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赤城と烈風

作者:fw187
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冬の戦争
  ハンシン・ユッカ

 
前書き
改定前 

 
 1940年1月末、改造の完了したハンシン・ユッカ号が森と湖の国へ到着。
 自ら操縦を担当する機長、カルル・グスタフ・フォン・ローゼン伯爵がフィンランドに足を踏み入れました。

 既にフォッケウルフfw187、(ファルケ)の活躍はフィンランド中に知れ渡っています。
 会う人々は皆、彼に感謝の言葉を贈りました。

 クルト・タンク技師を始めとするフォッケ・ウルフ社の関係者、ドイツ空軍将校達は事情を伏せました。
 伯爵が個人的に奔走し新鋭機を調達、フィンランドへ贈ったと思われていたのです。


 ドイツ人達に取っては誰の功績かは問題ではなく、要はfw187の逆転採用を勝ち取る事です。
 勝手な行動を取ったと発覚すれば、却って逆効果となりかねません。

 fw187は闇に葬られてしまう事にもなりかねず、慎重に情報工作を行う必要がありました。
 事情を知るフィンランド、デンマーク、スウェーデンの空軍関係者も同様です。

 伯爵が単機爆撃を強行すれば、撃墜される事は眼に見えています。
 已むを得ぬ措置、と関係者全員が認識を共有していました。


 フィンランド空軍戦闘機隊は1対10の劣勢を強いられ、苦闘を続けている真っ最中です。
 ハンシン・ユッカ号を護衛する余裕はありませんが、名誉を重んじる伯爵は出撃を頑強に主張。

 空戦の実状を知る皆が伯爵に爆撃中止を勧め、説得しようと試みますが。
 誰一人として、彼の決心を変える事は出来ませんでした。

 困惑する関係者達の前に、1人の知恵者が現れました。
 彼は或る人物に面会し、協力を求めます。 



 単独爆撃行の準備を精力的に進める伯爵の前に、思いがけぬ人物が現れました。
 フィンランド軍を指揮する総司令官、カール・グスタフ・エミール・マンネルハイムその人です。

 祖国防衛の指揮を執る伝説の人物が激務の合間を縫い、伯爵に会う為に駆け付けました。
 共通する名前を持つ2人は瞬く間に意気投合し、固く再会を約して別離を告げる事となりました。

 フィンランド軍の総帥マンネルハイムは、伯爵に或る頼み事をしていました。
 スウェーデンの伯爵は約束に応え、誠実に行動します。


 伯爵が慰問に訪れた病院には、爆撃や戦闘で負傷した人々が苦痛に呻いていました。
 負傷者達は彼が爆撃機を退治する戦闘機を贈ってくれたと信じ、自らの苦痛を堪えて感謝の詞を述べます。

 病院の医療設備は爆撃で破壊され、満足な治療は不可能でした。
 通常の医療であれば救える筈の生命が、次々に喪われています。

 危険を冒して治療に当たる人々の苦渋と無念は、伯爵の胸に突き刺さりました。
 彼は最前線で戦い抜き、1人でも多くの敵を斃す事こそが名誉との信念を翻します。


 ハンシン・ユッカ号は元々爆撃機ではなく、全金属製単葉引込脚の双発旅客機を改造した物です。
 合州国のダグラス社が製造したDC-2は、有能な双発旅客機として知られていました。

 フィンランドの人々を救う事は全てに優先する。
 伯爵は自らの信念に基き、決断を下します。

 爆撃を中止し、1人でも多くの負傷者を安全な母国へ空輸する。
 ハンシン・ユッカ号は、負傷者をスウェーデンに送る為に使用する。



 往復の際には医薬品や栄養食品、暖房器具及び燃料を極力多くフィンランドへ届ける。
 行動力に富む伯爵は即刻、動き始めます。

 全ての病院に連絡が廻され、負傷者の数と不足する医薬品等のリストが作成されました。
 操縦経験を有する多くの人々、両国の政府も協力し空輸作業に精通する搭乗員達が集められました。

 フィンランド航空は、ユンカースJu52/3M中型輸送機を2機しか保有していません。
 輸送力の不足に苦慮する彼等に取り、ダグラスDC-2の輸送参加は干天の慈雨とも思える有難い申し出でした。


 伯爵は自ら操縦桿を握り、出来る限り多くの負傷者を乗せて離陸します。
 めざすは飛び慣れた母国の空であり、無事に着陸する運びとなりました。

 空港には連絡を受けた医療関係者達が、今や遅しと到着を待ち受けています。
 機体から現れた負傷者達は救急車に乗せられ、直ちに病院へと運び込まれます。

 設備の整った国立病院で緊急手術が行われ、負傷者は危機を脱しました。
 多数の負傷者が手厚い看護を受け、生命を取り留める事となりました。


 伯爵は機体の点検が済むと、再び操縦桿を握ります。
 既に隣国から一覧表が送られ、梱包された医薬品や栄養食品と暖房器具及一式び燃料が満載されています。

 ハンシン・ユッカ号は離陸し東へ旋回、戦渦に覆われるフィンランドへ向かいます。
 何度も往復が繰り返され、参加を申し出た操縦経験者達と共に伯爵は操縦桿を握りました。

 数多の負傷者と無数の援助物資が、フィンランドとスウェーデンを行き交いました。
 有能な輸送機DC-2は実力を遺憾無く発揮し、補給に貢献し黙々と後方支援を担当します。



 森と湖の国を支える為に尽力するハンシン・ユッカ号は、軍用輸送機としても本領を発揮しています。
 或る時スウェーデンからフィンランドへ向かう途中、バルト海の上空でソ連空軍の双発爆撃機SB-2と遭遇。

 フィンランド空軍は救援要請《S・O・S》を受け、戦闘機を緊急発進《スクランブル》させますが。
 孤立無援のハンシン・ユッカは銃撃を浴び、絶体絶命の危機に曝されました。

 非武装のユンカースJu52/3M中型輸送機であれば、抵抗する術も無く撃墜されていた筈です。
 仮装爆撃機に改造されていた伯爵の愛機は、懸命に旋回機銃を撃ち捲りました。


 思い掛けぬ必死の抵抗に遭った双発爆撃機SB-2は、本職でない為か数分後には銃撃を中止。
 fw187(ファルケ)の到来を警戒した敵機は姿を消し、致命的な被弾を免れています。

 双発旅客機は被弾炎上を免れますが、片方の発動機は銃撃を受け息を引き取りました。
 伯爵は慣れぬ片肺飛行に挑み、ハンシン・ユッカを懸命に操り窮地を脱する事に成功。

 森と湖の国に不時着し海没を免れ、戦火の下で待ち侘びる人々に貴重な補給物資を届けています。
 連絡を受け撤去された旅客機用の設備、ネジ1本に至るまで総ての部品が急送されました。


 伯爵の愛機は早速タンペレ修理工場に運び込まれ、飛行機の構造に精通する達人(マニア)達が最優先で作業。
 経験を積んだ整備員達は傷付いた機体を舐める様に調査解析、天才的な技量を発揮し修復に取り組みます。

 製造元の修理工(メカニック)も呆れる程に精緻な寸法測定を実施、損傷箇所に適合する部品を捜索。
 常軌を脱した執念と世界最高峰の技術が結集され、努力の成果が実り代替品が発見され修理交換を強行。

 フォッケウルフ社から派遣された几帳面なドイツ人の技術者達も、フィンランドの天才達には脱帽です。
 有能な双発旅客機ダグラスDC-2特殊改造型、ハンシン・ユッカ号は森と湖の国へ空輸を再開しています。 
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