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絶望と人を喰らう者

作者:ルイス
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第四話 三

 
前書き
一ヶ月間更新できなくて申し訳ございませんでした。物語はもう少しで終わりを迎えるのでもし読まれている方がいらっしゃるならば、その時まで是非ともお付き合い下さい。よろしくお願いします! 

 
 日が明けて。
 アリスは意識が覚醒し、目を覚ました。 
 彼女はボーッとしながら、瞼をこすり、ベッドを左足から下りる。
 それから、リビングの方までゆっくりと歩いていると、部屋を出た先で既に起きていたナナシが彼女へ挨拶をした。

「おはよう、アリス」
「ナナシ、おはよー」
「アリスが寝ている間、外を偵察していたがこの辺り一帯は敵が居ないみたいだった。多分、一時の間はここで暮らせるかもしれない」

 彼はそう冷静に言うと、アリスは彼の顔を一度見て、それから俯いた。
 明らかに様子がおかしい彼女に、ナナシは訝しげに尋ねた。

「一体どうした? 何かあったのか?」
「いや…… えっと……」

 彼女はナナシに聞かれると、困ったように吃る。だが、アリスは意を決すると、本当の事をぽつぽつっと話した。

「ナナシとしずくちゃんのおはなし…… きのう、きいてたんだ」
「そうか、だが大丈夫だ。俺はお前を置いて行かないよ」
「うん…… そうだね…… ねぇ、ナナシ」
「何だ?」
「やっぱり…… いいや」

 アリスはそう言うと、彼に先程とは違う笑顔を見せると、

「おそとにおみずはある? かおをあらいたいな!」

 っと元気良く言った。


 アリスと一緒に外へ出ようと玄関を歩いていると、雫が偶然にもリビングからこちらへやってきて、二人の姿を確認すると「おはよう」っと言葉を掛ける。

「おはよう、しずくちゃん」
「うん、君達はもう外に出るのかい?」
「あぁ、アリスが顔を洗いたいらしいからな、近くにある古い井戸まで連れて行くつもりだ」
「古い井戸? そんなものがあったんだね、私も付いてきていいか? 飲み水を確保しておきたい」

 雫がそう話した時、ナナシは今更ながらにアリスの方へ顔を向けて、

「そういえばアリスは昨日ロクに何も食べて無いはずだ、大丈夫か?」

 っと心配そうに聞いた。 

「うーん、きのうはちょっとね…… たぶん、めのまえにたべものがあってもたべなかったとおもうよ……」

 アリスは苦笑しながら手をフルフルっと振り、無理だというアピールをする。
 まあ、確かに短い期間だったろうが親しい仲間の化け物になる姿や自分の父の成れの果て等を目の前で見てしまったから無理は仕方ないだろう。
 しかし、今日は少し無理でもある程度食べないとまだアリスは七歳ぐらいの子供。すぐに衰弱して死んでもおかしくない。

「ついでに食べ物も取ってこよう、動物の肉だと火が必要だろうな」
「あらかた過去の人間達に取り尽くされてるだろうが、まだ残っている未使用のマッチ箱とかライターが残っているかもね」
「探そう、ついでに死んだ人間の死体も見つけたら入念に探して必要そうになりそうな物は拾う。何かポーチかカバンでも欲しいな、手と衣服のポケットだけだとかさばりそうだ」

 彼はそう言うや、すぐにこの家の中にカバンが無いか、部屋を調べてタンス等を漁る。
 すると、小さな子供用の黄色いカバンなら見つける事が出来た。
 出来れば大人用が欲しいとは思ったが、これ以上何も無いと分かると、仕方なくそれを片手に二人の下へ戻る。

「こんなものしか無かった」
「まあ、無いよりマシだよ」
「もしよかったらありすがかばんをしょっていい? わたし、すこしでもおてつだいしたいな」

 ナナシはアリスの申し出にすぐ頷くと、彼女にカバンを渡す。
 カバンは丁度子供のアリスの身体にピッタリで、アリスの金髪と良く似た黄色のカバンは彼女にお似合いだ。
 ナナシはいつか彼女の着ているボロボロになった服を、新しく傷の少ない、更にカバンが似合うような洋服を着せてあげたいものだっと心の中で思う。

「それでは行こうか」

 彼はそう言うと、二人を連れて扉を開け、外の世界へと三人で出た。


 ナナシ達三人の居た家からほんの数百メートル離れた場所、廃墟が建ち並んでいるこの場所の真ん中にぽつんっと置かれている丸い形の井戸を発見する。

「私は小動物でも捕まえに行ってくるよ」
「一人で大丈夫なのか?」
「うん、任せてくれ」
「しずくちゃん、ほんとうにだいじょうぶなの?」
「心配は要らないよ、大丈夫、すぐ戻るから」

 雫はそうアリスに答えると、小さく手を振った後、別の場所へと歩いて行った。
 アリスより少し背が高いぐらいの彼女が、一人で小動物とは言え素手で狩りに出かけるというのはどう考えてもおかしい。
 多分、適合者と同じような能力を持っているのだろうが、ナナシは一応保険にと彼女へ拳銃を手渡した。

「これを使え、きっと役に立つかもしれん」
「まあ、遠くに居る動物を殺すのに使えるかもしれないね、ありがとう」

 それから少しして。
 ナナシとアリスは二人でロープを括りつけたバケツを使って地下水を汲み取っていく。
 汲み取った水をあらかじめ道中で手に入れたポリタンクに入れていると、アリスが「あの……」っと言って、ナナシに話しかけてきた。

「どうしたんだ?」
「じつは…… ナナシとしずくちゃんがわたしがねているときにおはなししているのをきいたけど…… その、やっぱりしずくちゃんはひとりでいっちゃうのかな?」
「……」
「とめることなんて、できないよね……」
「あぁ…… だろうな」

 彼が淡々とそう答えると、彼女は下を向いて俯く。
 ナナシとしても、結月達を失って傷心した彼女を癒す、アリスの友達になってくれるだろう雫が自ら間宮という危険人物の場所へ行く事をあまり良しとしていない。
 だが、雫は間宮の手によってティアティラの生存者達を自分と同じ化け物にさせないっという強い正義感を持っているみたいだから、多分だが説得は難しいだろう。

「うぅ、どうすればいいんだろ?」
「俺が彼女の代わりに行くっという方法があるのはあるが…… それをしたらアリスを長期間待たせてしまう可能性があるだろうな……」
「そ、それはぜったいだめ! ……あ!」

 彼女はナナシの提案を必死に拒否した時、何か頭の中でアイディアが降ったのだろうか、先程の不安そうな表情から一転して、顔を輝かせて彼に話した。

「ねぇ、それならわたしもつれてって! これならナナシとわかれないし、しずくちゃんともいっしょにいれるよ!」
「駄目だ、危険すぎる」
「そんなことないよ、ぜったいナナシのじゃまにならないようにかくれるから!」

 アリスは拳をギュッと握り、そう大きな声で訴えるもナナシは首を振って断る。

「アリス、今まで生き残れたのは正直奇跡でしかないんだ。街に入るだけなら人間が沢山居るし、きっと君を保護してくれるだろうが、きっと間宮…… 雫が倒そうとしている奴の下にお前も付いていこうとしているのだろ?」
「そ、そうだけど…… でも……」
「気持ちは分かるが、アリスを守る為なんだ」
「……」

 彼女は彼の言い分が分かり、ぐうの音も出ずに項垂れた。
 アリスは自分が弱く、何も出来ない守られるだけの存在だという事に今更気づき、その事により更に意気消沈する。
 そう、今までアリスはずっと守られてばかり居た。だから、自分が付いて来てもまた足でまといになって迷惑を掛けてしまう。そう思うと、「だからこそ、自分の力で少しでも力になりたい」なんて言葉は言えなかった。
 だが、ここで諦めてしまえばきっと、雫は死んでしまうだろう。たった一日か二日しか縁が無いとはいえ、友達になれるかもしれないアリスと同じくらい若い女の子が死ぬのは彼女は嫌だった。
 それに、死んでしまった結月や天羅のような悲しい結末にはしたくないからだ。

「何を項垂れてるんだい?」
「あ、雫ちゃん」

 彼女の声が聞こえ、そこへ顔を向けると、血まみれの姿でずたずたに引き裂かれた犬の死体を引き摺る雫の姿があった。
 何故か彼女の五本の指の爪が、まるでナイフのように鋭く伸びており、犬の血であろう赤い液体が付着していて、ぽとっぽとっと音を立てて地面に一滴ずつ落ちている。
 アリスはそんな彼女の姿を見て、一瞬ヒヤリとしたものを感じたがすぐに慣れて、彼女に今までナナシと自分が話をしていた顛末を細々と語った。

「そこまで想われる存在では無いがな、私は…… まあ、嬉しいけどね。 でも、化け物の私が君と友達になれる自信が無い」
「そんなことないよ、だって、いまでもふつうにおはなししてるし」
「言われてみればそうだが…… ところで、話を変えるが、君は良く悲鳴を上げないな。普通ならば泣き叫んでもおかしいかもしれないのに……」
「うん、だってナナシでなれちゃったから……って、あっ」
「彼で慣れた…… ? それは一体どういう事だい?」
「あー……」

 話している時に、アリスは言葉を滑らせて本当の事を言いそうになり、雫からその事について追求されて困惑する。
 ナナシはいずれ隠し事をしてもバレてしまうと考えていたから、いずれ本当の事を話すつもりでいたのでアリスの代わりに彼が真実を言った。

「済まないがお前に嘘を吐いていた事がある」
「嘘?」
「俺は本当は未来という男では無く、人間の皮を被った化け物なんだ。まあ、元が人間だったうえ、最近までは本当に記憶が無かったんだがな」
「君が化け物……? 適合者っという意味でなのかい? それとも…… 言葉、そのものの意味かい?」
「後者の方だ、今証拠を見せてやろう」

 彼はそう言うと、腕から刃みたいな物を生やすと、それで自分の身体を裂く。
 裂かれた身体から大量の血が噴水のように飛び出し、未来だった男の身体は崩れ落ち、その身体からナナシ本体が現れた。
 彼の本当の姿があらわになった瞬間、雫は手に持っていた犬の死骸を落として、目を見開いて震える声で聞いた。

「なっ…… 何だその姿は……?」
「これが本当の俺だ」
「では、お前は未来では無いっというわけか………… 君達の境遇を考えたらまあ、私を騙すのも無理は無いと思うよ」
「理解が早くて助かる」
「色々聞きたい事があるが、立ち話をし続けるのも億劫だから一度あの建物へ戻ろう」

 彼女はそう提案し、犬の死骸を再び持つ。
 ナナシは雫の言葉に同意し、アリスと一緒に汲んだ水の入っているポリタンクを口で咥えて持つと、アリスを背中に乗せた。
 すると、雫はその様子をじっと見て、それから

「狼に乗っているようで楽そうだな、私も乗っても良いかい? ちょっと私も疲れてね」

 っと、何故か頬を少し染めてからナナシに頼んだ。
 彼は無言で頷くと、彼女に「代わりに俺のポリタンクを持ってくれ、俺が犬の死体を持つ」っと言い、雫と持っている物を交換した。

「案外乗り心地が悪いな…… 固い」
「固くて悪かったな、一本足りとも毛が無いから諦めろ」
「なれたらあまりきにならなくなるよー」
「そうなのか?」
「……たぶん」
「君はまだ慣れてないのか」
「うん、でもあるくよりはずっとらくだからへいき!」
「まあ、それもそうだな」

 そんな感じの会話を二人はしながら、歩くナナシに揺られる。

 最初こそ雫は落ちそうになったが、やがて座るコツを掴んだのか、揺られたりしても態勢を崩すことが無くなった。

 それから再びあの家へと戻り、手に入れた戦利品を電気の入っていない冷蔵庫に大雑把に押し込めたあとポリタンクの水を使って、雫の血で汚れた手を洗った。
 まだ誰もお腹は減ってはおらず、リビングの机にある椅子に二人共座って、取り敢えず三人は休憩をする。
 最初こそ、誰も一言も喋らずに黙っていたが、数分後。雫が最初に言葉を発した。

「明日、私はあいつの下へ向かう。今はまだ奴と戦う事に決心出来ていないが、明日には必ず覚悟を決めるから」
「てっきり、既に覚悟を決めていたと思っていたが」
「あぁ、私は奴と戦う事を恐れている。不老不死の身だから死ぬ事も出来ないしね…… 捕まってその後に何をされるか分からないからな…… きっと奴の事だから以前よりも酷い実験やらを私に試すだろうね」
「だが、明日には行くのだろ?」
「当然、これ以上長引くときっと奴は周りの人間を一人ずつ化け物へ変えていくだろう。新人類っとかのたまってね」
「もし仮にだが…… お前の代わりに誰かが奴を止めに向かう場合、お前はここに残ってくれるか?」
「いいや、残らない。ありがたい申し出だけどね」

 彼女はそう微かに笑って首を振る。
 アリスは彼らの会話が分かっていなかったのか、不思議そうに首を傾げていた。

 それから数時間後。

 アリスが眠っている真夜中にナナシは身体を起こすと、彼女の方へ近づき、アリスが起きないような声量で彼は、

「すまないアリス、早速約束を破る事になりそうだ…… ずっとお前の傍に居てやるっと約束を二日前にしたのだがどうやら守れそうにない。だが、何があっても必ずお前の下へ戻るよ。必ず」

 ナナシはそう決意の篭った声でそう小さく眠っているアリスに向かって再び約束をすると、彼は一人で家へ出ようと玄関まで歩いた。

「お前は私まで置いていく気なのかい?」

 すると、雫が突然彼へ話しかけ、ナナシは歩みを止めた。

「すまないがアリスを頼む、俺もあいつには元々因縁があるからな」
「君も間宮にやられた被害者だったのだな…… だが、それとこれとは別だ。私も奴には恨みがあるんだ、だから行く」
「アリスを一人残すわけには行かない、それに…… お前はアリスと仲良くやっていたからな、このまま一緒にいてあげて欲しい。例え、人間では無くてもだ」
「君に勝てる見込みがあるのか?」
「お前も不老不死だと言っても死なない保証があるのか? 相手はお前のような奴を作った研究者だ。きっと、お前を殺す事が出来る何かを既に作ってある筈だ」
「……」
「本当の事を教えよう、俺は…… アリスの兄で、俺と彼女の父を殺したのが間宮だ。それに、俺を実験体にして適合者を作り出したのも奴。あの狂った研究者なんだ。しかも、まだ記憶を失っている時にあいつによって目の前で仲間を殺し、アリスを絶望と悲しみへ叩き込んだ。むしろ、俺はお前よりも腹が煮えくり返って、間宮を今にも喰い殺してやりたいぐらいなんだ……」

 彼は低く唸って、今まで自分の心の内で溜め込んでいた本音を彼女に聴かせる。
 雫は顔を伏せて、それから彼女はゆっくりと頷いた。

「……分かった、だが…… もしお前が次の日の出までに帰ってこあず、あいつが生きていれば私は躊躇わずに今度こそ、間宮と戦うからな? 復讐したいのならば必ず、奴を殺して帰ってこい」
「あぁ、その間アリスを頼んだぞ、雫」
「初めて私の名前を呼んでくれたね、悪い気はしない」

 ナナシが雫の前で名前で呼んだ事に、彼女は少し嬉しそうにそう微笑んで言うと、ナナシは頭を下げて、それから彼女へ背を向けて外の世界へと旅立ったのだった。 
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