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ツンデレ

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第六章


第六章

「言われないと。何か凄く無愛想で刺々しかったし」
「やっぱりなあ」
「そうなるか」
 二人はそれを聞いても驚かなかった。当然の成り行きだと思ったのだ。
「御前鈍感過ぎる」
「鈍感!?」
「そうだよ」
「あんまりにも酷いぞ、それは」
 二人はまた彼に言う。予想していたが今度は呆れたものも入った。
「あれで気付かないのはな」
「ちょっとな」
「ちょっとって」
 聡は二人の言葉に困った顔になる。彼は二人の言葉に戸惑いを増していた。
「何なんだろう」
「あの娘は最初から御前のことが好きだったんだよ」
「それでも素直に言えなかったんだよ」
「そうだったんだ」
 それを言われてはじめてわかった。驚きの顔がさらに大きくなった。
「素直じゃなかっただけだったんだ」
「すぐにわかったよなあ」
「なあ」
 二人にはわかっていたのだ。ところが聡はということだったのだ。
「だからなんだ。ああして僕にだけ」
「まあそういうことだ」
「けれどこれからは素直になってくれるだろうさ」
「だといいけれど」
 聡はそれには懐疑的だった。実はさっきもそうだったからだ。
「さっきも。何か」
「何か?」
「別にそんなつもりじゃないって言ってキスしてきたし」
「おいおい」
「どうやら筋金入りってわけか」
 二人はそれを聞いて今度は笑った。絵梨奈は彼等の予想以上だったのだ。
「それはまた」
「けれど。悪い気はしないだろ」
「まあね」
 聡はまた二人に答えた。
「僕が好きなのはわかったから」
「じゃあそれでいいんだよ」
「なあ」
 二人は笑顔で言い合う。
「誰も素直に言えるわけじゃないんだ」
「素直に言えなくてもな。心は別だったりするんだよ」
「そうか。そうだね」 
 聡は穏やかな笑顔になって頷く。そうして絵梨奈の心を受け止めたのだった。
 それから二人の交際がはじまった。やはり絵梨奈は相変わらずだった。
「はい、これ」
 テーマパークでのデート中だった。急に彼に四角い袋に包んだ箱を差し出してきた。
「これ。何?」
「余りものよ」
 目をカマボコにさせて言うのだった。
「昨日の夜の。余ったからあげる」
「あの、これって」
「受け取らないと許さないから」
 また素直でない言葉を出してきた。
「いいわね」
「うん。じゃあ」
「ここで食べましょ」
 こうも言う。
「ベンチに腰掛けてね。いいわね」
「わかったよ。それじゃあ」
「ええ」
 二人はすぐ側のベンチに座る。聡はすぐに袋からその四角い箱を取り出した。それは何とお弁当だった。
 中はサンドイッチだ。それとチキンナゲット。驚いたことに手作りである。
「これってさ。あの」
「だから余りものよ」
 聡から視線を逸らして言う。すぐ隣に寄り添うように座っているが視線は逸らしているのだ。そうした態度もどうにも素直でないものだった。
「食べていいから」
「うん」
 その言葉に頷いてからサンドイッチを手に取り口に入れる。すると。
「あっ」
 美味しいのだ。しかもかなり新鮮だ。とても昨夜の残りものなぞではないのがわかる。
 それを絵梨奈に言おうとする。ところが彼女が先を制してきた。
「美味しい?」
「う、うん」
「お母さんが作ってくれたのよ」
 さっきとは全然違う言葉だった。
「品物のお金出してくれて切るのとか作るの実際に横で見てくれえ。それで」
「それってつまり絵梨奈ちゃんが」
「教えてくれたのはお母さん」 
 あくまでそう主張する。
「私はいただけ。いいわね」
「そうなんだ」
「けれど。嬉しいわ」
 今度は視線を聡とは正反対の方にやってぽつりと言った。
「食べてくれて」
「だって。折角作ってもらったんだし」
 聡もそう答える。
「それだとね。やっぱり」
「食べてくれるのね」
「うん。それでよかったらさ」
 ここで彼は言った。
「また。作ってよね」
「え、ええ」
 その言葉を言われると顔を真っ赤にさせてきた。まるでさくらんぼの様に。
「お母さんに頼んでおくわ」
「御願いね。お母さんに」
「仕方ないわ。頼んであげる」
 照れ臭そうに言う。けれど二人共悪い気はしなかった。口には出さなくとも心は伝わっていたからだ。もうそれで充分だった。


ツンデレ   完


                    2007・9・7
 
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