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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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【IS】昼行灯(ひるあんどん)が照らす道

 
前書き
取り敢えず思いついた話は書いてみる病。 

 
ずっと疑問に思っていた。

「正義は勝つ」という言葉が存在するのに、何故現実には正しい人間が虐げられる?強い決意や覚悟を抱いた人が、持たぬ者の食い物にされる?それは大人に子供が逆らえない理由と同じ―――力が無いからだ。

力ない者がどれだけ正論を叫ぼうとも、力ある者には負け犬の遠吠えにしか聞こえない。ただ容姿が劣っている、ただ少しばかりテストの点が悪い、ただ少し人より地位が低い。そんな些細な違いだけで人は他人を見下し、その言葉に唾を吐きかける。

人の志は尊い。悪を悪と言い、護るべきものを護ろうとし、苦しむもののために決意する人間を誰が嗤うことなど出来ようか。だが、己の志を貫くには、その尊い意志を踏み倒す強い意志と力が必要だ。
それが、何故正しい事を考え実行しようとする人間の下には力が届かない?

そんな私の疑問は年を重ねても消えることはなく、同時に「世界が正しい人にやさしくないのだ」という漠然とした世界観が不満を口にする気概を根こそぎ削り取った。学友たちはそんな無気力な私を「昼行灯(ひるあんどん)」と呼び、からかった。

昼行灯か。正に当時の私に相応しい呼び名だ。言いたいことも言わずに宙ぶらりん。お天道様の光で霞み、何のために光っているかも良く分からない行灯そのものだ。

世の男たちは”インフィニット・ストラトス”のせいで男の権威が失墜したと叫んでいるが、実際にはそうではない。ただ単に力あるものが力ないものを除け者にしただけだ。
拳銃はそれ単体では何の危険性もない。それを人が手に取り、弾を込め、安全装置を外して狙いを定め、引金を引いた時に初めて明確な危険性を持つ。いつの時代だって本当に力を振るうのは人間だ。力が危険なのではなく、人間が力を持つことが危険なのだ。

ISの登場で世界は変わったと誰かが言った。確かに変わったのだろう。

だが―――人間は何も変わっちゃいない。

相も変わらず隣人同士でいがみ合い、貶しあい、そして虐げる。志もなく力だけを振り回すその姿は何所までも幼稚で滑稽。それでも彼等にはその幼稚な考えを通す力がある。

世界はこんな形であるべきではない。真に力を持つに相応しい人間にこそ、その剣は託されるべきなのだ。


私こそ託されるべき人間だ、などと自惚れたことは言わない。

それでも、その力を振るう才覚があると知った時、私の野心とも呼べない微かな志が揺れた。

許されるのならば自分よりも相応しい人間に、この剣を手渡したい。

だが、この剣は私にしか扱えないのだという。

ならば、私はこれを以て何を為す?

私にしかできないのならば、示さなければなるまい。

私なりに考えた、私の正しいと思う道を。

昼行燈が照らし続けた、『正義』と言う名の獣道を―――



 = = =



その男は実に気の抜けた男だった。

『はぁ・・・私の番ですか?あー、カークス・ザン・ヴァルハレヴィアと言います。これでいいんでしょうか?・・・駄目ですか』

織斑一夏と言い、世の男と言うのはまともに挨拶も交わせないような愚図ばかりなのかと溜息しか出てこなかった。

『代表候補生?はぁ、凄いなぁ・・・・・・あ、もう次の授業が始まる頃だね』

だから、少しは自分の立場というものを理解してもらおうと思ったのだ。

『織斑君一人にだけ行かせるのも後味が悪いしなぁ。私も立候補しましょう』

それが・・・こんな結果を招くことになると、誰が予想できようか。
少なくとも私、セシリア・オルコットは予想だにしていなかった。




「ぬぅああああああああああああ!!!」

教室でのぼうっとした顔は演技だったのか、と訊きたくなるほどの雄叫びが大気を揺らす。瞬間、10メートル以上はあろうかという超高熱の巨大な刀身が、スターライトmk3を真っ二つに切り裂いた。

少し遅れてライフル内のエネルギーが爆発し、咄嗟にライフルを手放していたセシリアは辛うじて退避が間に合った。胸中を渦巻く感情は驚愕と恐怖。予想だにしない強烈な一撃は完全にセシリアの出鼻を挫いていた。

「・・・避けたか。伊達に候補生をやっている訳ではないな」
「あ、貴方は・・・っ!?」

試合開始と全く同時に凄まじいまでの速度で踏み込んできた碧いISが振りかざしたプラズマ兵器は、彼の気合の雄叫びに見合った威力でアリーナの地面までも抉ってみせた。大地を直撃した後には、底が見えないほど深い斬痕を残していていたのだ。

観客も唖然としている。その光景をモニタリングしていた一夏も然り、あの千冬でさえその豹変に動揺を隠せなかった。
―――あれがあのカークス?その一言だけが頭に浮かぶ。


だが、本当に驚くのは此処からだった。

「臆したか?君の実力はその程度か?」
「・・・!」
「たかが一撃で折れるような闘志で戦いを挑むとは笑止千万!!」
「・・・言わせておけばっ!笑っていられるのは今の内だけですわよ!」

動揺から言葉の出ていなかったセシリアだったが、カークスの言葉にプライドを刺激されてかすぐさま戦闘態勢に入る。弱みを見せるな、気迫を見せろ。この男は危険だ、と本能が呟いた。故に、使う気は無かったが使わせてもらおう。

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

非固定浮遊部位から分離した独立機動兵装「ブルー・ティアーズ」が操者(セシリア)の指揮に従い臨戦態勢へと入っていく。対するカークスの操るIS「エウリード」もその手に持ったハイパープラズマソードを腰だめに構え直した。

「BTを抜かせましたわね?これを使った以上、貴方に勝目は万に一つも存在しないとお思いなさい!!」
「その意気やよし。だが私とエウリードを止める事は出来ん!!」

セシリアはそのカークスと合わさった目を逸らせなかった。のんびりとしてマイペースな普段の彼とは似ても似つかないほどの気迫と覚悟。男なんてとバカにしたあの時とはまるで別人のように豹変した彼に、気圧されていることを自覚した。



 = = =



『ぬぅ・・・小賢しいBT兵器め・・・だが!!』
『くぅっ!?これだけ撃っても止まりもしない!?』
『その程度でこの私を止められるとは思わんことだ!!』

「マジかよ・・・あいつ、ISに乗ると性格変わるのか?」

一夏はそう言うが、あの変わり様は尋常ではないと箒は思った。
カークスと言えばクラスでは布仏に次ぐマイペースで、いつも何所を見ているのやらぼうっとしていることが多い男だった。間違ってもあのように叫んで突撃する人間ではなかった。彼をあのように変えたのは・・・ISなのだろうか。

実は箒は出撃前にカークスからあのISの事を少し聞いていた。

あのIS「エウリード」は、単純性能と出力に特化した第2世代ISらしい。その余りにも行き過ぎたパワーのせいで乗り手が先に悲鳴を上げた曰くつきのISで、彼が乗るのはそれを再調整してリミッターを掛けたものだと言っていた。
碧い装甲にアクセントをつける様にちりばめられた刺々しい金色のパーツ。何所か悪魔の翼を彷彿とさせるウィング。全身装甲一歩手前まで固められた装甲は平均的なISのそれよりも大型で、見る者に威圧感を与えた。

「ISに振り回されないか心配だ」と苦笑いしていた彼が、今ではレーザーを真正面から突破して、イギリスの鼻持ちならない代表候補生を押している。その事実は、箒に少なからず動揺を与えた。

「一応剣術の嗜みはあるが、ISの技量は素人とさして変わらんようだな。違うのはあの気迫だ」

不意に、千冬が口を開いた。

「どういうことだよ千冬ね・・・先生」
「カークスはISの操縦が卓越している訳ではない。かといってISの性能頼みでどうにかなるほどオルコットは間抜けな相手ではない。あいつは今、気迫だけでセシリアを圧倒しているのだ」

そう言葉を締め括った千冬だったが、その顔色は優れない。
もしそうならば、あの気迫は何所から湧いてくる?あの気迫は常人が出せるものを遙かに超えている。そう、千冬自身が第一回モンドグロッソでぶつけられたそれとも遜色ないほどの気迫を裏付けるものは一体なんだ?

危険だな、と声には出さずそう思った。
いつかあの男は、自分の為だけにあの力を振るうかもしれない。



 = = =



「はぁーっ、はぁーっ、はぁー・・・!!貴方は・・・どうして」
「ふーっ・・・ふーっ・・・何だ?」

互いに肩で息をする。カークスは慣れないISの操縦とBT攻撃のダメージに、セシリアは止まないエウリードの猛攻と精神的な疲労。シールドエネルギー的にはセシリアが有利だったが、エウリードの馬鹿げた出力の前ではそうも言いきれないだろう。

「貴方は・・・どうしてそこまで強くあれますの?」
「・・・言葉の意味が解らんな」
「私の父は、母の顔色ばかり窺う情けない男でした。私の親戚の男どもは、オルコット家の遺産を突け狙う下衆な者ばかりでした。それも私がIS操縦者になったら誰も何も言わなくなった・・・女尊男卑の風潮にひれ伏しました。意地も体裁もありはしない、まるでそれが当然だとでも言う様に」
「・・・・・・」

カークスはセシリアの言葉に眉一つ動かさず、彼女の目を見つめた。
その目に、セシリアは心が焦がされるような錯覚を覚える。今まであんな目の男は見たことが無い。あんな覚悟と強い意志に満ちた目を、セシリアは人生で一度も見たことが無かった。

「貴方はどうしてそこまで強くあれますの?ISを扱えるから?男の意地?―――何があなたをそこまで駆り立てるのか、分かりませんわ」
「・・・確かに、今の世の中は男が我を通すには辛いな。私も意地を心の底に仕舞い込み、無気力に生きてきた。付いたあだ名は昼行燈・・・」
「・・・しかし、今のあなたから感じる意志の強さは・・・」
「ずっと思っていた。男だとか女だとかそう言う問題ではない。人が自分の信念を貫くには力が必要になる。だが、誰しもそれを得られるわけではない。それはISがあろうがなかろうが変わらない世界のルール・・・それが、どうしようもなく嫌だった」

言葉を切ったカークスの顔がほんの一瞬暗い影を落とす。だが次の瞬間には元の顔に戻っていた。

「だが、私は力を得た。望んですらいなかった力だが、天より承った以上は捨てられぬ。そして、数多の力を持てなかった人間の無念に恥じぬように、この力で我が「正義」を貫き通す!例えちっぽけな野望だと笑われようと、それがこの力を握った私の覚悟だ!!」

それがカークスの戦う理由。退かぬ気迫の源。ただ、自分が自分の信念を通すためだけに、彼はISに乗る。
何とも畏れ多い、この男はただ自分の為だけにISを振るうと言い切った。ただ自分一人の為だけに、身勝手にも戦い続けると。

「御託はここまでだ!!」
「・・・っ!!御出でませ、全ブルー・ティアーズ!」

重厚なその足を踏みしめたエウリードにセシリアは1号から6号までのBTを密集陣形で構えさせた。あのパワーを止めるには一点集中攻撃を於いて他にない。

「最後にこれだけ聞かせてくださいまし!貴方は・・・その『正義を貫き通す』というのがどれほど困難な事か理解していますの!?」

「このエウリードの力と我が信念があれば、何も恐れるものは……ない!!」

エウリードの手に巨大なビーム砲が握られた。肩の突起が激しくスパークし、砲身に莫大なエネルギーが溜めこまれていく。セシリアはBTに一斉射撃を命じたが、僅かに遅かった。


「どんな理不尽にも屈することなく! 正義を貫けるのだ!!」



 = = =



「はぁ・・・」

憂鬱の溜息を吐くのはセシリア・オルコット。つい先日IS同士の模擬戦で敗れ、手持ち不沙汰に保健室で退屈を余儀なくされている少女だ。
エウリードが最後に使用した超大型ビーム砲の光に呑まれたセシリアはそこで意識を失い、気が付いたら今日の朝だった。何でもリミッターが上手くかかっていなかったらしく、本来なら試合で発射してはいけないレベルの威力が出ていたらしい。おかげで丸一日気絶したままだったようだ。

知らなかったとはいえそんな攻撃を敢行したカークスは責任を取ってクラス代表を辞任、セシリアが復帰するまでの間だけ一夏が仮の代表になったそうだ。

そして当のカークスが先ほど謝罪も兼ねて会いに来たのだが・・・

「その・・・すまなかった!知らなかったとはいえあんなことに・・・本当に申し訳ない!・・・・・・あ、これ本音から預かった大福だよ。見舞いの品ということで。私も一つ頂いたが和菓子って美味しいね」
「え、あ、ハイ」

・・・試合中の気迫は何所へやら、すっかり元の昼行灯モードに戻ってしまっていた。肩すかしを食らう形になったセシリアは結局言いたいことも言えずに自己嫌悪で溜息を吐いているのである。

試合中のあの目に心が揺さぶられた。言葉の一つ一つに籠る意志の強さに惹かれた。彼女が今まで出会わなかった、しかし間違いなく―――強い男。

「はぁ、憂鬱ですわ・・・あれで普段も同じくらい・・・いえ、せめてあの3分の1でも真面目な顔をしてくれたら素直に「惚れた」と言えますのに・・・」

どうやら彼が貫いたのは信念だけではなかったようだ。男を知らぬ乙女のハートまで貫くとは、案外隅に置けない男である。 
 

 
後書き
例によって知らない人のために、スパロボ及び魔装機神に登場するカークス将軍です。
乱世に生まれていなかったらこんな感じかもしれないと思って・・・ぶっちゃけ「正義を貫けるのだ!!」を言わせたかっただけ。割と自分勝手な感じを表現したかったんだけど、出来てるかな? 
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