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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos12終宴~Curtain fall of The Desperado Party~

†††Sideシャマル†††

『さぁ、いよいよデスペラードパーティも大詰め! 3日間のデスレースは今日、めでたく決勝最終戦を迎えた!』

実況者が今日もそんなハイテンションで騒ぐ。けど私はそんなテンションじゃいられない。いま私が居る第一翔者のスタート地点は殺気渦巻いている最悪な場所なんだもの。明らかに私に向けられてる。
ううん、正確には私と、ある人以外の2人が互いに殺気をぶつけ合っていて、私もそれに巻き込まれている感じかしら。早くこんな殺伐とした世界から離れて、はやてちゃん、そしてようやく目覚めさせることが出来たシュリエルと逢いたいわ。

『では、ここまで勝ち残って来た最強の4チームを紹介しましょう! チーム・パラディース・ヴェヒター! ランサー、セイバー、バスター、ヒーラー、ガーダーの5人で構成されたベルカ騎士。同じレースに参加したチームの全メンバーからリンカーコアを抜き取った、正にデスペラード狩りに相応しい所業を行ってきた! それはこの最終戦でも見られるのか!?』

「悪魔のように言わないでほしいわ」

私たちは犯罪者たちのリンカーコアを有効活用にしているのよ。せっかくの魔法の才を犯罪なんかで使われるより、はやてちゃんの未来の為に使う方がよっぽど良いに決まってるもの、うん。

『続いて、こちらもパラディース・ヴェヒターと同じく異色の参加チーム! 魔導端末の研究・開発を営むデバイスメーカー、バルケッタ・インダストリー! 今回参加しているのは自律型デバイスの試作機とのこと! メンバーは、オリハルコン、ミスリル、アダマンタイト、アミントゥス、オイルーン! そして開発主任のウィリアム・バルケッタ氏!』

自律型戦闘用デバイス。偽“エグリゴリ”のゼフォンやミュールを思い出すけど、やっぱり違う。私と同じ第一翔者となるオイルーンを見る。姿形は確かに人型だけど、なんて言うか全身が青一色の金属質だから純粋な人には見えない。
バイクのフルフェイスヘルメットのような顔で、バイザーの奥には目と思しき光点が2つだけ。裸の男性のような肢体(でも金属だから恥ずかしくはないわ)。両手には一対の片刃の剣を携えてる。

『続いて、フリーランスの魔導師集団、チーム・ロウダウナー。年若いにも拘らず、その実力は確か。メンバーは、レインジャー、サーベイヤー、マゼラン、メイヴン、ドーン!』

10代後半から20代前半と言った風貌ばかりの少年少女ばかりのチーム。聴けば犯罪歴は無し。なのに、その才を犯罪に使おうとするなんて。日常へ帰すタイミングは今しかないわ。ルシル君も言っていたし。悪道に進ませるには勿体ない子たちだって。

『そして3年前、前回のデスペラードパーティで優勝を勝ち取った、チーム・レガリア! 悪道を悪心のままに駆け、悪名を欲しいがままに手にした無法者! メンバーは、モノケロス、ペガス、ペリュトン、ガンコナー、サントール!』

ヴィータちゃんが、ううん、私たち全員が憤怒した連中だわ。はやてちゃんのような幼い子供を誘拐したり、管理外世界でも悪事を働いたりしてる。当たるような事があれば何としても撃破しよう、って決めていた。私の相手になるのは女性、サントール。私と同タイプの補助に優れた魔導師。真っ先にあなたのリンカーコアを奪って見せるわ。2度と悪事が働けないように、ね。

『さぁ、第一翔者はいざ覚悟を!』

私たちは崖の縁に立っていつでもスタート出来るように身構える。そして始まるカウントダウン。頭上に展開されたモニターを見詰める。

「(5・・4・・3・・2・・1・・)0!!」

――旅の鏡――

まずチーム・レガリアのサントールに標的を絞る。私は飛び降りず、先に飛び降りた連中の内の1人、サントールの飛行軌道・速度を予測演算。転移魔法・旅の鏡の転移先座標をサントールのリンカーコアのある胸部に固定・・・しようとしたところで、「っ!?」旅の鏡が不発に終わっちゃった。

「え?」「あれ?」

『おおっと!? これはいったいどうしたことか!? チーム・レガリアのサントール、チーム・ロウダウナーのドーンが落下し始めたぞ! だがチーム・バルケッタ・インダストリーのオイルーンは問題ないようだ!』

実況者の言う通りその2人が崖の壁から突き出ている尖塔の1つに墜落した。オイルーンはそれを見届けて、今度は私を見上げて来た。あの2人が墜落した原因は間違いなくアレだわ。オイルーンの全身を覆うかのように青い光が湧き上がってる。でもあれは魔力じゃない。もっと別のエネルギー。きっとアレが、2人を墜落させた原因。

『えー、ここで開発主任さんから情報を頂きました。対魔導師戦用自律型デバイス試作機α・オイルーン。なんと魔力とは別種の、企業秘密なエネルギーを運用可能としていることで、AMFを搭載しているそうだ!』

AMF――アンチ・マギリンク・フィールド。魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御だと言う情報を持ってる。つまりあの2人は飛行魔法をキャンセルされて墜落したのね。旅の鏡も不発したのもきっと・・・。
ううん、問題はそれだけじゃない・・・。下手をすれば私の素顔を隠してる変装も破られるかもしれない。それだけは何としても避けないと、みんなに迷惑を掛けちゃう。オイルーンは私を標的にしたようで、高速で上昇してきた。このままじゃAMFの効果範囲に入ってしまう。それを避ける方法はただひとつ。

――旅の鏡――

本来は取り寄せの魔法だけど、空間を繋ぐことには変わらないから簡易の転移移動を可能とする。オイルーンのAMFの効果範囲に入る前に転移を行って、峡谷内――コースに進入する。

『おお! ヒーラーが転移魔法によってAMFの危機から脱出! オイルーンを無視しての飛行を開始!』

魔力とは違うエネルギーを運用しているって事からオイルーンにリンカーコアがあるとは考えられない。だから正体が暴かれる危険を冒すより逃げに徹して、第二翔者のヴィータちゃんの元へ急いだ方が良いわ。
後ろから迫るオイルーン、そしてアレが持ってる一対の片刃剣から飛ばしてくる斬撃からひたすら逃げる。あとアレだけじゃなくて、墜落から復帰した他2人にも注意しないと。まぁ、今さら追いつけないと思うけど念のため。

『逃げる逃げる、ひたすら逃げるヒーラー! それを追うのは人間ですらない人型デバイス、オイルーン!』

(このまま逃げ切って見せる!)

尖塔の隙間という隙間を出来るだけ速度を落とすことなく潜り抜け、ようやく『ヒーラーが第二翔者の待つシフトゾーンへ到達! バスターと交代を果たす!』ヴィータちゃんの元に辿り着いた。

「お願い!」

「おう、任せとけ!」

ヴィータちゃんとタッチを交わす。ヴィータちゃんは私と入れ替わるように崖から飛び降りてコースに進入、第三翔者のシグナムが待つシフトコーナーへ向かって飛び去って行った。
遅れて到着したオイルーンは、外見が全く同じで、違いと言えば体の色が紫で武装が一対のナイフである人型デバイス、ミスリルと金属音を響かせながらタッチ。ミスリルもまた魔力とは違う紫色のエネルギーを全身から溢れ出させて飛び去って行った。
それから少し。大きく遅れてやって来たチーム・レガリアのサントール、チーム・ロウダウナーのドーンが到着。サントールはペリュトン、ドーンはメイヴンとタッチを交わして、それぞれ飛び去って行った。

「はぁ」

相性の悪さとは言え、私は誰ひとりとしてリンカーコアを回収できなかった。その役立たずっぷりに、思わず溜息が出ちゃう。でも、どちらにしても最後は全員のリンカーコアを回収する事になるから焦ることもないのだけど。でも・・・

(サントールくらいはこの手で・・・!)

最低最悪な犯罪者の彼女だけは、って強く思った。

†††Sideシャマル⇒ヴィータ†††

あたしの後ろから迫って来る人の形をした自律型のデバイス、ミスリル。紫色の金属ボディに、デバイスですらないただの一対のナイフ、そして全身を覆う魔力とは違う紫色のエネルギー。機械だからか殺気はもちろん戦意も敵意も無い。だから「何考えてんのか判んねぇな」攻撃の兆しが読めない。しかも魔力じゃねぇから余計に、だ。

「さっきのデバイスはAMFを持ってたけど・・・。テメェはどうなんだ!?」

――シュワルベフリーゲン――

まずはそれを確認しねぇとな。鉄球に魔力を付加したフリーゲンを4発作り出して、「おらぁっ!」“アイゼン”で打ち出す。フリーゲンは真っ直ぐミスリルんところへ向かって行く。けどミスリルは動きを見せることなく突っ込んでく。やっぱりAMFを搭載してるのか、と思えばそんな気配も無い。
あと数秒で直撃ってところで「んな!?」目を疑う光景が視界に映り込んだ。なんでか攻撃を受けてもないのにミスリルがバラバラになっちまった。その光景につい呆けちまったあたし。

『これはどういうことだ!? チーム・バルケッタ・インダストリーのミスリルが、チーム・パラディース・ヴェヒターのバスターの放った攻撃を受けるより早くバラバラになったぞ!・・・やや!?』

「なんだ!?」

バラバラになったミスリルの体の破片が、ものすごい勢いであたしに向かって来た。呆けてた所為もあって初動に遅れが出来ちまった。最初のパーツ(高速すぎて見えなかった)があたしの左肩に直撃したけど、痛みは小さい。大丈夫だ。

――パンツァーシルト――

2つ目からのパーツはギリギリ障壁で防ぐことが出来た。次々と障壁にぶつかってくるミスリルを構成する体のパーツ。ものすげぇ音と衝撃が全身に伝わって来るけど破れない、当たり前だけどな。で、障壁越しだからよく観察できるようになった。
ミスリルはどういう仕組みかは判んねぇけど、奴は体を分割することが出来るみたいだ。判ったことはもう1つ。コイツはAMFを搭載してない。してたら障壁をキャンセル出来るはずだからだ。

(攻撃が止んだらまた元に戻るってか)

障壁に弾かれていたパーツが唯一攻撃に来なかったミスリルの頭部の下に戻って行って合体。バイザーの奥で目らしい光が細まって、あたしに向かって飛んで来た。
後ろからも他2チームの第二翔者も迫って来ているし、あんま時間は掛けたくねぇけど、その2チームの内の1人はどうしてもブッ叩いておきたい犯罪者だ。ソイツが来るまでの時間潰しっつうことで相手にしてもいいかもな。
バイザーにミッドチルダの言語で、目標捕捉。戦闘開始。って表示されたかと思えば、両手に持つナイフを拘束で振るってきた。

「テートリヒ・シュラーク!!」

あたしは障壁の連続展開して防御つつカウンターで“アイゼン”の一撃をお見舞いしようとしたけど、「めんどくせぇ、コイツ!」当たる前に部分部分で分割されるから空振りする羽目に。

『えー、ここで開発主任さんから情報です。悪環境下作業用自律型デバイス試作機α・ミスリル。電磁石搭載のボディであり、電磁力によって分割・合体が行えるそうだ! 負けなしの鉄槌騎士バスターも、この異質なボディを有するミスリルに苦戦は必至か!?』

「随分と面白ぇ体を持ってんな、お前!」

つうか、悪環境下作業デバイスのクセして何で戦闘してんだよ。ミスリルの分割回避、分割攻撃(腕を伸ばしての刺突や、足を延ばしての蹴り)とか、完全に戦闘用じゃねぇか。

『おおっと! リードしていたバスター、ミスリルの元にペリュトン、メイヴンが迫る!』

来やがったな、ペリュトン。あたしらパラディース・ヴェヒターが討たないといけねぇ外道の中の外道。奴に集中するためにはまずミスリルをどうにかしねぇとな。ミスリルが振るってきたナイフを“アイゼン”の柄で受け止めてすぐにカウンター。ミスリルは即座に体を分割したけど、「もう見切った!」“アイゼン”の軌道を僅かに上に逸らして振り切る。

「ホームラン!!」

――テートリヒ・シュラーク――

“アイゼン”の一撃をミスリルの頭部に直撃させることに成功。ガキィンと良い音を響かせてミスリルの頭はどっかに飛んでった。ミスリルの核らしい頭が無くなったことで体を合体させてた電磁力も消えたのか、バラバラになって峡谷の底へ落下してった。

『なんとぉぉ! ミスリルはバッラバラになって落下ぁぁーーー! 頭はどこに飛んで行ったかぁぁーーー! そして叫ぶ開発主任ーーーーー!!』

「はんっ! 舐めて掛かってきた罰だぜっ!」

さぁ、次はペリュトンだ。犯罪歴の無ぇメイヴンはこの際無視だ。犯罪歴の無い奴を相手にするのはパラディース・ヴェヒターの掟に背くからな。徐々に近づいて来るペリュトンとメイヴン。標的はおっさん、ペリュトン。若い男、メイヴンは無視。あたしは「アイゼン!」のカートリッジを1発ロードして、強襲形態ラケーテンフォルムに変形させる。
一片の情けも、一切の容赦もなく、ただ確実にぶっ潰す。先にやって来たメイヴンはあたしの様子に少し怯みを見せたけど、顎で先に行くように促すと、スピードを上げて先に進んだ。が、「テメェだけはここから先は一方通行だ、止まれ」ペリュトンに停止を呼びかける。

「小娘が粋がっておるわ。どれだけの場数を踏んだかは知れないが、調子に――」

――ラケーテンハンマー――

「戦場で敵を前にしてベラベラと語ってんじゃねぇよ、おっさん」

「むぉ・・・!?」

――ラウンドシールド――

“アイゼン”のヘッドの片側に在るブースターを点火、その勢いで急速突進する。これまでラケーテンフォルムもラケーテンハンマーも使ってこなかったからな。おっさんはあたしに急襲に驚いた。けど素人じゃなかったことが幸いしてギリギリシールドを張った。
でもな・・・「脆いんだよ!!」ブースターとは反対側に在る突起が奴のシールドを削っていく。このあたし、ヴィータと、鉄の伯爵“グラーフアイゼン”の前に破壊できないものはねぇんだよ。

「おらぁぁぁぁぁぁ!!」

ペリュトンのシールドを粉砕。振り払った勢いのまま一回転して、今度はペリュトン本人に打ち付ける。けど奴は杖状のデバイスでまたも防御した。解んねぇかなぁ、ホント。「無駄だってことが!!」奴のデバイスをも粉砕して、今度こそ奴にラケーテンハンマーを叩き込んでやった。

――シュワルベフリーゲン――

“アイゼン”を通常のハンマーフォルムに戻してすぐ、魔力弾を付加させた鉄球4発を、尖塔に墜落したペリュトンに向けて打ち放つ。ラケーテンハンマーがよほど効いたのか身動き1つしないで全弾食らった。

「これは今までテメェらが食い物にしてきた被害者たちの分だ!!」

ボロボロになってるペリュトンに向かって急速降下。「テートリヒ――」“アイゼン”を振りかぶる。と、奴は恐怖で顔を引き攣らせながら「助けてく――」ん?・・・なんか聞こえたけど、そんなの当然の如く無視だ。

「シュラァァァーーークッ!!」

「げぼぁあああっ!?」

トドメの一撃をペリュトンの腹に打ち込んでやる。唾液やら胃液やらを盛大にぶちまけたペリュトンに、「命拾いしたな。昔のあたしらが相手だったら死んでたぜ」そう吐き捨てた後、守護騎士の機能であるリンカーコア奪取を起動、奴の胸に左手を翳して念じる。と、奴の胸からリンカーコアが浮かび出てきた。リンカーコアを捕獲。これでもうコイツに用はねぇ。すぐさま先に行かせたメイヴンを追いかける。

†††Sideヴィータ⇒シグナム†††

シャマルもヴィータもそれぞれの仕事を全うした。ならば、私も全うしなければならんな。鞘に納めたままの“レヴァンティン”に目をやる。

『第三翔者のシフトゾーンに先に到着したのは、チーム・ロウダウナーのメイヴン! 第三翔者のマゼランと交代!』

マゼランと言う名の少年が崖より飛び降り、かなりの速度で峡谷内――コースを進んで行く。あれに追いつくのは少々骨が折れそうだな。このままリードを広げられてしまうと次のザフィーラでも難しいだろう。だが最終翔者のルシリオンなら逆転できる。間違いなく、な。

「悪ぃ、セイバー!」

『ここでチーム・パラディース・ヴェヒターのバスターが到着! 第三翔者のセイバーと交代!』

「気にするな。最終的にはランサーが1位でゴールするのだ。多少の遅れは気にせずともいいだろう」

私と同じ第三翔者にして撃破対象であるチーム・レガリアのガンコナーにも聞こえるようにヴィータにそう返した。そしてガンコナーへハッキリと視線(可愛らしい目だが)を向けると同時に殺気をお見舞いしてやる。と、奴は目に見えて肩を震わせた。殺気の年季が違うのだ、当然と言えば当然だが。

『これは一体どうしたことか! セイバーはスタートしようとしないぞ!』

「チーム・レガリアのガンコナーと共にスタートする許可を貰いたい」

各シフトゾーンで不正が起きないように見張る開催者側の人間へそう告げる。彼はどこかへ連絡を取った仕草をした後、実況者から私の提案が通ったという事が告げられた。

「来い、ガンコナー。我らパラディース・ヴェヒターは、貴様らレガリアの撃破を決定した。さっさとデバイスを構えるといい。こちらとしては貴様に掛かりっきりになるわけにはいかんのだ」

「っ!・・・上等だっ! 俺たちにだって譲れない悪党としての誇りがあるんだよっ!」

銃剣型のデバイスを手に私へと魔力弾を数発撃ってきたガンコナー。並の魔導師相手ならば確かに必中必倒の威力と魔力量だ。が、「ふん。この程度か」“レヴァンティン”で全弾斬り裂いて対処する。ガンコナーは私が魔力弾に対処している間に最接近して来ており、銃剣の刃による刺突を繰り出してきた。なかなかに良い戦法だ。しかしまだまだ届かんな。左手に持つ鞘で銃身を打って外側へと逸らし、間髪入れずに“レヴァンティン”を奴に向かって振り降ろす。

「く・・っ!」

「よく躱した。だがこれで幕だ!」

紙一重の差でかわされた。しかし後退に全力を使ったのか僅かに動きに乱れが生まれている。その隙を突き、瞬時に奴の背後へと回り込み、“レヴァンティン”のカートリッジを1発ロード。刀身に炎を噴き上がらせる。

「紫電・・・一閃!!」

振り向かれる前に“レヴァンティン”を振り下ろす。だがガンコナーもまた腕のある魔導師ということなのだろう。またも半身分横移動という方法で紙一重でかわされた。振り抜かれた“レヴァンティン”を戻すより早く奴は私より距離を開けるだろう。しかしそうはさせん。剣の騎士だからと言って、何も攻撃全てに剣を使うわけではない。振り抜いた勢いを無理に抑止させずにそのままその場で前宙返りをし、「あぐっ・・!?」奴の頭頂部に踵落としを打ち込んだ。

「アンコールは無いぞ」

再度カートリッジを1発ロードし、刀身に炎を噴き上がらせる。

「紫電一閃!」

脳を揺さぶられ何一つとして対処できなかったガンコナーの背中を斬る。かつての我々なら非殺傷設定などせず必殺だが、此度は無暗に血を流さないと決めているため骨折程度で済ます。私の一撃を受けて高速で墜落して行くガンコナーを追翔し、尖塔に激突して停止した奴へと左手を伸ばす。そしてリンカーコアを抜き取り、すぐさまレースに復帰。私とガンコナーの戦闘の最中にスタートしたアミアントゥスを追いかける。

(捉えた・・・!)

アミアントゥスの姿を視界に収めた。赤い金属質のボディ。今までのデバイス2機とは違い、ミッドチルダ式の魔法陣が頭部・胴体・四肢に描かれている。魔法を使える、と言うことなのだろうか。いや先入観は捨てた方が良いな。“レヴァンティン”を握る右手に力を込めたところで、

――チーム・レガリアは問答無用で潰せ。そしてチーム・ロウダウナーはとりあえず俺のターンになるまで放置してくれ。あとチーム・バルケッタ・インダストリーは、向こうから仕掛けてきた場合は破壊して良い。あ、あー、ロウダウナーもそうか。仕掛けてきた場合は撃墜していい。だけどリンカーコアは回収しなくていい。本物の戦闘と言うのをその身に感じさせてやるだけで十分だ――

ルシリオンからの指示を思い出す。前を行く1人と1機にはこちらからは手が出せないのだと。ならば追い抜くしかあるまい。尖塔の隙間を縫うように翔け、徐々に接近していく。と、そんな時、「む・・・!」アミントゥスに動きがあった。奴は背部にミッド魔法陣を展開。全身から魔力を放出した。やはり魔導師の特性を持ったデバイスのようだ。

「来るか・・・!」

アミントゥスが減速、そして私へと体を向けて来た。転移か起動かは判らないが、両前腕にはガトリング砲と呼ばれる重火器を装備。そして砲身が回転し始め、幾つもの銃口から秒速何百発という魔力弾が放たれてきた。
防御では押し切られるな。回避一択しかないということだ。すぐさま行動に移す。射程範囲が広く、避けきるには少々苦労しそうだ。が、それは弾幕の厚い近距離での話。アミントゥスから距離を取れば自然と弾幕の間隔が広まるため避けやすい。
それに、尖塔がちょうどいい具合の壁となって防いでくれる。尖塔を盾に接近を試みるか。尖塔に身を隠しながらアミントゥスに接近を試みるが・・・。

(大した威力だな。鋼のように硬い尖塔を撃ち砕き折るとは・・・!)

今しがた隠れていた尖塔が魔力弾の掃射を受けてへし折れ、下方の尖塔へ落下、別の尖塔にぶつかりさらに砕けた。やはり防御はしない方が良いな。

「だがもうこれで・・・終いだ!」

――紫電一閃――

下からアミントゥスの背後に回り込み、火炎の斬撃、紫電一閃をお見舞いしてやる。両手に大型のガトリング砲という機動力を度外視した武装だ。圧倒的な防御力を有していない以上はこれで終わりだ。“レヴァンティン”を振り下ろす。炎の斬撃は確実にアミントゥスを捉え、斬り・・・「むっ?」避けなかった。アミントゥスに刃が触れた途端、炎が掻き消え、刃が弾かれた。

(炎熱付加のキャンセル能力か・・・!?)

奴は両手のガトリング砲を放り捨て、振り向きざまに両手の十指に付いた刃による連続貫手を繰り出してきた。それを“レヴァンティン”で弾き逸らしつつ、試しにもう一度カートロッジを1発ロードし、刀身に火炎を噴き上がらせる。

「はあああああ!!」

――紫電一閃――

アミントゥスは防御を取らずにそのまま一撃を受けた。が、「やはりか」火炎が掻き消え、刃が弾かれた。

『はい、恒例の開発主任からの自慢話もといデバイス情報! 対魔導師戦用自律型デバイス試作機Γ・アミントゥス。炎熱変換された魔法を全てキャンセルする機能を搭載しているとのこと。セイバーの斬撃を防ぐことが出来たのは炎と魔力の付加をキャンセルさせて、ただの物理攻撃にすることで、アミントゥスの有している装甲と魔力障壁の防御力より下回る威力にしたから、だそうだ!』

(私の斬撃が、アミントゥスの装甲に負けている、だと?)

炎をキャンセルされたぐらいで鈍るほど、私の一撃は甘くはない。聞き捨てならないその話には少々苛立ちを覚えた。では見せてやろう。剣の騎士の、本当の斬撃を。“レヴァンティン”を具現させた鞘へと納め、最後のカートリッジをロードする。ただの物理攻撃で、その鋼のボディを寸断してくれる。
尖塔の上に降り立ち、居合の構えでアミントゥスを待ち構える。奴は当然とも言えるが向かっては来ず、滞空したままだ。ならば・・・「こちらから向かうまでだ」両脚に魔力を籠める。

「参る!」

頭上にパンツァーシルトという名の障壁を展開してから跳び上がる。瞬間的にアミントゥスへ最接近できる自信はあるが、万が一にも迎撃されては堪ったものではない。しかしそれは杞憂だった。迎撃されるより早く奴の目の前へと移動し終えることが出来た。

「閃ッ!」

――紫電清霜――

柄を握り、上半身を捻りながら“レヴァンティン”を抜き放つ。鞘内部に溜めた魔力の爆発力を利用した超高速の居合による一閃。アミントゥスは避ける事も防ぐことも出来ずにこの一閃を受けた。手応えは十分。ゆえに結末を見届けることなくレースに戻る。

『これはすごい! セイバーの目にも映らぬ鋭い剣閃に、アミントゥスは成すすべなく真っ二つだぁぁぁーーーっ! さらに泣き叫ぶ開発主任ーーーーーー!!』

それが結末だった。さて。レースに復帰したはいいが、最早チーム・ロウダウナーのマゼランの姿はもう見えず。あとはザフィーラとルシリオンに託すほかない。

「ガーダー、あとは任せた!」

「ああ!」

『チーム・ロウダウナーに遅れること2分! セイバーとガーダーが交代!』

私と入れ替わるように峡谷内へと降り、飛び去って行った。ザフィーラがスタートしてから1分後、チーム・レガリアのペガス、チーム・バルケッタ・インダストリーの自律型デバイス、黒いボディをしたアダマンタイトがスタートした。

†††Sideシグナム⇒ザフィーラ†††

第1位で翔けるロウダウナーのサーベイヤーに大きく離されてしまったが故、我らの撃破目標、チーム・レガリアとの戦闘は後回しにし、まずはロウダウナーに追いつくことにした。先のアンカーに比べればあまりにも遅い飛行速度ということもあり、僅かに背中を視界に捉えることが出来た。が、「む?」後方より魔力反応が高速で接近しているのを察知。魔力反応ということは、間違いなくレガリアのペガス。

(悪くはない状況だな)

追いつかれた際には存分に我の拳を奮わせてもらおう。だが今は可能な限りサーベイヤーとの距離を詰める事に専念せねば。ルシリオンにばかり頼るというのは年長者として格好の良いものではない。

『おおっと! これは凄まじい! チーム・バルケッタ・インダストリーのアダマンタイトが尖塔をなんとパワーだけでへし折り・・・ブン投げたぁぁぁーーーー!!』

実況者のその話を聴き、後方へと目をやる。半ばで折られた10m級の尖塔が我、そしてサーベイヤーへと向かって飛来しているのを視界に捉えた。直撃は間違いなく圧死だ。回避に全力を注ぎ、迫り来ていた尖塔を避け、別の尖塔に墜落したのを見送った。
しかしそれだけでは終わらなかった。尖塔が大きく跳ね、無軌道で再び迫って来たのだ。別の尖塔群を盾とするために我は急降下。遅れて強烈な地鳴り、鼓膜を破れてしまうかのような轟音が我を襲った。

(ちょうどいい。このまま進もう)

頭上に折り重ねっている尖塔の隙間と言う隙間から漏れる明かりを頼りに、薄暗い峡谷内を翔ける。

『えー、ここで恒例の開発者さんの自慢話です! 汎用作業用自律型デバイス試作機α・アダマンタイト。作業用は力、力こそすべて! という事で、完全パワータイプの機体だ!――っと、アダマンタイト、連続して尖塔をへし折り、前を行くサーベイヤーとペガスへ放り投げまくる! こんな地獄絵図の中、ガーダーはどこへ行った!?』

あの者たちには申し訳ない気持ちも僅かばかりにあるが、ここは先を行かせてもらおう。鳴り止まぬ轟音、途切れぬ振動。アダマンタイトは必殺の尖塔投げを繰り返す。我は尖塔の隙間を縫うように翔け、リードを広げることに専念する。
そんな中、轟音の合間からサーペイヤーとペガスの悲鳴が聞こえるようになった。死にたくない、ふざけるな、デバイスのくせに、潰されるなんて嫌だ、などなどだ。特に未だ少年と呼べる歳であろうサーペイヤーは半ば狂乱状態。死の恐怖を感じ、ようやく己らが出向いた場所がどれほどの危険を孕んでいるのか理解したようだ。

『これはまずいぞ! いくら犯罪者であろうと、デスペラードパーディ内での故意の殺害はご法度! チーム・バルケッタ・インダストリーの開発主任さん! アダマンタイトを止めてくれぇぇーーーっ!』

「ひ、ひぃぃーーー!」

聞くに堪えぬ悲鳴。こうなってはもはや仕方あるまい。頭上を翔ける2人の魔力反応を感知し、2人が通り過ぎた時を見計らい尖塔群上へと飛び出す。

『ここでようやくガーダーが姿を現した!!』

――鋼の軛――

アダマンタイトを視界に収めると同時に鋼の楔を発動し襲撃。黒い鋼の体を貫く。ついでに、「貴様もここで墜ちてもらおう!」ペガスにも軛を打ち込み、身動きを制限する。間髪入れずにペガスへと右手を翳し、「ぐ、ぉぉおおおお!?」奴のリンカーコアを抜き出す。

『鋭い、速い、精確! ガーダーの魔法がアダマンタイトとペガスを貫いたぁぁ!――と思えば、即座にリンカーコアを抜いた!』

手に入れるべきモノは入手した。アダマンタイトは自ら潰しに行く必要性は無く、命拾いしたことで呆けているサーペイヤーもまた放置で良いだろう。

『ここでガーダーが先頭に立った! このまま1位通過で最終翔者であるランサーと交代すれば、優勝は確実ぅぅ!』

我はルシリオンの待つ最終シフトゾーンへと翔ける。が、『なんと! アダマンタイトが復活! サーペイヤーもビビりながらも飛行を再開!』そう上手く事が進むわけもなく。しかも最悪なことにアダマンタイトはサーペイヤーではなく我に標的を絞ったようだ。高速で我へと一直線に翔けて来る。飛行速度の序列ではアダマンタイト、我、サーペイヤーの順だ。

「仕方あるまい。貴様は先に行くといい。そして願うなら、もうこのような場所に来ず、悪道に堕ちようとは考えないでくれ。貴様らの未来に、悪業は要らぬだろう」

「ガーダー・・・。っ・・・!」

サーペイヤーを先に行かせ、我はアダマンタイトと決着をつけるべく飛行速度を遅らせる。速度で勝っているアダマンタイトが一気に詰め寄って来た。振るわれる鉄拳は我の顔面を正確に射抜く軌道。ならばこちらは首を横に反らし避け、カウンターの一撃を振るう。奴の腕を上から押さえるように繰り出した我の一撃は精確に顔面を打ち抜いた。が、「ぅぐ・・・!」右拳に伝わる衝撃。思わず距離を取る。

「硬い・・・!」

今まで相手にしてきた何者よりも硬い体。痛む右拳を一度見、アダマンタイトの繰り出されてきた腕の振り払いを屈むことで避け、立ち上がりの勢いを利用した掌底を下顎に打ち込む。だが奴は通用しないとでも言うように反り返ることもなく、我の腕を取ったかと思えば大きく振り回し、「ぐお・・・!」足元にある尖塔の1本へと叩き付けた。
仰向けに倒れる我へと向かって急降下してくるアダマンタイト。あの怪力での踏みつけは即死に繋がる。鈍い体を押してすぐさまその場より離れる。直後、奴は我の居たところへ落下、尖塔をへし折ってそのまま峡谷の底へと消えていった。しかしすぐさま足元の尖塔を破壊しながら戻って来たが、我に背中を向けた状態だったため、鋼の軛で再度貫く。

(魔法は通用するのだな。ならば!)

腕力のみで自身を貫く軛を破壊し、突進して来たアダマンタイトを横に半身ズラしてかわし、突き立つ尖塔を足場に反転して来た奴へ向けて再度「鋼の軛!」を発動、今度は非殺傷設定という制限を払った状態で、だ。物理破壊設定された鋼の軛は攻撃としても利用できる。奴の四肢を寸断し、最後に頭部と胴体を切り離す。

『アダマンタイト撃破! ガーダーの圧倒的勝利! 主任さーん? 泡吹いてませんかー?』

では行こうか。我らパラディース・ヴェヒターが将、ルシリオンの待つ最後のシフトゾーンへ。

†††Sideザフィーラ⇒ルシリオン†††

最終翔者としての俺たちが待つシフトゾーンにザフィーラがやって来た。ザフィーラは「すまぬ」と謝罪。俺は頷くことで、気にするな、と伝える。

『さぁ、いよいよパラディース・ヴェヒター最強の騎士、ランサーの登場だぁぁぁぁ! 先を行くチーム・ロウダウナーのレインジャーを追いかけ・・・ないぞ! どうしたランサー!?』

「決まっているだろう。レガリアのボス、モノケロスを撃破するためだ」

「ま、待ってくれ! 棄権する! リンカーコアを奪われて魔導師として再起不能にされるなどご免だ!!」

などと弱音を吐くモノケロスだったが、今まで逃げずに戦ってきた他のチームの居る場所と通信が繋がり大ブーイングを受けた。モノケロスは「黙れ!!」と叫び、監視員に棄権する旨を伝えまくる。俺たちが優勝したらどの道リンカーコアを奪われ再起不能になるんだが、今は黙っていよう。助かったと希望を持っているといい。あとで絶望のどん底へ叩き落としてくれる。

『なんということだ。主催者側からチーム・レガリアの棄権を認める旨が届いた。これで残るはチーム・バルケッタ・インダストリーのオリハルコンだが。・・・こちらはそのままレースに参加するとのこと!』

オリハルコン。白い金属で太陽の光を屈みのように反射して輝いている。目つぶしにはちょうどいいボディかも知れない。このまま共にスタートして、襲い掛かって来たら撃破してもいいが、リンカーコアの無いデバイスを潰しても徒労だ。レガリアは棄権、ロウダウナーは回収非対象。じゃああとは・・・「ゴールするだけだな」“エヴェストルム”を起動し、崖より飛び降りる。そして穂先をゴールのある方位へと向ける。

『どうしたことか。ランサーはスタートせずにただ、デバイスを構えるのみ!』

術式選択。ランクは上級、効果は攻性・長距離射程砲撃、属性は雷撃。穂先の先端に砲門としてのベルカ魔法陣を展開。

戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)・・・、フォイア」

雷撃系の上級砲撃ヴィズルを発射。コースのうねりを計算したうえでここからゴールまでの最短距離に穴を開けてやる。これで終わりだ。ここで今まで使わなかった術式、剣翼アンピエルを発動。

「ランサー、参る」

急発進して、ヴィズルで開けた空の道を通る。

『これは凄まじい! 電気変換の砲撃で一直線の道を作り、これまで見せなかった飛行魔法で先頭を行くチーム・ロウダウナー、レインジャーとの距離を詰め・・・そして抜いたぁぁぁ!!』

とのことだ。1位となった俺はさらに加速していき、

『チーム・パラディース・ヴェヒター、優勝ぉぉぉーーーーっっ!』

2位と圧倒的大差を付けてのゴール。こうして犯罪者たちによる秘密の競宴、デスペラードパーティは終わった。そして今まで隔離されていた敗北者たちを交えて(俺たちが相手にしたチームの姿は見えず)大ホールでの表彰式となったのだが、主催者である裏社会のVIP共の姿は無い。どうやら艦からモニター参加するつもりのようだ。

「それでは優勝チーム、パラディース・ヴェヒターのリーダー、ランサーにお聞きします。あなた方の願いとは!?」

簡易の表彰台には1位の俺、2位のレインジャー、3位のオリハルコン・・・の開発者が立ち、実況をしていた男から俺たちの目的を問われた。今まで騒然とした会場が静まり返る。俺は表彰台から降り、大ホールに集まっている未回収のリンカーコア持ちの魔導犯罪者どもを見回す。そして左手を前方に翳し、その問いに答えてやった。

「お前たち全員のリンカーコアをいただく」

――闇を誘え(コード)汝の宵手(カムエル)――

対象全員の足元に在る自身の影を利用し、何百という影の手カムエルを具現させる。カムエルで全員を拘束し、喚き散らさないように口をも塞ぐ。そして「リンカーコア、回収する」次々とリンカーコアを抜き出していく。

(ん?・・・あれは、まさか・・・!)

ふと、ある人物に目が留まる。初日では見かけなかったはずの人物。俺は『こちらランサー。各騎、周囲を最大警戒。ネズミが紛れ込んでる』と思念通話で指示を出す。

『ネズミ?・・・あ、部外者か!』

『ああ。管理局員が居る!』

『『『『っ!』』』』

俺が目を付けた人物、それはかつての次元世界でも関わりを持ったことのある男だった。

(メルセデス・シュトゥットガルト・・・!)

セレス・カローラ率いる“テスタメント”の構成員だった、元管理局員の亡霊。この時代で生きているということは、彼は局上層部に謀殺されずに済んだ、ということだな。彼との思い出などほぼ皆無と言っても過言じゃないが、喜ばしい限りだ。

『みんな、施設内に多数の転移反応! たぶん管理局だわ!』

『どうすんだ、ランサー!』

『・・・百何十というリンカーコアを目の前にして言うのはなんだが、退却だ・・・!』

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)――

天井に向けて雷撃砲バラキエルを放ち、脱出するための道を作る。その直後、「止まれ!」「動くな!」「武装を解除しろ!」と大ホールに雪崩れ込んできた何十人と言う武装局員・・・なのかどうか怪しい。
なにせ全員がライダースーツ・フルフェイルヘルメットらしきバリアジャケット、デバイスは十人十色。武装隊どころか局員かどうかさえ判らない格好だ。

「先に行け!」

ヴィータ達を先に脱出させたところで、「ちょっと待った。ランサー!」俺を名指しで呼び止める男の声。そちらに目をやれば1人の男が両手を上げて歩み寄って来ていた。手を上げているのは武器を持っていないことを示すためだろうが、魔導師であるなら意味を成さない行為だ。トリガー(詠唱や特定動作)を用いて発動する魔法を持っているかもしれないからだ。

「何者だ?」

「はじめまして、だ。パラディース・ヴェヒターのランサー。俺たちは時空管理局本局所属・第1111航空隊。で、俺は隊長のオヴェロン。ちなみにコードネームだ。階級は一等空佐」

かなりのエリートが出て来たな。しかしそれにしても「1111航空隊・・・?」そんな部隊なんて在っただろうか。いや、アノ怪しげな格好からして正規の部隊とは思えない。

「とりあえず話をしよう。まずは、あ、うちの隊員を解放してくれないか?」

オヴェロンはそう言って立てた親指をメルセデスへと向けた。俺は指を鳴らし、メルセデスを捕縛しているカムエルを解除する。すると彼に礼を言われ、俺は「敵ではないからな」と素っ気なく返す。

「我らは管理局とは争わない。全てが終わった時、我らは自らの足で出頭しよう。しかしそれまでは――」

「待ってくれ! 実はここだけの話。管理局の一部の上層部はお前たちを局にスカウトしたいと言う意思を持ってるんだよ。俺もそうだ」

「っ、ほう。お前を含め、物好きな幹部が居るのだな」

「ああ、だから話を――」

何もかも計画通り。嬉しくて話に付き合いそうになったが、残念ながら今は話し込んでいるわけにはいかない。留まれば連中との戦闘に発展しかねないからだ。今はまだ局とことを構えたくない。そう、今はまだ・・・。

「すまないな。今はそんな暇はない」

――ドゥンケルハイト・フォーアハング――

ヴィータやシャマルが使う、閃光・爆音による視聴覚阻害・ジャミング効果の魔法を俺流にアレンジしたもので、閃光ではなく暗闇、爆音ではなく無音を一定範囲内に展開する。最後に俺も開けた穴より施設より脱出。

(待ち伏せがあると思ったが・・・居ないな)

すでにシグナム達も転移を終えたようでその姿は無い。それじゃあ俺もっと。「さらばだ」と別れを告げ、俺も転移した。


 
 

 
後書き
マガンダン・ウマガ。マガンダン・ハポン。マガンダン・ガビ。
デスペラードパーティをサクサクと終わらせました。今回だけのモブキャラの詳細を考えるのが面倒ということもありますが、今後のエピソードの為にとっておきたいモブキャラをここで出すのを躊躇ったという理由もありました。

そして次回。いよいよA’s編の本編へと入って行こうかと思います。アニメ第1話相当ですね。

 
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