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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百三十一話 始まりは森の中で

 
前書き
はい!どうもです!

(待って下さってる方が居るかはともかく)お待たせいたしました!、今回からMR編を開始いたします。

導入としては基本的には原作とそんなに変わりませんw
まぁ文章が鳩麦ですが……w

では、どうぞ!! 

 
『…………ふぅ、寒ぃ』
ザク、ザク、ザクと、雪を踏みしめ、地面に足がめり込む音がする。
上り坂を歩く彼の周囲には、キラキラとした水晶が光り、夜の洞窟の中を明るく照らす。
向かう先に有る洞窟の出口から見える空には雲一つないのに、どう言う訳だか虚空から降り注ぐ雪の勢いは衰える事は無かった。

『おーい、疲れてないんですか~』
『え~?こんな景色見てたら疲れないよ~』
『テンションってこええよなぁ……』
彼の声に、笑いながら先をふらふらと左右に落ち着きなく歩いて居た少女が答える。
勢いが良いのは悪い事ではないのだが、不意打ちが致命的に成りかねないこの世界でそうも無警戒にそこいらをうろうろされると、その内地雷かデストラップを踏み抜くのではないかとヒヤヒヤする。

『やーれやれ』
まぁとは言っても、彼女がこうしてやたら先行するのは、別に何時ものことと言えばそうなのだ。
それでいて、其れなりに長いこのダンジョンを超えて此処まで来れているのだから、案外彼女には危険を避けるような天性の何かが有るのかもしれない。
と言うかそもそも、大体の危険はその強さでどうにかしてしまうのである。

『わぁぁ……!』
『…………』
……だからと言ってこのようにやたらフラフラと歩くのもどうかとは思うが。

『ほら、行くぞ。もうちょいで出口なんだ。こんなとこで油売らない』
『えー!?も、もうちょっと……!』
言いながら、りょうは追いついた彼女の首根っこを掴んで引きずって行く。やがて……

────

「…………ふぅ、寒ぃ」
ザク、ザク、ザクと、雪を踏みしめ、地面に足がめり込む音がする。
夜のアインクラッドは、街明かりの無い場所だと割と暗い。外周部に近いこの場所だと天気が良ければ月と星の明かりが周囲を照らすのだが、雪の降る今の空模様では其れも叶わず、屋根が有る筈なのに、相変わらずこの浮遊上の雪は一向に衰える気配が無い。
必然、暗い暗い夜の森を照らすのは、リョウの隣に浮いている光球の光だけだ。

飛行制限時間の無くなった今のALOで、こんな風に零下10度以下。おまけに雪の降る夜の森を歩きたがるのは、自分くらいのものだろうな。等と考えて、彼は人知れず苦笑する。
特に理由が有るわけではない。雪道を歩いた事なら今の自宅では無い。育ちの故郷である福島で嫌という程経験があるし、特にこの行動にゲーム的なメリットは無いだろう。
ただ強いて言うなら、“そういう気分”だったと言うだけの話。

何しろ平地で木々が林立する雪景色の中を夜に歩くなど、現実世界では、それも日本の東京や川越では滅多に見る事叶わない体験、風景だろう。
リアルとは違う風景を見る事が出来るのも、VRRPGの醍醐味である。現に目の前の風景は確かに険しいとは言え、ちらちらと光球の光を反射した白い雪が舞い、一面を白く染め上げられた其れは、素朴で、同時に美しい。
どうせ疲れる訳でもないのだから、雪かきや濡れ、疲れの心配が無いこの世界で、ゆったりとこういう風景を満喫するのも悪くないかと思ったのだ。

「おっ……」
と、そんな感慨に耽りつつのんびりと歩いて居たリョウの視界の先に、柔らかな橙色の光が見えた。
其れはこの浮遊城がまだ妖精では無く、唯の剣士たちの世界で有った頃から、其処に有る光だ。
今は家主は違うが、其れは昔はリョウの自宅の物であり、同時に其処に自分を待つ人が居てくれていると言う証明でもあった。未だに森の中にあの家と光を見つけると少し心に温かい物が灯るのは、そのせいなのだろうなと思いつつ、リョウは歩く。やがて、森の中のログハウスの玄関が、カラカラと言う音を立てて開いた。

────

此処、22層に有るログハウスをずっと購入したいと言っていたのは、SAO時代個の家の屋主でもあった、アスナが一番初めだった。
何しろ五月に実装されたこの《浮遊城アインクラッド》のマップに置いて、十二月後半に解放された21層のフィールド及びボスを、アスナを中心としたキリト達レイドメンバーは解放されたその日に突破したのだ。
22層には森いがい特に何もないし、此処のようにエリア端に有るログハウス等そもそも知っている人間が居るかどうかすら怪しいのだから、何も其処まで急がずとも全く問題は無いだろうとリョウ等は内心思ったのだが、まるでそのほんの少しの可能性が何より恐ろしいかのように必死になっているアスナを見ると、流石にそんな事を言いだすわけにも行かなかった。

そんな彼女の相手をする羽目になった21層ボスは、ある意味全ボスの中で最も運の悪いボスかもしれないなとリョウとしては感じている。
半分治癒師(ヒーラー)の癖に、前面に立って何時ものワンドではなく昔からの彼女の得物である細剣(レイピア)振りまくって、もしかしたら瞬間的にならリョウを超えていたのではないかと思えるほどの大暴れっぷりを見せた彼女を、クラインは「昔のKoB副団長よりも凄かった」と評したし、実際、其れにはキリトもリョウも同意だった。
まぁお陰で《狂治癒師(バーサークヒーラー)》の二つ名に拍が付いた事に関しては本人は不満そうだったが、それも仕方が無いと言う物だ。

まぁ何はともあれ、そんな必死さと共に22層のフィールドを駆け抜けた彼女は、見事に、再びこのログハウスの所有権を得る事に成功した。
誰よりも早くログハウスにたどり着いた彼女にキリトやリョウが追いついた時、それまで鬼のような強さを見せつけていた彼女がへたり込んで振り向き、「やったよぅ……」と情けない声を上げた事や、その後キリトと10歳児サイズのユイ、晴れて再びお隣さんと成ったサチ、リョウで、ささやかなパーティを開いた時、再びアスナが大泣きしたりした事は、当事者だけの秘密になっている。

《家》と言うのは、人がほかのどの場所よりも安らぎを得られ、心から休める場所である。と言うのは、何処の本に書いてあった文句だっただろうか。
あるいはアスナにとっては、このログハウスこそ、その場所なのかもしれない。と、リョウは感じていた。

「おーっす」
家の中に入り、玄関を通り抜けると、すぐにリビングに成っている。
手に入れてからしょっちゅうアスナやサチの料理と、この温かみのある空間を目当てに玄関をくぐる来客が絶えないこの家のリビングは、本日は珍しい客人は無く、何時も通りのメンバーで埋まっていた。

「あ、リョウさん」
「よっ、シリカ、宿題終わったか?」
初めにリョウに声をかけたシリカに、リョウはニヤリと笑って言う。と、途端にシリカは焦ったように答えた。

「う……い、今進めてる最中です!」
「夏にそう言ってギリギリだったんだから、今度は頑張れよ~。ま、既にギリだけどな」
「うぅ~……」
ニヤニヤと笑って言うリョウに返答出来ずにシリカが俯くと、隣に居たリズが苦笑しながら言った。

「あんまり後輩を苛めてると嫌われるわよ~?」
「オイオイ、有りがたい注意を苛めてるとは心外だぜ。ってかお前はもう終わってんのな」
「アタシは先にやっつける派だからね」
「その辺以外なんだよなぁ」
言いながら、どう言う意味よと聞いてくるリズにそのままの意味だ。と返してリョウはウィンドウで装備を浴衣に切り替える。
と、リョウが入って来ると同時に立ち上がってポットを操作していたサチが、微笑みながら彼に聞いた。

「リョウは、お茶、どうする?」
「あぁ。任せる。基本外れねぇしな。お前の茶」
「ふふっ。はい」
少し嬉しそうに言って、サチは再び茶を入れる。
実を言うとこの時視界の外でこの部屋に居る女子全員が「完全に夫婦だよね(よね)(ですよね)……」と思っていたりしたのだがそれは特に今言う事でもあるまい。

「ぐぅ……リョウ兄ちゃん……ちょっと、来て……」
「んー?何の教科だ?」
「英語」
「またか」
唸るような言葉と共に、リーファがリョウを呼び、リョウは横から其れを覗きこむ。どうやら英語の長文に苦戦しているようだ。
コツさえ分かればこれも割とスイスイと解けるのだが……

「そう言えば、リョウは終わったんだっけ?宿題」
「まぁな。生徒会の役員が宿題忘れとか洒落にならねーって風巻がうるさくてよ……そっこーで終わらした」
ふんっ。と憮然とした態度で言うリョウに苦笑しているのはアスナである。
ちなみに彼女は今、空中に幾つものウィンドウを展開して資料を見ながらレポートを進めている最中のようだ。

「あ、あー。うん……うん……」
「まぁ、後は流れだな。ぶっちゃけ雰囲気で解いても何とかなるし」
「またリョウ兄ちゃんは感覚的な事言う……まあアタシも人の事言えないけど……」
教えたんだから文句は控えとけよ。とリョウが苦笑するのに対してふふーんと笑いながら宿題を進めるリーファを見て、アスナが微笑む。
彼等兄妹は、キリトも含めて本当に仲が良い。共に一つ屋根の下で其々家事をこなしながら暮らし、互いに助け合い、時には喧嘩して日々を暮らす。
本人たちに自覚は無いだろうが、まさしくして、それは理想的な兄妹像だとアスナは思う。アスナにも兄や従兄弟は多く入るが、彼等のようなお互いを温かく支え合うような関係には程遠い関係性だ。
兄が自分の事をどう思っているのかは、正直な所よく分からない。昔は、まだ少しは兄妹らしく要られていたように思う。けれど今は、彼との距離感も上手くとれなくなってしまった。

と、ストン、と、隣からふわふわしたものがアスナの肩に当たる。
アスナは微笑んだまま、ぴくぴくと耳を動かし幸せそうに寝息を立てる彼女の耳を少しくすぐりながら、言う。

「ほら、シリカちゃん?またギリギリになっちゃうよ~?」
「うにゅ……むにゃ……」
「うーん……」
むにゃむにゃと反応は示すものの、なかなか覚醒しない彼女に、アスナがどうしようかと思案し始めた時だった。

「起きろ」
「……ぴゃっ!!?」
不意に後ろからリョウの声がして、その瞬間シリカが跳ね起きた。リョウがシリカの両猫耳を、一瞬だけピンっと引っ張ったのだ。
この猫耳は、以前のシノンの例で説明したように本来人間には無いにも関わらず感覚の有る不思議器官なので、一瞬だがシリカには“相当変な感覚”が走った筈だ。

「あー、もう、リョウ……」
「り、りり、リョウさん!止めてください!」
アスナが呆れて言い、シリカが顔を朱くして抗議するのを、リョウは涼しい顔で受け流す。

「寝る奴が悪い。ん?なんだよ、もうちょいじゃんそのページ。ほら教えてやるからさっさとやるやる」
「な、そ……う…………」
「ほれ、はよ見る」
言いながら、リョウはシリカの後ろに座って計算式を睨み始める。
真横にリョウの顔が来る形となったシリカは、流石に恥じらいが文句に勝ったのか、顔が朱いまま、しかし大人しく従い、計算式を見る。

『もう……』
こういう所、従弟と同じで無自覚なんだろうなぁ、と、アスナは苦笑気味に微笑みながら思った

シリカにとってのリョウと言うのは、言わば“憧れのお兄さん”的な立ち位置だと、シリカのリョウに対する態度や言動からアスナは理解している。

昔まだSAOに居た際、シリカはリョウに命を救われた事があるそうだ。
リョウはその時は別件で偶然シリカと知りあったそうだが、その頃からリョウはシリカに何かと世話を焼いて居たらしい。
プレイヤーとして、シリカの攻略状況や装備の事に対して、あくまで彼女自身が参考として考えられる程度のアドバイスを与えたり、サチとシリカを引き合わせ、家庭的なサチに菓子や服と言った楽しみの面で世話を頼んだりと、彼女自身がSAOで生きて行く為に多くの事をリョウは学ばせたようだ。

そんなこともあって、シリカはサチとリョウの仲にはどちらかと言うと女子たちの中では理解が深い。
これはあくまで推測だが、彼女の中では、理想的な女性像の一つとしてサチが、そして理想的な男性像の一つとしては、リョウが収まっているのではないだろうか。
そしてその二人がどれだけ似合いであるかを知ってるが故、言い方はアレだが、自分にはそもそも入り込む余地が無い事を理解し、同時に二人の幸せを願ってサチの事を応援しているのだろう。

「ほほーう?シリカ~?顔朱いわよ~?」
「そ、そんな事有りません!」
「なんだ?照れてんのかお嬢ちゃん」
「や、やめてください~!」
さて、そんなシリカに対して、完全な友人としてリョウに接しているのが、今リョウと共にシリカをからかい出したリズや、あるいはアイリ、そしてヤミだ。
彼女達の場合、リョウは軽口叩きあって笑い合う、正真正銘友人である。
友人と言うのにも、色々とある。
例えばリズは、リョウとは始め客と店主だった。リョウに彼女の店を紹介したのは元々アスナだ。まぁ後々「なんでアンタは大変な客ばっかりと知りあうのかしらね」と愚痴られたのは良い思い出だが、今はそれは良い。

リズとリョウの今の関係は、まぁ客と店主も継続中だがもっぱら軽口叩きと弄りが多い。
ちょくちょく、この二人は互いを弄ったり二人で弄ってきたりする。この二人の方だとアスナ等も中々抜けだせなくなってしまうので厄介だ。今はシリカの方が対象に成っているが、まあ勉強中なのでその内収まるだろう。

ヤミなどはどちらかと言えば喧嘩友達にも見える。
ただ同じ場所に所属している為なのか何なのかは分からないが、何気にあの二人の間には奇妙な仲間意識が有るようにも感じていた。
仕事仲間と言うのだろうか?ああ言った関係性も、あれはあれで悪くないなとアスナ自身思う所では有る。

ちなみにアイリはどちらかと言うと、あの二人の潤滑剤として見かける事が多い。
しかし彼女は案外リョウに積極的に絡んでいく少女で、リョウ自身其れを嫌がって居ない。恐らくGGOでも一度はバディを組んだと言う事だから、お互いの波長が何となく会うのだろう。
以前はサチのライバルに成るかとアスナとしては気を揉んだものだが、特にそう言った事は無かったようだ。

さて、そんな風にアスナが気を揉む理由となった元凶……と言うより、原動力はと言うと……

「よい、しょ、ふふ……そろそろ少し休憩しないかな?」
「あ、サチ」
その原動力こと、サチがアスナの後ろからを持って歩いてきたトレイの上には、ティーカップとポットが有った。

「いま、タルト持ってくるね」
「おっ」
「タルト……!」
「あ、お前それ解いたらな」
「へっ!?……!」
タルトの甘い香りに目を輝かせて顔を上げたシリカが、リョウの一言で一気に緊張の表情へと変わる。
リョウと視線を合わせて彼が一切冗談無しに言っている事を察した彼女は、猛然と目の前のテキストデータに向かい始めた。

「リョウって、シリカの扱い心得てるわよね」
「ま、基本俺も食い意地張った方だからな。ハングリー精神最強だ」
「女の子に食い意地とか言わないの。もう……」
うははは。と笑うリョウに、アスナが苦笑しながら突っ込む。まぁ言ってしまうと、彼の、と言うか彼等兄弟の揃ったその性質のお陰で、アスナはキリトとの良好な関係にきっかけを作れたし、サチもリョウの心を掴む要因の一つと成っている訳だが……

「(って……)」
考えてみると、私とキリト君って結構食べ物の繋がり多いなぁ、と今更ながらに思い返す。
男は胃袋から掴めとよく言うらしいが、全くその通りだとアスナは思った。

「はい。お待たせしました」
「出来ましたリョウさん!」
「お、待ってま……お前ホント食い物掛かるとはえーな……」
サチがタルトを持ってくるのとほぼ同時に、シリカがテキストデータをリョウに見せつける。
半ば呆れたように苦笑して其れを確認したリョウは、それに少し目を通すと、満足そうに頷いて言った。

「うん、良いだろ。よく解けた」
「えへへ……」
照れたように笑うシリカの頭をポンポンっと二度撫でた後、サチに言った。

「お、洋ナシか……?」
「うん。イリシャの実っていう素材から出来たんだ。見た目は洋ナシだけど、本物の洋ナシより少し甘さが強いんだよ?」
「ほうほう……」
言いながら切り分けられていくタルトを見ながら、リョウが不意に目線を反らして言った。

「そーいや、もう一人の食い意地はまた寝てんのか」
「あはは……うん、あの通りぐっすり」
「多分シリカちゃんが眠くなったのも、アレのせいですよねー」
部屋の一点を眺めて、アスナとリーファも言う。その視線の先には、浅黒い肌をしたスプリガンの青年が、妖精サイズの黒髪の少女と水色の羽毛を纏った小型の(ドラゴン)と共にスーピーと眠っていた。
言うまでも無く、キリト、ユイ、ピナである。

「相変わらず此奴が寝ると同じように寝たがる奴が出やがる。スプリガンの寝顔に何ぞ催眠効果でもあんのかね?」
「ふふ……きっと、キリトがとっても気持ちよさそうに寝るからじゃないかな?」
ティーカップに茶を注ぎながら、微笑んでサチが言った。
その瞳に、何処か懐かしむような光を感じて、アスナは不意に以前聞いたキリトとサチ、リョウの昔話を思い出す。
自分にとってのキリトの寝顔と言うのは、強いてと言えばSAO末期の頃、今いるこの家と同じ場所で彼と過ごした思い出へと結びつく印象の強い光景だが、サチにとっては、その寝顔はずっと昔に彼女の救いとなった寝顔なのだ。

君は本当に色々な人を支えて来たんだねと、自らもそうである事を思いつつ愛しい人の寝顔を彼女は眺める。

……あぁ、やはり彼からは不思議な眠気誘発効果が有るようだ眺めている内、身体がふんわりと浮いて居るような……

「はい」
「あ、ありがと、サチ」
不意に目の前に差し出されたティーカップで、薄らいでいた意識が覚醒する。カップを差し出したサチはと言うと、クスクスと笑って囁くように言った。

「ふふ……今、ちょっと眠くなってた?」
「えっ!?あ、うん……ちょっと」
照れたように笑うアスナに、サチは何時ものように微笑んだ。

「それじゃあ、このお茶は眠気覚ましだね。丁度良かったかな……?」
「え?丁度良かったって?」
「うん、このハーブティね?オロパラ草で入れたんだけど……ちょっと飲んでみて?」
「?うん」
言われるがまま、うす黄緑色の液体を、アスナは少しだけ口に含む。と、丁度レモンに似た、さわやかな香りが薄く鼻孔を抜け、覚醒仕掛けだった意識をより鮮明に目覚めさせる。

「これ……レモングラス?」
「うん。正解。この前偶然発見したんだ。眠気覚ましには良いかなって」
「うん……わ、凄い……ホントにそっくり……」
もう一口飲みながら、アスナは改めて驚いたように言った。以前アスナが飲んだ事の有るハーブティに、その味は香りは本当によく似ていたのだ。

「リズさん、れもんぐらす、って何ですか?」
「えー?知らないわよ。レモンの親戚じゃないの?」
「イネ科だから少なくともレモンじゃねぇな。まぁレモンっぽい香りのハーブだって覚えとけ」
二人が何の話をしているのか分からないリズとシリカが顔を見合わせて、リョウが苦笑しながら突っ込む。
その様子に、同じく苦笑したリーファが不思議そうに聞いた。

「寧ろ何でリョウ兄ちゃんは知ってるの?」
「あー、いや、こないだ此奴(サチ)が大発見大発見言って大興奮してた時にさんざっぱら説明された」
「……言わないで……」
肩をすくめて言ったリョウの一言に、嬉しそうな顔を急に朱くしたサチが俯いて浴衣の端をつまみながら小さな声で言った。
へいへい。と言いながらリョウは苦笑すると、お目当ての物の存在を思い出したのか、それより、と前置いてサチに問う。

「タルト、切り分けて良いか?」
「あ、うん、そうだね。リョウは座ってて?すぐ分けるから……」
「ん……おう。頼んだ」
俺がやるとどうも切り口がなぁ……とか言いながら、憮然として自席に座るリョウにクスクスと笑って、サチはタルトを均等に切り分け始める。
そんな二人の様子を見ながら、アスナはつくづく思った。
……本当に、この二人が発展するのは一体いつになるのだろうと。

その話題が出たのは、アスナがそんな物思いに耽っていた時だった。

「そう言えばさ」
口を開いたのは、リズだ。
シリカが目の前に運ばれて来たタルトに目をキラキラと輝かせるのを呆れたように苦笑してみていた彼女は、一口ハーブティーを飲んで、思い出したように言った。

「アスナは聞いた?“ゼッケン”の話」
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

原作では、この森の家ではシノンを除くヒロイン達が集結して結構絵的に花のあるシーンですよねw

其処に一つ野郎を加えると……と言ったところですw

とにもかくにもMR編は此処から始まります。
この先原作から同分かれていくのかは、まだまだ見てみるまでのお楽しみと言う事でw

ではっ!

追伸

ダンジョン募集にご応募いただいた方もお待たせいたしました!
現在最後の選考を行っておりまして、もうしばらくで決定すると思いますので、どうかよろしくお願いいたします! 
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