか、セール、してた?」

 カトナとサスケは、ナルトの突然の発言にはなれたもので、食材のストックを確認していた。見るものが見れば、明らかに熟年夫婦のような、そんな雰囲気である。

「えー、まじでみんなで食べるのかよ。あっ、俺、みそラーメンならメンマ多めで頼む」

 文句を言いながらも、ちゃっかりと注文する湖面。どうやら、彼のお気に入りはメンマらしい。ナルトはメンマが苦手なので、あまり多くは入れないため、ストックがきれかけていた筈だ。買い足しておこう。
 そう考えていたカトナに、爽やかにサイは告げる。

「僕は味噌は苦手なので、しょうゆがいいですね」

 サスケは「吐くぞ」と宣言されているのに、ずいぶんとしっかりしたものを。

「俺はとんこつだな」
「じゃあ、私は醤油で」

 サクラはサクラで、流石に朝からこってりしたものを食べると太ると思ったのか。定番中の定番の醤油を頼む。
 もしも、彼らの親だとしたら、面倒くささからもう二度と繰りたくなるレベルのフリーダムさである。せめてまとめてくれれば、作るのは楽になるというのに…。ただ、作る本人であるカトナは全くそれを気にせず、確かめる。

「醤油二つ、みそ二つ、とんこつ一つ、塩ひとつ。…近くのスーパー、安売り…してた?」
「してるはずだぜ」
「ほんと?」
「ほら、あの火影岩の近くのスーパーだよ」
「ああ、あそこ」

 主婦も顔負けな会話を繰り広げる湖面とカトナに、ぎりぎりと、ナルトは嫉妬丸出しの顔で睨み付ける。自分の家族が自分が苦手な奴を褒めているのを見ている気分のようだ、その顔がすごいことになっている。
 というか、それを見ているカカシもカカシで結構内心凄い顔になっていた。何せ、自分が注意した矢先に、皆で食べる相談である。こいつら、俺のこと嫌いなのか。仲良く会話しやがって腹立たしい。
 そう思っているカカシの視線を感じながら、カトナは内心で考えた。

 ―明日の演習に、全員が合格する為の方法と、そしてカカシとヤマトに勝つための方法を。

・・・

 後、12時までの一時間しかない十一時五分。
 八時三十分に集合と言われていたのに、なのに、待たされて二時間三十五分。
 苦無を丁寧に研いでいたサスケ、その横で手裏剣を数えていたサクラ、大太刀を近くの木々にぶつけて、木をなぎ倒していたカトナは、ふと、こちらに向かって歩いてくる人影を見て、手を止める。
 その人物は飄々とした態度のまま、にこにことした笑みを浮かべていった。

「やー、諸君、おはようおはよう。ごめんごめん、大荷物を抱えたおばあちゃんが困ってて、助けてたらさー」
「嘘だな」
「嘘」
「嘘ですね」

 渾身の理由を、一斉に全否定されたカカシはちょっとだけしょんぼりとしながらも、持っていた目覚まし時計をセットして三人を見る。

 「じゃあ、これから、演習を始めようと思う」

「ここに鈴が二つある。これを俺から昼までに奪い取ることが課題だ。もし昼までに俺から鈴を奪えなかった奴は昼飯抜き! あの丸太に縛り付けた上で、目の前で俺が弁当食うから」
「すずを奪う、か」

 嫌な課題だと、サスケは舌を打った。
 何かを奪うのならば、スリすることも考えたのだが、鈴は音がなる。こっそりやるのもありだが、上忍に相手にするのだ。音が鳴ってしまうだろう。こっそり掏るなどといった手は考えない方がいい。
 真っ向勝負で挑み、隙をついて奪うが一番いいだろうと予測したサスケは、研いでいた苦無を持つ。
 やる気満々のサスケを見たカカシは、本調子そうで何よりだと、内心で皮肉を吐いた。
 本当はここで、朝ご飯を食べていなかった面々がお腹を空かせて、本調子が出せなくなり、カカシから鈴を奪うのが難しくなる…というのが、一番の理想だったのだが、悲しいことに、全員が昨日言った通りに食べてきたらしい。
 この様子ではヤマトの方も食べたのだろうと思い、可哀そうな後輩を内心で憐れみつつも

 「俺がスタートって言ったら、はじめろよ?」

 そういって、カカシが合図を送ろうとした瞬間、カトナはカカシの服を掴み、その場に引き留める。

「…確認、していい?」
「ああ、どんどんしろ」

 カトナはその台詞にほっとしたように息を吐いた後、カカシとその場で話をし始める。

「先生の、もってる鈴を、奪えばいい」
「ああ、俺の持ってるこの鈴を奪えばいい」

 ちりんちりんと、カカシの持っている二つの鈴が鳴る。平凡な、どこにでもあるような銀色の鈴。近くの店で買ったのだろうと見当をつけながら、カトナは、その鈴をじっくりと眺めた後、質問を重ねる。

「で、先生。鈴は二つだけ?」
「ああ、二つだけだ」
「じゃあ、先生」

 もう、起爆させたよ?

 と、カトナが言った。

 次の瞬間、サスケとサクラがその場から飛ぶ。

 二人のその行動に一瞬気を取られた隙に、じりじりという音が、カカシの耳に届く。
 起爆させた? 何を、起爆、させた…?
 危機感を感じ、バッと、カカシがその場から飛びのく。
 次の瞬間、カカシがいた地面のちょうど真下で、何かが起爆した。

 「スタートは、いらない、よね?」

 そういいながら、唯一その爆風をモロに浴びながらも、全く意に介さないまま、カトナは、ばんっと、先ほどから十歩下がったその場所の地面を、踏んだ。
 足に適量のチャクラを込めて、踏む。
 何の意味もないようなその行為は、地面の下に埋まっている起爆札を、着火、させた。

 「爆発、たーいむ!」

 バンバンバンバンバンバンバンバン、バンッと、一気に全てが爆発した。 
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