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Fate/EXTRA IN 衛宮士郎

作者:トドド
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決戦への準備

≪1回戦 3日目≫

この戦いは相手の情報を入手することに大きな意味があり、そのためには学園でも1日1日注意深く調査をする必要がある。
アリーナに入ってしまえば、その日の学園での調査はやり直すことが出来ない。
そして現実の世界ではないとはいえ、そこにいるのは生きた人間。その日に起こっていることが翌日も起きるとは限らない。
だからこそアリーナに入る前には学園内を調査し、他者の話に耳を傾けるのを習慣にしなければならないのだ。


「えっと、確か、図書室はこっちだったはず…………ん?」

昨日の戦闘で得たことを調べるため、図書室にむかって2階の廊下を歩いていると、遠くで慎二の声が聞こえてきた。

『あの男、早速揉め事を起こしているようだな』

あまりに慎二らしく、思わず苦笑してしまう。

『何か情報が得られるかもしれないぞ、慎二だしな』

「……行けばいいんだろ? 行けば」

溜め息をついて慎二の声の方へと足音を忍ばせて近寄る。
目的地であった図書室の方で早速慎二と遠坂の姿が目に映った。
何やらもめてそうな雰囲気だが、おそらく慎二の方から噛み付いたのだろう。遠坂の方が噛み付くのは絶対にないからな。

『さて、それでは盗み聞きでもするとしよう』

それもいいな。あの様子ならきっといくつか情報を零してくれる。図書室で慎二のサーヴァントの情報を集めるつもりだからちょうどよかった。判断材料が増えるのは、素直に嬉しい。幸い慎二はこちらに背を向けているし、ばれる心配はないだろう。

「君はもう、アリーナには入ったのかい?なかなか面白いとこだったよ?ファンタジックなものかと思ってたけど、わりとプリミティブなアプローチだったね。神話再現的な静かな海ってところかな」

慎二は遠坂にマシンガントークで話しかけているが、遠坂自身は笑顔のまま話を聞き流しているように見える。あっ、こんな風に話を聞き流してる時は会話すること自体が嫌がってる時だ。慎二とは余程会話したくないらしい。

『あのような分かりにくい話は凛にとってうっとおしいだけの騒音と変わらん』

「騒音はいいすぎだろ…………」

しかし、アーチャーの言う通り無理にカッコいい言葉や難しい単語を使おうとしているように思える。そのため、内容がいまいち分かり辛い。こう言ってはなんだが、小さな子供が関心を引こうと必死になっているようにも思えた。

「いや、シャレてるよ。海ってのはホントいいテーマだ。このゲーム、結構よく出来てるじゃないか」

……………予想はしていたが、本当にゲームと思っているらしい。その様子にはさすがに呆れてつい嘆息しそうになる。

「あら、その分じゃいいサーヴァントを引いたみたいね。アジア圏有数のクラッカー、マトウシンジ君?」

そして今まで黙っていた遠坂がようやく口を開く。ゲームだと思い込んでいることから、簡単に情報を割ると見たのだろう。遠目でも、遠坂は意地悪そうな笑み(レッドデビルスマイル)浮かべているのがわかった。

(遠坂は、この会話で容赦なく情報をむしり取っていくのだろうな…………)

しかし、あの笑みを見ていると恐怖が出てくると同時に安心している自分がいる。遠坂のあの顔を見て安心だなんて………なんだかんだ言っても、俺って遠坂に惚れてるんだな………。

「そうやっていい気になるのも今のうちだぜ?遠坂、そりゃあ君には何度か煮え湯を飲まされたさ。でも、僕の【無敵艦隊】があれば君のサーヴァントも成すすべなくペチャンコさ。今回ばかりは僕が勝ちだ!」

それに気づかず慎二はようやく会話が成立したからか、やや上機嫌になり、迂闊にも無敵艦隊という情報を漏らす。いくら何でも、遠坂相手に軽率だろう。聞き耳を立てて一分と経っていないのに、早速情報を得ることができた。

「へぇ、サーヴァントの情報を敵に喋っちゃうなんて、間桐君ったら随分と余裕なんだ」

遠坂も同じ感想を想ったのか、声を弾ませてそう返す。さすがの慎二も、自分の失態に気付いたらしい。

「う……そ、そうさ! あんまり一方的だとつまらないから、ハンデってヤツさ!で、でも大したハンデじゃないか、な?ほら、僕の(ブラフ)かもしれないし、参考にする価値は無いかもだよ……?」

呂律が拙いし、疑問形だし、(ブラフ)なら自分からそんなこと言わないぞ、と教えてあげたくなった。気分はまるで授業参観で子供が当てられた母親だな。

「そうね。さっきの迂闊な発言からじゃ、真名は想像の域を出ない。それにしても、艦隊を操るクラスに無敵艦隊……そうね、物理障壁を用意すれば、貴方の言うぺちゃんこは回避できるかしらね。もしそれが宝具だとしても、完全に出てくる前にさっさと潰してしまえば終わっちゃうもの。…あ、ごめんなさい。その位の対策は当然やってるわよね」

なるほど、情報を知っていればこういった対策を立てることもできる訳か。個々の力が強力である以上、一方だけが対策を立ててしまえば、戦いは大きく変わるな。
気づいていたのかこっちを見て、上機嫌な笑みを浮かべる遠坂に感謝しながら、手を振ると顔を真っ赤にして背けられた。何故?

「ふ、ふん……まあいいさ。知識だけあっても、実践できなきゃ意味ないし。君が僕と必ず戦うとも限らないしね」

屈辱で全身を震わせながらも、精一杯の虚勢を張って慎二が立ち去ろうとこちらを向く。慌てて隠れようとしたか時すでに遅し。

「お、お前……ッ! まさか、そこでずっと見てたわけ!?ま、まあ、お前たちならどうせ、僕の無敵艦……いや、サーヴァントは止められないさ。精々必死になって情報を集めるんだな!」

「わかった。そうさてもらう」

慎二は、俺の言葉を聞いて そう言い残して、去っていこうとしたが

「待て、間桐慎二」

アーチャーが実体化して呼び止めた。いきなり実体化したと思ったらなんだ?

「な、なんだよ!僕はこれでも忙しいんだ。サーヴァント風情が話しかけ………「昨日の子分にしてやるという話をぜひ頼みたい」

「「「!?」」」

その場にいた俺たちはアーチャーの言ったことを一瞬理解できなかった。突然子分にしてくれだって!?

「な、何を言ってるんだお前!?」
「ちょ、あんた何を………」

「わからないのかね?無敵艦隊といえば、チャールズ・ハワードにフランシス・ドレイク、また、マゼランやバスコ・ダ・ガマと言った似たような輩が多い。しかし、どれが間桐慎二のサーヴァントになっていても、私より英霊としての格は上だ。勝てるわけがないだろ。この勝負、間桐慎二の勝ちだ」

「おい!どうしたんだよ。お前らしくないぞ」

胸ぐらをつかんで、アーチャーに詰め寄るがアーチャーの顔には絶望の色しかない。まさか、本気かよ…………。

「………………」

アーチャーは何も言わない。こんなのおかしい過ぎる。一体なんで…………。

「…………とんだサーヴァントね」

遠坂は後ろを向き、吐き捨てるようにつぶやく。アーチャーは顔を俺から背け俯く。

「あっはははは!どうやら、衛宮よりそっちのサーヴァントの方が物分りがいいじゃないか!!いいぜ、お前気に入ったから子分にしてやるよ」

一方、アーチャーの態度を見て上機嫌になる慎二。さっきはあんなに慌ててたくせに……………。

「感謝する、間桐慎二。どうやら、あのような英霊を従えてるだけのことはある」

皮肉の一つも言わずに、アーチャーは慎二を褒め称える。ふざけるな!ついてこれるかとか言ってたくせに、なんで諦めるんだよ。しかし、アーチャーは常に俺の何歩先をいっていた。

「わかってるじゃないか!僕ほどのマスターともなれば、悪魔(エル・ドラゴ)を従えるくらいわけないよ!よかったな衛宮。理解のあるサーヴァントで」

高らかに笑う慎二。するとアーチャーは俯いたまま肩を震わせ始めた。
慎二の方からは見えないが此方からは意地悪そうな笑みを浮かべているのが見え、浮かべているのがその笑みはまさしくあかいあくまと同じ種類のもの。

「ああ、理解しているよ。貴様が自らサーヴァントの情報を垂れ流す、とてつもないアホだということがな」

「なっ!?お、お前」

慎二も自分が失言したことに気づく。けれど、言ってしまったことを消すことはできない。慎二は確かに言った悪魔(エル・ドラゴ)と……………。どうやら、これを聞き出すためにあんな芝居をしたらしい。リアル過ぎて騙されてたが。

「あっはっは!! こりゃあ、あたしら完全に嵌められちゃったねえシンジ!!」

慎二の後ろでは、サーヴァントも笑いを隠さずにいた。いやあの、あなたは騙された側の主人のサーヴァントですよね……?

「お、覚えてろよお前ら!絶対に許さないからな!!」

慎二は顔を真っ赤にして逃げるように走り去った。姿が見えなくなり俺はアーチャーにいう。

「なんで、俺に一言も相談せずにあんなことするんだよ」

「敵を欺くにはまずは味方からというだろ。それに凛は気づいてたようだが?」

遠坂の方を見てみると、後ろから見てもクスクスと笑っているのがわかる。気づいてたから、あんなセリフを言ったのか。パートナーでなくても、わかりあっている二人に少しだけ、なんか悔しいな。

「なかなか、面白かったわよ。それじゃ、私もう行くから。さようなら」

そんな俺とは対象的に遠坂は飄々した態度で去っていった。

「それにしても貴様のあの態度。思い出すだけでも………くくくっ」

先ほどの俺の慌てようを思い出したのか、肩を震わせて笑いをこらえるアーチャー。その態度に少しカチンときた。

「いい大人が人の失敗笑ってんじゃねぇよ。何が、子分にしてくれだこのヘタレ!」

「なんだと!?貴様、もう一度言ってみろ!」

「何度でも言ってやるさ、この小心者!」

「言ったな貴様!」

「言ったぞ馬鹿野郎!」

俺とアーチャーを口論を続けたが、不毛な争いになりそうなのですぐに切り上げて、図書室に入った。図書室に入り、歴史の本がおいてある本棚で慎二の言っていたキーワードを調べてみる。

【無敵艦隊】
大航海時代におけるスペイン海軍の異名。千トン級以上の大型艦100隻以上を主軸とし、合計6万5千人からなる英国征服艦隊。スペインを「太陽の沈まぬ王国」と謳わしめた、無敵の艦隊である

悪魔(エル・ドラゴ)
英国征服をしようとしたスペイン無敵艦隊との決戦において、「火船」と呼ばれる、火のついた船を敵艦隊に送り込むという海賊らしい戦法を使う。
その策のおかげで、無敵艦隊を英国へ上陸させることなく大敗させ、スペイン帝国を事実上瓦解させた。
上記のようなことがあり、悪魔(エル・ドラゴ)とは、「太陽の沈まぬ帝国」を歴史の盟主から引き摺り下ろしに大きく貢献した英国艦隊の副司令官にたいして、スペイン人がつけた異名である。

以上が慎二の言っていたキーワードの情報である。ここから、連想される人物は一人しかいない。
彼女は、イギリス人として始めて、世界一周をしたフランシス・ドレイクで、船乗りであるからクラスはライダーと言ったところかな。
伝承とは違い、女性だとは驚いた。

『しかし、我々は、伝承と性別が、違う人物と縁がある』

「まあ、セイバーも性別が違ってたし」

案外、この戦いの中にも伝承とは、性別が違うサーヴァントが他にも、いるかもしれないな。

(あっ、そうだ)

思い出したが、昨日、遠坂が言っていた西欧財閥というのもついでに調べてみよう。世界情勢などがわかる本棚から一冊手元に持ってきて、読む。
えっと………………あったあった。

西欧財閥
2030年代において圧倒的な武力と財力で世界の60%のシェアを管理・運営する巨大財閥であり、世界で最大の規模を誇る勢力。
2032年の時点で48ヶ国が参加する北半球資源機構を主導しており、その48ヶ国で世界経済の67%、全世界の武力の90%を網羅している。そのため事実上『世界』と言った場合は西欧財閥の管理下にある諸国を指す事が多い。
複数の財閥が国家をまたいで結成した巨大な合体企業であり、盟主はハーウェイ家。

『必要のないものを調べるのは、それくらいにしておけ。そろそろ、アリーナに行くぞ』

アーチャーがアリーナに行く急かしてくるので、仕方なく区切りをつけて本を元の場所に戻し、アリーナへと向かう。また、後日調べことにするか。しかし、アリーナにいってみたが、めぼしいものはとりつくしたようで、エネミーを数体倒すだけで、終わってしまった。


《1回戦 4日目》

朝ごはんを終えて、端末が光っていること気づく。
第二暗号鍵(セカンダトリガー)を生成。第二層にて取得されたし』
第二層に入れると通知が来ていた。端末をあまり見ないから、見逃していたのだろう。今日から、新しい階層にいくことになるのか。しかし、時間にしては早すぎる。

「図書室にいって、何か本でも読んだらどうかね?」

積んだ椅子に座り、何処からか持ってきた紅茶を飲むアーチャー。どこで買ってきたんだよ。ってか、無断で買いやがったな……………問い詰めてやろうと思ったが、口では勝てないのでやめといてやるよ。

「そうだな。図書室にいってみるか…………」

マイルームを出て、図書室に向かう。少ししか離れてないので、すぐに図書室にたどり着いた。図書室の本は、少しだけしか見てないが、いろんな分野が揃っているので、退屈はしないだろう。開けようと取っ手に手を伸ばした時、内側から出てきた人物とぶつかってしまう。

「くそっ、なんなんだよ……って、お前!?」

ぶつかった人物こと、慎二は俺にぶつかったと理解した途端、憎々しげな表情を浮かべて睨みを利かせてきた。

「この間はよくもばかにしてくれたな!」

バカにしたのは、アーチャーのやつなんだけど…………。

「…………まあいいさ。僕の情報は隠蔽(ブリーフィング)させて貰ったよ。君が少しでもこの勝ち目のない戦いを楽しめるよう、アリーナに隠しておいたけどね。ま、お情けで最終通過したお前に、見つけられるとは思わないけど? あははははっ」

慎二が腹を抱えて笑う様は、こちらを小馬鹿にしているとしか思えない態度をしながら立ち去った。情報とはおそらく、慎二のサーヴァントのことだろう。
この戦いは、情報があるかないかで大きく変わるのを昨日知った。それをみつからないように隠すのは、当然の手段。
だけど、俺の場合、真名もわかっているため、隠されても対して問題はない。慎二は気づいてないようだけど…………しかし、隠したってことは、慎二の性格からして無断で持っていったんだよな。

(他に使う人が困るかもしれないな)

図書室の本を無断で持ち出すの良くないことだ。どんな本が隠されたかわからないけど、慎二から取り返した方が良さそうだな。

「アーチャー、アリーナにいくぞ」

『ほぅ…………ずいぶんとやる気じゃないか』

アリーナの入り口に向かって、階段を下っていくと、一階のホールにたどり着く。そのままアリーナに直行したかったが

「あっ、衛宮君。久しぶりね」

「げぇっ!?藤ねえ」

呼び止められ振り返ってみると藤ねえがいた。そうか、今日はここにいる日なのか。

「衛宮君、ところで例のものは?」

「……………どうぞ(本当は渡したくないけど)

端末を操作して、竹刀を取り出す。竹刀を受け取った藤ねえは、

「ありがとう、衛宮君!あっ、それともう一個頼んでいい?」

笑顔で尋ねてくる。長年の経験から知っているが、こういう時は、断っても無理矢理やらせるからな……………腹を括るか。

いいよ(断ってもどうせ無理矢理やらせるくせに、このバカ虎)

あっ、ちょっとだけ本音が出てしまったけど、気づいてないからいいか。

「ありがとう!!実は、私がデザートに食べようと思ってたミカンがアリーナの何処かに行っちゃったのよ。探してくれない?」

竹刀の次は、ミカンかよ。冬になるといつもバカみたいな量を持ってきてたな。
セイバーがきてからというもの、消費するのが楽になったっけ。でも、小さい頃は無理矢理食わされて、手が黄色を通り越して黄土色に近くなってたのを俺は一生忘れない。

「はぁ、わかったよ」

「それじゃ、お願いねーーーーっ!!」

それだけ言うと藤ねえは、何処かに走り去って行った。自由気ままとは藤ねえのために存在する言葉だと俺は思う。

『………………いくぞ』

「………………そうだな」

今おきたことを頭から消し、アリーナへと向かった。

≪一の月想海 第二層≫

先には、第一層とは一線を凌駕する光景が広がっていた。沈没した船の残骸、そしてもくもくと活動している海底火山の脈動する姿。
まるで、誰かが抱いている深海の神秘やロマンが詰まった心情風景を映し出している。

「むっ、どうやら慎二の奴もきているようだ気を抜いて、後ろからグサリの殺されるなよ」

「言われなくても、わかってるさ」

以前、お前にやられたからな。特に、後ろは特に警戒しておく。さて、とりあえず道を見て見たがアリーナとして歩ける場所は限定されている。だが、その広さはサーヴァントが争うに十分なもの。
さらに通路の緩急は要所要所が戦闘の際に有効活用、あるいは邪魔になりそうな配置がされている。そのことを考えて戦って行こう。そんなことを考え、アーチャーと共に進んでいく。
アリーナを進んでいくと、少し広い場所に出た。すると、

(ん?中心に何かいるな…………あれは)

体が大きく、四本足で日本のツノがある牛型のエネミーがいる。牛のエネミーは、俺とアーチャーの方をみると蟷螂の鎌のようなツノを俺目掛けて振り下ろす
すぐさま手に干将・莫邪を、交差させて、攻撃を防ぐ。一層のエネミーの攻撃なんかよりも、やはり強い。

「はぁっ!」

掛け声と共に切りつけたが、ツノでガードをされてしまった。切り上げ、斜め切りと何度も切りつけるが、その度にツノで守られる。くっそ、このツノ厄介だな。

「どけ」

痺れを切らしたのか、アーチャーが俺の前に出た。仕方ないので、アーチャーにここは譲った。

投影開始(トレース・オン)

いつもの夫婦剣ではなく、アーチャーの手には一振りの大きな斧剣を投影すると、素早い動作で、マキでも割るように振り下ろし、ツノなど気にせずに牛型エネミーを切り伏せ、消滅された。やっぱり、俺よりも強い。だけど、

「なんで、それを使ったんだ?」

今、アーチャーが持ってる武器は、バーサーカーだったヘラクレスのもの。あんな重たそうなものをわざわざ投影するなんて、こいつにしては、珍しい。

「いいから、貴様は黙って見ていればいい。いずれ役に立つ時がくる」

そうかな?あんなもの普通の人間の俺がどうやって使えるんだ。









































蛇型のエネミーや蜂型のエネミーを倒しながら、進んでいくと、分かれ道に出た。何と無く右に進んでいくと

「なんだ。行き止まりか」

アイテムフォルダしかなく行き止まりだ。仕方なく、アイテムを回収し、もときた道を戻ろうとした時、アーチャーが立ち止まった。

「どうやら、ここ隠し通路になっているな」

「えっ?壁みたいじゃないか……おぉ!?」

アーチャーが触れると壁は消え、道が出現。この奥に何か大事なものがあるのかな?

「それにしても、趣味が悪いな」

「全くだ」

そう愚痴りながら歩くと古ぼけた甲板に出る。そして、その中心に二つのアイテムフォルダが置いてあった。
一つには礼装が入っていて、もう一つに手を当てると、パキンと何かが砕けた音が響きわたる。
同時に宝箱からは何やら赤っぽい煙が立ち上っていたような気がするが、構わずに箱を開く。中には、古びた書物があった。

(これだな慎二が隠した本ってのは…………)

隠すほどのものなので何が書かれているのか気になったので、中身を見てみよう。ざらっと目を通すと、真っ先に黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)という文字が目に入った。
昨日調べた中にこの言葉があったけ。確か、世界一周をする時の船の名前だったはず。
やはり、彼女はフランシス・ドレイクで間違いなさそうだ。昨日の情報だけである程度わかったが、これでさらに確信を得た。
俺に、このことを知られたくないため慎二の性格からして、おそらくは最初はこれを壊そうとしたけど、無理だから隠したってところか。手記が航海日誌である事を確認するとパタンと閉じる。

「やれやれ、こんなものをわざわざ自ら探してくれるとは、私があのような演技をせずとも良かったな」

そういうと、アーチャーは俺達がやってきた方向を睨む。その十数秒後、古ぼけ難破した甲板の上には息を切らした慎二と、その後を悠然と歩いてくる敵サーヴァントの姿を現した。息を整えた慎二が口を開く。

「く、くそ。随分必死じゃないか。だけど、ここまでだ。さぁ、その本を返せよ。そうすれば命だけは助けてあげるよ」

「返せもなにも、勝手に図書室から本を盗んだのは、慎二の方じゃないか」

「貴様、他人の所有物を勝手に盗むのは犯罪のいうことを知らんのか?全く、常識にかけているな」

「ハッハッハ、言われちまったなシンジィ?」

「う、うるさい!お前はこっちのサーヴァントだろう!!」

ムキになってサーヴァントを叱責する慎二。だが、その言葉にも彼女はケラケラと笑うのみ。銃を構え直すと、その視線を俺たちへと映す。

「ふんふん、そっちは準備万端ってトコかい。さて、指揮官殿? アタシに合図をおくれよ。報酬分はきっちり働いてやるさ」

「チッ、言われないと何もできないのか……まあいい、力の差をみせつけろライダー!!大砲で蜂の巣にしてやれ!!」

千切れるのではないかとも思える勢いで腕を振り、怒鳴るような大声でライダーに指示を下す。慎二が叫ぶと同時に彼のサーヴァントであるライダーの身体から魔力が溢れる。

「そういう事だ。悪いね~」

「なに、気にするな。こちらとしても決着が付けられるならソレに越した事はない」

アーチャーも同じように干将・莫邪を投影し構えをとった。次の瞬間、互いの獲物が放たれ、弾きあう音が開戦の銅鑼となり、空間が赤く染め上げられた。
先手を取ったのはライダー。進行方向を塞ぐようにばら撒かれた弾丸の一発一発に明確な殺意。救いがあるとすれば、俺を狙うような気は今のところない。一方、アーチャーは弾丸の避け、凄まじい速さでライダーに詰め寄り、切りかかる。
斬撃を銃で受け流し、銃撃するライダー。その一撃に身体を翻して避け、ほぼ真下からの斬撃を繰り出すアーチャー。銃撃と斬撃の応酬が続く。

「おっと、慎二のリクエストは大砲だったね。砲撃用意!」

そう呟くと、アーチャーから距離を取り、彼女の号令と共に現れた四つの大砲がアーチャーに狙いを付けた。

「さあて、藻屑と消えな!」

四つの大砲が火を吹く。砲弾が炸裂した場所を中心に、煙がまき散らされる。あまりの衝撃に、余波で吹き飛ばされそうになるが、必死にその場に止まった。煙が晴れていく。ア、アーチャーの奴は……………

「バカな!?」

床に大穴が空いているだけでアーチャーの姿は見えない。どうやら、無事に回避できたらしい。

投影開始(トレース・オン)

いつの間にかライダーの背後に回っていたアーチャー。

「そこかい!」

ライダーはすぐさま振り返り、右の拳銃で弾丸を放とうとしたが、

「させるか」

投影したものを投擲。手にしているのは、第五次聖杯戦争のライダーの鎖付き短剣。投げることを重視したらしい。鎖で短剣を操り、振り返る寸前にグリップの底を狙い、ライダーの右手の拳銃を弾いた。

「貰った!」

短剣を手元に引き戻すと再びライダーめがけて、投擲。

「ハッ!舐めるんじゃないよ!!」

笑いながらそういうと、腰にさしていた剣を抜き、短剣を弾く。大航海時代によく使っていたカトラスとかいう剣だ。拳銃じゃなくて剣も使うようだな。
そこからは、二人の立ち位置が変わった。アーチャーは、ひたすら短剣を投げ、ライダーがカトラスでそれを弾くといった攻防が続き

『-戦闘を強制終了します-』

セラフからの警告と共に両者が離れる。どうやら、二度目ということで前回よりもセラフが感知されるのが早くなったみたいだ。

「な……何やってんだよライダー!!」

「……そう騒ぐなよ慎二。船長ってのはいつでも冷静でなきゃいけないよ」

返すライダーの軽口にも、覇気はない。本人が思っていた以上にアーチャーとの戦いが苦戦を強いられたのだろう。

「チッ!だけど、この程度で調子に乗るなよ。僕の力はこんなもんじゃないからな!!」

威勢のいいセリフをはいて慎二は、リターンクリスタルを使いその場から消えた。

「どうやら、完全に怒らせてしまったらしいな。さて、探索を続けるぞ」

「大丈夫なのか?」

「貴様に心配されるなくとも大丈夫だ。行くぞ」

アーチャーは、一人奥へと進む。俺も慌ててあとを追った。幾つかのアイテムをゲットして行き(ミカンも見つけてしまったが)、そして……………

「これで、二つ揃ったな」

暗号鍵も見つけ、これで戦闘の参戦資格をゲットできた。後は、決戦を迎えるだけだ。




























《一回戦 七日目》
光陰矢の如しというものがあるように、いよいよ決戦の日となった。いつもはマスターやNPCたちによってざわめいている校舎も、今日ばかりは物静かなもので、どこか寂寥にもした気持ちを抱かせる。
相手のサーヴァントの情報は完璧に揃っているが落ち着かない。明け方、アーチャーと別れ一人とくにすることも無くふらりと歩き回り、弓道場の中に入る。
意味はない。ただ、ふらふらと目的も無く歩いてきただけだった。
道場に入り、どっしりと座れば、そこから空を見上げて感嘆の息を一つ。
数式の漂う空は、代わることなく電脳世界を遍く照らしる様子が見て取れる。戦いまで残り数時間だが、ここ数日後回しにしてきた戦う覚悟というものが未だにできていない。

「あれ、士郎?」

一人だけだと思っていた弓道場に知っている声が聞こえてきたので、声のした方を振り向いてみると、白野が立っていた。

「白野か。久しぶりだな」

「士郎もね。情報は集まったかい?」

「……………ああ。そっちどうなんだ?」

いつもと同じような対応がてきただろうか。ぎこちなかったかもしれない。

「バッチリだよ。これで勝てるかな。ところで、何か考えことしてたみたいだけど、相談に乗るよ?」

ぎこちない表情がばれたのか、心配そうに尋ねてくる白野。いろんな人から態度が出やすいと指摘されたことがあるがこんなときにでてほしくなかった。

「対したことじゃないさ」

「そっか」

白野は、それだけ言うと黙ってしまい、静粛に包まれる。どのくらい時間がたったかわからないが、俺は自然と口を開く。

「白野は、この戦いをどう思う?」

「突然、どうしたの?」

「俺はこんな戦いを許せないんだ。誰かを殺すことなんてやっちゃいけないことなのに………」

誰がなんのためにこんな戦いをしているかわからないが、こんな戦いをやらせる意味があるのか。この戦いについて白野はどう思っているのか気になったので尋ねると

「ぷっ!あはははははは。なに真面目に考えてるんだよ」

笑いながら答える白野。こいつは何故、こんな態度をとっていられるのだろう……………。遠
坂が言っていた学生気分の抜けない奴なのか?それとも、この戦いをゲームとでも勘違いしているのか?
言峰の説明を聞いていたが、あれは脅しでもハッタリでもない。明確な事実。負けた瞬間、本当にしんでしまうだろう。そう思ってしまったせいで

「なんでそんなに笑っていられるんだ!人の命がかかっているんだぞ!!」

怒鳴るように声や荒げてしまった。しまったと思った時にはもう後の祭り。笑っている白野の顔が驚きの顔になっている。

(何をやってるんだ俺………)

悩みが解決しないからと言って、人にあたってしまう自分に自己嫌悪になった。しかし、

「そんなの馬鹿らしいからにきまってるからさ」

「おい、馬鹿らしいだって!!」

白野の対応に、思わず、掴みかかりそうになった。白野の目は、先ほどとは違い、真剣な表情そのもの。

「だって、ここで誰が死のうが自分には関係ない。むしろ、どうでもいい」

「なっ!?」

今までの何処か、ふざけている態度から一変し、氷のような冷めた目になる。まるで今すぐにでも俺と殺し合いを始めるようとする、そんなイメージがおれの頭をよぎらせるほど………。

「大体ここに参加した以上、生きるかしぬかの二択しかない。遊び半分だとすぐに死ぬんだよ。死にたくなかったら、俺たちには、戦うしかないんだ。そこに理由なんかいらない」

「戦うしかない……………」

でも、なんのために?俺には、正義の味方という爺さんから受け継いだ夢がある。しかし、この戦いはその夢にとっては、まさに鬼門。他者を殺して、自分が生き残る。それができるかどうかが勝ち抜くためには必要な条件。

「そういうこと。それじゃそろそろいくね。じゃあ、また」

白野は、学食の時同様、懐から取り出した端末を操作して、瞬間移動のように消える。白野が消えた後も、俺は立ち尽くすしなかった。

(なあ、遠坂。俺はどうしたらいいと思う?)

今はいないあいつに尋ねても返事が帰ってくることはない。ここにいても、何か変わるわけでもないのでマイルームにもどることにした。

「帰ってきたか。そろそろ対戦が始まる。礼装やアイテムなどにも、気を配っておけ」

いつも通り、椅子に座り偉そうな態度のアーチャー。

「…………ああ、わかったよ」

「元気だけがとりえの貴様が、暗い顔してどうした?」

「…………これから、人を殺すかとしれないのに、元気なわけないだろ」

「ふむ。確かに少なくとも、勝ち抜く事と慎二を殺す事はイコールだ」

殺す。命が終わる。それは取り返しのつかないことそれをしなければならないという事なのか。勝たなければ死ぬ。理性は理解しているが、殺す事を拒否する心はいまだにある。
時間だけが無情にもすぎていく。 
 

 
後書き
長くなりそうなので五日と六日はカットしました。読んでいただきありがとうございます 
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