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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第七話

「ずっと……ずっと思っていたんだ。なんで父さんと母さんは死んだのかって……。あの時……あの日……俺が二人にアレを薦めなかったら……二人は死んでなかったのかなって」
 俊司が二人が死んだことを知ったのは、中学校の卒業旅行から帰ってきた日だった。死因は二人とも出血多量によるショック死。二人の遺体は俊司達の町からそう遠くない山の入口で見つかった。
 当時俊司と妹の鈴は二人が新婚旅行に行っていなかった事を理由に、夫婦みずいらずの旅行に行くことを薦めていた。丁度俊司は学校の友人と卒業旅行へ、鈴も田舎のおばあちゃんの家へ友人とお泊りに行く予定があり、その間ゆっくりできるのではと考えていたのだ。日数は少ないため外国へとは行かないが、日本国内ならばちょうどいいくらだろう。
 最初は別にいいと言っていた二人だったが、どうしてもと言ってくる二人におされ申し訳なさそうにしながらも旅行に行くことになった。行き先も家族で決め、まるで家族旅行に行くかのように全員で準備をして、当日笑顔で二人を見送る。三日後の夜には笑顔で旅行の土産話をする予定だった。
 それから三日後、家族で過ごすはずだった最高の日は、永遠の別れを告げられた最悪の日と変貌する。
 俊司と鈴が帰宅しても修一と涼子が帰ってくることはなかった。二人が車で出て行ったこともあって渋滞に巻き込まれているのだろうと考えた二人は、内心心配になりながらも二人の帰りを待ち続ける。それから電話がかかってくるまでそう時間はかからなかった。
 連絡を受けた二人は急いで警察署に向かった。そこで報告を受けた二人は、頭の中が真っ白になり何も考えられなくなった。それから二人の遺体を見せられた時、始めて悲しみと憎しみで涙が目からあふれ出していた。
 その日以来俊司と鈴は自分達を責め続けていた。自分達が二人を旅行に行かせたから死んだのではないかと思ったからだ。それでも二人はぽっかりとあいた日常を過ごすしかなかった。
 そんな彼らを救ったのは一枚の手紙だった。差出人の名前はなくただ俊司と鈴に当てられたその手紙には、まるで修一と涼子が書いたかのような書き方で書かれており、残された二人に向けての温かい言葉が記されていた。それを見た二人は……言うまでもなくその場で泣き崩れ、そしてこの二人を失望させないように生き続けると誓った。
「なあ……もしかしてその手紙だしたのって……紫なのかなぁ?」
「……そうだろうな。あの二人の最後の言葉を聞いたのは私と霊夢、そして紫だったんだからな」
 紫なら二人に似せた手紙を書いて外の世界の俊司達に渡すことはできるだろう。それに幻想郷の異変に巻き込んで無関係だった外来人が死んだとなると、幻想郷の賢者でもある彼女は責任を重く感じていたはずだ。
「なあ魔理沙……父さんと母さんは最後になんて言ったんだ?」
 そう尋ねてみると魔理沙はうつむきながら答えた。
「……自分達が死んだ事を知れば、子供達は自分自身を責めるかもしれない。だから……もしそうなってしまったら、二人を正しい道に連れ戻してほしい。そして……私達が見守れなかった分、二人を見守っていてほしい。そう言っていたよ」
「そうか……ありがとう」
 俊司は一度礼を言った後、しばらく一人にしてほしいといってどこかに行ってしまった。
「俊司さん……」
「今はそっとしておいてあげましょう。心配いらないわ」
 妖夢は心配しつつも俊司が戻ってくるのを待つしかなかった。

「……はぁ」
 図書館の中にあったある一室の中で、俊司は静かに溜息をついていた。ずっと心の隅で考えていた両親の死。この世界を守るために戦って死んだ。それを知っただけでも心のもやもやははれてはいたが、そこに出来あがったのはぽっかりと空いた穴だった。
 自分は両親のために何をすればいいのか。残された自分が二人を安心させる方法はあるのか。俊司は座ったまま無意識に考え込んでいた。
「俺が……できること……」
「その答えはもう見えているんじゃないか?」
 ふと顔をあげてみるとそこには白い靄のような物体が浮かんでいた。そこから聞こえてくるのは何度も聞いたことのある男の声だった。
「今日は直接ですか……」
「なに、いつもお前の頭の中にいるわけではないからな。訳あって姿は見せられないが……」
「あんたちゃんとした姿があるのかよ」
 俊司は苦笑いをしながらそいうと、大きく深呼吸をして立ちあがった。
「で? 何を言いに来たんだ?」
「さっきも言ったはずだ。もう答えは見えてるんじゃないのかと」
「答え……」
 落ち着いて考えてみれば簡単なことだったのかもしれない。俊司はこの世界に来てからこの世界を守る事を決めた。両親もどういった経緯でそう考えたかは分からないが、この世界を守るために戦うことを決意している。親がそうだったように子も同じ道を進むのは必然的だったとも言えよう。ならやれることは一つ。彼なりに進むべき道へ進むだけだろう。
「そうだな……俺はこの世界を守るって決めた。だったらその道を突き進んでいくよ。悔いのないように……後悔しないように……父さんと母さんにがっかりさせないように」
「それでいい。それでこそ死んでいったものが報われるものだ」
「あんた……まだ正体を教えてくれないのか?」
「……もう少しだな。もう少ししたら教えてもいいだろう。じゃあな……」
 目の前の靄はそう言い残して静かに消えていった。
 自分の進むべき道を確信させた。修一と涼子が俊司達を思ってくれていることも再確認できた。ならあとは実行に移すだけだ。
「父さん母さん……見ていてくれ。俺が決めた道を……俺が守ると決めた世界を……」
 俊司はポケットから一枚のカードを取り出すと、静かに目を閉じてカードに念を入れ始める。
 しばらくするとカードから青い光が漏れ始めた。カードには少しずつ絵柄が移され、文字も大きく写り込んでいく。そこには決意『守ると決めた日』と書かれていた。

「……ただいま」
 スペルカードが完全な光を宿した後、俊司はみんなのもとに帰ってきていた。
「俊司さん……」
「ごめん妖夢。俺はもう大丈夫だからさ。」
 そう言って笑顔を返す俊司。それを見た妖夢達は静かに安堵の溜息を漏らしていた。
 その後、俊司達はお茶を飲みながらつかの間の休息を楽しんだ。まだ挨拶をしていなかったフランもいつの間にか参加しており、俊司の横をべったりくっついて離れようとしていなかった。そんな彼女を妖夢が羨ましそうに見ていたのは言うまでもないが。
 ティータイムを終えると、俊司と妖夢は次の目的地である守矢神社に向かうことにした。紅魔館を出る際にレミリアに天界への攻撃の事を伝え協力を仰いでみると、レミリアは当然のように協力してくれると言ってくれた。それまではしばらく別行動になるらしいが、主に相手の戦力確認と対策を考えるとのことだ。しばらくは革命軍の侵攻もないだろうし、なにか起きない限りはピンチにならないだろう。
 俊司は改めてよろしくお願いしますと頭を下げてから、守矢神社に向かうのであった。
 
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