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ツンデレ

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第四章


第四章

「だから。いいわよ」
「それじゃあ」
「俺達はどうする?」
「さあ」
 その横で二人はまた話をする。
「何かお邪魔虫みたいだけれど」
「それでも別にいていいんじゃないか?」
「そうかなあ」
「まあここで大人しくしていようぜ」
「そうするか」
 そんな話をしていた。二人は完全に話の蚊帳の外になっており主役は聡と絵梨奈であった。もっとも気付いているのは絵梨奈だけであるが。
「これがね」
「うん」
 半強制的に品物を見せられている聡だがその彼のところに絵梨奈が来て説明をする。そっと側に寄って彼の顔をじっと見上げている。品物は半分見ていない。
「値段も安くていいのよ。お買い得でしょ」
「そうだね。何か」
「あとこれ」
 説明を続ける。
「これもいいの。兎は好き」
「うん、好き」
「よかった。それじゃあね」
 話を続ける。完全に絵梨奈のペースでありそのまま進む。聡は彼女に言われるがまま店の中のものを見回っている。二人はその横で休んでいた。
 二時間程度店の中のものを見せられた後で店を出た。聡は買ったものを手に持ちながら何かぼんやりとした顔をしていた。祐樹と逸郎はその彼に声をかける。
「なあ」
「何?」
「どう思う?」
 二人はそう彼に問うた。
「どう思うって?」
「だから。あの店の娘のことだよ」
「何か変わった娘だね」
 二人の問いに対して聡の返答は実に的を外したものであった。あまりにも的を外していてわざとではないかとさえ思える程である。
「どうにもこうにも」
「御前、マジだよな」
「冗談じゃないよな」
「冗談!?」
 二人のその言葉にキョトンとした顔を見せてきた。
「何が?」
「マジかよ」
「気付いていないっていうのかよ」
「だから何がだよ」
 聡はそのキョトンとした顔のままで二人に言うのだった。
「変わった娘じゃない。それだけじゃ?」
「だからさ。よく見ろって」
「そうだよ」
 二人は聡のそんな態度に呆れながらも言う。夕暮れの道は赤い太陽の光に照らされどうにも鈍い感じがする。影が長く尾を引いていた。
「よくな」
「わかるからさ」
「じゃあもう一回行ってみようかな」
 二人に言われてふと言うのだった。
「それじゃあ」
「まあそうしたらいいさ」
「そうだな」
 二人は彼の今の言葉に頷いて述べた。
「けれどあれだぞ」
「あれ!?何が?」
「何が起きてもな」
「驚くんじゃないぞ」
 二人はそう忠告めいた言葉を出すのだった。
「いいな」
「わかったな」
「言葉の意味がよくわからないんだけれど」
 彼は首を傾げてこう言葉を返した。二人がどうしてそんなことを言うのかわかりかねていた。これも無理のないことであった。
「どういうことなの?」
「だからな。御前本当に気付いていないのか」
「あれに」
「悪いけれど何が何だか」
 答えは相変わらずであった。二人は聡のどうしようもない鈍感さに内心でこれまでにない深い溜息をついた。しかし心の中なので彼にはわからない。
「わかるさ」
「多分な。今度でな」
「今度って次にお店に行った時?」
「そうだよ」
「落ち着いて対処しろよ」
「よくわからないけれどわかったよ」
 こうした時にありがちな返答だった。聡は何が何なのかわからない顔を見せたままであった。これが二人のそれとは全然違っていた。
「じゃあ今度だよね」
「ああ」
「頑張れよ」
「うん」
 二人のその言葉に頷く。
「それじゃあ次に」
「ただしな。今度は俺達は行かないからな」
「それはわかってくれよ」
「何で?」
 二人の言葉にキョトンとした顔を見せる。
「三人で行けばいいじゃない」
「用事ができるんだよ」
「そういうことだ」
 二人はつっけんどんな言葉をぶしつけな顔で返した。その顔を見ると不機嫌なように見えるがどうもそうではないようである。
「わかったな。じゃあ一人で行けよ」
「わかったよ。それじゃあ」
 何が何なのかわからないまま二人に頷く。そうして暫く経ってから本当に一人で店に向かった。実は二人はそれを遠くから見ていたのだった。
「どうなるかな」
「さてな」
 彼等は離れた場所で聡が店に入るのを見ながら話をしていた。喫茶店でアイスティーを飲みながらだが紅茶はそっちのけであった。
 
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