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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第59話 最近出ない奴に限って意外な場面で出てくる時って多いよね

 
前書き
【前回のあらすじ】

たま
「御霊でも金玉でもありません。私はたまです!」

 たま発言発覚! これにて正式名称【たま】に決定!
 ・・・以上。

銀時
「もっと他に重要な話あっただろうに」
 

 
 漆黒の空を天高くそびえる満月だけが照らし出す江戸の町。不気味なまでに静まり返った此処かぶき町を今、大勢のからくりメイド達が我が物顔で行進していた。
 伍丸弐號の、林博士のクーデターがいよいよ本格的に始まってしまったのだ。
 頼みの電力を全て奪われてしまった江戸の人間達に、この生気のない者達の歩みを止める手立てなどはなく、真選組の隊士らが総動員してこれらの鎮圧に当たったが、状況は苦しかった。
 その現状を遥か上空を飛行する大江戸テレビが生中継していた。因みにアナウンサーはご存知結野アナだったりする。
 が、電力がストップされていた為に勿論この中継が江戸全市民に報道される事はまずないのだが―――




     ***




 不気味なからくりメイド達の大攻勢が向う先、それは一軒の古ぼけた建物であった。その数は昼間銀時達が蹴散らした数の実に倍近くに上る。そんなメイド達がまるで砂糖に群がる蟻の如く古ぼけた一軒屋の入り口前へと集まった。しかも、その全てのからくりメイド達は皆量産型のタイプとは訳が違う。皆、魔力を使用する事の出来る強化型メイド達だ。
 以前の戦いでは、半数以上が量産型の魔力を使用出来ないメイド達だった為に物量の差を押し退けて勝利する事が出来た。だが、今回はそうはいかない。無策で挑めば即座に魔力攻撃の餌食となるのは火を見るよりも明らかだった。
 
「生体反応感知。この家屋にお住まいの方は、直ちに外に出て、我々の指示に従って下さい」

 メイド達のセンサーが家屋内に居るであろう住人の存在を感知したようだ。からくりである彼女達の目をもってすれば例え建物の中に隠れていて息を潜めていようと即座に見つかってしまうだろう。
 
「警告は三度行います。それでも応答がない場合は、強制行動に移ります。その場合、命の保障は出来ません。繰り返します―――」

 一度目の警告を行おうとしたその矢先の事だった。突如入り口前のシャッターが轟音と共に盛大にぶち破られる。それと同時に激しい爆発が起こり、入り口前に集まっていたメイド達の大半が木の葉を吹き飛ばすかの如くバラバラに跳ね飛ばされてしまった。
 その後に出て来たのは無骨で鈍重で、それでいて堅牢な大型戦車……と思わしき車両が姿を現した。

「だああぁぁぁっはっはっはっ! 思い知ったかぁ流山! お前の華奢でちんけなからくりなんぞわしのからくりで一撃粉砕よぉ!」

 まぁ、既にご承知の事であろうが、この巨大な戦車を操縦しているのはこれを作ったであろう平賀源外その人であった。何故だか分からないが何時にも増してテンションが高めな気がする。
 この人もしかしてハンドル握ったら性格が変わる人なのかも知れない。

「流山! 貴様に男のからくりが何なのか教えてやる! それはなぁ、【鎧】【砲塔】【キャタピラ】この三つこそが男のからくり三種の仁義よぉ! おめぇの作った別嬪からくりにゃぁ到底つけられめぇよぉ!」

 大笑いしながら何か勝ち誇っている源外氏。一体何があったのだろうか?
 そして、男のからくり三種の仁義とは一体何なのか? それを知る術は多分ないだろう。別に知りたくもないし。
 それで、忘れてるかも知れないが、戦車の後部スペースには銀時以下ご一行が必死に吹き飛ばされないようにしがみ付いていた。今にも吹き飛びそうな状況なのだが。そして、定春は乗れない為にその後ろを走って追いかけている。猛スピードで走る戦車に追いすがってこれる犬ってのも案外凄い気がするが、其処は突っ込まないでね。何せフィクションなんだし。

「おいじじぃ! 男のからくり云々はどうでも良いからよぉ! せめてもうちょっと安全運転出来ねぇのか? このままじゃ奴んとこ行く前に俺達がお陀仏んなっちまうぞぉ!」
「おいおい、野暮な事言ってんじゃねぇよ銀の字ぃ。交通安全守って人の命救えませんでしたってんじゃ寝覚めが悪いだろうが」

 まぁ、言う事は一理あるだろうがそれで主人公が揃って全滅してしまっては元も子もないのでは?
 と言う疑問なども源外の耳には通らないのであり。

「それになぁ、俺達からくり技師にとってからくりってのは喧嘩と同じよぉ。要するに舐められたらしめぇって事よぉ。こいつはぁ単にてめぇらの喧嘩じゃねぇ。俺と流山の喧嘩でもあんだよ!」
「って、それは良いけどなのはは何処? さっきから姿が見えないんだけどぉ!」

 自身の体をバインドで固定し、手すりに括りつけてる状態でフェイトは尋ねた。魔導師である為こういった類の使い方が出来るので結構便利だったりする。無論、使い魔であるアルフも同様だったりする。

「も、もしかして……落ちたとか?」
「いやぁぁぁ! 今すぐこれ止めてぇぇ! すぐになのはを助けに行かないとぉぉぉ!」

 なのは絡みになると即座にパニックに陥るフェイトだった。まぁ、そんな彼女の儚い願いなど源外がかなえる筈はないいのだが。

「おいおい、折角此処までテンションノリノリになってんだぜぇ。今更止められる訳ねぇだろうが。おめぇもそうだろ?」

 そう言って源外が目配りしたのは丁度戦車の顔部分にあたる砲塔と源外のゴーグルにも似たメインカメラが取り付けられた顔部分の丁度真上部分。其処にはサブシートらしき物がとりつけられており、其処には源外の暴走を楽しみまくっているなのはの姿があった。

「ひゃっほぉい! 早い早い! ドンドン行け行けゴーゴー!」
「お前其処に居たのかよ! ってか、何でてめぇだけそんな安全そうなとこに居るんだ! 俺達ぁ安全ベルトもなけりゃ命綱もねぇんだぞ!」
「ツッコミ入れるとこそこぉ!」

 と、補足的なツッコミを入れてくれたアルフ。まぁ、本人は大層ご満悦のようだが、はっきり言ってあの部分はかなり衝撃を受けやすい部分であり命の保障はあんまりなかったりする。

「ねぇ、なのはって……私と初めて会った頃より……何て言うか、色んな意味で悪化してない?」
「あぁ、してるねぇ……具体的に言うなら……確実に前より馬鹿っぽくなってるねぇ」
「おのれ坂田銀時ぃぃぃ! 今すぐなのはを元に戻しなさい! そしてこの世にさよならしなさいぃぃぃ!」

 言った直後に即座にバルディッシュを思い切り振り回すフェイト。当然狭いスペースなのではた迷惑なのに変わりはない。

「うわっ! 危ねぇだろうが! 状況考えろこの馬鹿!」
「うっさい! あんたがちゃんと教育しないせいでなのはがあんな無残な姿になってるんじゃないのよ! あの時のなのははもっと素敵だったわ! あの頃のなのはを返してよ!」
「何時の話だよ! 下らない妄想してんじゃねぇよ脳内お花畑!」

 とまぁ、そんな感じでまたしても醜い争いが始まりそうなので場面を変えるとする。
 戦車の前方に無数のメイド達の姿が見え始めた。恐らく侵攻を妨害する為に派遣されたのだろう。
 因みに全て強化型メイド達だった。

「馬鹿め! 流山、貴様の浅知恵がこの俺に通用すると思ってんじゃねぇぞ! おい、栗毛! 出番だぜぇ!」
「オッケェイ! 待ってましたぁ!」

 そう言うなりなのはは自分の座っていたスペースからどうやって格納したのか巨大なバズーカ砲を取り出して構えだした。
 小さい体なのに軽々と巨大なバズーカを扱う姿って妙に新鮮で良いよね。等と言う妄想はさておき照準は固定され、後は発射するだけであった。

「よっしゃぁ! ぶっぱなせぇ!」
「発射ぁぁ!」

 声を挙げてトリガーを引く。バズーカの砲塔から勢い良く巨大な弾頭が放たれた。弾頭の向う先はからくりメイド達の中心地点……より少し上の部分へと向っていく。つまり思いっきり外れ。な感じに飛んで行ったのだ。
 だが、その弾道を見て源外はニヤリとした。その直後、巨大な弾頭は突然上空で爆発四散し、その後当たり一面に奇妙な色の粉が舞い始めたのだ。
 
「な、何だ。この粉は? 小麦粉か?」
「ふふふ、細工は流々。この天才からくり技師平賀源外に抜かりはねぇ! 見てみろ」

 源外が前方を指差す。すると、目の前に迫ってきていたからくりメイド達が皆何故か膝をつき地面に倒れだしているではないか。先ほどまでの元気がまるで感じ取れない。
 一体どういうことなのだろうか?

「おいおい、何アルかぁあれ? 腹痛でも起こしたアルかぁ?」
「あの砲弾の中にはなぁ。俺が開発した魔力エネルギーを中和し消滅させる事の出来る特殊な粉が大量に含まれていたのさ。奴等が魔力エネルギーで動いているのはさっきのからくりを弄って分かったんでなぁ。対抗策を講じるのは思いの他楽だったぜ」
「凄い、魔法文化とは無縁の世界なのにそんなのを作れるなんて!」

 源外のからくり技術に心底驚きの表情を浮かべるフェイトだった。しかし、その後すぐに気付く。
 え? 魔力エネルギーを中和し消滅? それじゃ、もしかして……
 恐る恐る視線をアルフに向けると、其処にはグッタリして虫の息になってるアルフの姿があった。

「ぜぇ……ぜぇ……フェ、フェイトォォ……さっきの粉吸ったら……みるみる元気がなくなってきて……もう立ってられないよぉぉ」
「うわぁぁぁ! アルフが死に掛けてるぅぅぅ!」

 そりゃそうなる訳だ。何せ魔力を阻害してしまうのだから主であるフェイトからの魔力供給で生きているアルフにとっては酸素が吸えないのと同じ状況なのだから。
 
「あ、そう言えばそっちの金髪も魔力を使うんだっけなぁ。こりゃうっかりだったわぃ」
「あんた絶対わざとやってるでしょ! どうして江戸の人間ってこうもふざけた人間が多いのよ!」
「そりゃ決まってるだろオメー。何故ならこの江戸はギャグで出来てるんだからよぉ」
「もうギャグはうんざりよぉ! 元のシリアスな魔法バトルな世界が恋しいぃぃぃ!」

 天に向かい叫ぶフェイト。その叫びは大層悲しげだったと言う。
 が、そうこうしていると背後からこれまた続々と例のメイド達が襲い掛かってくるではないか。
 
「銀ちゃん。後ろからも来るアル!」
「ちっ、おいじいさん! さっきの弾はまだあるか?」
「生憎今ので品切れだ! だが安心しろ。お前等の得物にもそれと同じコーティングをしてある。奴等の結界程度なら難なくぶち破れるぞ」
「流石だぜじいさん!」

 それを聞けただけでもラッキーな話だった。これで奴等を相手にしても引けは取らない。

「だが、喧嘩ってのはド派手が一番よぉ。ってな訳で神楽ぁ! 傘の柄を引いてみろ!」
「何か仕込んでるアルかぁ?」

 言われた通りに傘を水平に持ち柄を引いてみた。すると、傘の穂先に何やらエネルギーが収束していき、巨大なエネルギー弾となり、メイド達の下へと向かって行く。
 そのエネルギー弾は斜線上のメイド達をあっさりと吹き飛ばしてしまい、後には抉れた地面がその威力を物語っていた。
 その様は正に圧巻の一言だったと言える。

「少々弄らせて貰ったぞ。今時豆鉄砲なんざ時代遅れよ」
「じじいよくやったアル! これで私も晴れて【魔砲少女】アルなぁ!」
「いや、字が違うから。確かに世間じゃそう言われてるかも知れないけど」

 冷静にツッコミを入れる銀時を他所に、神楽は二射目を撃とうとする。
 再び傘の柄を引き、再度エネルギー弾を放とうとした。

 ピュゥゥッ!

 だが、出て来たのは真っ黒い液体。つまり、醤油だった。

「言い忘れてたが一度撃った後最充填するのに結構時間が掛かってなぁ。だが安心しろ。その間は醤油指しに早代わりだ」
「何で醤油アルかぁ! 意味無いじゃねぇかこれぇ!」
 
 その醤油に対する愛着は何なのか?
 そう思えてしまう今日この頃であった。
 とまぁ、そんなこんなしていると、更に大勢のメイド達が後方から押し寄せてきた。だが、生憎神楽の傘は充填中なので第二射には時間が掛かるようだ。
 
「おいおい、どうすんだよこれ? じいさん、俺達のには何かないのか?」
「何言ってやがるんだ? お前等のもちゃんと手を施してあるわぃ! まずは銀の字、お前は木刀の柄を押せ! そして金の字はデバイスのトリガーを引け!」
「って、私のバルディッシュにも手を加えたの? 何時の間に……」

 不安を覚えつつも銀時とフェイトは言われた通りに行動をする。銀時は木刀の柄を押し、フェイトはバルディッシュのトリガーを引いた。

 ピュゥゥッ!

 双方の得物の先っちょから勢い良く飛び出たのは神楽の時と同じ真っ黒な醤油であった。

「醤油が出る。卵かけご飯にするなり納豆ご飯にするなり好きにしな」
「「だから何で醤油ぅぅ!」」

 あ、はもった!
 互いにはもりながら襲い掛かってきたメイド達を一振りでなぎ払った。
 それにしても案外仲が宜しいようで。と思ってしまった読者の皆様は銀時とフェイトの二人の射殺すような睨みを全身で受ける羽目になるだろう。
 まぁ、作者本人には全く関係ないのだが。

「他に何か機能はないの? ねぇ、何かあるんでしょ? まさか―――」
「あぁ、生憎時間がなかったんでなぁ。醤油が出る機能しかついてねぇんだよ。まぁ、弄ってやっただけでも有り難いと思えや」
「ちっとも有り難くないわよ! 私のバルディッシュを返して! あの時の私の愛しいバルディッシュを返しなさいよぉぉぉ!」

 よよよと涙を流しながらバルディッシュを抱き締めて泣き叫ぶフェイト。そんなに悲しいのだろう。愛すべきバルディッシュがよもや異界の技師によってギャグの一旦を担う羽目になってしまったのだから。

【マスター、ご安心下さい。この機能があれば卵かけご飯を食べる時などにわざわざ醤油を探す必要はありませんよ。私さえ居れば醤油要らずですよ。そうすれば醤油をわざわざ買う必要もなくなり奥様のお財布にも優しい事この上ない事間違いなしですよ!】
「バルディッシュ。必死にフォローしているようだけどなぁ、全然フォローになってねぇぞ」

 バルディッシュの目の前では地面を何回も叩いて大泣きするフェイトの姿があった。そんなフェイトを見てバルディッシュは自分の至らなさを悔やむ次第であったりした。まぁ、至極どうでも良い事なのだが。

「さてと、どうやら地上から行くと奴等の妨害を受けそうだな。ちとルート変更と行くか」
「おい、何処へ行くんだよじいさん!」
「へっ、決まってるだろうが。こうなりゃ乗り込んでやろうじゃねぇか! 鬼が島へさぁ!」

 そう言うなり源外は思いっきり進んでいた道を右にカーブし、近くにあった深堀の川へと飛び込んだ。無論、この戦車には水上走行機能もついているので水の上でも安心の走行をしてくれている。正に至れり尽くせりな作りだった。
 まぁ、飛べないのが難点なのだが。

「なぁ銀時。目の前に立ってるあのでっかい建物って何さ?」

 突如、アルフが指差したのは、巨大な塔であった。

「あぁ、あれはターミナルだ。あそこから江戸に天人達はやってくる。言わば宇宙と江戸を繋ぐ門みたいなもんさ……って、じいさん! まさか―――」
「その通りよ。野郎は恐らくターミナルだ。江戸中を支配するってんならターミナルを狙うのが定石よ。だったら行ってやろうじゃねぇのさ。奴の居城へとよぉ!」

 源外の言葉に深みが感じられた。伍丸弐號がターミナルを占拠したと言うのならば急がなければならない。もし、ターミナルが暴走すれば江戸が吹き飛ぶ危険性がある。それに、あそこには新八が捕まっているのだ。
 このままでは新八は生贄として殺されてしまう。そうなる前に助け出し、こんなふざけたクーデターを起こした不届き者を叩きのめしてやらねばならないのだ。

「やるか、てめぇら!」
「上等アル! 何時までも女々しいロリコン爺なんかに江戸の町を渡す気は無いアル!」
「折角なのはの育った世界に来たのに、その世界を更地になんてさせない! 私も一緒に戦うよ」
「ま、私は使い魔だからねぇ。主が行くってんなら地獄の果てだろうと鬼が島だろうと何処へだってついて行くよ」

 四人の決意は固かった。流石に前の戦いを共に戦いぬいただけの事はあるようだ。例え世界は違えども固く結ばれたその絆は決して砕ける事がない。
 そう言いたげな光景でもあった。

「ZZZ……」

 そんな中、一人サブシートで呑気に居眠りをこいているなのはが居るのだが、その辺はスルーして欲しい。決して絡ませるのを忘れてた訳ではないのであしからず。




     ***




 ところ変わり、此処は銀時達が爆走していた地点とはかなり離れた江戸町内の広い道路。其処では真選組の隊士達が押し寄せて来るメイド達を必死に食い止めている光景が見えた。

「下がるんじゃねぇぞてめぇら! 一歩でも下がった奴は士道不覚悟で即刻斬首だぞゴラァ!」

 その隊士達を纏めるのは鬼の副長こと土方十四朗その人であった。
 隊士達に厳しい言葉を投げつけ、彼等に不退転の意志を持たせようとしているのだ。
 その言葉を受け、隊士達は闘志を燃やし、正に玉砕覚悟の志を持ちメイド達に挑む。

「土方さん、危ねぃですぜぃ!」
「ん? うおわぁっ!」

 咄嗟に土方は後方に飛び退いた。その直後、彼の居たであろう場所には沖田が刀を振り下ろし地面に突き刺していた。

「そそそ、総梧ぉぉ! お前何しやがるんだぁ!」
「あ~あ、下がっちゃった。これで斬首確定ですねぃ。介錯は俺がしてやりますんで諦めてさっさと首チョンパしてくださいな」
「こんな時までドS発動してんじゃねぇぇぇ!」

 何処でも沖田は沖田だったようだ。

「おいお前等! 喧嘩してる場合じゃないだろうが! この先には俺達が守るべき江戸市民達と、お妙さんが居るんだ! 気張って守れよぉ!」
「近藤さん、別にお妙さんは守る必要ないんじゃねぇのか?」
 
 やんわりと近藤のボケに突っ込みを入れる土方。まぁ、そうこうしている間にも、メイド達はどんどん迫って来る。

「ふ、副長ぅぅぅ! これ以上はもちそうにないですよぉぉ! このままじゃ此処も突破されるのも時間の問題ですよぉぉ!」
「黙れ山崎! さっきも言っただろうが! 一歩でも下がったら即刻斬首だからなぁ!」
「土方さん、それだったらあんたも即刻斬首ですぜぃ」

 沖田が刀を握り締めて嬉しそうに微笑んでいる。このままだと何時自分の首がチョンパされるか分かったもんじゃない。

「頼むからそのやる気を戦闘に向けてくれよ」
「嫌ですぜぃ。俺ぁ何時でも土方さんを殺る気だけは誰にも負けませんぜぃ」
「そんな事でやる気を見せるなよ!」

 土方曰く下らない事にやる気を出しているようだ。

「副長、もう駄目です! とてもこれ以上押し留めていられませんよぉぉぉ! もう駄目だぁぁぁ!」

 前線で頑張っていた山崎の断末魔が響く。哀れ山崎退。此処で人生のリタイアとなってしまったのだろうか。
 誰もがそう思っていたのだが、それは違った。
 最早これまでかと、諦め目を閉じた山崎だったが、一向に自分の身に変化が起こらない。疑問に思った山崎が目を開くと、其処にあったのは幾本もの突き出た巨大な氷の柱の姿と、それを出したであろう一人の男性の姿であった。

「武装警察を名乗っている貴様等がこの程度で諦めては、市民も可愛そうだろう?」
「あ、貴方は……犬耳のとっつぁん」
「せめて名前で呼んでくれないか」

 折角カッコいい登場をしたと言うのに名前で読んでくれなかったことに心底残念がる青年。そう、彼こそフェイトやアルフ達と同じ異世界からやってきた守護騎士の一人。

「盾の守護獣、ザフィーラ! 此処の守りは任せろ。奴等一匹たりとも此処から先へは通さん!」

 雄雄しく、それでいて力強くザフィーラはその場に仁王立ちして宣言した。メイド達は尚も進軍し、持っていたデッキブラシから多数の魔力弾を放ってくる。だが、それが向ってくる度にザフィーラは氷の壁を作り出してこれを阻害していく。最早敵の魔力弾がこちらに飛んでくることはほぼなかった。

「さ、流石はザフィーラのとっつぁん。でも何で? 確かあんたら、此処じゃ魔法ってのは使えない筈じゃ?」
「魔法と言っても種類があってな。どうやら我等の使う術式ならば余り制約は掛からないようだな。まぁ、飛べないと言うのは痛いが」

 苦笑いを浮かべながらもザフィーラは防御に徹する。しかし、守りが完璧になったからと言ってそれだけでは勝てない。戦いに勝利する為には攻めなくてはならないのだ。
 だが、其処にも抜かりはなかった。

「守りは引き受けた。お前等は攻めろ!」
「任せるぞ、ザフィーラ!」
「盾の守護獣の二つ名、伊達じゃねぇって所を見せてやれよな」

 そう言いつつ氷の壁を飛び越えてメイド達の中へと飛び込んでいく二つの影。その影はまた隊士達には見覚えのある姿だった。
 
「さぁてと、鉄槌の騎士ヴィータ様の江戸初の戦闘と行くかぁ!」
「烈火の将、シグナム。推して参る!」

 二人がそれぞれの得物を手に持ち、猛然と迫り来るメイド達に挑んで行った。
 数では圧倒的にメイド達の方が上。しかも奴等は皆魔力を用いた強化型だ。
 だと言うのに、ヴィータもシグナムも、全く引けを取らず戦い続けていたのだ。
 その様は正に一騎当千! 百戦錬磨! 三国無双! そんな感じに見える事間違いなしであった。

「相手が魔力を使用すると言うのならば好都合! これでようやく我等と互角に戦える相手と出会えたと言う事か!」
「にしてもこいつらそんなに強くねぇなぁシグナム! やっぱ作り物じゃ戦い甲斐がないんじゃないのかぁ?」

 余裕な口調で言いながらもハンマー型のデバイス【グラーフアイゼン】を用いて次々とメイド達を叩き、壊し、潰し、破砕していく。彼女に近づけば原型も残さずぐちゃぐちゃにされてしまうだろう。

「だろうな。だが、此処の世界の奴等にとっては厄介な事なのだろう。何せ、魔法に対する対策が何一つなされていないのだからな。だからこそ、我等が此処に居るのだ!」

 冷静な事を言いつつ、迫り来るメイド達を次々に細切れにしていくシグナム。
 彼女が手に持つ刀剣型デバイス【レヴァンティン】を用いた斬撃は正に舞いを舞うかの如く優雅で華麗な動きであった。
 美しさを感じるがその裏に秘められた破壊力は計り知れない物がある。が、決して某南斗水鳥の人じゃないのであしからず。
 それに、彼女の太刀筋には何処と無く江戸の流派も幾つか混ざり合っているようだ。

「そう言えばシグナム。お前随分と太刀筋変わったなぁ。何時そんなの覚えたんだ?」
「なぁに、土方と打ち合いをしている間に覚えてな。奴の変則的な太刀の動きは実に参考になる。我等の居たベルカにもあの様な剣捌きはなかったからな」

 嬉しそうに笑みを浮かべる。どうやら真選組にお世話になった事によりこの世界の剣術を学ぶ事が出来たようだ。彼女にとっては正に嬉しい収穫だったのだろう。
 
「あ、あれがシグナムの姐さんやヴィータちゃん達の本当の実力だったんですか?」
「いや、あれでもかなり抑えられている位だ。やはりこの世界に居る間は思うように戦えないのが痛いな」
「いや、充分活躍してるじゃないですか! これでまだ不十分なんですか?」
「あの程度の雑魚なら二人で掛かれば10分と掛かるまい。それがあいつらの実力だ」
「す、末恐ろしい―――」

 改めて、守護騎士達の凄さと恐ろしさを痛感する山崎だった。
 そんな時、怪我した場所の痛みが徐々に引いて行くのを感じた。見ると、右腕の火傷の場所にシャマルが手を当てて治療魔法を施してくれていたのだ。
 見れば、他の隊士達も皆怪我の治療をされて全快しているのが見える。

「これ位の傷なら何とか治せるわ。御免なさいね、此処じゃ私達は実力の半分位の力しか出せないから余り大きな怪我を治すのには時間が掛かってしまうのよ」
「い、嫌……それでも充分凄いと思うんですけど。ってかあんたらそんなに凄かったのに何で今までそれを使わなかったの? それ使えば凄い楽に攘夷志士とか逮捕できたじゃん!」

 騎士達の戦い振りを見て疑問に思った山崎が叫ぶ。その疑問を聞き、ザフィーラがその質問に応じた。

「郷に入っては郷に従え。江戸ではこんなことわざがあるそうだな。確かに我々が魔力を駆使すれば奴等を逮捕するのは造作もないだろう。だが、我々とてこの力を無制限に使える訳ではない。これだけの派手な戦闘が行えるのは以ってせいぜい1時間が限度だ」
「ど、どう言う事ですか、それ?」
「この世界では我々の元居た世界に比べて魔力濃度が極度に薄い。その為体内で魔力を生成するのも困難な状況なんだ。その上何故かは知らんが魔力の消費量も以前の世界に比べて格段に増してしまっているのだ。無闇やたらと使う訳にはいかないのが今の我々の現状なのだ」

 騎士達の居た元の世界。
 即ち海鳴市ではそれなりの魔力濃度があった為に魔法を用いての戦いや飛行魔法の使用が出来た。
 だが、江戸ではその濃度がかなり薄くなってしまっているのだ。
 その為、体内で魔力を生成するのも困難な状況である上に魔力の使用量までもが増加してしまっていると言う嬉しくないペナルティーの連鎖状態なのだ。
 なので、下手に魔力を使い続ければ最悪命に関わる問題になる。
 なので今の今まで彼女達はその魔力を極力温存してきたのだ。
 そして、今この時にその魔力を爆発させて戦闘を行っていたのだ。

「ふっ、そうかい。俺達の見てない所でお前達も相当苦労してたみたいだな」

 煙草を咥えながら話の一部始終を聞いていた土方がそっと言葉を投げ掛ける。
 氷の壁の向こうではシグナムとヴィータの二人が激戦を繰り広げている。見た感じは明らかに優勢だろうが、相手は無限に湧き出てくるメイド達。いずれは魔力切れを起こし物量で圧倒されてしまう。

「おいてめぇら! 何時まで休んでるんだ! 女子供が必死こいて戦ってるってのに男の俺達が尻込みしててどうする! 江戸の侍は腰抜け揃いと思われても良いのか?」
「良い訳ないでしょうがぁぁぁ!」

 土方の激に隊士全員が立ち上がった。その目には今まで以上の闘志がぎらついているのが見える。
 その目を見て土方は笑みを浮かべた。

「おい、ザフィーラ。氷の壁を開けてくれ。俺達も参戦させて貰うぜ」
「正気か? 相手は強化型だ。魔力対策をしていないお前達では辛い相手だぞ」
「へっ、見くびってもらっちゃ困るぜ。俺達は真選組だ。江戸の治安を守るのが目的なんだ。敵わない相手だからって尻尾を巻いて逃げる奴ぁこの中には居ねぇ。死んで元々、俺達は常に戦場で死ぬ覚悟は出来てるんだよぉ!」
「ふっ、流石は侍だな」

 土方の強い言葉にザフィーラは笑みを浮かべ、そして氷の壁を解いた。そして、壁に使っていた拳を目の前で思い切り叩き付けて音を鳴らす。

「ならば、この俺もまたその戦いに加わらせて貰おう! 異論はないな?」
「上等だ。良いかてめぇら! 俺達真選組の意地を見せてやれ! 此処から先へは一歩も通すな! 全部切り捨てろ!」 
 その激が放たれた直後、隊士達は一斉に雪崩れ込んだ。今までの受けとは打って変わり、今度は完全な攻めの動きだ。隊士達が腰に挿してあった刀を抜き放ち、猛然とメイド達へと向っていく。その光景に先ほどまで激戦を繰り広げていたシグナムとヴィータは驚きの顔を浮かべる。
 そんな二人の元へ土方がやってきた。

「どう言うつもりだ? 無駄に被害を出すだけになるぞ」
「へっ、侍として腰に刀を挿した日から俺達は常に戦場に居るような者なのさ。何時何処で死のうと後悔なんざしねぇ。俺達が後悔すんのは只一つ。守るべき者を守れなかった時だけだ」
「守るべき者を守る為の剣となるか。我等と似てるな」
「あぁ、そう言う事だ―――」

 笑みを浮かべる土方。そんな二人に向いメイド達が空気を読まずに押し寄せて来る。これぞ正に空気嫁!
 等と言っていてはしょうがない。
 向い来るメイド達を流れ作業の如く切り捨てながら土方は話を振ってくる。
 その際に土方とシグナムは互いに背中を預ける形で陣取っているのは言うまでもない。

「シグナム、江戸の市民を守る為、お前等の剣を振るってくれるか?」

 土方の問いに、シグナムはふっと笑みを浮かべる。因みに、その間も襲い来るメイド達を次々と切り倒しているのではあるが。

「無論、主が訪れ、主が愛したこの地は我等の故郷であり、我等の墓標でもある。その地で果てられるならば本望!」
「決まりだな。よっしゃぁ! 斬って斬って斬りまくれぇ!」
「応!」

 短い会話を終えた。それからは先ほど以上の勢いでからくりメイド達をバラバラに切り刻んでいく。
 かと思えば別の方向では沖田がドSじみた顔でバズーカ砲を乱射しており、かと思えば近藤が名刀をポッキリ折られて号泣していたり。それまたかと思えば怪我した隊士達に戦場の女神の如く治療し、再度前線へと送り返すシャマルの姿もあったりした。
 因みに、彼女に治療してもらっている間の隊士達は皆鼻の下を伸ばして凄く嬉しそうな顔をしていたようだが、余談である。

「しっかし数が多いですねぃ。土方さんちょっくら敵陣の真っ只中に単身突撃してきてついでに瀕死になって下さいよぉ」
「お断りだ。俺は一分一秒でも長く生きてやる! 行くんだったらお前が行け!」
「嫌でさぁ。俺は土方さんが死ぬのをこの目で見るまで死ぬつもりは一切ありやせんのでぇ」

 相変わらず爽やかな笑顔で恐ろしい事を平気で口走る沖田に土方の怒りのボルテージがみるみる内に上昇していくのは明白の理であり。

「上等じゃねぇか、だったらここいらに居る有象無象を狩るついでにてめぇも狩ってやろうじゃねぇかよぉ!」
「あららぁ、それだったら俺も遠慮なく土方さんを葬れる訳でさぁ。やったぜ、これで大義名分が出来たでさぁ!」

 かたやマジ切れしながら刀を振り回し、かたや爽やかな笑みを浮かべながら刀を振り回す。そして互いに激しく刀を打ち合い金属音を奏でて火花を散らす。その余波で回りに居るからくりメイド達を倒しているから問題ないのだが。

「あいつら、まともに戦う気はないのか?」

 隣で戦っていたシグナムが怪訝そうな眼差しを向けながら呟いていた。本来真面目に戦ってきた彼女にとって喧嘩しながら戦うと言うスタイルを取っている土方と沖田は心底新鮮に見えていたのだろう。
 と、言うよりその視線は最早呆れとも取れるだろうが。

「しょうがねぇんじゃね? あいつらはあんな感じで戦うのが普通っぽいようだし」
「我等の世界では考えられない戦い方だな」

 ヴィータと二人揃って世界の違いを痛感するシグナム。まぁ、かたや真面目で魔法バトルオンリーなのに対し、こちらはバトルする時はするけど基本ギャグとカオスと下ネタの入り混じったごった煮の様な世界だし仕方ないと言えば仕方ない。

「まぁ、我々は我々のやり方で戦えば問題ないか」
「つってもよぉ、さっきザフィーラの奴が郷に入っては何とかって言ってたぜぇ。私等もやんなきゃ不味くないか?」

 そう言ってるヴィータの目が心なしかウキウキと輝いているように見える。
 まさか、こいつ……銀魂流のバトルをやりたいのか?
 一抹の不安が背筋を通り過ぎたのを感じ取り、悪寒がしたシグナム。

「ま、まさかお前!」
「ってな訳で、そぉい!」

 シグナムの静止も間に合わす。ヴィータはいきなり鉄球を取り出すと主室にザフィーラ目掛けて投げつけた。メジャーリーグでも通用しそうな程の速度で飛んで行く鉄球の向う先には、ザフィーラの後頭部があり。

「がはっ!」

 ものの見事にクリーンヒット! 哀れザフィーラは後ろからの奇襲(味方)を受けて遭えなく撃沈。その回りに居た隊士達の手により後方へと移送されて行くのであった。

「あり、ちょっと強すぎたかなぁ?」
「ちょっと強すぎたかなぁ……じゃないだろうがぁぁ!」

 いきなり真面目な空気を粉砕、玉砕、大喝采された事に額に青筋を浮かべたシグナムが怒号を上げながらそれを行った張本人であろうヴィータの胸倉を掴んで前後に振り回した。
 幼い幼女の首が前後にガクンガクン揺れ動いている。

「貴様何考えている! 味方に攻撃を当てるなぞかつてあったか?」
「いやほら、此処じゃ当たり前に起こってるじゃん。あの天然パーマだって良く土方とかに攻撃してるし」
「それとこれとは別問題だぁ! 今は真面目に死闘をしている真っ最中だって言うのに何やってんだ貴様はぁぁ!」

 何だかんだで一番此処の空気に馴染みだしている鉄槌の騎士であった。
 まぁ、とにかく。鉄槌の騎士の血迷った行動により盾の守護獣がリタイアしてしまった事により形勢はいきなり不利になってしまった。
 只でさえ結構ギリギリの接戦を演じていたと言うのに其処へ来てヴィータの血迷った行動により大事な戦力が唐突に奪われてしまったのだ。
 これはもう泣いても問題はないと思われる。

「ヴィータ、貴様責任を取って死ぬ気で戦え! こうなったのも貴様の責任なんだからな!」
「任しておけ、シグナム! あたしの手に掛かりゃこんなメイドもどきなんかひと捻りにしてやるよ!」

 何時になく自信満々なヴィータに、さすがは鉄槌の騎士だ。と安堵するシグナム。
 そんなシグナムの目の前でヴィータは手持ちのアイゼンを豪快に振り回し一騎当千の鬼神の如く敵陣に殴りこもうとしていた。
 そんな矢先の事だった。突然ヴィータの持っていたアイゼンが彼女の持ち手を離れて宙を舞った。
 ポーンと放物線を描きながら高速で回転するそれは二人の居た地点のすぐ右後ろ辺りに居た近藤の脳天に直撃する。

「ぶごふぁぁっ!」

 直撃したアイゼンはそのまま地面に落下し、それと時を同じくして近藤は大地に沈み一面を血の池で塗らしていく。
 その光景を目の当たりにしたシグナムは顔面蒼白になり、かたやヴィータは愛機が突然消えてしまった事にようやく気付き、辺りを見回してアイゼンの捜索を始めていた。

「わぁぁぁ! 局長がぁ、局長がやられたぁぁぁ!」
「しかも近くにあるのってこれってもしかして、あのハンマー娘のハンマー?」
「って事はあのハンマー娘もやられたのか? どうすんだよこれ? もう無理じゃねぇか、無理ゲーだよこれぇ!」

 更に不味い事に、倒れて血塗れになっている近藤とその近くに落ちていたアイゼンを偶然見てしまった隊士達が近藤、ヴィータの両名が殉職してしまったと勘違いし士気が駄々下がり状態になってしまった。
 こうなると最早形勢の逆転は難しい事間違いなしにも見える。

「ちょっと貴方達、何やってるのよ! 真面目に戦ってよ」

 その後方では大多数の患者をたった一人で治療しているシャマルの姿があった。孤軍奮闘していた為か頬が痩せこけてしまっており目の下にはくまが出来上がり息もかなり荒くなっていた。
 どうやら治療で相当魔力を消耗してしまったらしくかなりやばい状況らしい。

「す、すまないシャマル。ちょっとした事故があって今こっちも厳しい状況なんだ」
「ちょっとした事故って何よ? さっき見たけどザフィーラの後頭部にはヴィータちゃんの魔力球が叩きつけられてるし、近藤さんの脳天をブッ叩いたのってあれ確実にヴィータちゃんのアイゼンでしょ? 貴方達味方同士で潰し合いしてる場合じゃないって事位分かってるでしょ?」

 段々シャマルの額に青筋が増え出して来た。普段は白衣の天使、若しくは某白い木馬のおふくろさん並に笑顔を振りまいている彼女が怒りだしているのが分かる。
 このままだとその怒りの矛先が自分に向けられる事に危険を感じたシグナムは、咄嗟にある行動を起こした。

「そ、そもそもの原因はあそこで同士討ちしている土方と沖田が原因だ。あいつらが喧嘩紛いな事をしたせいでこうなってしまったんだ! 私が言うから間違いないぞ」
「ふぅん、あの二人のせいなのね―――」

 静かに納得すると、シャマルはまるで浮遊霊の如くゆったりと、そして不気味な足取りで未だに喧嘩を続けている土方、沖田の近くに歩み寄った。
 そして、主室に二人の肩にガッと手を置く。手の感触に気付き、二人は首を向ける。そして、二人は見てしまった。
 普段のシャマルは絶対見せないであろう恐ろしい形相を。

「あ、あの……シャマル……さん?」
「貴方達、真面目にやってくれない? こっちはさっきから増える怪我人の応対で死に物狂いだってのに何ふざけた事してんの?」
「えと、あの……何か、すんませんでした」

 普段見せなかったシャマルの鬼顔にかなりビビッたのか真っ青になっていく土方に対し、沖田は相変わらず涼しい顔をしている。

「いやぁ、この土方さんがいきなり俺に対して切りかかってくるもんで大変だったんでさぁ。危ない所を助けてくれてどうもって奴でさぁよ」
「てんめっ、総梧!」

 ちゃっかり嘘を織り交ぜて自分は真っ白ですと証言する沖田に土方は再度怒鳴りつけようとした。だが、その際に土方は自分の肩がミシミシと音を立てているのを聞く。見れば、シャマルが土方の肩を恐ろしい力で掴んでいるようだ。

「ひ~~じ~~か~~た~~さ~~ん」
「い……命懸けで戦ってきます! なので命だけは救って下さい!」
「ならば有言実行しなさい! 直ちに実行しなさい!」

 シャマルの射殺すような声を聞き、土方は弾道ミサイルの如く敵陣目掛けて突っ込んで行った。そんな土方に対し沖田は「頑張れ土方~~。死んでも骨は拾わないからなぁ~~」と言いつつハンカチを振っていた。
 
「よし、何とか責任逃れは出来たな。後は私も戦線に復帰すれば―――」

 どうにか言い逃れが出来たのに安堵したシグナムは再度戦闘に参加しようとしたが、そんな彼女に向いまたしても災難が舞い降りる事となった。

「しぃぃぃぃぐなぁぁぁぁぁむ!」
「ぐはぁっ!」
 
 突如、シグナムの鳩尾に猛烈な何かが激突し、激しい痛みと嘔吐感を覚えたシグナムは何がぶつかったのか見る。其処に居たのは滝の如く涙を流して泣きまくってるヴィータがシグナムにハグしていたのであった。

「シグナム! あたしのアイゼンが、アイゼンが無くなっちゃったんだよぉぉぉ!」
「何言ってるんだ! アイゼンって言ったらさっきお前が投げ飛ばしたんだろうが! ってか、離れろ、苦しい! 息が、息が出来ん―――」

 シグナムの顔が青から紫、更に様々な色へと変色していく。ヴィータが泣きながらシグナムにハグを通り越してジーグブリーカー張りのベアハッグを決めているようだ。その為にシグナムの腹部が締め付けられており、呼吸が困難になっているようだ。
 ついでに言うと腹部がミシミシと音を立てている。どうやら鉄槌の騎士は相当な腕力をお持ちのようだ。

「あれがないと、私只のか弱い幼女になっちまうんだよぉぉ! うおぉぉぉん!」
「ぐ、ぐるじいぃ……い、意識が遠のいていく……」

 大粒の涙を流しながらもその腕の力は次第に強さを増して行くばかり。次第にシグナムの顔色が青ざめていく。最早意識を保つのも限界に近いようだ。
 更に間の悪い事にそんなシグナムとヴィータに向い無数の殺人メイド達が跳びかかってくる。
 現状のシグナムでは勿論の事ヴィータにもこいつらを払い除ける余裕などない。回りにも助太刀に行ける暇を持っている奴など居ない。
 正に絶体絶命、万事休す! これにてこの物語はお仕舞いです。ってな具合の状況であった。
 刹那、青白い光が空の彼方から幾重も降り注いできた。その光は刃の様な形をしておりそれが大量に降り注いできた。
 しかも、降り注いできた青白い光の刃は守護騎士達や真選組隊士達には当たらず、全て殺人メイド達だけを貫いていた。

「あれは、魔力……だが、我等意外に魔法が使える者が此処に居る筈が―――」

 居る筈がない。と、シグナムは思っていた。この世界、江戸では殆どの人間が魔力を持っていない。故に魔法を使う事など出来る筈がない。
 現状で魔法を使用出来るのは守護騎士達位な筈だ。となれば、行き着く答えは一つしかない。

「何とか間に合ったか!」

 声と共にシグナム達の前に現れたのは二人の少年だった。一人は金色の髪をし、クリーム色のバリアジャケットを身に纏っている。もう一人は黒い髪に黒いジャケット。腕と足に装着した防具が無骨さを更に引き立てていた。

「お前達は?」
「時空管理局の者です。大丈夫、僕達は敵じゃありません! 貴方達の戦いの補助をします」
「管理局……有り難い。その力、頼らせて貰うぞ」

 理由はどうあれ現状で管理局の援軍はとても心強い。しかも援護はこの二人だけではなかった。続々と杖を片手に魔導師達が姿を現してくる。彼等もまたこの世界の力を受けており魔力がかなり激減しているのだろうが、それでも魔力でのサポートとなればかなり有利に事が運ぶだろう。
 
「それにしても、この世界は魔法とは無縁の世界と聞いてたんですけど、まさかベルカの術式を使う人が居たなんて……」
「勘違いしているようだが、我々もお前達と同じ外の世界の人間だ。此処に居るのは成り行きの様な所なのでな」
「つまり、貴方達も僕等側の人間って事ですか?」

 戦いながら、クロノとシグナムは語った。

「そうだ。我等は主を守護する盾であり剣。主を守る事、それは即ち主の愛する物全てを守る事を意味している」
「立派な考えですね。その考え、参考にさせて貰いますよ」
「年の割りに硬いのだな」

 シグナムからはクロノは若輩者の様に見えるのだろう。だが、外見とは違い真面目だったのを知り、少し皮肉めいた事を言った。
 それで目くじらを立てるかと思ったが、それとは逆にクロノは苦笑いを浮かべていた。

「良く言われますよ。お前は年の割りに硬い奴だってね」
「あぁ、硬いな。それに、何処となくお前は此処に居る奴等に似ている気がする。そう、侍とか言う奴等とな」
「侍、かつて僕は一人の侍に教えられました。同じ後悔をするのなら、しないで後悔するよりもして後悔する方が良い。そう教えられました」
「いかにも侍らしい考え方だな」

 またしても彼女の皮肉だった。

「そうかも知れませんね。でも、僕はそんな侍の考え方は好きですよ」
「奇遇だな。私も嫌いじゃない。お前とは後で色々と語れそうだな」
「だったら、その為にも―――」
「あぁ、まずはこいつらを片付ける事からしなければな!」

 二人の頭の中に今の戦いの事など一切ない。あるのは戦いの終わった後の事ばかりだ。
 それは二人だけじゃない。恐らく此処で戦っている者達全てがそう言えるだろう。
 全ては明日と言う輝かしい日を迎える為に。その為に今日と言う死闘を勝ち抜く。
 それが、此処で戦っている者達全員が思っている考えなのである。




     つづく 
 

 
後書き
【次回予告】

 戦闘中にばったりと出会ってしまった少年クロノと美人剣士シグナム。なんと二人は出会ったその場で互いに恋に落ちてしまった。
 戦闘そっちのけで恋愛に没頭する両者。だが、世間はこの年の差カップルをどの様に見るのか?
 そして、二人が全く気にしていない戦いの結末はどうなるのか?
 次回が待ち遠しい限りである。

次回【熱愛発覚!? 美人剣士と少年執務官の危ない日常に24時間密着取材】

 お楽しみに!

新八
「いい加減嘘予告するの止めません?」 
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