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DQ4 導かれちゃった者達…(リュカ伝その3)

作者:あちゃ
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第6章:女の決意・男の勘違い
  第29話:超高層建築物

(天空への塔)
ビアンカSIDE

天空の武具を装備した伝説の勇者が居なければ、この塔には入る事が出来ないはずなのに、何故だかモンスターが沢山蔓延っている天空への塔……
だが私の居るパーティーは結構強い人が揃っているので、ズンズン進んで行く事が出来た。初めのうちは……

日の出と同時に塔に侵入し、頂上にある天空城を目指しているのだが、昼を過ぎた辺りから進撃スピードが落ち、夕暮れ間近になりリュカを除く全員の足が動かなくなりつつある。
かなりの高さまで登ったと思うのだけど、外の景色を見たリュカは「まだ半分も来てないねぇ……」と呟いた。

おかしい……
戦闘をしないリュカは兎も角、一緒に戦ってない私までもが一生懸命に戦っている皆さんと同じように疲労困憊になるなんて……

「はぁ……はぁ……はぁ……わ、私もトシかしら……ただ移動してるだけなのに……はぁ……はぁ……凄く疲れるんだけど」
認めたくないけど、認めざるを得ないのかもしれない。

「違うよビアンカ! まだまだピチピチ美女だよ安心して大丈夫。息が上がり疲れてるのは、ここが高所だからだよ。外を見た感じだと、標高6000メートルくらいだからね……空気が薄いから動くだけで重労働なんだよ」

「な、なるほど……」
なるほどと言ったが、納得はしてない。
私よりも激しく動いてる人達と同じくらい疲労してるのは、どう考えてもトシの所為だと思う。
でも、今リュカと口論してる余裕はないので、取り敢えず納得したように振る舞う。

「じゃぁ……何で……リュカは平気なの……よ!」
私より遙かに若いアリーナさんが息を乱しながら、息を乱す事無く元気なリュカに突っかかる。
私は彼が高所でも元気な理由を知ってるが、こちらの時代の方々は知らないのだろう。出来れば聞かないでほしかったわ。

「戦ってねーからだろ……」
私や娘達の気持ちを察したのか、ウルフ君が話題を終わらせようと頑張ってくれた。そうでは無い事は解ってるのに……『パトリシアだけ置いてけぼりは可愛そうだから、一緒に連れて行こうよ』と言って、馬も馬車も引き連れているリュカは凄い重労働をしている。
本当に良く出来た義息だわ。

「で、でも絶え間なく歌ってるじゃない! 酸欠になりそうな高地で、あれだけ歌い続けるのは常人ではないわよ……どんな修行をすれば、私もリュカみたいに強くなれるのよ!?」
だがしかし、敵をおびき寄せるという行為と、リュカの強さへの憧れとでアリーナさんの好奇心は止まらない。

「修行じゃないよ……昔10年間も高所で重労働をしてたから、僕はこの程度の高さなら平気なんだよ。セントベレスの頂上は、ここよりも倍以上高い場所にあったからね……」
やはり言ってしまうのか……

リュカ本人は、もうそれほど奴隷自体の事を気にしている様子は無いのだが、周囲の私達が気を遣ってしまい過去を避けるようにしている。
逆に失礼なのかもしれないが、耐えられない身内がここに居る。

「物好きねぇ……美女でも大量に存在したの? ここよりも空気の薄い所で10年間も働くなんて……」
殺意が込み上げてくる……裕福な環境で育ったお姫様が、何も知らないリュカの事を嘲るのは!
思わず何かを叫ぼうとしたのだが、リュカの手が優しく私達家族の事を押さえ付ける。

「美女は……偶に居た。でも奴隷だったからねぇ……みんな薄汚れてたよ。それに口説く時間を作れないくらい働かされてたから、希望を言えばあんな場所に10年間も居たくなかったね」
「奴隷!? ちょ、ちょっと……それって王族であるリュカが組織した奴隷集団!?」

「本当に君は馬鹿だなぁ。どうしてあの話の流れで、その結論が出てくるんだよ? 僕も強制労働させられてる身だって伝わらなかったの? 王族としてその場所に居たのなら、嫌々10年間も強制労働をするわけないじゃんか! 僕もその当時は奴隷だったんだよ。6歳から16歳の10年間……友達と逃げ出すその日まで」

「嘘……リュカが……奴隷……!?」
本当に馬鹿な娘だわ。
他人の強さに憧れて、同じ事をすれば自分も強くなれると思い込み、他人の過去に土足で進入するお姫様……

これは私の偏見かもしれない……でも、生まれた時からお姫様として育てられてきた娘に、リュカと同じ生き方が出来るわけも無く、またその真似事だって可能だとは思えない。
リュカだってヘンリーさんが居なかったら、生き抜けたか判らないと言った事がある。

皆が多少は自分の事を不幸だと考えている。
アリーナさんは、ご家族や城の方々が行方不明になってしまったし、シン君は育ててくれた家族や村の方々を目の前で失ってしまった。

マーニャさんやミネアさんだって、お弟子さんの裏切りでお父さんを失ってしまったのだし、誰もが順風満帆の人生を歩んでいる訳ではないだろう。
私だって、故郷から逃げるように出て、早くに母親を失った事が不幸だと感じた事もある。

不幸を不幸だと思う事に問題は無い。
でも不幸に酔う事が正しい在り方だとは思わない。
リュカはそれを常に示しているわ。

自らが人質になった所為でお父様を目の前で殺され、後に10年間も幼い身体にむち打たれ強制労働を強いられてきた。
にも拘わらず、常に前向きな姿勢で人生を歩んできたリュカ……

トラブルメーカーと呼ばれ周囲から顰蹙を浴びながら、その事で皆を纏め上げる手腕。
自らが道化と化し、周囲には規律を守らせる体勢を築き上げたリュカ。
家族や仲間を守る為なら、どんな誹謗を浴びようと気にしない男!

知らぬ事とはいえ過去を掘り返してしまったアリーナさんや、常に疎ましく思っていたシン君等……皆が蒼白になりながらリュカが語る自らの過去を聞き入っている。
大切な人の過去の苦痛を、再度聞かなければならなくなった事は不本意だが、これでリュカに対する接し方を改めてくれれば幸いだと思う。

ビアンカSIDE END



(天空への塔)
アリーナSIDE

この塔を登り始めて15時間……
空気の薄さも相まって、一端安全なスペースで休憩する事になった。
ただ一人元気なリュカが、私達全員分の食事(と言っても携行食)を用意してくれている。

そんなリュカを遠巻きに眺めながら、気まずい事実を聞いてしまった事に自己嫌悪中だ。
知らぬ事……いや、知らぬ事だからこそ、他人の過去に踏み込んではいけない。
ビアンカさんを始め、マリー・リューノ・リューラ……そしてウルフまでもが、リュカの過去を知らなかった私達に対して冷たい視線を浴びせ来る。

この塔を登る前に『リュカは王族として、何不自由なく我が儘いっぱい生きてきた』と言えば、家族以外の皆が同意した共通の思いだ。
だからシンも、どこかでリュカを蔑んでたのかもしれないし、私も彼を侮っていたのだろう。

過去を語るリュカの口調は何時ものように明るく優しかった。
悲壮感も無く懐かしむような感じさえした語り口……
初めて出会ったときに聞かされても、絶対に信じる事はなかっただろう。

だが今は違う。
私はリュカの身体にある、無数の傷を……あれは鞭で打たれた物だろう古傷を目の当たりにしてるから、疑う事など出来やしない。
何より、奴隷時代の事を話すリュカを見る家族の表情が、偽りで無い事を証明する。

嫌な過去を聞いてしまった事に謝罪したい気持ちがある一方、これ以上その話題に触れたくない家族等の心も理解できる。
全然関係ない話題を出して気持ちを変えたくても、疲労困憊で思考が定まらず……下手をするとドツボに嵌まりそうで何も言えない。

一晩寝て疲れを取り払ってから、どうすれば良いのか考えよう。
きっと言葉で気持ちを表すよりも、態度でそれを伝えた方が良いはずだから。
リュカが常に前向きな性格であるように、私達も過去に拘っていてはいけないのだ!

人生経験豊富なリュカが居てくれたから、私達はここまで来る事が出来たのだ……
だから彼の行動の殆どは私達の為であると信じて、以後接していけば良いのだと思う。
まさにウルフの接し方が、それその物なんだろう。

アリーナSIDE END



 
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