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雪雨の中で

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第六章


第六章

「丈瑠の奴、一体何なのよ」
「ああ、山口君ね」
「そうよ。何だっていうのよ」
 ぶつぶつと言いながらその携帯のメールを見る。そこに書いてあったことは。
「ふうん、話ねえ」
「ああ、山口君も話がしたいんだ」
「時間は放課後ね」
 時間は同じだった。
「それに場所は商店街の入り口ね」
「あれっ、それも同じなんだ」
「何考えてるのかしら」
 優子はメールを見終わってから憮然とした顔になった。
「全く。同じ時間に同じ場所って」
「偶然かな」
「どうせ二人共たまたま会って相談してそこにしたんでしょ」
 優子はここでも鋭かった。
「そうに決まってるわ」
「そうかな」
「そうよ、絶対にね」
 自分のその直感には絶対の自信がある優子だった。確かに鋭いのは事実だ。
「ふうん、けれどいいわ」
「いいんだ」
「望むところよ」
 何故か半分喧嘩をするような調子であった。
「こっちもね」
「望むところって」
「さて、何を言ってくるのかしら」
 不敵な笑みを浮かべながら携帯をなおした。それから今度は炒飯を食べるのだった。
「期待しているから」
「期待ねえ」
「変なこと言ったらそれこそ」
 その炒飯を食べながら自分の左手を拳にして言うのだった。
「容赦しないからね」
「容赦って」
「叩き潰してやるわ」
 不敵な笑みのままの言葉は続く。
「その時はね」
「ふうん、伊藤さんも同じなんだ」
 隆博はそんな彼女を見て言う。
「仲直りしたいんだね、やっぱり」
「馬鹿言わないでよ」
 口ではそれを否定する優子だった。
「私はね、そもそもね」
「わかったよ。まあとにかく放課後ね」
「ええ、行くわよ」
 行かないという選択肢は最初からなかった。
「例え雨になってもね」
「雨ねえ」
 今の優子の言葉にふと暗い顔になる隆博だった。
「そういえば今日は午後から」
「天気が悪くなるの?」
「雨らしいよ」
 このことを彼女に話すのだった。
「どうやらね」
「嫌ね。雨なの」
 雨と聞いて如何にも嫌そうな顔になる優子だった。
「何が嫌ってそれが一番嫌なんだけれど」
「仕方ないじゃない。天気はどうしようもないよ」
「そうよね。まあいいわ」
 それはもういいとするのだった。さしもの優子も諦めるしかなかった。
「その時は傘を持ってね」
「行こうか」
「ええ」
 優子達も仲直りをしたいと思っていた。そうしてその放課後。それぞれその商店街の入り口に向かうのであった。
「雨ね」
「全く。天気予報の通りになるなんてな」
 敦子と丈瑠は二人一緒に商店街の入り口に向かっていた。雨の中傘をさしてそうして歩いている。
「折角なのにな」
「まあ仕方ないわね」
 敦子は少し溜息をついて丈瑠に答えた。
「雨はどうしても降るものだし」
「冬の雨か」
 また言う丈瑠だった。
「まあ雨が降らない季節っていうのもないし」
「そうよね。とにかく商店街の入り口まで行ってね」
「そこであいつと話しろよ」
「ええ」
 その言葉にこくりと頷いて答える敦子だった。
「わかってるわ」
「俺もな」
 そしてそれは彼も同じなのだった。
「それは」
「けれど菅生君」
 敦子は俯き加減で彼の名前を呟いた。
 
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