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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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八 写輪眼


「カ、カブトさん…!?」
待ち伏せしていた雨隠れの下忍から巻物を守るのに、木ノ葉の第七班はカブトに手助けしてもらった。だからこそ彼らはカブトの辞退通告に愕然とする。なかでも彼に親しみを覚えていた波風ナルは動揺して、カブトになぜ辞退するのだと問い質していた。

一方、無愛想に手を挙げている君麻呂を憤怒の形相で睨みつける我愛羅。二次試験にて彼は、君麻呂に鼻の先であしらわれた事をずっと根に持っていた。必ず報復してやると意気込んでいた矢先に、当の本人が突然辞退を申し出たのである。

(馬鹿にしているのか…っ)
ざわりと我愛羅の髪が怒りで逆立つ。その怒りに呼応するかの如く、床全体の砂が小刻みに動き出した。砂の粒子は、闘技場に佇む者達の足をさあっと撫で上げる。
「が、我愛羅?」
我愛羅の様子に逸早く気づいたテマリとカンクロウが恐々と話し掛けるが、彼はじっと君麻呂に鋭い眼光を投げ続けていた。

カブトに向けられる視線が驚愕と憂慮が入れ混じったものであるのに反し、君麻呂に向けられるものは嚇怒を孕む殺気。

赤丸が脅え出した事からその殺気に気づいたキバもまた、我愛羅の尋常ではない様子にぎょっと身体を強張らせる。
(おいおいおい…っ!?まさかこんなとこでおっぱじめるんじゃないだろ―な…っ)
雨隠れの下忍をあっさり殺したあの惨状を思い出して、キバは我愛羅から距離をとろうとゆっくり後ずさった。

「おい」
周囲の脅えなど物ともせず、我愛羅は君麻呂に声を掛ける。
カブトを引き止めようとするナルの会話とは一転し、彼と君麻呂の間には絶対零度の空気が流れていた。
「貴様、どういうつもりだ?」
「…なにか用かい?」
「ふざけるな…。なぜ辞退するのかと聞いているんだ」
一言一言我愛羅が話すたびに、彼から濃厚な殺気が溢れ出る。その殺気に中てられたテマリ・カンクロウらに加え傍の下忍が皆震え慄いているのに対し、突き刺さるような殺気を直に受けている君麻呂は涼しげな顔で肩を竦めてみせた。
「僕はこう見えて病気持ちでね。これ以上の戦闘は身体に負担が掛かると判断したまでだ」
「病気だと…?嘘を言うな」
「残念ながら嘘じゃないよ。それに、君にどうこう言われる筋合いはない」
つき放すような君麻呂の物言いに、我愛羅の殺気は益々膨れ上がる。今にも殺し合いが始まるのではないかと戦慄する傍の下忍達は、無言で二人の会話を窺っていた。


「えーと木ノ葉の薬師カブト君と音の君麻呂君ですね…。では下がっていいですよ。他に辞退者はいませんか?」

ハヤテの許可が下りたため、君麻呂は闘技場の出口へ足を向ける。その際通り過ぎ様に彼は我愛羅に小声でそっと囁いた。
「強い者と戦いたいのなら予選を受けるといい。言っておくけど僕の同班――うずまきナルトは、僕なんか足下にも及ばない強者(つわもの)だよ」
独り言のようなその小声は我愛羅の耳にしっかり届く。一瞬目を見開いた彼は、視線の先を金髪の少年――うずまきナルトに向けた。

君麻呂への殺気が、ずっと前方を見据えているナルトの背中に移行する。殺気に気づいたのか、ふと背後を振り返ったナルトは我愛羅に対して笑みを浮かべた。







薬師カブト・君麻呂が辞退し、二十二人となった下忍達はハヤテの話をまだかまだかと待っていた。
ハヤテはサスケを辞退させるか否かと揉める背後の会話に耳を傾ける。
「―――大蛇丸の言ったことも気にかかる。サスケはこのままやらせ、様子を見ていく」
そう決断を下す火影にアンコは反論しようと口を開くが、火影の次の言葉に渋々引き下がった。
「但し呪印が開き、力が少しでも暴走したら止めに入れ」
どうやらサスケは予選続行という結論に達したと把握したハヤテは、ごほんと咳をして下忍達に目を向けた。
「え――…ではこれより予選を始めますね。これからの予選は一対一の個人戦、つまり実戦形式の対戦とさせていただきます。二十二名となったので合計十一回戦行い…その勝者が第三の試験に進出出来ますね。ルールは一切無しです。どちらか一方が死ぬか倒れるか…或いは負けを認めるまで戦ってもらいます。え―死にたくなければ、すぐ負けを認めてくださいね。但し、勝負がはっきりついたと私が判断した場合…ごほっ」
一度咳き込んで、彼は下忍達の顔触れを確認するように見遣った。
「…無闇に死体を増やしたくないので止めに入ったりなんかします。これから君達の命運を握るのは…」
ちらりとハヤテの視線を受けたアンコが指示を送ると、闘技場壁の一角が動き出す。
その中には回転式の巨大なパネルが埋め込まれていた。
「これですね…この電光掲示板に、一回戦ごとランダムに選出された対戦者の名前を二名ずつ表示します。では早速ですが、第一回戦の二名を発表します」
ハヤテがそう説明し終えるのと同時に、電光掲示板に名前が無作為に表示され始める。下忍達が息を呑んで見守る中、掲示板には二名の名前が選出された。

       

         ―――『うちはサスケ』VS『あかどうヨロイ』―――



「では掲示板に示された二名、前へ」
ゆっくり受験者たる下忍達の前に出た二人――うちはサスケと赤胴ヨロイは対峙する。
(ふっ、いきなりとはな…)
激痛が走る首筋の呪印に耐えながら、サスケは僅かに口角を上げた。



「第一回戦対戦者、赤胴ヨロイ・うちはサスケに決定。異存はありませんね」
ハヤテの言葉にすぐさま了承を返す二人。その光景を見て、音の額当てをしている男が興味津々といった様子で目を細める。
「え―ではこれから第一回戦を開始しますね、ごほっ。対戦者二名を除く皆さん方は上のほうに移動してください」
そう促すハヤテの言葉に従い、サスケとヨロイを残してその場の下忍は二階に続く階段に向かって歩き出す。階段の上には、闘技場の内部をぐるりと囲んでいる手摺を備えた観覧席があるのだ。

ナルトに従い階段のほうへ足を運ぼうとしていた多由也は、自分の後ろをついて来る男に気づくと顔を顰めた。
「なんだ、アンタ…」
我慢出来なくなった多由也が真っ先にその男に声を掛ける。その男の容姿はありきたりで、加えて地味な顔立ちをしている。よく言えば穏和そうな人、悪く言えば影が薄い大人だ。
「全く…君は大人にもそんな口の利き方するのかい?呆れるよ」
多由也の言葉に、その男は穏和そうな人柄とは裏腹に毒舌をふるった。そのよく聞く物言いを耳にして、多由也は思わず声を荒げる。
「お前…っ!?君…」
「多由也。落ちつけ」
だが咄嗟にナルトによって口を押さえられたため、彼女は声を上げずに終えた。
「俺が頼んだんだよ。俺達の班の担当上忍は架空の人物写真で登録したからな」
「試験についての説明前に、ナルト様から写真が載った文書を頂いたんだよ」

担当上忍を振舞っているこの男は、多由也の察しの通り君麻呂が変化したものである。ナルトが手渡した文書に載る写真の男に成り済ましているのだ。
落ち着きを取り戻した多由也から手を放し、ナルトは二人を促して階段を上がる。
傍の下忍達に自分達の会話が聞き取れないであろう場所まで移動すると、多由也は息急き切って問い掛けた。

「じゃあ予選を辞退したのはこの男に変化するためかよ?」
「いいや…それ以外にも理由はある」
多由也の問いに、君麻呂ではなくナルトが静かに答えた。
「君麻呂が病気なのは事実だ。そして…病気でなければ大蛇丸の器となっていた事もまた事実だ」
「大蛇丸様がココにいるってのかよ!?」
「そこにいるだろう。ドス・ザク・キンの担当上忍だよ」

はっと顔を上げた多由也と君麻呂は、気づかれないよう流し目でドス達のほうを見る。そこには音隠れの額当てをした男が、闘技場の中央でヨロイと対峙しているサスケを舐めるような視線で見つめていた。

「……つまり大蛇丸様に見られているこの状況下で、僕が闘うのは得策ではないと…?」
「お前が不治の病と発覚したから、うちはサスケに大蛇丸が標的を定めたんだろ?予選で暴れてみろ、すぐにお前の身体に転生されるぞ。それに今は俺が作った薬で抑えられているが、お前の病気はいつ発症するかも解らない厄介な代物だ。おとなしく観戦してくれ」

ナルトにそう言われてしまえば、君麻呂も多由也も返す言葉がない。むしろ崇拝する彼が自分の身を案じてくれたと君麻呂は歓喜する。
傍目には大の大人が喜んでいる様なので、多由也は君麻呂を白い目で見た後、何事も無かったかのようにナルトに話し掛けた。
「…ふぅん。君麻呂が辞退した理由は解ったけどよ。ウチはうちはサスケが大蛇丸様の器になれるほどの奴だとは思えねえけどな」
どこか辛そうな様子のサスケは先ほどからずっと首筋を押さえている。その様子を吟味するように見ながら多由也はぼそっと呟いた。
「今チャクラを練り込めば呪印が奴の精神を奪い身体中のチャクラを際限なく引き出すだろーよ。しかも相手はヨロイだぞ?アイツの能力、うちはサスケにとっちゃ最悪じゃねえか」
「それは大蛇丸も百も承知だ。この難局をサスケがどう打開するのかが見物なんだろ」
多由也の言葉に、ナルトは淡々と答える。彼の言葉が終わるや否や、試合開始の合図が下された。

「………それでは始めてください」







試合開始直後、ヨロイは数枚の手裏剣をサスケに投げつける。それをたった一本のクナイで弾き返すサスケ。だが呪印による痛みで彼は体勢を崩し、闘技場の床に倒れ込んだ。その隙を逃さずヨロイがサスケに向かって拳を振り下ろす。それを転がる事で避けたサスケは、クナイを床に突き刺すとソレを軸にヨロイの膝へ蹴りを入れる。
バランスを崩し転倒し掛けるヨロイの腕を瞬時に掴み、関節技を決めるサスケ。
だが完璧に決まったとされる関節技を物ともせず、ヨロイはサスケの胸倉を右腕で掴む。途端、ヨロイの手からじわじわと何かが吸われていくのを感じるサスケ。サスケの力が緩くなり関節技から逃れたヨロイは、未だ床で倒れている彼の頭を右腕で押さえ込んだ。
「お前…俺のチャクラを…っ」
「ふ…今頃気づいたか」
腕から逃れようともがくサスケに向かってヨロイは不敵な笑みを浮かべる。



ヨロイとサスケの戦いを見ていたナルト達は、静かに眼下の戦闘について分析し始めた。
「ヨロイの異端な能力…掌を相手の身体に宛がうだけで精神と身体のエネルギーを吸い出す――チャクラ吸引術。大蛇丸様の狙いは、うちはサスケのチャクラを全てヨロイに吸い出させることでしょうね」
核心を突きながらもナルトにそう尋ねる君麻呂。ナルトは彼の言葉に相槌を打ちながら、サスケに視線を向けた。
チャクラを吸われ窮地に陥っているにも拘らず、サスケの眼からはまだ光は失われていない。そう察したナルトは淡々と自身の推測を口にした。
「ああ。サスケが呪印の力に頼るのを待っているんだろうが…。この試合、大蛇丸の思惑通りにはいかないだろうな」
「どういうことだよ?」
訝しげに眉を顰めた多由也に対して、ナルトは小さく笑みを浮かべた。
「見てればわかるさ」



チャクラ吸引術を使えるのであろう右手を振り翳し、サスケを追い詰めるヨロイ。チャクラを吸われ、辛うじて立っているサスケはその右手を避けることしか出来ない。紙一重で避け続けるが時間の問題である。
その時サスケの耳に、同班である波風ナルの声援が入ってきた。

「サスケ―――!!お前はそれでもうちはサスケかぁ!!!!」

その声にふっとナルのほうを見たサスケは、何かを思い付いたように口元に弧を描く。そして再び突っ込んで来たヨロイの真下に滑り込んだ彼は、蹴りで相手を空へ突き上げた。
凄まじい脚力で蹴り飛ばされたヨロイの身体が宙に浮く。その背後に張り付くように、サスケもまた跳躍する。
これは相手を木の葉に見立てて追尾する体術であり、木ノ葉の里一番の体術の熟練者(エキスパート)――マイト・ガイ及びその弟子ロック・リーがよく使う【影舞踊】である。ナルの隣にいたリーの姿を見て、以前我が身で受けた彼の技をサスケは思い出したのだ。
だがただの【影舞踊】ではない。自分なりのアレンジをつけ加え、更に攻撃力を増そうと考えるサスケ。ヨロイの背中を指で押さえ、その攻撃を繰り出そうとする。

しかし。

「ガハッ!!」
首筋の呪印がここぞとばかりに反応し、彼の身体は強張った。呪印から伸びる斑模様が徐々に増えてくる。
(チクショウ…!いちいち反応しやがって…っ)
苦悶の表情を浮かべるサスケ。ザク達と対峙した時同様、斑模様が蛇のように彼の身体に絡みついていく。


呪印による模様は観覧席からもよく見える。呪印に苦しむサスケの姿に、多由也が咎めるような視線をナルトに向けた。けれどナルトは、ただじっとサスケの動向を見守っている。
音の額当てをした男――大蛇丸が、にやりとほくそ笑んだ。


身体を蝕む呪印。その痛みに耐えているサスケの脳裏に、同班たるナルとサクラの言葉が浮かび上がる。
(こんなものに…!呑み込まれてたまるかッ!!)
カッと双眸を見開き、心底から呪印に抗う。彼の叫びが届いたのか、呪印は波のように引いていった。


「アイツ…ッ!気力で呪印を抑えやがった…!!」
観覧席の手摺を掴み、前屈みの状態で観戦していた多由也が驚愕する。彼女の隣で同じく観戦していたナルトは、表情ひとつ変えずに大蛇丸をちらりと横目で見た。
ナルトに見られているなど気づかず、大蛇丸はサスケが呪印を抑えたことに対し、若干眉を顰めている。



「いくぞッ!!」

呪印が引き、調子を取り戻したサスケが攻撃を開始する。
相手の背後に潜んだまま、鋭い蹴りを放つサスケ。死角を突いたその蹴りは、角度を変えニ撃、三撃と連続でヨロイの身体に襲い掛かる。流れるような動きで蹴り続けていたサスケは、蹴りの衝撃と重力に従い落下していくヨロイ目掛けて、床に叩きつけるような蹴りを止めとばかりに放った。




「……第一回戦、勝者―――うちはサスケ。予選通過です」
サスケを勝者と判定したハヤテの声が闘技場に響き渡る。どよめく会場の中、君麻呂が冷静に口を開いた。


「写輪眼ですね。確か木ノ葉には体術の熟練者(エキスパート)がいると聞きました。彼から盗み取ったものでしょう」
「正確にはその弟子からだろうな。ドスに耳をやられた子がそうだろう。チャクラが使えない今、体術を使うのが最適だからな…しかしこれで、大蛇丸がサスケに執着するのは間違いない」

呪印の力を引き出さずあまつさえ抑え込んで勝利した。思惑通りにはいかなかったが、うちはサスケという可能性をこの試合で見出せた。
大蛇丸の様子を窺えば、案の定歓喜に打ち震えている。


舌舐めずりしているだろう大蛇丸本来の姿がありありと脳裏に浮かび、ナルトはげんなりと嘆息した。







呪印を封印するため、サスケを連れて闘技場を後にする畑カカシ。彼の後ろ姿を見送っていたナルト達の耳に、ハヤテの声が入ってくる。
「え―…では、さっそく次の試合を始めますね」
彼がそう言った直後、再び電光掲示板に名前が無作為に表示され始める。
予選第二回戦に選ばれた二名の名は――――――――。





       ―――『ロック・リー』VS『うずまきナルト』―――

 
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