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心の傷

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第四章


第四章

「博物学者として。見事だ」
「そう言ってくれるのは有り難いのですが」
 だがその褒める言葉にも返答は弱いものだった。
「しかし私は」
「話は聞いている」
「そうですか」
 こう言われるとだった。表情が暗くなった。そのうえで俯いた姿はあまりにも暗かった。その暗さにこそ今の彼の全てが如実に出ていた。
「それはもうですか」
「そういうこともある」
 公爵はそのことにはこう言うだけだった。
「そしてだ。卿に見せたいものがある」
「見せたいものですか」
「そうだ、あるのだ」
 仮面が見ていた。彼のその顔をだ。
「それを見せたくてここに来たのだ」
「それは一体」
「失礼する。少しな」
 こうしてその仮面に手を当てた。そして外すとだった。
 その顔は見るも無惨なものだった。右半分は普通だ。白く彫のある端整な顔がある。初老であるがそれでも実に整い気品のあるものだった。
 しかし問題は左半分だった。無惨に切り刻まれ最早原型を留めてすらいない。目も潰れそこにあるのは深い傷跡だけである。そんな顔だった。
 侯爵もその顔を見て絶句する。公爵はその彼にまた話してきた。
「この顔は」
「はい、どうされたのですか?」
「私は変わった体質で」
 こう話してきてだった。
「傷が身体に浮かび出るのだ」
「傷がですか」
「そう、身体に受けた傷ではなく心に受けた傷がだ」
「それが出るのですか」
「そういうことだ」
 その顔での言葉だ。
「私もまた。今まで多くのことがあった」
「多くのことがですか」
「卿と同じ目にも遭った。それがそのまま出た」
「それでそのお顔に」
「痛かった」
 公爵は静かに述べた。
「このうえなくな」
「それ程までですか」
「ただ傷が出るだけではない。痛みも出た」
「痛みも」
「心の痛みがそのまま身体に出る」
 そうだというのだ。
「私はな」
「それではかなり苦しまれてきたのですね」
「そして多くの不幸があった」 
 彼はこうも話した。
「だからこそ。余計に」
「左様ですか」
「そうだ、痛みがわかる」
 彼は侯爵に対して言った。
「卿の痛みもだ」
「私の痛みも」
「辛かった筈だ。苦しかった筈だ」
 彼に対してまた告げた。
「こうして自分の屋敷から出ずに閉じ篭る程だからな」
「はい、確かに」
 侯爵は応えながら項垂れた顔になっていた。それは事実である。応えているその間にもこれまでのことを思い出す。それだけで辛くて仕方なかった。
「今も。それは」
「卿にそうしたのは下らない連中だ」
 公爵はここでこう言ってきた。
「所詮はだ」
「下らない、ですか」
「そうだ、下らないのだ」
 彼はまた言った。
 
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