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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
  55話:彼のいない非日常(げんじつ)

 
前書き
 
言い忘れてましたが、オリジナルの話は五、六話の構成で考えています。

ではでは、オリジナル第二話、ど~ぞ~
  

 
 


時は過ぎていき、ジメジメとした雨が降り注ぐ、梅雨の時期。
そんな時期でも、放課後の子供達は傘を差しながら、元気よく学校から走っていく。雨なんてなんのその、と言ったところだ。

「………」

激しく降り注ぐ雨が放課後の教室の窓に打ち付けられ、バチバチと音を立てる。
その教室の一角で、一人暗い表情をした人物がいた。

その人物は―――なのはだ。

「………」

顔を垂らして、暗い表情のまま手でトイカメラを触っていた。

このトイカメラは、確かに士の物だった。これはあの日―――士が行方不明となったあの日、士が身に着けていた物だ。
士の捜索に当たった局員が、遺跡の付近で発見したのだ。首にかける紐が切れて、カメラには彼自身の血痕が付いた状態で、だ。

「……(士君…)」

トイカメラをギュッと握り、見つめたまま動かないなのは。
あの事件で大けがを負ったなのはだったが、リハビリを経て日常生活ができるところまで回復した。だが回復したてのなのはは、すぐに士の捜査に参加しようとしたが、それは管理局によって止められてしまった。

表向きには士の身内のようななのはに捜査に参加して欲しくないとか、なのはの怪我の完治の方が先だ、などとされているが、実際には今のなのはの精神状態で士の捜査に当たった場合、今回の事のように無茶をして怪我をして、今度は取り返しのつかない事になったら、という懸念があった為だ。

「………」

今すぐにでも探しに行きたい。でも、自分は捜査に参加できない。
その行き場のない、どうしようもない感情が、逆に彼女の精神を追い込んでいっていた。

あの時、自分がしっかりしていれば。いや、それ以前に無理して仕事を受けずに、自分の体にもちゃんと気を遣っていれば。
じっとしていると、そんな後悔の念しか頭に浮かばない。そんな日々が続いていた。

「なのは…」
「………」

そんななのはを心配そうに見つめるのは、同じ管理局員であり、なのはの良き理解者で友人でもある、フェイトとはやての二人だった。

フェイトはなのはの入院時、ヴィータやユーノと一緒に付きっきりで看病していた。その代わりに、年に二回の執務官試験に一度落ちてしまった。フェイトはそんな事気にもしていなかった。
はやては士の捜索の協力をしたり、なのはのリハビリを一緒に行ったりして、かなり気にかけていた。

そしてなのはの身を案じているのは、何も彼女達だけじゃない。

「………」
「なのはちゃん…」

フェイトやはやてよりも付き合いの長い、すずかやアリサもそうだ。
小一の時に出会い、今でも共に笑って過ごしてきた二人も、ここまで暗い雰囲気のなのはを見たことは一度もなかった。

だが、なのはを心配する四人にもまた、変化が起こっていた。
士がいなくなってから日にちを重ねるごとに、段々と笑顔になる瞬間が少なくなっているのだ。

四人もなのはと同じく、士という存在を失い、胸に穴がポッカリと空いたような感じがしていた。
いつも側にいて、それがいつの間にか当たり前になっていた日常。その五人の日常の真ん中にいたのは、紛れもなく士なのだ。五人は知らず知らずの内に、何処か精神的に士を頼っていたのだ。

「………」

そしてそんな五人の中で、一番士と同じ時間を共にしていたのは、間違いなくなのはだ。
家で朝食を食べる時も、学校に登校する時も、皆で遊んだりする時も。ほとんどの時間士となのはは一緒にいた。一緒にいた時間が長い分、その衝撃は大きいのだ。

その時、遂になのはの目から涙が流れた。頬を伝った涙は、なのはの手にあるトイカメラに落ちた。

「ッ……!」
「あっ、アリサちゃん…!?」

それを見たアリサは、表情を歪めてなのはの元へ歩き出した。隣にいたすずかは後を追うように付いていき、フェイトとはやてもアリサの動きに気づいた。

そして、アリサはなのはの隣に立って―――

「なのは…!」
「…アリサちゃ―――」

パァンッ!と、乾いた音が教室に響き渡った。
一瞬、教室内の時間が止まったかのように感じられた。なのははアリサに叩かれた頬を押さえて、目を見開いていた。

「あ、アリサちゃん…?」
「このバカなのは!いつまでそんな風にうじうじうじうじうじうじしてんのよ!」
「アリサちゃん、ダメだよ…!」

驚くなのはの胸倉をアリサは掴み、引き上げる。その後ろからすずかはアリサを止めようとするが、アリサは止まらなかった。

「あんたがそうやってうじうじしてれば、士が帰ってくるとでも思ってるの!?」
「ち、ちがう…私は…!」
「だったらそんな風にメソメソしてないで、少しは行動を起こしたらどうなの!?」

その言葉を聞いて、流石のなのはも眉を寄せた。

「私だって…私だってできればそうしたいよ!だけど…私は捜査に参加できなくて……どうしたらいいのか…」

表情を暗くさせながら言うなのは。言ってる間にも、段々と顔は垂れていき、涙が滲み出てきた。

「…私はそこら辺の事情に首を突っ込める程、わかってるつもりはないけど……だからってあんたはメソメソしてるだけでいいの!?」
「良くないよ!こんなことしてても士君は帰ってこない!それぐらいわかってる!でも…でも…!」

勢いよく上げた顔は、涙を我慢しようとしている顔だった。アリサはそれに少し驚くが、段々と弱々しくなるなのはの言葉に、またも怒りを覚えた。

「今の私には…できることが少なすぎるよ……」

側で見ていたすずかも、遠くで見ていたフェイトやはやてにも、なのはの気持ちが嫌という程感じられた。
悔しさに後悔、士のいない事の寂しさ、悲しさ…やりきれない思いまで。今までなのはが抱え込んでいた思いが、どんどんなのはから感じられた。

だけどアリサは、そんな気持ちを理解しつつも、だからこそ―――怒りを抑える事はなく続けた。

「それでも―――できる事が少なくても…信じてやる事ぐらいはできるでしょ!」
「っ…!?」

アリサの言葉になのはは目を見開いた。

「あいつは…『士は必ず帰ってくる』、そう思うことぐらいはできるでしょ!?確かに今あいつが何処でどんなことをしてるかはわかんないけど……私は、あいつなら生きて戻ってくるって思う…」

なんとなくだけど、勘だけど…そう思う。
そこでアリサはなのはの胸倉を離す。なのはは驚きのあまりその場で立たずに、イスの上にストンと座ってしまう。

「私は…なのはのように魔法なんか使えないし、そっち方面はてんでわかんないし……」
「アリサちゃん……」
「私だって…あいつがいなくなって何とも思わない訳じゃないわ……。いや、違うわね」
「…?」

そこでアリサは一旦言葉を切り、なのはの肩に手を置いた。顔を上げたなのはの目に映ったのは、涙目のアリサの顔だった。

「…ものすごく寂しかった……あいつがいなくなって、すごく…辛かった…」
「アリサちゃん…」
「なのは程じゃないかもしれないけど…私の中では今までになかったぐらい、ものすごく辛かった」

そう…士がいなくなって、確かになのはが一番辛いだろうが、アリサ達が辛くない訳ではない。ましてや知らず知らずに頼っていた存在がいなくなったのだ。不安に駆られ、何処となく寂しさを感じるのは、当たり前の事なのだ。

「でも、何もできない私には…後は信じる事ぐらいしか、思いつかなった」
「………」

今にも泣き出しそうな、悲しそうな顔をして言うアリサを見て、なのはは何も言うことができなかった。
アリサは辛くても、寂しくても士を待つ事を決めていた。それなのに自分は、何もできないからと悲しんでいただけ…それを他人に見せていただけだった。

「…ごめんね、アリサちゃん」
「なのは…?」

それに気づいたなのはは、肩に置かれたアリサの手に、自分の手を置いた。

「私、勘違いしてた。士君がいなくなって、寂しいのは私だけだって……。でも、それは違ったんだ。アリサちゃんも、すずかちゃんも…それにはやてちゃんやフェイトちゃんも、皆そうなんだよね?」
「……うん…」
「だったら…私も信じることにする。士君が帰ってくるのを」

でもずっと待ってるつもりはないけど、ね?と微笑みながらなのはは言った。

「今度リンディさんにお願いしてみる。私が士君の捜索に参加できるように」
「なのは…」
「だって、じっとしてるのなんて性に合わないもん」

そう言ったなのはの笑顔を見て、アリサは内心ほっと安心していた。ようやく、親友(なのは)の笑顔が見られた、と。
入院時も退院してからも、笑顔を見せる事のなかったなのはが、ようやく笑ってくれた。それだけでアリサは一安心できた。

「すずかちゃんもごめんね。皆辛い筈なのに、私ばっかり…」
「ううん。そんなのいいよ。私はなのはちゃんが元気になってくれれば、それでいい」

アリサと同じように、心の内で安心したすずかは、なのはの言葉に笑って返した。
ありがとう、と呟くなのは。その頬には再び涙が流れていた。それを見てアリサは少し驚いた。

「な、何よまた泣いたりして!」
「だって…だって…」
「あ~もう!なんで泣くかな~!?」
「なのはちゃん、ハンカチ使う?」
「あ、ありがとう…」

「…なのは……」
「三人はほんとに仲良しなんやな~…」

グスッと鼻をすすりながら言うはやて。少し離れたところでなのは達のやり取りを見ていた二人も、涙ぐんでいた。

「……はやて」
「ん?何、フェイトちゃん?」

「―――…私達も、自分にできることをしよう。皆の為に…」

「…うん、そうやね」

『自分にできることを』…その言葉を胸に秘め、二人は改めて決意した。また六人で、笑顔で会うことを。

そんな五人の姿を、廊下側のドアから静かに見つめていた二つの影があった。その影は音を立てずに、静かにその場を去って行った。












―――それから半年以上が経ち…十二月。
海鳴にも雪が降り始め、もう冬なんだと実感させられる、そんな雪の日……なのはは裏山の高台へと向かっていた。

半年前のあの日、なのははリンディに捜索の参加を申し出た。
流石のリンディさんも最初は驚いたが、すぐに管理局に申請を出してくれた。管理局側も、エースオブエースの復帰は喜んだが、捜索参加にはあまりいい顔をしなかった。

色んな議論の末、怪我が完治しない間は緊急時のみ、完治してからはこちらの捜査協力が出ない限りは参加させないという、少し厳しい条件を突き付けられた。
それでもなのはは捜査に参加できるならと、それら全てを了承した。

それ以来なのはは捜査に参加し、自分の体に無理のないように管理局の仕事をこなしていた。
しかしそんななのはの頑張りも空しく、士の情報は少しも入ってこなかった。彼が生存しているのかどうかすら、管理局の情報網を持ってしても掴めなかったのだ。

だが、そんな状況でもなのはは諦めなかった。必ず士は生きていると信じて。
そんななのはに、フェイトもはやても最大限のサポートをした。捜査の手伝いや協力、別任務時には軽い聞き取りなど、二人も士の事をできる限りで探し回った。

(もうすぐ…年を越しちゃうなぁ…)

高台への階段に積もった雪を踏みしめながら、なのはは空を見上げた。
士が行方不明となって、もうすぐ一年になる。そして年を越して、新たな年を迎える事になる。

でもこのままいけば……その場に、彼はいない。

「うわっ…とと……危ない危ない」

その時雪に足を取られ、滑って転びそうになってしまう。慌てて両手をつき、転ばないようにバランスをとる。
元々運動神経はよくない方なのに、何してるんだろう…、と思いながら再び階段を上っていく。

士がいなくなる前は、毎朝魔法の練習をしていた場所。他の人は日常的にはあまり来ないので静かで、見下ろす海鳴の景色と木々を揺らす風が気持ちいいこの場所は、士も『景色がいい』と気に入っていた場所なのだ。
なのはは士がいなくなってから、時折この場所を訪れていた。と言っても何をする訳でもなく、三十分程ぼ~っと海鳴を眺め、そして家に帰る。それだけの事だった。

だが、今日は違った。

(あれ…?人がいる?)

残り数段で高台、というところでなのはは高台に誰かいる事に気が付いた。しんしんと降る雪の中、誰か来ているとは思わなかったなのはは、若干そのことを不思議に思った。

腰より下まである長いコートを着たその人物は、転落防止の柵の手前で、海鳴を見下ろすように立っていた。
体格からして少し年上の…男の人、だろうか、となのはは思った。性別の判断に少し迷いがあったのは、おそらく後ろで束ねられた黒髪の所為だろう。
生え際よりも少し上のところで束ねられた髪は、最低でも首の付け根まで伸びているようで、遠目からでは判断しずらかった。そこから先はコートで見えないので、何とも言えないが。

そうやって思考している内に、なのはと男の間は六、七メートル程になっていた。
なのはの雪を踏む音に気づいてか、男はゆっくりと振り向き、なのはに顔を見せた。

「―――ッ…!」

瞬間、なのはは息が詰まる程に驚いた。
なぜならその男こそ、なのは達が必至になって探していた、彼―――



―――門寺 士だったのだから。


  
 

 
後書き
 
意外と短めになった今回の話…作者がシリアスとか感動とか書くのが苦手だというのが露呈されたと思います。まぁ自分なりに頑張った結果です。
あと主人公、生きてますからね!死なせませんよ!物語終わっちゃうし!(わかってただろうけど)

しかしながら、作者はリアルで28より合宿であります。またも書けない日々が四日も続く訳です。
おそらく木曜まででは次回は書けないので、投稿は四月になると思います。

それではまた次回、お楽しみに~
  
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