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呪われたイコン

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第四章

「悪いこともしない」
「それで出て来るのは夜なのね」
「何時でも出られるけれどね」
 これはマリアの言葉だ。
「人が騒がない様に夜だけにしておくわ」
「それならね」
 ここまで話して聞いてだった、タチヤーナは断を下した。そのうえで夫に顔を向けて彼にこう言ったのだった。
「いいんじゃないかしら」
「家に置いておくんだな」
「確かに信じられないことだけれど」
 タチヤーナもまだこう言うのだった、マリアがイコンから出て来ていること自体には。だがそれでもいうのだった。
「お金もかからないし迷惑もかけないならね」
「家にいてもらってもいいか」
「ええ、それならね」
 夫に対して話す。
「それに泥棒が来た時も人がいれば大丈夫だし」
「実はサンボや柔道が得意よ」
 また笑って言ってきたマリアだった。
「日本に行っても投げて投げて投げまくれるわよ」
「何でマリア様が柔道をしているんだ」
「またおかしな話ね」
 夫婦はこのことにも訳のわからなさを感じた。
 だが、だ。ガードにもなると聞いてだった。
 タチヤーナは余計にだ、それならとなって夫に言った。
「じゃあいいわ」
「家にいてもらうか」
「ええ、そうしましょう」
 こうしてだった、イコンは家に置かれマリアはブロコヴィッチ家の居候となった。だがその次の日の仕事の後に。
 ブロコヴィッチは店に入った、そこで親父に思いきり顰めさせた顔でこう言ったのだった。
「おい、あのイコンな」
「出て来たな」
「何だよ、あれ」
「マリア様が出て来る呪いなんだよ」
「あれが呪いなんだな」
「驚いただろ」
「あんな呪いがあるのか」
 怒った調子でだ、彼は親父に問うた。
「幾ら何でもないだろ」
「わしにそう言われても困る」
 マリアがイコンから出て来ることはというのだ。
「実際にああして出て来るんだからな」
「訳のわからない話だな」
「そうだな、わしもそう思う」
「しかも随分明るいマリア様だな」
 聖母なのに聖なる雰囲気は全くない、実に砕けているからだ。
「幾ら何でもな」
「確かにそうだな、全然聖母らしくないな」
「悪いことはしないんだな」
「ああ、いい人だよ」
 このことは親父も保障した。
「部屋の中を掃除してくれたり家具を洗ったりしてな」
「いいことをしてくれるんだな」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ悪い呪いじゃないんだな」
「まあ大抵呪いは悪いものだけれどな」
 だがそれでもだというのだ、あのイコンの呪いは。
「また違うさ」
「そうなんだな」
「ただ、迷惑だろうな」
「ああ、最初は驚いたよ」
 彼にしてもだというのだ、ブロコヴィッチはこう親父に返した。
「まさかと思ったよ」
「そうした呪いもあるんだよ」
「そうなんだな」
「それでこれからどうするんだ?」
「どうするって悪い呪いじゃないからな」 
 それならとだ、ブロこヴィッチは親父に笑って言葉を返した。
「このまま家に置いておくさ」
「イコンをか」
「そうするさ。飯も食わないし酒も飲まない」
「風呂に入ることもないぞ」
「それで家事をしてくれるっていいだろ」
「それならか」
「ああ、ずっと家にいてもらうさ」
 こう余裕の笑顔で言う彼だった。
「いいものを買わせてもらったよ」
「騒がしいがいいか」
「そういえば結構騒がしい聖母さんだな」
 このことは否定出来なかった、明るいと言えば言葉はいいがどっちかと言うとそう言うべき聖母であると言える。 
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