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願い事が叶う前に

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第1話 プレゼントは願いの破壊!?

煌星(こうせい)祭?」
 私は学校の掲示板を見ながら呟いた。
 ロッカーのすぐ近くにある掲示板は、登校する時に嫌じゃなきゃ目につく。私はそこに立ち止まって、昨日貼られてなかった掲示物に目を通す。
「もうそんな季節ですか」
「わっ!」
 私の耳元で不意に声を出した人物、そんなことをするのは大体分かってる。
「……知っている人を見かけたらまずは挨拶するのが、人間の常識じゃないかしら?」
 私はうんざりする目で弟の杏舎を見た。
 空鳥(ソラチョウ) 杏舎(アンジャ)。私の弟。
 何にしても中途半端な私と違って成績優秀で魔法も抜群に上手い。それを学園長に見初められて、教師の会議に参加して一緒に議論する役職、『生徒協議員』の1人に抜擢された。校内でも3人しかいないんですって。まぁ凄い。
「挨拶は心がけていますよ」
 杏舎はエー玉のような四方八方対称そうな瞳で私を見つめた。
「知っている人に出会ったら挨拶。基本ですね」
「なによ?知らない人とでも言いたいの?」
 私は杏舎のからかいを睨みつけた。
「知らない……人?人?」
「人だわ!」
 私は声を荒らげた。
「私は人に決まってんでしょ!何?私が人じゃないなら弟のアンタはなんなの?人じゃないってことよね!?」
「お姉様は僕が生まれて間もない頃、橋の下でにゃあにゃあと……」
「鳴かないって!」
 私は嘘話をぶった切った。
「あれ?勘違いでしたか?」
 杏舎はキョトンと首を傾げた。杏舎はこういう三文芝居が無駄に上手い。
「あのねぇぇ、」
「あ、それとお姉様。1つ宜しいですか?」
 杏舎は人差し指をスラッと伸ばした。
「あぁもう何よ?」
「僕は、人間ですよね?」
「あぁもうえぇそうですよ人間じゃない私と違ってあなた様は立派な人間様で御座いますよーだ!」
 私はやけになって早口でまくしたてた。
「では、僕を見かけたら挨拶するのが常識なんじゃないですか?」
「……」
 一見正論の言葉を刺され私は黙った。それを見た杏舎は言葉を続ける。
「僕とあなたは互いに知り合っている。それに、僕は人間です。だったら挨拶するのが常識ってあなた仰いましたよね?だけど、お姉様は全く挨拶しなかった」
「あぁもう!分かった!おはよう!これでいい?」
「とても参考になる挨拶の仕方ですね」
 杏舎はニコニコしている。
「ど う も !」
「……おはようございます、お姉様」
 杏舎はゆっくりと目を開けながら余所行きの声を出した。
「この度は人間となられたことを、心より祝福致します」



「ってちょっと待った!」
 私は教室に着いた辺りで、煌星祭のことを思い出した。
「あいつに聞きゃよかった」
 と思ったら普通に教室に掲示されていた。
「なんだ、あいつなんてどうでもよかったじゃん」
 そう思うと無駄に疲れが襲って来るけど気にしない。
「えっと……」
 煌星祭はこの地域のお祭りで、みんなで『夢の跡』って所に行って騒ぐらしい。
 なんでもその日は術石が大量に降ってくるらしく、夢の跡でそれを見ると願い事が叶うらしい。
 それで、その日は煌星祭の中でも術石が特に多く降るらしい。
「『難病に侵された少年が病気の治癒とたい焼きを食べることを祈ったところ、両方叶ったところからこの場所を《夢の跡》と呼ぶようになりました』ねぇ」
 なんか今までは楽しく噂話やってきたのに発祥でいきなり宗教じみてきた。この祭り参加しても大丈夫でしょうね?変なのに勧誘されないわよね?
「胡散臭いな。見る価値も無い」
「……朝の挨拶は、おはようじゃないかしら?」
 いきなり全てをぶち壊しながら現れたのは、クラスメイトの居木実(イギミ) 苑倶(オング)
「おはよう。それで、そんな下らないモンジロジロ見て何が楽しいんだ?」
「とても参考になるぞっとする程絶対に頭痛のしそうな実に雑な挨拶ね」
 言ってて悲しくなってきた。やめよう。
「こんな子供騙しの企画、どうでもいい」
 良く言えば鋭い、悪く言えば人と友好的に接することが滅多に無さそうな排他的な目で居木実はサッと私を見る。
「どうせ、寂れた夢の跡周辺の金回りをよくする為の企画だろ?」
「でも、難病とたい焼きが同時に叶ったって、嘘ならそんな風にする?どっちかでいいじゃない」
 私だって胡散臭いと思ってるけどここまで言われると言い返したくなるのが人間ってもの。
「難病とたい焼き?なんだそれ」
「ある少年が難病の治療とたい焼きの両方を祈ったらどっちも叶ったの?ホントに何も見ないで言ってたのね」
「ふん」
 突き放すように居木実が鼻を鳴らすと、「あのー」というのんびりとした声がした。
「おはようございます」
 私達が振り向くと阿莉亜先輩がとても人間らしくペコンと頭を下げていた。
 青鵜木(アオウギ) 阿莉亜(アリア)先輩。3人しかいない『生徒協議員』の1人で、単純な術量なら勝てる人は校内でも数える程しかいないんだとか。

「お早う御座います」
 私もお辞儀をした。苑倶も軽く礼を返す。
「今日も、『雑術部』に頼みがあって来たの」
 阿莉亜先輩はふるりと微笑んだ。
 『雑術部』。日常の雑用からそれ以上のことまで幅広く行う部活。ちゃんと学校公認で、部費も降りてる。その代わり依頼人から代金は取らないことになってるけど。
「はい、なんですか?」
 それで、いつも職務でてんてこ舞いの『生徒協議員』からの依頼も少なくなかったりする。でもそのおかげで鍊城先輩にも会えたりするし、悪くはないかな。
「何かいいことあった?」
「ひゅお!?」
 阿莉亜先輩の突然の言葉の矢に私は素っ頓狂な声を上げた。……だからって小さく吹き出すな居木実。
「あー、なんかごめんね、幸せなこと考えてたように見えたから」
 阿莉亜先輩は頬を曲げて苦笑した。
「それで、頼みたいことっていうのは?」
 居木実が話を元に戻した。
「そうね、一応場所は変えましょうか」
 阿莉亜先輩は教室の外を見た。



「ねぇ、本当に勝ち目あるの?」
 学校を出る前に、私は重要なことを尋ねた。
 阿莉亜先輩からの説明が終わると、私と居木実は杏舎と3人で夢の跡に向かうことになった。
 依頼内容は簡単。限壊邪制(インフィニットエヴィルフォーサー)とか名乗るイタい人達がいて学校内外に迷惑をかけるので、先生の前に突き出して欲しい、と。うちの学校の生徒だしまだ重大な被害を出していないので警察に頼らずに解決したいらしい。
 それでその仕事が生徒協議員に回ってきたんだけど、
『……けど、学校終わったらすぐ私と鍊城君は福岡の学校の生徒協議員の人と意見交換しに大阪行くことになってるの』
『れ、鍊城先輩と「2人」で大阪に行くんですか?』
『うん。鍊城君と2人で「大阪」に行くんだよー』
 ……というわけで2人いなくなってしまったので、その穴を埋める為に私達『雑術部』が駆り出されたってわけ。他のメンバーも誘ったんだけどみんな煌星祭のことで忙しいって。
 それで、私は別にそこら辺の不良位なら杏舎1人で十分じゃないかって言ったんだけど、
「勝ち目はありますよ。彼らの魔法力はおそらく魔珠みたいなものに頼ったもの。それを使わせないか、それの効力が切れるまで逃げればいい」
 目撃情報によると、やつらは信じられない程莫大な術力を持っているらしい。それだけあるならスポーツのスカウトがかかりそうな位には。
「でも、魔珠じゃないんでしょ?」
 それだけの術力を出す魔珠なんて、金持ちがコレクションするレベル。だから、魔珠とは考えにくい。
「しかし、何かカラクリがあるのは確かでしょう。だったら、そのカラクリを起動させなければいい」
「簡単に言うわね」
「クリファトラピ語で言い直しましょうか?」
「却下」
 色々な確認や雑談を交わしている内に、蔓が壁を這っている寂れた城が見えた。
「……これ、やつらが作ったの?」
「土を魔法で構築していますね。この蔓も多分魔法で無理やり育てたんでしょう」
 屋根についてる風見鶏にカラスが停まってカァカァ鳴いている。……このカラスは外から来たんでしょうね?
 確かにこれは並大抵の術力じゃ出来ない。そして、これだけの術力でやることじゃない。
「成金趣味か。哀れだな」
 居木実と大体意見があった。明日は竜巻が起こるわね。
「さて、屋根に煙突がありましたね。そこから入りましょうか」
 魔法生物辺りに観察させていたのか、杏舎は上を向いた。
「煙突って……今時暖炉なんて使わないでしょ」
「サンタでも入ってくるんじゃないですか?」
 杏舎はそう言って魔法の詠唱をした。
「うわっ!」
 急に私の体が持ち上がり、全身がMの字に折れる。急に上下する視界の中居木実の方を見ると、居木実も同じ体勢になっている。
「あなた達には術量の消費を抑えてもらわなければならないですからね」
 こき使う気だ。絶対にそうだ。私はそう思いながらもこれを振り解くこともないと思って素直にお姫様だっこを受ける。
 空気に術力を与え身長1m程の人間にする、『33尺』という昔からある魔法。割と基礎的だけど、人を持てる程のものを3体作るのは簡単なことじゃない。
 33尺が跳躍すると、あっさりと屋根につく。そこでみんな降ろしてもらった。
「では2人で下の様子を見てきて下さい」
 杏舎は私と居木実に微笑みかけた。
「……って言って、突き落とす気じゃないでしょうね?」
 私は、洒落にならないことを笑顔でやる杏舎に疑惑の目を向ける。
「僕を、疑うんですか?」
 杏舎は怯えたような目で私を見上げた。
「疑う」
 私は断言した。
「全く、酷いですね。僕を信じられないなんて」
 杏舎は態とらしく顔をしかめてみせた。
「日頃の行いのせいじゃないかしら?」
「お姉様、これを期に改めて下さい」
「いや私のじゃなくて」
「おい、お前ら遊んでる場合じゃないぞ」
居木実が煙突からちょこんと顔を出した。
「仕方無いですね、僕も一緒に潜ります。そうすればある程度マシでしょう?」
「……」
 何もしないよりはマシなので、それで手を打つことにして、私達も煙突に潜ることにした。
 中は暗いけど凄く綺麗。そりゃ暖炉使ってないなら煤は出ないけど。
「中途半端な美学ね」
 私は呟いた。いや、貫けってわけじゃないけど。
 内側はつるつるの鉄なので魔法ではりついている。これの為の術量は流石に杏舎からもらうわけにはいかない。だけど、居木実は杏舎の魔法で張り付いている。だから、杏舎が落とそうと思えば好きな時に落とせる。
「……居木実、私の術力使いなよ」
 私は居木実に囁いた。
「お前の助けなんて借りん」
 居木実は突っ慳貪に返した。
「あっそ。杏舎に暇潰しに落とされても知ら……」
「うわぁぁぁ!」
 私がそう言ったか言わないかの内に、居木実は遊園地のアトラクションのように綺麗に落下していった。
「ちょっ!杏舎!」
「人のふり見て我がふり直せ」
 杏舎がそう囁いたのを合図にしたように、今までなんではりつけたのかって位綺麗に私は煙突から剥がされた。
「え!?」
 私は慌てて手と煙突を魔法で繋ごうとするけど、濡れてる物を接着するみたいにうまくいかない。
「杏舎!」
 私はその原因を怒鳴りつけた。
「はぁいお姉様、なんで……ょ……」
 腹立つ位呑気な杏舎の声が薄れていく。
 対策が無いわけじゃない。私は落ちていく中で必死に頭を巡らせた。
「っと!」
 私は魔法で浮いた。だけど、これは術量消費がかなりのものだから、次の策を練らないと……
「煙突の壁が無理なら……って、え!?」
 上から黒いものが大量に降ってくる。私は突然のことに反応できず、その勢いのなされるがまま落下していった。
 ボスッ
 煙突の底に落ちたけど、大量に敷き詰められた黒いもののおかげで大して痛くない。
「うぇっ、ぺっ」
 口の中にまで入ってきた黒いものを外へ払う。この粉っぽい感じと、多分杏舎のせいだということからすると、 
「んな美学いるか!」
 私は丸い空に向かって叫んだ。
「おい、誰か落ちたぞ」
 光がある方から、声変わりしたての少年の声がした。
 そちらを見ると、私より2,3才位年下に見える中学生位の少年が4人、じっと私を見つめていた。
「ここに落ちたか……。残念だが、我らのアジトに侵入した以上は、消えてもらう」
 これは……何か言い訳すれば抜けられそうな気がしてきた。
「……私は、限界邪制に入りたくてここに来ました」
「なんだと?」
 彼らの中で中くらいの体格の少年がずいと歩み寄ってきた。
「はい。あなた達の力を見た時、なんて素晴らしいんだろうと感動しました」
 私はゆっくり暖炉から出ながらはっきりを心がけてアピールした。
「ほう…、だが、俺達の秘密を知るということは、今後のお前の人生すべてを俺達に掌握させるってことになるが、それでもいいか?」
 彼は期待の眼差しで私を見た。
「はい、構いま……」
 ドサササササササ
 背後から何かが大量に降るような音がして振り返ると、黒い粉が一斉に降りかかってきた。
「っ!」
 急いで目を瞑って口を塞ぐ。
「あいつ……強引に突き落とすか普通?」
 黒煙の中から、聞き慣れた冷たい声。
「……随分、派手な登場ね」
「文句なら演出担当に言ってくれ」
 居木実は渋い顔をして体の煤(多分)を払った。
「誰だお前?ここに立ち入るならいかなる事情があっても死を覚悟してもらうぞ」
 さっきのボスっぽい少年が居木実を睨む。
「人を殺そうとするなら、どんな目に遭っても文句は言えないな」
 居木実は口元に小さく笑みを作った。
「……漆音(シトン)、こいつらを叩きのめしていいそうだ」
 私に向かって話しかけないで!
「なんだ?お前ら、知り合いか?」
 馬鹿!
「えええっと、誰かと見間違えたんじゃあ」
「暖炉で頭打っておかしくなったか?お前は漆音だろ?」
 あぁもう大馬鹿!変なとこで食い下がるな!
「くそっ!貴様らスパイか!」
 ボスっぽい子は後方に跳躍すると身構えた。
「スパイ?そんなことするまでもない。……俺に殺意を向けたことを後悔しろ」
 居木実も構える。
「ここが貴様らの最後の地だ!」
 ボスっぽい子の右手から、ひねりの無い術力弾が飛ばされる。
「ふんっぐおっ!」
 居木実が術力弾に拳を振るったけど、力負けして吹っ飛ばされて、煤の山の中に突っ込む。
「……」
 まずい。相当まずい。
 確かに居木実は魔法がロクに使えないうえにその代わりの拳力もまぁちょっと凄いくらいだけど、それでもあんなあっさり飛ばされるとは……
「次はお前だ」
 4人の目線が私を捉えた。 
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