| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百七十九話 485年の捕虜交換

 
前書き
お待たせしました。かけたのでUPします。 

 
宇宙暦794年 帝国暦485年12月26日

■銀河帝国アルテナ星系イゼルローン要塞 

「全く困ったことですわ。此はオフレコですけど、帝国では上流の方々の我が儘やエゴでの出兵が多いもので軍としても壁癖しておりますわ」
「それは専制政治の悪癖ではないのですか」
「まあ、其方も総選挙や統合作戦本部長選挙の度にイゼルローンへ攻めかかる訳ですから、何ら変わりは無いようですけど」

目を見開いて驚く二人を見て気分を害したと判っているテレーゼは話題を変えた。

「ヤン准将はフェザーンに御友人が居るそうですわね」
ヤンは何故そんな事まで知っているのかとテレーゼを不気味に思う。
「何故それを?」

テレーゼは扇で口元を隠しながら、ニコリとしながらヤンの疑問に答える。
「先年以来、妾の所領たるローエングラム星系政府はヤン准将の幼少期の御友人であるボリス・コーネフ氏と長期契約を結んだんですのよ」
「ボリスと」

「ええ、コーネフ氏にはローエングラム星系で通商関係の仕事に就いて頂いているのですわ。今の肩書きはローエングラム大公国通商顧問ですわ」

ヤンしてみれば幼なじみの悪たれボリスが政府の仕事なんぞ出来るのかと考えたが、テレーゼが自分の事を良く知っているのは、ボリスが話したのか、奴はお喋りだなと考えてテレーゼに対する不気味さが多少は消えてきた。

「ヤン准将は歴史学者になるのが夢だったとか」
「ええ」

「それならば、帝国歴史アカデミーへ留学なさったら如何でしょうか?それとも帝国考古学学会常任理事なんかはどうかしら?オーディンに有る帝国古文書館や帝国公文書館には地球時代から銀河連邦時代を経て銀河帝国の集められた限りのありとあらゆる文書が眠っていますのよ。その中には、ゴールデンバウム朝の恥部まで有るのですから、卿のような歴史家には宝の山ではないのかしら?」

テレーゼの話に些か心が揺れるヤンであったが流石に自分の信念“最良の専制政治より最悪の民主政治が勝る”が有る為にやんわりと断る。
「そのお言葉だけにしておきます。自分は専制政治には馴染めませんので」

ヤンの失礼な言葉にも不快感を見せないテレーゼの方がよほど大人に見えるが、意趣返しなのか少々意地悪をする。

「あらそうなのかしら、卿ほど帝国貴族らしい生活態度の人間は居ないのですけどね」
「それはどう言う事ですか?」
「あら、、部屋は自分で片づけられずに汚部屋状態、食事もまともに取らずにブランディーと紅茶ばかりだった生活が今では養い子の少年におんぶに抱っこ状態、仕事は嫌で出来るなら全て部下に投げ出して楽をして生きていきたい。未だ30前なのに早く退役して年金暮らしがしたいなんてぐうたらな人生は帝国貴族そっくりですわよ」

「なっ……」
「自覚が有るようね、まあ良いわ、お近づきの印に此を差しあげますわ」
ヤンにテレーゼがケスラーに命じて渡したのは数枚のデーターディスクであった。
「此は?」

「卿が、以前調べていたブルース・アッシュビーに関する帝国側の記録などですわ。ジークマイスターやミヒャールゼンなどとの繋がりが丸わかりで面白いですわよ」
自宅の事はおろか、アッシュビー提督を調べていた事すら知られている事にヤンは戦慄を覚える。

「何故それを……」
「何処ぞのボンボンと違って自慢げに情報源を言うほど阿呆では無いですわよ」
「な……」

「フフフフ、妾のことが恐ろしいかしら、女は魔物ですわよ努々お気おつけなさいね、例えそれが思いを寄せるジェシカ・エドワーズだとしてもね」
「……………」

ヤンは驚きのあまり黙ってボーイが気を効かせて持ってきたグラスをあおり、ディスクを見つめるだけであった。

「そうそう、ヤン准将のお飲みになったのは、イゼルローン要塞が完成した宇宙暦767年、帝国暦458年産のガスコーニュ星系産のオール・ダージュ・アルマニャックですわよ。一本100帝国マルク(10000円)程度ですけど其方では1000ディナール(20万円)ぐらいでしょうね、どれだけフェザーン商人がぼった喰っているかが判るわね。其処で今日と言う日を記念して随員の皆にお土産として一人1ダース差しあげますわ。ああそう言えばヤン准将も458生まれで同じ年でしたわね。それならば記念に1グロスぐらいお持ち成ってくださいな」

「いやそれは」
テレーゼはヤンの答えを聞いて更に畳みかける。
「高々30年足らずでは熟成が足らないのでヤン准将の口には合わないかしらね。それならばエーリッヒ2世(止血帝)時代の260年物なら良いかしら。確か一本50000帝国マルク(500万円)だったかしら、お近づきの印にグロスで贈りますわ。キャゼルヌ准将とお分けになってくださいね。確か其方へ行けば5~10倍はするはずですからね」

ヤンにしてもそんな高い酒をくれる事は嬉しい気持ちがあるが、それ以上にテレーゼを何か得体の知れない者との思いがぶり返し背筋に冷や汗をかき悪寒に震えるのであった。

そんなヤンの姿を見ている他の随員はテレーゼがあまりにもヤンの事を知っている事、ヤンの幼なじみがテレーゼの家臣と成っていることで、益々ユリアン・ミンツスパイ説を信じるようになってしまっていた。更にジェシカ・エドワーズの事もスパイの可能性が有ると決定された。

この件で情報部は完全にヤン・ウェンリー、ユリアン・ミンツ、ジェシカ・エドワーズ、更にジェシカ・エドワーズの恋人であるジャン・ロベール・ラップも好ましざる人物として監視対象にすることを決めたのである。






式典に付属する形で行われた宴が終わると、メインである捕虜の交換が行われたが、同盟側随員とマスコミは捕虜や拉致被害者の姿に驚きを隠せなかった。

随員もマスコミも悪辣なる帝国に攫われた拉致被害者で有る以上、過酷な労働と極度の栄養失調でその体からは凡そ肉という物が消え去り骨と皮に痩せ細り爪も髭も髪の毛も伸びておらず太いのは関節だけでボロ雑巾の様な服を着て体は垢だらけ雲脂だらけノミとシラミに寄生され、全ての人生に絶望した姿を想像していたのにも係わらず。

皆栄養満点な食事を食べ過ぎたのか全体的にフックラとした姿で床屋でカットしたばかりの様な髪であり髭は確りと揃えられ、拉致被害者は小綺麗な服装であり、軍人はアイロンとノリがバッチリ効いた新品で同盟軍配布の礼服よりよほど高級な素材で作られた軍服姿で現れたのであるから驚きの連続であった。

更に、皆がにこやかな顔で船から下りて来るのであるから、暴虐なる帝国からやっとの思いで帰国できた拉致被害者と捕虜の姿を映し帝国憎しと言う世論を誘導しようとしたマスコミや主戦派はじたんだを践んで悔しがった。

その上に、マスコミが拉致被害者、捕虜にインタビューしたのであるが、その話はとても同盟内で放送するに耐えない話で有った。

「お帰りなさい。貴方は拉致以来どの様な生活をしてきたのですか?」
家族と共に荷物を持った壮年の男性は答えた。
「私は、宇宙暦762年にエル・ファシル近傍でフランケン侯の部隊に拉致されたのです。それ以来、農奴として侯の荘園で馬車馬のようにこき使われたのです」

「それは、御苦労様でした。帝国に対して今のお気持ちを御願いします」
アナウンサーにしてみれば此処で一番聞きたかった帝国の悪政を話す被害者に多くのマスコミがカメラを向けるが、次ぎの言葉に騒然とする。

「しかし侯の荘園から3年前に皇帝陛下のお慈悲により私を含めた全員が解放され、テレーゼ殿下の所領であるローエングラム星系へと移住が出来たのです。その上、陛下と殿下は私を含め皆の家族も探し出してくれて、こうして帰国させて頂くことが出来ただけでなく。全員に給料という名目で補償として一人頭60万ディナール(1億2000万円)も頂けるのですから、我が家だけで420万ディナール(8億4000万円)です。全く持って皇帝陛下と皇女殿下のお慈悲に我々は感涙しているのですよ」

家族と抱き合い涙ぐむ拉致被害者にマスコミは不味い物を言う顔で急に捕虜の方へ画面を切り替えるが結果は同じであった。
「矯正区の実態は酷すぎる、あれは地獄だ!」
そう言っている捕虜もその後の話しになると豹変する。
「矯正区は門閥貴族共が自分達が戦闘で得た捕虜を家畜のように使える人間と使えない人間とを選別する所だったんだ!ところが正規軍の捕虜に成った者は皇女殿下直轄領の捕虜収容所へ送られるんだが、彼処はエル・ファシルの英雄で有る自治委員長リンチ提督の元で民主的な体制で自由、自立、自治、自尊の精神が皇帝陛下より認められているんだ!」

「我々捕虜もヘルクスハイマー伯爵の矯正区から皇帝陛下により助け出されてリンチ提督の元で英気を養うことが出来た上に、捕虜にも係わらず一人頭20万ディナール(4000万円)もの賃金が下賜されたのでから、皇帝陛下、皇女殿下様様です」

にこやかに答える将兵に唖然とするマスコミや情報部、此により完全に帝国の悪部は門閥貴族であり皇帝陛下は慈悲深いお方だとの報道がリアルタイムで流れてしまい、同盟の各地では騒ぎが起こっていた。

その放送はヴァンフリート星域で待機する同盟艦隊にも流れ、常日頃“俺がイゼルローン要塞を墜とし、長駆してオーディンを占領し皇帝を処刑して銀河帝国を滅ぼす”と大言壮語を吐きまくっているホーランド少将が立体TVを叩き壊していた。

その上、放送後にはホーランドを見る将兵が現状も知らない阿呆人と言う生暖かい目で見るように成っていた。




宇宙暦793年 帝国暦484年12月2日

■フェザーン自治領

フェザーンの商工会議所からしけた顔をした男が出てきた。その男を待っていたと思われる小太りの中年が声をかける。
「船長、どうでしたか?」

船長と言われた男は顔を歪めて手を翻す。
「どうもこうも無いな、借金の期限は一日たりとも待てないとさ」
吐き捨てるようにそう言うと男の顔にはありありと疲れが見える。

「船長、このままだと借金と税金で船がさし押されてしまいますよ」
「マリネスク、そうは言っても逆さにしても鼻血も出ない状態だしな」
「まあ、船長、そうならない為にも酒場でも行って伝手を当たってみましょうよ」
「そうだな」

そう言って酒場へ行った二人を待っている男がいた。
二人が酒場へ入ると、普段はいないような男達が酒場全体でそれとなしに酒を飲んでいた。
違和感を感じながらカウンターに座ると、黒髪でサングラスをかけた小柄な女が声をかけてきた。

「ボリス・コーネフ船長ですね」
コーネフは女を一別し話す。
「そうだが、あんたは?」

そう言われた女は懐から名刺を出し挨拶する。
「私は、銀河帝国ローエングラム星系で捕虜に関する事の全般を委託されている。エーリカ・ラウテンバッハと申します」
「そのラウテンバッハ氏が何の用です?」

「ええ、現在ローエングラム星系では同盟軍捕虜の自治委員会が有るのです。其処では捕虜の自治を尊重しているのですが輸送船までは流石に運行させる訳にも行かないのです」
「そりゃそうだろうな。逃げちまうな」
「ですな」

ボリスとマリネスクが顔を見合わせて頷く。
「其処で必要な物資を運行する船を探して居るのです」
ボリスもマリネスクもそんな事で何故フェザーンへ来るのかと怪しむ。

「しかし、その程度の輸送なら態々フェザーンまで来る必要が無いでしょう」
「そうですよ。帝国にも運送業者はいるでしょうし、捕虜なら軍が運べば良いのでは?」

「その点なのですが、ローエングラム星系はテレーゼ殿下の所領であり捕虜もテレーゼ殿下のお預かりなのです。その上、帝国では彼等は叛徒ですから“叛徒に物資を運ぶ様な人物が殆ど居ないのです。それに軽々しく軍を動かす訳にはいきませんから」

些か納得しないがある程度までは判った二人は頷く。
「其処で、ボリス商会とは先代の頃の繋がりが有りましたのでお願いに上がった次第です」
そう言われて、コーネフは以前引退した親父が帝国政府からの特命でDNA検査キットを売った事を思い出した。

「ああ、あの時の事か、覚えていますよ」
「良かった。其処でオーディンからローエングラムへの定期航路を御願いしたのです。無論正規料金以上のボーナスもおつけしますので」

小柄の美人に御願いされて上に借金で首が回らない状態のボリス達に断るという選択肢は無かったのである。その後支度金を受け取り、長期の仕事と言う事で引退した親父、お袋やクルーの家族も連れてローエングラム星系へ居を移し其処で大規模な輸送会社の雇われ社長として活躍させられる事と成った。

全てがテレーゼの手の上で行われた策謀の一環であった。
 
 

 
後書き
ヤンに嫌がらせばかりですけどね。チャンと酒はお土産にあげましたからね。

エーリカさんはゲスト出演です。

ディナール換算を間違えていたので修正致しました。1ディナール=200円です。
1帝国マルク=100円

1ディナール=6.66フェザーンマルク=2帝国マルク換算としております。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧