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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep35悲しく愚かな宣戦布告~Wail and Fury~


†††Sideシャルロッテ†††

はやてが通信端末を使って誰と連絡を取ろうとしているかはすぐに判った。

『はい、セレス・カローラです』

案の定サウンドオンリーのモニターから聞こえてきたのは、セレスの声。懐かし過ぎるセレスの透き通った声だ。はやては「はやてやけど、急にごめんな。ちょう話したいことあって」とすまなさそうに謝りながらも続ける。

『どしたの? 何か困ったことでもあった?』

「う、うん。まぁそんなところや。でな、セレス。今、セレスはどこに居る?」

はやて、動揺してるのかもしれないけどその質問はダメだよ。もう遅いけど。

『ホント急だね、はやて。もちろん自宅だよ♪ 体調不良で休暇貰ったんだから、どっかに遊びに行ったら、どんな処罰が下されるか判んないし』

モニター越しから聞こえてくるセレスの笑い声。

「会って話すことって出来るか? お見舞いしたいんやけど」

『・・・いいよ。どこで?っていうか、あたしの家か、やっぱり。あ、でも少し時間くれる? 主治医が来る時間でさ。診察が終わってからならいいんだけど』

セレスは少し間を置いてから、そう話を続けた。そういえば、セレスって結構なお金持ちの家の生まれだって聞いてたな。そんなお嬢様(実に見えない。人のこと言えないけど)なセレスの主治医っていうくらいだから、カローラ家お抱えの医者だろう。

「うん。それやったら終わったら連絡くれるか?」

『ん、了解♪ まぁすぐに終わるだろうから、ミッドに降りて待っててもらってもいいからさ。そんじゃ、またあとでねぇ♪』

通信が切れてモニターも消える。そしてはやては私を見て、「一緒に行ってくれるか?」と言ってきた。どうやら私に直接セレスを見てもらって、本当にセレスが魔術師なのか確かめてほしいみたいだ。

「どっかに隠れてセレスを覗けばいいんだね。了解だよ、はやて」

「そんな変な言い回しせんでも・・・」

そして、私とはやてがミッドに降りることが決定。なのは達は管理局で待機。大勢で押し掛けて行ったら怪しまれる以前に迷惑だ。まぁセレスの性格からして迷惑だと思うことはまずないだろうけどね。

「ねぇ、シャル。もし本当にセレスがテスタメントの魔術師なら、私たちはどうすればいいのかな・・・?」

「どうもこうも管理局員としての仕事を全うするべきじゃないの? 私は私の為すべきこと、ディオサの魔道書を破壊するつもりだし。だから、フェイトはフェイトの思う通りにやればいいんじゃない? たとえば、間違っている友達を止めるのが友達の役目、だとかさ」

フェイトの迷いに私はそう答える。管理局の改革には反対しない。やり方は別としてね。復讐は、そうだなぁ、友達なら止めるという選択肢を持ってもいいんじゃないかな、と思う。けど生前の私は復讐心の塊だったから復讐を止める権利も無いし、絶対ダメとも言わない。

地球のドラマの1シーンにこういうのがあった。被害者は遺族に対して復讐させることを望まないで幸福を望む、ってやつ。初めてソレを観た時、そんなバカな、ってよく馬鹿にしていた。
そんなわけないじゃない。理不尽に命を、未来を奪われておきながら復讐を望まない被害者が居る? 居るわけがない。きっと誰だって自分を殺した者への強烈な憎悪を残す。実例が今、私たちの敵としているわけだし。

(だから私としては復讐心を抱くのは仕方がない事だと割り切ってる)

そういう世界を、人を、1万年近く見てきたんだし、当然の帰結だ。でも、今回のカルド隊の復讐ばかりは止めさせてもらう。これは余りにも身勝手な話だって自分でもきっちり理解してる。だけど友達が復讐の対象になったんだから、こればかりは許してもらいたい。

「八神部隊長、送信先不明のデータが送られてきたのですが」

そんなところに1人の隊員が報告してきた。私たちは顔を見合わせて、そのデータをはやてのデスクに送ってもらう。再び展開されたモニターに映し出される激しいノイズ。そのノイズが次第に弱まっていって、映し出されたのは大きな屋敷。隅の方に日にちが表示された。新暦77年の7月。今から大体3年ちょっと前のモノだ。

「映ってる屋敷・・・セレスさんの・・・だよね・・・?」

映るのはなのはの言うとおり、確かにセレスの屋敷だ。どうしてこんなモノが?と考えているうちに、映像に変化が見られた。どこからともなく帰宅したセレス。その後に続くある人物2人を見て、私たちは確信することになった。

「ルシル君とリインフォース・・・!?」

セレスに続いてモニターに映り込んだのは、スーツを着たルシルと、黒のワンピースを着たリインフォースだった。またノイズが奔って映像が切り替わる。次はつい最近の日にちで11月16日。ヴィヴィオとレヴィがルシルと戦った日だ。セレスの屋敷から出てくるスーツ姿のルシルが映り込む。

「そんな・・・それじゃあ本当にセレスさんが・・・!?」

なのはがショックを受けてる。ヴィータとシグナムですらもだ。この映像がどこから、とか、誰が、なんて疑問を忘れてしまうような衝撃。

「・・・まずは、まずはセレスから話を聞く。今は・・・それからや・・・」

映像を切ったはやてが意気消沈といった風にそう言った。

「・・・あ、この映像の送信先を何でもいいから調べて!」

なのはが思い出したかのように隊員たちに指示を出す。隊員たちは「了解しました」と返して、判明するとも判らない送信先の調査を始めた。

「はやて・・・」

「大丈夫や。シャルちゃん、セレスから連絡来たら・・・」

「ええ。一緒に行って、セレスが本当に魔術師なのかどうか見てみる」

それから30分もしない内にセレスから連絡が来て、私とはやてだけでセレスの元に向かった。

†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††

シャルちゃんと一緒にミッドの北部タウブルクにあるセレスの屋敷に赴いた。郊外のしんみりとした広大な土地にポツンと建つ屋敷。正門の呼び鈴を鳴らすと『どうぞー、入ってきてー♪』と可愛い声が返ってきた。前なら、元気やなぁ、って思うようなセレスの声も、今やと悲しいとしか思えへん。

「すぅ、はぁ・・・よし」

門が自動で開いて、私だけで入る。シャルちゃんには隠れてもらって、セレスが本当に“テスタメント”の魔術師なのかを見て確かめてもらう。まだセレスがそうやと確定したわけやあらへん・・・。

(ただ何も知らずに、ルシル君とリインフォースと知り合いなのかもしれへん・・・)

でも、それは無いと心の内でハッキリしとる。3年も前から、もしくはずっと前からルシル君とリインフォースと会ってたんなら、私らに絶対連絡するはずや。それにフェイトちゃんがルシル君に特別な想いを抱いとることはセレスも知っとる。それやのに何も教えてくれへんかった。それはつまり、知っていながら知らせなかった。

「おーい! こっちこっち!」

屋敷へ続く石畳を歩いとると、どこからともなく聞こえた私を呼ぶセレスの声。周りを見渡すと、庭先のずっと奥に白い石柱を数本、円形に立てた小さな休憩スペースが見えた。その石柱に囲まれた休憩スペースの真ん中で、セレスが手を大きく振っとった。私はもう1度深呼吸して決意を固めて、そっちに向かって歩き出す。

「ようこそ、はやて。でもまさか1人で来るなんてねぇ。友人のお見舞いに友達を連れて来ないなんて、ちょーっとつれないんじゃない?」

「あ、ごめんな。都合が私しかつかんくって」

「あっと、別に責めてるわけじゃないんだから、そこまで沈まなくてもいいんだよ?」

苦笑するセレスに勧められるままに白いアームチェアに座る。12月の寒さが一切感じられへんこの休憩スペースからまた庭を見渡す。冬やのに枯れてへん木々。どうやらここの庭は気温操作が行われとるみたいや。そんなズレたことを思っとると、セレスはそのまま自分の席に戻って、私のためのお茶を淹れてくれようとする。

「って、病人が接客っておかしいやろ!?」

あまりにセレスが自然な動きを見せるから、そこまでされへんと判らんかった。セレスは「まぁまぁ、趣味だから♪」と笑みを浮かべて続きをしとるし。さっきまでガチガチになっとった自分がどこかに行ってもうた。

「うん、やっといつものはやてに戻ったね。どうしてそんなに緊張してるのか判らなかったけど、やっぱりはやてにはそういう雰囲気の方が合ってる」

「あ」

ティーカップを私に差し出すセレス。セレスはやっぱり優しかった。そんなセレスを疑わなアカン事に私は・・・。

『(ちゃう。確かめるために今、ここに私は居るんや)・・・シャルちゃん、どないや?』

どこかで私とセレスを見とるシャルちゃんに念話で尋ねる。でもなかなか返って来ない返事。どうしたんやろ?と思って、もう1度聞こうとしたところで返ってきた。

『・・・セレスは・・・セレスは、魔術師だ』

『・・・そうか』

シャルちゃんの迷いの見える返答に、私はそれしか返せへんかった。今も笑顔で自分の淹れたお茶に満足しとるんか何度も頷くセレスが目に映る。私は「セレス」と呼びかける。セレスは「ん、本題かな?」とティーカップを置いて私を見つめ返してきた。

「私がいま何の任務に就いとるか、セレスは知っとるよな?」

「もち。テスタメント対策部隊の特務六課の部隊長だよね」

「・・・私の信頼する仲間が調べてくれた。テスタメントに関することを出来るだけ多く、な」

「うん、それで? そんな話をあたしにする理由は何?」

「もう、終わりにせえへん・・・?」

いつもの様子と全く変わらんセレスにそう告げる。セレスは変わらずニコニコしとったけど、私がそれっきり黙ると、小さく息を吐いて笑みを浮かべた。

「・・・はぁ、シャルがそっちに付いた時点でこうなることは予想できてた。で? もしかしてこの家の周りはすでに包囲されているのかな?」

私は「このことを知っとるんは六課の隊長陣だけや」と返す。するとセレスは「ありがとう、はやて。まだ捕まるわけにはいかないから助かるよ」とお辞儀してきた。

「やっぱりセレスはテスタメントと関わりのある魔術師なんやな」


「そうだよ。あたし――ううん、私がテスタメント設立者にしてリーダー、ハーデです」

セレスにそう確認を取ると、セレスは居住まいを直してハッキリと自供した。戸惑いつつも私が「動機は、フィレス・カローラ三等空士の殉職か?」と尋ねる。セレスは「それもありますけど、そうですね」と丁寧にそう返してきた。セレスのそんな口調に違和感。なんていうか似合わへん。

「この口調、おかしいですか? ですが、これが私の素ですので了承のほどを。さて。はやて、貴女は今の管理局をどう思いますか? 私たちテスタメントのことを調べたのですから、ある程度の管理局の闇を知ったはずです。私たちはそれを無くし、新たな世代の局員たちの未来を守る。それが私たちの目的。復讐というのは、その過程で起きる上層部(ゴミ)掃除なのですよ」

ティーポットをカチャカチャ鳴らして、新しいお茶をカップに注ぐセレス。私の方にも注ぎながら「毒なんて入っていないので安心してください」と言った。もちろんそんなこと言われんでも判っとる。

「・・・確かに管理局の中には、自己利益のために悪事を働く局員は居る。それに関しては、私も憤りを感じとるし、どうにかしたいとも思う」

「ならば、私たちテスタメントに協力しませんか? より良い管理局の未来のため、その未来の局員のために、現状で腐りきったゴミを掃除する。そして信頼でき管理しやすい局員を上層部に配置する。さすれば、利益のために下の局員を謀殺するようなゴミはいなくなる」

右手を差し出してくるセレス。握手を求めとるゆうことや。迷う。セレスの言い分も解かる。クイント元准尉やティーダ元一尉の目的もそう。未来の管理局と働く局員のために現在の上層部を切り捨て、管理局の体制をつくりなおす。

『はやて、迷わないで。一番の近道はそれかもしれないけど、だけどそれは・・・え? ちょっ――』

シャルちゃんからの念話が変なところで途切れた。次の瞬間、セレスに何重ものバインドが仕掛けられた。

「「な・・・!?」」

セレスと2人して驚愕の声を上げる。次に、ここを包囲するように武装隊が十数人と転移してきた。次々と変わる状況に思考が追いつかへん。その間にもセレスへと殺到していく武装隊員。白亜の丸テーブルに押さえつけられるセレスが私を上目使いで見上げる。

「はやて?・・・あれ、おかしいですね? どうして武装隊が居るのですか? 六課の隊長陣しか知らなかったのではないのですか?」

虚ろな目で私を見て、そう訴えかけてくる。私はそんなセレスの視線に耐えられんくって、つい視線を逸らしてしまう。そやけど、それは今一番やったらアカンことやった。

「っ!・・ふ・・・あは・・・あははは・・・そう、そういうことですか。始めから私を逮捕するつもりだったということですね、八神はやて二佐」

その目に宿るんは圧倒的な怒りと悲しみ。違う。そう言おうとしても声に出せへん。でも頑張って声を出そうとしたとき、武装隊の1人が「離れてください、八神二佐」とセレスから私を庇うように前に出た。

「セレス・カローラ一佐。あなたを反時空管理局組織テスタメントの主犯格として逮捕します」

武装隊の隊長らしき人がデバイスを向けてそう言った。

「そう、これが管理局のやり方・・・解かってます。解かってました。はやて、貴女だけは信じていたのに・・・」

「違う! 私はこんなん知らんかった! 私は――」

何とか武装隊の壁をこじ開けてセレスの前へと出る。でも涙を零して歯がみするセレスを見たら何も言えへんくなった。

「・・・どいつもこいつも・・・偽善者がぁぁぁぁぁーーーーーッ!」

――愚かしき者に(センテンシア・)美しき粛清を(コンデナトリア)――

セレスの足元にヨツンヘイムの魔法陣が現れたと同時に、その手に“ディオサの魔道書”が現れた。全てが白に染まる。次にお腹に強烈な力が加わって咽る。

「ごめん、はやて。武装隊を止められなかった」

いつの間にか私はシャルちゃんに抱えられて、この屋敷を囲う塀の上に移動しとった。目の前に広がる光景。屋敷も庭も武装隊も、何もかも全てが空色の氷に覆われた。そして今まで私が居った場所にセレスは居った。セレスは私とシャルちゃんに気付いて、こっちを鋭い目つきで睨みつけてきた。

「もう、いいです。このような茶番(ファルス)はもう・・うんざりです。テスタメント・リーダー・ハーデより全幹部へ通達」

白コートをどこからともなく取り出して羽織って・・・

私は全てに絶望した(コード・デセスペラシオン)

空を仰いでそう言った。私はシャルちゃんにどういう意味や?とゆう視線を送ると、シャルちゃんは「絶望」と答えた。けどそれだけで何も起こらへんかった。そう、“ここでは”何も。

「愚かしき時空管理局よ。私は反時空管理局組織テスタメントがリーダー、ハーデ。今日この日、この瞬間を以って、私たちテスタメントはあなた達に宣戦布告する。己が犯し隠してきた罪によって裁かれ消え逝きなさい」

フードを被って素顔を晒さへんようにしてから、セレスは私たち管理局に宣戦布告を行った。私とシャルちゃんはただ黙って見とるしかなかった。それほどまでに受けたショックが大きかった。

「もう改革などという生易しい手段は結構ですよね。管理局という体制を徹底的に破壊(リセット)しましょう。ええ、それが1番の方法。さようなら、はやて。次に会う時、私たちは殺し合う敵同士となるでしょう」

フードの中から見えたセレスの泣き笑いの表情。私とシャルちゃんの呼び止めにも応えやんと、セレスはその姿を消した。

・―・―・―・―・―・―・

ハーデことセレス・カローラ。真名をファビオラ・プレリュード・セレス・カローラ・デ・ヨツンヘイムの第一級命令“コード・デセスペラシオン”が発動。その命令によって、謹慎中にも関わらずある目的を持った幹部が動き出した。管理局本局に姿を現したのはマルフィール隊とグラナードの4人。

グラナードがある男性局員の元に現れた。その男の制服に付いた階級章から、男は中将であることが見て取れる。男の名はスチュード・ベーカー。グラナードの正体メルセデス・シュトゥットガルトの暗殺を企て、部下に実行させた張本人。

「な、何故だ! 何故、死んだはずのお前がここに居る!?」

「お宅を殺すためにわざわざ蘇ってきたに決まってんだろうが。・・・来たれ、フォヴニス」

グラナードの足元に生まれる黄緑色の召喚魔法陣。そこから顔を出す黒鎧の毒精フォヴニス。フォヴニスの姿を見たベーカー中将は恐怖によって呼吸困難に陥る。

「おいおい、そんな死に方させねぇよ。喰っちまいな、フォヴニス。散々痛めつけてからな」

「く、来るな! 来るな来るな来るなッ! く――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

ベーカー中将は這いずって逃げようとしたが、上半身だけ出したフォヴニスの2本のハサミによって散々壁に叩きつけられ、弱まったところを足から喰べられ始める。
ベーカー中将の悲鳴と、彼の身体の何かが引き千切られる音、砕かれる音を最高の音楽とし、その光景をただひたすらに嗤って見学していたグラナードは、咀嚼し終えたフォヴニスを戻して、執務室を静かに後にした。

ここ本局の、ある将校の執務室に別の幹部が姿を現す。現れたのは3人の幹部、マルフィール隊の3人だ。彼らもまた、自分たちを謀殺した将校4人をその手で復讐するために管理局に足を運んだ。
そんな彼らの姿を見たその4人の将校もまた「何故ここに居る!?」という疑問の中で、赫羽の荒鳥ファノによって無残にバラバラに斬り刻まれた。そう、足先から徐々に、失血死させないようにしながら苦痛を与え続けるという、非道の方法によって。

そして別の将校の執務室。六十代後半くらいの将校がモニターに向かって怒鳴る。「話が違うではないか!」と。将校の名はライレー・ブルックルンズ少将。彼の面前に展開されているモニターに映るのはディアマンテだった。

『話?』

「っ! カローラ一佐を八神二佐の前で捕まえれば、君がテスタメントのリーダーとなって私に協力する、という話だ!!」

そう、彼こそがディアマンテの指示によって、セレスの元に武装隊を差し向けた張本人だった。ブルックルンズ少将はディアマンテにそう唆されて、今回の彼直轄の武装隊出動に走った。その結果、セレスは管理局に宣戦布告した。友達(はやてたち)に裏切られたと勘違いして。そして“特務六課”に届いた送信先不明の映像データもまた彼の仕業だ。全てディアマンテの謀ったことだった。

『あー、そういう話もあったな。すまない、ブルックルンズ少将。どうも死んでからはモノ覚えが悪くなったようだ』

「は? 何を言っている!? 死んでからだと!? そんな冗談を聞いてる暇は――っ!?」

突如フードを脱いだディアマンテの素顔を見たブルックルンズ少将の表情が凍りついた。それもそのはず。若かりしときに共に過ごした同僚の顔だったからだ。

「め、メサイア・エルシオン曹長・・・」

『久しぶりだな。お前らに殺されて以来だから大体40年ぶりくらいか』

モニターの向こうには青年とも言える男が居た。綺麗な紫陽花色のサラサラした髪。鷹のように鋭い青い双眸。メサイア・エルシオン元陸曹長。そして、かつての医療局にも所属した名を馳せた医務官。

「ど、どうして・・・何故、あなたが・・・!」

気が動転して背後の壁にドカッとぶつかるブルックルンズ少将。その目に浮かぶのは戸惑いと恐怖。人を呼ぼうにも、その思考が働かない。「あ、う、あ」と言葉にならない声を出すばかりだ。

『決まっているだろう? お前たちに復讐するためだ。徐々に、そして確実にお前たちを苦しめ、社会的に殺し、最後に命を刈り取る。まずはお前からだ、ライレー・ブルックルンズ』

モニターが消えたと同時に、彼の執務室に数人の武装隊が入ってきた。「何事だ!」とブルックルンズ少将が怒鳴ると、進入してきた武装隊の隊長が告げる。

「ライレー・ブルックルンズ少将。あなたを、テスタメントへの機密情報漏えいの罪で逮捕します」

ブルックルンズ少将は始めからこうなるように仕組まれていたのだと諦め、大人しく連行されていった。
そして最終的に自分はディアマンテに殺されるのだと延々震えていた。

これが第一級命令“私は全てに絶望した(コード・デセスペラシオン)”。
幹部個人の目的を、手段を問わずに好きに遂行していい、そして管理局への敵対行動を取ってもいい、という制限解放。もう引き返せない、引き返すつもりもないセレスの下した最悪の命令だった。
 
 

 
後書き
アンチ管理局が酷くなってきた事に、みなさんの反応がどうなるか恐れ始めた今日この頃。
あまりに急な展開となりましたが、もうこれでお互いが引けない状況になりました(私ももう引けない(泣))
次回からは、予定としてまず幹部四連戦となります。スバル、ティアナ、エリキャロ、○△□と、それに相対する幹部達との最終戦となります。
 
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