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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第41話 桃黒戦争決着!!どうしてこうなった?

 こんばんは。ギルバートです。どうしてこうなったのでしょうか? 私は鼻血を治療しながら、漠然と考えてしまいました。私の後ろではカトレアが、嫌がるティアに無理やり服(私が製作したカトレアのシャツ型予備寝間着)を着せています。

「こんな煩わしい物等、着ていられんわ!!」

「良いから着ていなさい!! 慎みは大切よ」

(どの口がほざくのでしょうか?)

「ギル?」

「なんでもありません!!」

 カトレアの殺気が凄い事になっています。とても逆らえません。

「この服、胸がキツイのじゃ」

「!!」

 あっ、カトレアが絶句しています。

「胴回りは余っておるし……胸ほどではないが、尻も少しキツイのう」

 ティア。それ以上は止めてあげてください。

「主。服を着たので、こちらを向いても良いぞ」

 許可が下りたので、ティアとカトレアの方に向き直ります。ティアはベッドの上に胡坐をかき、腕を組み挑戦的な笑みを浮かべています。大きな釣り目は、自信に満ち溢れていました。(パジャマの胸部分が、はちきれそうになっているのは見なかった事にしておきます)

 一方カトレアは、ティアの隣でうずくまり落ち込んでいる様です。

「あー カトレア。大丈夫ですか?」

 取りあえず、落ち込んでいるカトレアに声をかけます。ついでに(原作を見る限り、ちゃんと成長するから大丈夫なのです)と、心の中でフォローも入れておきました。

 ティアが少しムッとしている様ですが、カトレアを放って置く訳には行きません。

「ギル」

 カトレアが顔を上げ、うるんだ瞳ですがる様な視線を向けて来ました。そんな目で見られたら、今すぐ抱きしめたくなってしまいます。

「カトレ……」

「主!!」

 はい。ティアから待ったが入りました。まあ、私も木の股から生まれた訳ではないので、ティアが何故止めに入ったかは分かっています。と言うか、ティアが人間に変化した時の状況を考えれば、分からない方がどうかしています。過去(マギの時)に、これ程もてた事など無いのです。(相手が覚(妖怪)と韻竜では、何処まで喜んで良いか微妙ですが……)

「ギル?」

 私の思考を読み取ったカトレアが、先程と打って変わって冷たい視線を向けて来ました。妖怪と言う思考が、お気に召さなかった様です。状況の変化について行けないティアは、ただ眉をひそめる事しか出来ません。

「この程度で怒っていては、心を読めるという特性上、私との恋人生活……延いては、夫婦生活などとても出来ませんよ」

 私はさらっと言ってのけます。カトレアは眉間に皺を寄せましたが、ティアも自分が全くついて行けない状況に、機嫌が急降下中の様です。

「カトレア。ティアは私の使い魔です。私の妻になるなら、ティアとの友好的な関係は必須事項と思いますが……」

 カトレアが不機嫌な顔をして、そっぽを向きました。

「ティア。カトレアは私の妻になる女です。私の使い魔としてやって行くなら、カトレアとの友好的関係は絶対に必要です」

 ティアの目が更につり上がり、眉間に深い皺が寄りました。

「私の言葉が理解出来たなら、仲直りの握手をしてください」

 私の言葉に2人は、不承不承と言った感じを隠そうともせず握手をしました。すると握手の途中で、2人の顔が引き攣った笑顔に固定され、手を放そうとしないのです。不思議に思って良く見ると、お互いの手を握り潰そうとしていました。(ずいぶん体育会系な事をしますね)

 私は溜息を吐くと「はい。それまでです」と言って、2人の手を放させます。手を放した後、カトレアが握手した手をさすっていたので、力はティアの方が強いみたいですね。しかし……。

「2人とも……」

 埒が明かない事に怒りを覚えた私は、怒気を乗せた視線を2人に向けました。しかし2人は、視線を私と合わせようとしませんでした。

(本当に埒が明かないですね)

 そう感じた私は、2人を抱き寄せます。

「ギル!?」「主?」

 そのまま2人を担ぎあげると、ベッドから降り歩き始めました。

「ギル!! 降ろして」「主」

 ティアは大人しくしていますが、カトレアは嫌がって暴れます。

「暴れると(頭から)落としますよ」

 私の一言で、カトレアが大人しくなりました。流石に女性2人を担ぐとなると、鍛えているとはいえ10歳の子供の肉体では辛いのです。と言うか、担げるだけでも凄いです。(マルウェンの首輪のおかげですね)

「ギル。何処へ行くの?」

 カトレアの質問を黙殺して、廊下に出て向かった先はカトレアに割り当てられた部屋です。そのまま部屋に入り、ベッドの上に2人を降ろしました。カトレアは私の頭の中を読み取ったのか、涙を浮かべ首を横に振っています。一方ティアは、訳が分からず不安そうな顔をしていました。

「カトレアとティアが仲良く出来ないなら、仲良く出来るまで私の部屋への入室を禁じます。2人は仲良くなるまで、ここで一緒に寝てください」

 私は笑顔で言ってあげました。そして……。

「もし私の言いつけを破ったら」

 そこで何故か、カトレアがガタガタと震え始めました。そんなカトレアの様子に気付いたティアは、盛大に顔を引き攣らせます。

「罰を与えます」

 とびきりの笑顔で……。しかも、平坦な声で言ってあげました。何故か2人は首を必死に縦に振っています。分かってくれたなら良かったと思い、私は自分の部屋に戻りました。今後、ゆっくり眠れる日が増えそうです。

 と思いましたが、前言撤回します。ベッドに横になって気付きましたが、もふもふ分が全然足りないのです。物凄く寂しいでのす。代替えの人形でも作ろうかな……。割と本気で。



---- SIDE ティア ----

 如何してこうなったのじゃろう? 言わずとも、隣で呆けておるバカ女との喧嘩が原因なのじゃが、とても納得出来ぬ。

「おい。色ボケ。主の前だけでも取り繕う事を提案するが」

 吾の言葉に、女が眦を釣り上げながら反応する。しかし、すぐに首を左右に振り冷静さを取り戻しおった。

「ダメよ。表面だけ取り繕っても、ギルにはすぐに気付かれるわ」

 色ボケが顔を青くしながら、首を左右に振りおった。確かに主の様子から、隠し通せるとはとても思えぬし、そのような事がばれたら如何なるか分かった物では無いのは事実じゃ。

「何か代案はあるのかの」

「代案以前に、私達の折り合いさえつければ良いわ。それさえつけられれば、ギルが怒る理由は無いわ」

 意外に冷静じゃ。状況も見えておる。どうやら吾はこの女を過小評価しておったらしい。……色ボケは撤回するべきか?

「どの様に折り合いをつける心算じゃ?」

「徹底的に話し合うしかないでしょう。私は妻として、貴方は使い魔として、お互い引き返せない所まで来ているし、……引き返す気も無いのでしょう?」

 真顔で感情の無い答えを返して来おった。冷静……いや、もはや冷徹と言っても良い。吾の隠れた心をえぐり出した時が、まるで嘘の様じゃ。いや、今の方が本性じゃな。となると、この女にとって主への思いは、それほどまでに深く重いと言う事になる。

 何れにせよ、色ボケは完全に撤回じゃ。この女は間違いなく、主の前では猫を被っておる。何故あのような猫を被っているか、聞き出さねばならぬがそれは後じゃ。

「当然じゃ」

「私は譲る気は無いわよ」

 感情の無い声が帰って来る。やはり強敵じゃ。吾は油断せぬように、心を引き締めてかかる事とした。



 2時間ほど話し込んだじゃろうか? 吾は先程感じた物が事実である事を知った。女は要所要所で、感情を露わにしおった。その度に首を左右に振り、深呼吸をして感情を落ち着かせておる。

 所作や感情を露にする状況・言葉から、この女の性格や主をどの様に思っているか情報は集める事が出来たが、肝心の話は平行線じゃった。

(この女が主に向ける思慕は、凄まじいの一言じゃな。いや、もはや妄執と言っても良いかもしれぬ)

 吾は忌憚なくそう思った。と同時に、何がこの女をここまで駆り立てるかが理解出来ぬ。それを理解出来れば、この話し合いで優位に立てるやも知れぬな。この女は主の心が読める事に、大きな自信を持っておる。と同時に、その事に大きな不安を持っておる様じゃ。ならばその辺りをゆさぶり、本心を引き出すのが良いか……。

「ふんっ!! (なれ)では、主の事を何処まで理解できているか疑問じゃな」

「それって負け惜しみかしら? 私ほどギルを理解出来る人はいないわ」

 女の顔は自信に満ち溢れておる。

「それは主の心を読めるからじゃろう」

「そ そうよ」

 一瞬揺らいだな。ここから、更に踏み込む。

「主の秘密を知っているだけで、本当に理解していると言えるのかの?」

「理解しているわ」

 揺らぎが消え、自信たっぷりに答えおった。どうやらこの部分は関係ない様じゃ。

「主の頭の中を覗いているくせに良く言うわ」

 女の笑みは崩れぬな。主の頭の中を覗く事に、罪悪感は無い様じゃ。この様子では、主も頭を覗かれる事に嫌悪感は無さそうじゃ。ここが一番怪しいと思っておったのに……困ったの。

「まあ、コントラクト・サーヴァントしてしまえば、吾も人の事は言えぬがな」

 女の心臓が跳ねおった。表情や所作に一切出さずに。如何言う事じゃ? 吾がコントラクト・サーヴァントをすると、この女に何か不都合でもあるのか? 考えられるのは契約の際の接吻か? 主の頭の中にこの女にとって不都合な物があるか? いや、これまでの話の流れでそれは無い。となると、この女の力とコントラクト・サーヴァントで決定的に違う物がある? そこに閃く物があった。

「じゃが(なれ)と違って、コントラクト・サーヴァントでの契約後は、吾と主の間に秘密など存在せぬからの」

「それは……」

 この女の心を読む力は、コントラクト・サーヴァントによる繋がりもはるかに強い。しかし、その力は何処まで行っても一方通行じゃ。

 ……やはり正解じゃな、女が動揺し始めおった。

「吾は汝の様に、主に秘密を……」

「ち 違う!! 違う!! 決めつけないで!!」

 女の口から飛び出したのは、反論では無くただの感情であった。こうなれば勝負は決まったも同然じゃ。

「何が違うのじゃ? 一方的に、主の頭の中を覗いているだけのくせに」

 女が「違う!!」と繰り返し、喚きながら頭を振る。

「明日にでも、主とコントラクト・サーヴァントするとしようかの。そうすれば(なれ)は用済みじゃ」

 吾が勝ち誇った様に言うと、女の動きが止まった。

「……ない」

 女の口から何か言葉か漏れたが、かすれていて聞き取れぬ。

「……させない。絶対にさせないんだから!!」

 コントラクト・サーヴァントを妨害する気か。それが発覚すれば、主に嫌われるのは目に見えておるのに……。

「主に嫌われたく無くば、止めておくのじゃな」

 吾は余裕を持って答えたが、女は必死に逆転の目を考えておる様じゃ。

「如何すれば……如何すれば、私は捨てられない……? 私がギルを呼び出せば……」

 女がブツブツとつぶやき始める。

「ダメ。私は虚無じゃない。なら……」

 女の視線が、あり得ない事を語っておった。吾を呼び出せるメイジが、そうそうおるとは思えぬ。そしてそれは、この女も例外では無かろう。なにより吾は主以外の者と、契約する気は無いのじゃ。

「そうよ!! 私なら出来るはず」

 女は完全に正気を失っておるな。冷静にせねば話しにならぬが、この様子では吾が何を言っても逆効果じゃ。今日の所はここまでにすべきか?

「二重契約。あり得ない。でもそれ以外は……」

 また、女があり得ない事を呟きおった。視野狭窄におちいり、冷静な判断も出来なくなっておる。今日はもう話にならぬと判断し、ベッドより立ち上がった。主の言いつけではあるが、この女と共に眠る等我慢ならぬ。吾はベッドから降りて、歩こうとした。(人間の体は歩き辛い。猫の姿に戻ろうかの?)

「我が名はカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 四苦八苦しながら数歩進んだ所で、女の声が響いたのじゃ。

「五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召喚せよ」

 それがサモン・サーヴァントの呪文と気付き、止めようと振り向いた時は既に銀色の扉が現れおった。主に「カトレアに絶対に魔法を使わせないでください」と、言われておったのに不覚じゃ。

 しかし、吾は固まっている場合では無いのじゃ。女が魔法を使ったら如何なるかは、主に良く聞いておる。追い詰めたのが吾である事を考えると、こうなったのは吾の責任じゃ。早く水の秘薬を飲ませて、女の体調悪化を軽減せねばならぬ。吾は水の秘薬が入った薬箱を探して、部屋の中を見回すと……。

「なっ!!」

 吾の真後ろ……いや、先程まで向いて居た方に銀色の扉が在った。再び女の前を見ると同じ扉がある。

(あの女!! 吾を引き当てたのか!? 信じられぬ!!)

 しかし、更に吾を驚愕させる事実が存在したのじゃ。そう、それは扉に感じる感覚じゃ。吾は“ゲートに召喚者の雰囲気……イメージの様な物が映されておる”と、主に言った事がある。実際主の時に感じたのは、深い共感と暖かさじゃった。当然今回のゲートも例外ではない。

 しかしこのゲートに感じるのは、あの女のイメージであるにもかかわらず、主の時を遥かに超える共感じゃった。このまま何も考えず、ゲートをくぐってしまいたいと思うほどに。

 吾がゲートを前に呆けておると……。

 トンッ。

 突然背を押されたのじゃ。人の体に慣れぬ吾は、碌に抵抗する事も出来ずゲートに吸い込まれる。犯人が誰なのかなど言うまでも無かろう。

 気付いたら吾は、先程のベッドの上に座りこんでおった。召喚のゲートを慣れぬ身体でくぐった所為か、目が回り身体に力が入らぬ。己が身体の状態を確認しておると……。

 ギシィ。

 ベッドが軋む音がし、音の方を向くと、あの女が吾に手を伸ばしている所じゃった。当然、今の身体の状態では、抵抗出来ずにベッドに押し倒される。

 女は吾の体に覆いかぶさり、吾の足の間に身体を滑り込ませる。押し返そうと試みたが、やはり抵抗らしい抵抗にならぬ。そこであの女の顔を見た吾は、また驚かされた。顔色はまるで死人の様に真っ青で、脂汗が浮かび呼吸も荒くなっておった。

(不味い!! この女に死なれては困る!!)

 しかし、如何する事も出来ず……。

「わ 我が名は カトレ ア・イ ヴェット・ラ・ボー ム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァ リエール。五つの 力を司るペン タゴン。この者 に祝福を与え、我の使 い魔と なせ」

 女が途切れそうな呪文を唱え、吾の唇を奪いおった。そしてその場で力尽き動きが止まった。グッタリとしてはおるが、生きておる様じゃ。荒いが息もしておる。

「……がぁ ぁああ」

 そこで吾の体を、激痛が襲いおった。痛みのあまり女をはねのけ、一番痛む右肩……いや右腕の付け根を左手で抑える。歯を食いしばり耐えていると、すぐに痛みはひいたのじゃ。袖をめくり確認すると、右肩から肘にかけてルーンが刻まれておった。

(これで吾は、この女の使い魔か)

 そう思うと、望まぬ契約を強いられた事に怒りを覚えたのは必然と言えよう。それはもはや、殺意と言って良いかも知れぬ。この女をくびり殺してやりたいと言う衝動に駆られたが、ルーンが反応し吾の怒りは霧散し消え失せた。

(……ルーンによる強制力か。じゃが今は、冷静になる助けとなったと考えておこう)

 吾はカトレアをベッドに仰向けにし、状態を確認する。

(危険な状態じゃ)

 すぐに周りを確認して、ベッドの脇に秘薬が入った薬箱を見つける。薬箱から水の秘薬を取り出し、瓶のふたを開けるとカトレアの口に突っ込んだ。しかし、秘薬の殆どがカトレアの口よりこぼれてしまう。

「チッ……世話の焼ける」

 2本目の水の秘薬を取り出すと、カトレアの口から秘薬の瓶を引っこ抜く。そこでためらった吾は、けして悪くないと断言するのじゃ。

「一度も二度も同じじゃ!!」

 吾は水の秘薬を自らの口に含むと、カトレアの口に流し込み無理やり嚥下させる。と同時に、吾に流れ込んでくる物があった。それはカトレアの記憶じゃった。2本目の秘薬を全て嚥下させた所で、カトレアが主に告白した所まで流れ込んで来おった。そして、“原作知識”と言う名の爆弾には吾も度肝を抜かれたのじゃ。この時点で、先程感じた共感の理由は痛いほど良く分かったのじゃ。

 それよりもカトレアの容体を確認して……。

「足りぬな」

 吾は3本目の秘薬に手を伸ばした。そして先程と同じ様に秘薬を嚥下させる。と同時に、またカトレアの情報が吾に流れ込んで来た。



 ギルに告白した。返事は聞かなかったけど、絶対に良い返事が聞ける確信が私にはあった。もちろん理由は幾つかある。

 ギルは心が読めると言う事実に、困りはしても嫌悪感は抱かなかった。最初に抱いていた私への恐れも、消えていたのも嬉しい。……厄介だとは思っているみたいだけど。

 そして、ギル自身はどう思っているのかは、私にとってこの上ない結果が出たと言っても良い。

 ギル自身は、無意識の内に“原作知識”という重過ぎる重圧に苦しんでいた。それは当然だろう。世界と言う重圧を背負い、誰にも相談出来ないのだから。そして“登場人物”である私達に、大きな引け目を感じている。最初は絶望感に苛まれていた様だが、知ってなお側に居ようとする私を、無意識に求める様になっていたのだ。

 だから、ギルには私しか居ない。

 いずれギルは、私と言う存在を渇望する様になる。

 ……私はこの時そう確信していた。

 ギルが領地に帰り、私はこれからどうすべきか考えた。ギルと幸せに暮らすには、現状でまだまだ問題が多過ぎる。特に現ドリュアス家に、敵が多過ぎるのが問題だ。ギルはドリュアス家の立場を確立し、屈服させるには高くつくと敵に認識させ争いを避ける心算の様だ。なら、私も未来の妻として、出来る限りの支援をするのは当たり前だろう。

 最初に行ったのは、マギ商会への支援だった。直接的な支援は、周囲の反感を買う為出来なかったが、私に出来る限りの事はさせてもらった。

 一番印象に残っているのは、やはり木炭の一件だろうか。

 ドリュアス家が木炭の生産を始めたと知った私は、時代遅れ燃料になった木炭のイメージを変える手伝いをする事にした。工業用燃料としての立場をコークスに奪われ、その価値を大きく落とした木炭だったが、ギルから得たマギ知識で家庭用燃料としての素晴らしさは知っていた。私はその素晴らしさを、一部の者達に吹き込んだのだ。その殆どがギルの売り文句に含まれた情報だったが、ちょっとした手助けにはなっただろう。実際に商人の売り文句と、貴族……しかも公爵家の感想ではその説得力が天と地ほどにも違う。予想外に大事になりちょっと怖くなったのは秘密だ。マギ商会の対応の早さには、正直驚かされた。あとは、食事の質が上がったのが個人的に嬉しかった。

 後印象に残っているのは、マギ商会とは関係ないが、領地運営の手伝いに補佐官を派遣した事だ。

 精霊と契約し新しい領地を得て、突然ドリュアス家の領地対応が鈍くなったのだ。報告を受けた私は、お父様にお願いして、信用出来る優秀な補佐官を派遣してもらった。

 結果は最高だったと言える。補佐官は運営体制を上手く改善し、ドリュアス領主一家の負担を大幅に軽減して見せたのだ。当初の目論見を超え、ギルへの最高の支援になった。このおかげで、別荘に呼んでもらえるのが早まったのは、この上ない幸運だったと思う。

 ギルへの支援は、私に出来る最高の事が出来たと自負している。

 しかし私は、“原作知識”と言う名の禁断の果実を食べてしまっていた。それが猛毒であると気付いたのは、ギルが帰って暫くしてからの事だった。

 この時私は、もっとギルに好かれる女になりたいと思い、原作の私について考えてしまった。“原作の好きなキャラ”のトップクラスに、自分の名前があったのでそれは当然の行為と言えたと思う。

 しかし原作の私(ギルに出会わなかった未来の私)に、私は疑念を持ってしまった。その疑念は徐々に膨らんで行き、やがて私を戦慄させる事になったのだ。

……原作の私は、たくさんの動物達に好かれ連れていた。
 この私は、人と向き合うのに疲れていたのではないだろうか? 裏表のある人間の相手に疲れ、正しく好意を示せば純粋な好意が返って来る動物に逃げたのかもしれない。

……原作の私は、ルイズとサイトの関係を助ける良き理解者だった。
 ある意味において、これは事実だろう。だが、この私は2人が結ばれる事により、ルイズと自分を重ね自分を慰めていたのかもしれない。ハッキリ言えば……代償行為だ。

……ルイズとサイトを逃がす為に、跳ね橋の鎖を《錬金》で柔らかい土に変えた。
 私が魔法をかけたのは、公爵家の門に使われる跳ね橋の鎖だ。当然あの鎖には、《固定化》の魔法が掛けられている。実際に確認をとってみたが、ラインクラスメイジの《固定化》が掛けられているそうだ。それを打ち破る程の《錬金》を使えば、私の体が如何なるかなど考えるまでも無い。死ななかったのが不思議なくらいだ。

……後に「お姉さんになってあげる」と言ってサイトを抱きしめた。
 サイトを慰めると同時に、彼がルイズの好い人であると言う意味がある。しかしその時に、サイトと抱き合ったルイズの気分を味わおうとしていたのかもしれない。

 考えれば考えるほど、本来たどる筈だった自分の未来が惨めな物に思えて来る。もちろん今の私の考えが、全くの見当外れの可能性もある。……いや、むしろその可能性の方が高いのだろう。しかし私は、今の考えが正しいと思ってしまった。

 ギルを好きにならなかった自分。ギルと出会えなかった自分。それは私にとって、絶望の象徴になってしまった。そしてその絶望は、ギルと上手く行かなかったらと言う可能性にまで及んだ。

 大丈夫だ。私にはギルしか居ない。だけど、ギルにも私しか居ないのだから。

 ……そう思っていても、やはり不安は消えない。それに、物語では無いので、結ばれてハッピーエンドで終わりでは無いのだ。その後の事も考え、ある程度素の姿を見せておかなければ、結婚後に関係が破綻してしまう。

 こうなったら、ギルの人格や隠れた性癖を突き詰め、恋人や妻として相性の良いタイプを調べるべきだろう。幸いな事に人を見る力のおかげで、比較する情報はかなり多いのだ。やってやれない事は無い。幸せになる為なら、手段なんて選んではいられないのだ。



 ……結果は、私を打ちのめすに十分な物だった。

 ギルが一番似て……と言うか、全く同じタイプだったのは、ギルのお父様のアズロック様だった。

 一言で言えば、女に振り回されて喜ぶタイプ。Mに聞こえるがちょっと違い、普段は女の我儘や手が出ても笑って許し、心の広さを見せ付ける事で満たされるタイプだ。しかしそれだけでは無く、時々性格が反転し物凄く意地悪になる時があると言うおまけ付きだ。ここらへんは、母親のシルフィア様の影響もあるのだろう。

 ちなみにアズロック様の場合は、ベッドの上で豹変する。しかも苛めた分だけ苛め返されるので、シルフィア様は普段からアズロック様にキツク当たる様になったみたいだ。ハッキリ言ってシルフィア様は、アズロック様に調教されたと言って良いと思う。

 流石親子と言えるかもしれないが、正直に言って、そんな所は父親に似なくて良いと思う。しかもこれは、私にとって非常に不味い結果と言える。理由は簡単だ。私の身近に、ギルとこれ以上ないと言って良い程に相性が良い人が居るのだ。……それも2人も。

 その2人とは、エレオノール姉様とルイズだ。(母さまもだが、ここは除外する)特にエレオノール姉様は不味い。普段高飛車で実は臆病な所など、ギルとの相性が良すぎる。姉様もギルの聡明な所を気に入っているみたいだ。何かの拍子に、全て持って行かれるかもしれない。

 ……ここは外堀を埋めて、周りから割り込まれない様にしよう。



 口を放しカトレアの様子を見る。どうやらもう危機は脱した様じゃ。吾はそのまま寝間着の袖で互いの口元を拭い、カトレアに毛布をかける。様子から察するに、これでもう問題無かろう。

(何か覗いてはいけない物を、覗いてしまった気がするのう)

 そして吾は無意識の内に、左手で使い魔のルーンを撫でておった。これでもう、主の使い魔になれぬのかのう。そう思うと悲しくなって来おった。

 カトレアは“原作知識”と言う、他に絶対に覆せない切り札があったのじゃ。それにも拘らず、主の争奪戦に負ける事を恐れておった。……そして現れたのが吾か。カトレアにとって、必勝だったはずの手札が全て上を行かれ、絶望を感じておったのじゃろうな。

 吾はそこまで考えて溜息を吐いた。

「未練じゃな。……カトレアの様に足掻ければ良かったのじゃが」

 そう呟いてから、もう一度溜息を吐こうとして吾の動きが止まった。

(本当に二重契約は、不可能なのかの)

 カトレアを通じて知った主の使い魔考察の中に、二重契約の可能性があった。机上の空論にすぎぬが、主との契約は不可能ではないのかもしれない。カトレアも根拠は無いが、確信めいたものがあった様じゃ。まして吾は、主にサモン・サーヴァントで呼び出されておる。行けるやもしれぬ。

 そして吾は、今の状況で主とコントラクト・サーヴァントした場合の可能性を考えたのじゃ。

 一つ目の可能性は、コントラクト・サーヴァント自体が発動しない可能性じゃ。この場合は、主と唇をかわせただけで良しとしておこう。

 二つ目の可能性は、コントラクト・サーヴァントが発動しルーンを刻む痛みに、吾が耐えられない可能性がある事じゃ。原作のサイトは、一度契約が断たれ再契約をしておる。しかし、一度に二つのルーンを刻んだわけではない。韻竜たる吾でも耐えられる保証など無い。

(つまり今の吾に求められるのは、主との繋がりを得るのに命を賭けられるかどうかじゃ)

 そこまで考えてから、吾は立ち上がり主の部屋へ足を向けた。

虚毒(こどく)……か」

 吾の口から、知らず知らずの内にその言葉が漏れておった。

---- SIDE ティア END ----

---- SIDE カトレア ----

 白い始まりの竜が居た。

 竜はその強大な力から王として君臨していた。

 好きに喰らい好きに滅するその姿は、まさに暴君と言って良かっただろう。

 そんな暴君にも、転機と呼ぶべき事件が発生する。

 それは、暴君に挑んで来た憐れな存在の最後の言葉だった。

「もう一度家族に……」

 普段の暴君なら、気にも留めなかっただろう。しかしその憐れな存在は、暴君に手傷を負わせるという快挙を成し遂げていた。暴君にとっては、100年に一度有るか無いかの珍事だった。故に暴君がそれに興味を持ったのは、必然だったのかもしれない。

 暴君は“カゾク”について調べた。

 しかし、調べれば調べるほど下らないと断じた。断じておきながら、調べる事を止めようとはしなかった。

 そしてまた転機が訪れる。

 暴君は空腹を感じ狩りに出た。その日の獲物は番のオスとメスだった。オスはメスを連れて逃げ回るが、暴君から逃げ延びる事は不可能だった。やがて体力が劣るメスが動けなくなり、暴君は食事に移る心算だった。しかし、まだ逃げる体力が残っているはずのオスが、逃げずに暴君に挑んで来たのだ。

 その顔は恐怖に歪んでいた。だのに目だけは、強い覚悟を湛えていた。何時か見た憐れな存在と同じ目だった。この時暴君は、獲物を前に初めて動揺した。

 そして、オスが滅茶苦茶に振りまわした棒が、偶然暴君の鼻面に当たった。暴君はそこで正気に戻ったが、もう食事をする気分ではなかった。

 巣に帰った暴君は理解してしまった。……暴君は孤独だったのだ。

 孤独は知ってしまった者にとって、孤独は虚毒(こどく)となる。心を侵し蝕む猛毒だ。

 その毒に耐えられなくなった暴君は、自らの力を分かち仔を生む事にした。分かたれた力は、火・水・土・風のそれぞれ言の葉を操る竜へと転じた。

 こうして暴君は母となったのだ。

 母に見守られ、仔は育ち新たな仔を産み一族となった。

 そして母は、力を分けた事により完全な存在ではなくなっていた。老いるはずの無い身体は老い、朽ちるはずの無い姿は朽ちて行った。そしてその先に待っているのは、……死だった。

 多くの仔に見守られ、かつて暴君と呼ばれた竜は息を引き取った。最後に母が仔達に望んだのは、火・水・土・風の一族の短所を補い合い、末長く幸せに暮らしてほしいと言う物だった。

 しかし仔達は、母の願いを裏切る事になってしまう。母と言う統率者を無くし、性質の違いから一族毎に分かれ争いを始めてしまったのだ。

 この争いを良しとしない者達は、争いを止める為の手段を考えた。そして行きついたのは、母の代わりになる者を作り出す事だった。四種族が母から分かたれた力から生まれたなら、四種族全ての混血は母と同じ存在と考えたのだ。

 しかし生まれた仔は、母の色である純白では無く漆黒だった。

 竜達はこの仔を最後の希望としていただけに、その絶望は大きかった。争いは止められるものでなくなり、多くの竜達の血が流れた。そしてこの歴史は、竜達の間で忌避され忘れ去られた。



 気が付いたら吾は1人だけじゃった。

 頼るべき親も……身内と呼べるものも存在しなかった。

 本来なら生きて行けずに、死をむかえるのが自然な事だったのじゃろう。しかし吾は、自らの生まれの秘密と生きる為の最低限の知識を、既に知っておった。これは吾の親が、精霊を介し吾に授けた物の様じゃ。その親も吾を逃がす為に、もはや生きていないのじゃろう。

 吾の生まれの秘密を考えれば、同族に見つかればただで済むとは思えぬ。しかし吾の漆黒の鱗は目立ち過ぎる。何かに《変化》するのが良いじゃろう。そこで吾は、最初に森で見かけた猫に化ける事にしたのじゃ。

 最初の数年間は飢えとの戦いじゃった。この身は本来韻竜じゃ。当然、存在感は半端ではない。少しでも気を抜けば、獲物に存在を感づかれ狩りは失敗じゃ。当然吾は腹を空かせ、食べられる実やキノコ等で飢えをしのいでおった。この時ほど、親が残してくれた知識に感謝した事は無いじゃろう。

 そして吾は狩りにも慣れ、飢えを味あわずに済むようになった。しかし吾は幼いとは言え、韻竜と言う規格外の存在じゃ。野生の獣は吾を恐れ、友と呼べるものは出来た試しが無かった。

 孤独は虚毒とは良く言った物じゃ。

 野生の獣は吾を恐れ、韻竜と対峙できる魔獣や幻獣からは敵として警戒され、人間は吾を売り物として欲した。(毛並みの良さが原因らしく、実際売り飛ばされたが即日逃げ出してやった。喋って獣人扱いされ、討伐対象になった事もあるが逃げ切ってやった)

 吾は話し相手を求め、さまよう様になっておった。

 そんな生活が、何百年……何千年経ったじゃろうか?

 突然吾の前に、銀色の扉が現れたのじゃ。

 その扉に感じたのは、深い共感と暖かさじゃった。そしてそれは、この扉の向こうに居る者から感じる感情じゃと気付いた。その瞬間、吾は扉に飛び込んでおった。



「今 見た夢 は……」

 私は起き上がり、ボーっとする頭をはっきりさせるよう努めた。

「私……生きている」

 そんな声が漏れてしまった。気を失う前に、自分がどれだけ無茶な事をしたか思い出すと、背筋が寒くなった。冷静では無かったとは言え、私はなんて事をしてしまったのだろう。

「ティア は……?」

 自分が無理やり契約してしまった相手は、部屋の中に居なかった。

「探して謝らないと」

 フラフラとベッドから起き出すが、身体がだるくてまともに動かせない。

「居るとすれば、ギルの所しかないわ」

 私はベッドに横になりたい衝動を抑え、ギルの部屋に歩き始めた。

---- SIDE カトレア END ----



 もふもふ感が足りない。

 おかげ様で全然眠れません。ヌコモードのティアちゃんカムバックです。(アナスタシア抱き枕でも代用可)と言うか、本当に禁断症状が出るかもしれません。……ヤバいです。

「代替え人形が冗談じゃ無く本気の話になりそうです」

 誰かに見られたら、変態扱いされそうですが背に腹は代えられません。いっそ開き直って、もふもふーで低反発な抱き枕を、本気で作るのも良いかもしれません。素材は……。

 真剣に抱き枕の製作を検討していると、部屋にキィーっとドアが開く音が響きました。そして、入って来たのは……。

「ティア? 如何したのですか?」

 人の姿を取るならノック位して欲しいです。礼儀作法を叩きこむ必要がありますね。それよりも私の言いつけを破って、ティアが私の部屋に入って来た事が驚きです。

「如何しても今直ぐしなければならない事が出来ての」

 私が不審に思っていると、ティアは危なっかしい足取りで私の所へ来てベッドへ腰かけます。

「しなければならない事とは、何ですか?」

 下らない内容なら、叩き出した上に明日お仕置きですね。

「コントラクト・サーヴァントをして欲しいのじゃ」

 ティアは簡潔に答えました。声にはふざけている印象は、一切ありませんでした。しかし、何故今なのかと言う疑問はあります。

「何故、今すぐなのですか?」

「今直ぐじゃ」

 私の疑問に答える心算は無いみたいですね。そしてティアの目からは、覚悟の様な物が伝わってきます。コントラクト・サーヴァントを後回しにしたのは、あくまで私の我儘からです。ティアが強く望んでいるなら、私には断る事が出来ません。

 私はそれでもあきらめきれず、ティアを説得しようと声をかけました。しかしティアは、頑として譲らなかったのです。(この様子では、いくら聞いても答えてくれませんね)

「分かりました」

 説得は無理と感じた私は、了承し枕元に置いてある杖を取ります。するとティアはベッドに上がり込み、私の前に座ると私の寝間着の裾を右手でつかんで来ました。

「ティア?」

 ティアの態度が本当におかしいです。

「主。早くしてくれ」

 しかしこのままでは、色々な意味でやりにくいのです。

「猫の姿にも……」

「早く!!」

 どうやらティアは、猫に戻る心算は無い様です。今のティアからは、必死さが痛いほど伝わってきますので、ここは言うとおりにする事にしました。……ティアの迫力に負けたとも言いますが。

「我が名は、ギルバート・アストレア・ド・ドリュアス。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 私が呪文を唱え終ると、ティアが私に覆いかぶさるように唇を重ねて来ます。そして頭が両手で固定され、唇を重ねたまま押し倒されました。私はあわててティアの両肩を掴み押し放します。

 私とティアの口が、唾液の糸を引きながら離れました。

 流石に悪戯が過ぎると思った私は、文句を言ってやろうとティアの顔を見て……言葉が続きませんでした。

 ティアは弱々しく微笑んでいたのです。儚げに……まるで死んでしまうかのように……。そして次の瞬間。

「がぁ ぁあ゛ぁあ゛ーーーーあ゛ぁ!!」

 ティアが左腕の付け根を右手で抑えながら、私のベッドの上でのたうちまわります。苦しみ方が尋常じゃありません。

「ティア!?」

 私が如何すれば良いか分からずにいると、ティアは苦しみのあまり上の寝間着を引きちぎりました。寝間着が布切れと化し、ティアの上半身があらわになります。

「ルーン!?」

 ティアの右肩から肘のあたりまで、既にルーンが刻まれていたのです。しかしティアが、痛みで抑えているのは、そのちょうど逆側の左腕の付け根だったのです。

「これは……」

 そしてティアの爪が、その美しい肢体に食い込み赤い筋を作り始めました。私はティアを引き寄せ、正面から強く抱き締めます。しかしそれで痛みが紛れるほど甘い状況では無かったのです。ティアは尚も暴れ、私はそれを懸命に抑えつけました。やがてティアは、私の寝間着を掴んで引きちぎり、終には私の背中に爪を突きたて始めました。

「ぐぅ」

 痛みの所為で、私の口からうめき声が漏れます。

 ……それからどれくらいの時間が経ったのでしょうか? ティアは痛みが引いた様で、暴れるのを止め純粋に私に抱きついて居ました。

「もう大丈夫ですか?」

 ティアは口を開かずに、僅かに頷く事で返事をしました。まだ喋るのは辛い様です。私はズキズキする背中を極力気にしないようにしながら、ティアの背中を優しく撫でました。するとティアは私に顔を弱々しく押し付けて来ます。猫の時と変わらぬ仕草ですが、今のティアは人間の姿……極上の美女なのです。互いに上半身裸で、胸が直に当たっているのです。しかも先端が固くなって……。

(気のせいです!! 意識してはいけません!! 理性が崩壊します!!)

 私が1人で己の本能と格闘していると、突然部屋のドアが開いたのです。

 ……ドアを開けたのはカトレアでした。

 さて、今の状況を整理してみましょう。

 私とティアはベッドの上で、(上半身)裸で抱き合っています。そして私の背中には、無数の引っかき傷があります。これを見たカトレアは、どう思うでしょうか?

 ……終わった。



 地獄の一晩が開けました。

「ンーー ムゥーー ムー」

 私のベッドの上で呻いているのは、猿轡をされ芋虫のようにぐるぐる巻きに縛られたカトレアです。そろそろバーサクモードを脱してくれると嬉しいのですが。

 カトレアの隣では、力尽きたティアが眠っています。上半身裸なので、毛布をかけてあげました。……目の毒なので。

「カトレア。いい加減に落ち着いてください」

 カトレアは病の身で、如何してここまで元気なのでしょうか? 嫉妬による精神力の増大が、体力にまで影響したのでしょうか? 謎は深まるばかりです。そして一つ分かった事があります。カトレアの心を読む力は、カトレアがある程度平静で無いと使えないのです。おかげ様で、頭の中身を見せて即誤解を解く作戦が使えません。

「ムー ンーーン ムーンー」

 カトレアが何を言っているか、さっぱり分かりません。分かるのは未だに冷静でない事だけですね。

 私は如何した物かと、頭を抱えてしまいました。カトレアに冷静になってもらわないと、ディーネやアナスタシアに白い目で見られそうです。そろそろ朝食の時間ですし……と、その時。

 ガチャ

「ギル。昨晩は騒がしか……」「兄様」

 噂をすれば影と言う奴でしょうか? ディーネとアナスタシアが私の部屋に突入して来ました。恐らく、心配して様子を見に来てくれたのでしょう。と言っても、騒ぎに巻き込まれるのが嫌で、終わった頃を見計らって来るのは如何かと思います。そんな2人は、部屋の状況(ぐるぐる巻きの猿轡カトレアと見知らぬ黒髪美女)を見て、仲良くフリーズしています。

(また……ですか)

 ディーネとアナスタシアは、何事も無かった様にそのまま部屋を出て行きました。ここで逃がせば、誤解を解くのが更に面倒になります。私は2人を手早く捕獲すると、部屋に引きずり込みました。

「ギル!! 姉にまで(・・)手を出すのは……」

「兄様!! 兄妹じゃしちゃダメって……」

 もう、面倒くさいです。私は2人をベッドの上に放り投げました。

「グホッ な 何事じゃ!?」

 アナスタシアが寝ているティアに命中しました。起きてくれたなら好都合です。ありったけの殺気と怒気を、4人にぶつけてあげました♪ ついでに、ドアにロックを部屋にサイレントをかけます。

「先ずは状況の把握が最優先ですね。カトレアの猿轡を外してください」

 ディーネが頷き、カトレアの猿轡を外してくれました。

「先ずはカトレアからです。カトレアの部屋で、ティアと何があったか話してください」

 私がティア(黒髪美女)に視線を向けながら問いかけると、ディーネとアナスタシアは目を見開き固まりました。

「え!? この人 ティアちゃん?」

「……精霊魔法の《変化》ですか」

 ディーネとアナスタシアに、ティアが「応」と威勢良く頷きます。一方でカトレアは、何故か青い顔をしていました。

「カトレア。体調が悪いなら、水の秘薬を持って来ますか? 夜中にあれだけ大暴れしたのです。無理はしない方が良いかもしれませんよ」

 心配になった私は、カトレアに優しく声をかけました。芋虫状態だから、格好は付かないけど。

「ち 違うの……」

「カトレアは、吾と無理やり使い魔契約したから後ろめたいのじゃ」

 ティアが口を挟んで来ました。

「え でもティアちゃんは兄様の……」

「そんな事が可能なのですか?」

 ディーネとアナスタシアが疑問の声を上げました。その気持ちは良く分かります。

「実例として目の前に、使い魔のルーンを二つ持っているティアが居るのです。それは認めるしかないでしょう」

 ディーネとアナスタシアは、ティアのルーンを確認し頷きました。更に別の所も見ている様な気がしますが、そっちは私には関係ないので放置させて頂きます。と言うか見捨てます。

「それで、どんなルーンを引き当てたのですか?」

 ディーネが興味津々と言った風に聞いて来ました。

「私の方は《共鳴》ね」

 カトレアは自分が刻んだルーンを見上げながら答えました。芋虫状態では話が締まらないので、取りあえず解いてあげます。

「感覚共有系の最上位ですね。五感だけでなく思考・知識まで共有出来ます」

 ディーネがやたら饒舌です。

「それで私の方は……あれ?」

 なんか不味い物を見た様な気がします。

「如何したのですか?」

 昨日寝てないのが原因かと思い、目をこする私にディーネが話しかけて来ました。

「いえ……見間違いかと思いまして」

 言い訳する私を押しのけて、ディーネが私のルーンを調べ始めました。

「えーと……ぶん……分で、こっちが れ……い 霊ですね。《分霊》では使えませんね」

 見間違いじゃありませんでした。精霊達が使っていた《分霊》と同じ効果があります。通常は使い魔の力が足りず、発動する事が出来ない役に立たないルーンです。しかも激レアな為、発動を補助する為の対策が確立されていません。しかし、ティア程の存在なら発動出来るでしょう。過去に発動可能な例は殆ど無いので、バレたら王立魔法研究所(アカデミー)が五月蠅いですね。

「ティア。感覚で構いません。分霊は作れそうですか?」

「1体のみなら可能じゃ」

 ディーネの動きが止まりました。ここは放っておいた方が良いですね。アナスタシアは良く分かっていないのか、「凄い!!」と繰り返すばかりです。

「アナスタシア。今の内容は重要機密なので内緒でお願いします」

「はい!!」

 元気に了承してくれました。ルーンに少し興味があるので、試しに使ってみますか。

「ティア。《共鳴》は発動出来ますか?」

「応」

 ティアは頷くと、精神を集中し始めました。そこで私が感じたのは、違和感でした。まさかとは思いますが……。

 私は自分の右頬を抓って見ました。

「「いだだだだ」」

 カトレアとティアの口から、悲鳴が漏れました。確定です。

「《共鳴》の範囲は、私も含まれる様ですね。発動出来るのはティアだけですか?」

 私の言葉にカトレアが「私も発動出来るわ」と言って、笑顔を浮かべました。有効範囲で発動や解除が出来ないのは、私だけですか。

(これからは一方通行じゃない!! それに……)byカトレア

 カトレアの思考が次々に伝わって来ます。そしてその中に看過できない物がありました。

(する時も発動するつもりですか? 突っ込まれる感覚なんて絶対に知りたくありません)byギル

(良いじゃない。私男の子の感覚って知りたい)byカトレア

(吾もじゃ)byティア

 カトレアとティアが、互いの顔を見て嬉しそうに微笑みました。が、私は絶対にウンとは言えません。首を横に振りながら……。

(私は絶対に嫌です!! 《共鳴》を発動するなら私は絶対しません)byギル

 カトレアとティアが溜息を吐きました。私はそんなに自分勝手な事を言っているのでしょうか?

(仕方ないのう。主がそんなに嫌がるなら、こちらが妥協するしか無かろう)byティア

(そうね。仕方ないわ)byカトレア

 本当に良かったです。結婚前にセックスレス決定なんて冗談じゃありません。私はホッと、安堵のため息を吐きました。と言うか、今のやり取り何か変じゃありませんでしたか?

(……寸前や最中に発動すれば良いし)byカトレア

(うむ。その通りじゃ)byティア

 カトレアの意見に、ティアがうんうんと頷きました。

(お前等とは何があっても絶対にしない)byギル

 カトレアとティアが「「あっ」」と、声を揃えました。この2人と事に及ぼうものなら、男の尊厳が木っ端みじんに吹っ飛びます。私は手で大きく×を作りながら、首を横に振りました。状況から考えて、君達が仲良しな理由が分かりません!! と言うか、本当になんでそんなに仲が良いの?

「兄様。さっきから何をやっているの?」

 ここでアナスタシアが口を挟んで来ました。私は「何でもないよ」と言いながら、アナスタシアの頭を撫でました。カトレアとティアが不満そうな表情を浮かべていましたが、この件に関しては絶対に譲りたくありません。とにかくこの話題は終了です。(結婚前からか……凹みます)

「次は《分霊》ですね。ティア。使えますか?」

「問題無しじゃ」

 ティアは髪の毛を1本ぬき、それを触媒にして分霊を顕現させる心算の様です。ティアが意識を集中し始めると、精神力がごっそり持って行かれるのを感じました。カトレアは平気な顔をしているので、精神力を持って行かれているのは私だけの様です。

 そして分霊が成功しました。ティアの前に、見た目12歳位の銀髪の女の子が居たのです。髪の色と年齢以外はティアにそっくりです。(ティアは見た目20歳位)

 見た目は良いとして、全裸なのは如何にかして欲しいです。と思ったら、カトレアが毛布で即対処してくれました。手際が良くなって来ましたね。

「ティア」

「「なんじゃ」」

 本体と分霊が、同時に返事しました。

(まぎ)らわしいですね」

「なら、分霊用の名前を考えてみたら如何かしら?」

 カトレアに言われて考えてみました。

(ティアがティアマトーから取ったから、それにちなんでマトー……は無いな。真っ白な感じがするからシロ……も無いし。そう言えばマギの時に好きだった格ゲーのキャラに凄く似ているな。耳の形が普通だけど)

 等と考えていると、突然カトレアが「レンで決定!!」と言い出しました。一瞬反対しようと思いましたが、この名前がしっくりくるのも事実です。私は少し抵抗があった物の、受け入れる事にしました。頭にシロと付かなかっただけマシと言う事にしておきましょう。

「そうですね。名前はレンで良いです」

 私がそう言うと、ディーネとアナスタシアはレンを構い始めました。

「それよりカトレアは、身体は大丈夫なのですか? ティアが分霊を作る際に、私は精神力をごっそり持って行かれたのですが」

「私はそんな事無かったけど?」

 カトレアが不思議そうに首をひねりました。

「吾1人の力では、分霊を作るのは辛いのでな。主の力を使わせてもらった。カトレアは倒れられても困るので、力を使う事は出来ぬ」

 そう言う事ですか。……反省ですね。

 ルーンの力を使うのに、主側の精神力を消費すると言う発想はありませんでした。これはカトレアを危険にさらしたと同義です。猛省ですね。






 少し気になったので、その日の内に、人目のつかない所でレンの竜の姿を確認しました。

 ……結果は純白の白竜でした。

 私、カトレア、ティアの3人は、思い切り苦笑いする羽目になったのです。

 ちなみに、レンの猫モード(チビ白猫)は物凄く可愛かったです。思わず純白のリボンをプレゼントしてしまいました。

 今回の一件以降、カトレアとティアの仲が気持ち悪い位に良くなりました。2人が私を見ながら笑っていると、寒気が走るのは何故なのでしょうか?

 それと、2人にはお仕置きをしなければなりません。カトレアは、使い魔強奪未遂と不要な魔法を使った罪で、ティアは勝手に危険な事(二重契約)をした罰です。しかし《共鳴》がある以上、下手なお仕置きは出来ませんね。

 ……困りました。いっその事、精神的にガリガリ行きますか。(注 ドSモード突入中) 
 

 
後書き
頑張って変えてみたのですが、変わっていない様な気がします。
ホントに作者は、如何しようもないですね。
そしてまた睡眠不足でのアップです。誤字が多かったらどうしよう。
ご意見ご感想お待ちしております。 
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