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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第132話

とある第七学区の病院。
ここに、芳川桔梗という女性がいる。
学園都市に存在する無能力者(レベル0)低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)強能力者(レベル3)大能力者(レベル4)超能力者(レベル5)の区分の上に、新たに絶対能力者(レベル6)という分類を築き上げようとした『実験』を立案、実行に移した研究者グループの元一員だ。
『優しいのではなく甘い人格』を自認している彼女は、総数二万強ものクローン人間を作り出し、その内の半分以上を『実験』の過程で殺害している。
実際に手を下したのは絶対能力者(レベル6)候補と呼ばれていた、とある超能力者(レベル5)の学生なのだが、それが言い訳になるはずがない。
現在では『実験』は致命的欠陥があるとされ、凍結ではなく中止となっている。
だが、それは『実験』に関する全ての事柄が、その時点でスッパリと消えてなくなった訳ではない。
殺されるためだけに作られた少女達と、彼女達を殺すだけを命じられ続けた超能力者、特殊な環境や体質を得ているとはいえ、やはり彼らは人間の子供達だ。
その上にのしかかる精神的な重圧は想像を絶するものだろう。
個人の問題はもちろん、彼らの間には絶対的に深い溝があり、その人間関係など壊滅的の一言に尽きる。
普通に考えれば構築などできっこないが。

「やだーっ!、ってミサカはミサカは拒絶してみたり!
 降りない絶対降りないこのスポーツバックの上はミサカの敷地だ!、ってミサカはミサカはあなたの抱えるバッグの上で正座しながら強気で抗議してみる!!」

「オマ・・・ッ!!
 人が肩で担いでいるバッグの上ではしゃいでンじゃねえぞクソッたれがァ!!
 人が病み上がりだっつー事実を忘れてェか!?」

当の被害者たる彼らは今日も元気だ、と桔梗は思う。
一方通行(アクセラレータ)と呼ばれる「殺してきた方」はトンファーのように現代的な杖を右手でつき、左肩にスポーツバッグの肩紐をかけてフラフラと立っている。
色の抜けた白い髪に赤い瞳が特徴的で、今は灰色を基調とした衣服をまとっている。
打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる「殺されてきた方」はそんな彼のスポーツバッグの上にチョコンと正座して、ブランコ風に肩紐に左右の手をそれぞれ添えている。
一〇歳前後という見た目だからこそ可能な技だが、それでも杖をつくような人間には辛いかもしれない。
肩まである茶色い髪に、同色の瞳。
空色のキャミソールの上から男物のワイシャツに腕を通して羽織っている。
八月三一日に額に弾丸を受けて入院していた一方通行(アクセラレータ)だが、一ヶ月を経てようやく退院の許可が下りたのだった。
厳密に言えば身体が治ったのではなく、やるべき処置は全部施した、というのが正解である。
砕けた頭蓋骨の破片によって傷つけられた脳の後遺症は抜け切れておらず、今も首に巻いたチョーカー型の電極によって機能の一部を補っている状態である。
それがなければ言葉を交わす事もできないし、自分の足で立つ事もできないほどなのだ。
まぁ、あれだけの傷を負って日常生活に戻ってこれらだけでも奇跡的ではあるのだが。
そんな事情もあり、彼らは現在病院の正面玄関に立っている。
本来なら桔梗自身も先月末日に心臓を掠める形で銃弾を受けている身であり、子供の面倒を見ていられるような体調ではないのだが、それでも彼女はこの役を引き受けた。
やらなければならないのではない。
これは自分でやりたいのだ。

「はいはい。
 ここは出入り口だから遊んでいると他の人の迷惑よ。
 そういうのは荷物を置いて一段落してからにしましょう。」

「ミサカは遊んでないもん!、って重心を下へ下へと押し付けながら真剣な顔で抗議してみたり!!」

「この滴り落ちるほどのレジャー感覚が遊びじゃなけりゃ何なンだよオマエ!!」

今にもスポーツバッグに押し潰されそうになりながら、一方通行(アクセラレータ)が叫ぶ。
芳川はそういったやり取りを聞かずに玄関から少し離れると、待たせてあったタクシーの運転手に軽く手を振る。
ゆったりと手慣れた動きで乗用車がこちらへやってきた。
一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)の乗っかった荷物を運転手に掲げて言う。

「丸ごとトランクに押し込ンでやるから今すぐ開けろ。」

「ミサカお荷物扱い!?、ってミサカはミサカは戦慄と共に後部座席に逃げ込んでみる!!」

一方通行(アクセラレータ)後部座席にスポーツバッグを投げ込んで打ち止め(ラストオーダー)をムギューと押し潰すと、空いたスペースに腰掛ける。
後部座席は人数的にまだ余裕があったが、あのドタバタに巻き込まれるつもりはないので桔梗は助手席の方に回る。
念のために運転手に言っておいた。

「彼らは退院直後のシャバの空気でハイになっています。」

「あはは、子供さんの場合はそれぐらい元気があった方が良いんじゃないですか。」

「あと小さい方は車に慣れていないので吐くかも。」

「ッ!?」

運転手がビクゥ!!、と身体を震わせた。
新人かな、と芳川は適当な評価を下した。
一方通行(アクセラレータ)がスポーツバッグを確保して打ち止め(ラストオーダー)から離れていくのがドタバタした音で分かる。
実は桔梗のハッタリで、この文句を言っておくと運転がより丁寧になると言うだけだったのだが、あんまりメジャーな裏技ではなかったようだ。
生卵の運搬業者のようにタクシーは滑らかに発進する。
桔梗は運転手に行き先を告げ、メーターの上にあるデジタル時計を確認すると、時刻はもうすぐお昼の二時といった所だった。
先に吐くかも宣言を本気で信じた一方通行(アクセラレータ)は、近づいてくる打ち止め(ラストオーダー)の顔を掴んで遠ざけながら、怪訝そうな顔で桔梗の後頭部を見た。

「どこ向かってンだ。」

「私の知り合いが働いている学校。
 待ち合わせみたいなものよ。
 キミ、今の学校をやめてしまうのでしょう?
 それが何を意味しているのは分かっているわよね。」

学園都市に住むほとんどの学生は寮を利用している。
中には街のパン屋などに居候しているケースもあるが、それは極めて稀だ。
この学校(正確には学校含む能力開発機関)の枠から抜けるというのは、同時に寮という住所を失う事でもある。
常に学園都市の不良達から狙われ、寮の部屋も荒らされている一方通行(アクセラレータ)には住処に対する未練はない。
家具だって一つ残らず壊されているだろうから価値もない。
だが、屋根のある空間を奪われるというのは結構大きな出来事だ。
そういったリスクを負ってでも、一方通行(アクセラレータ)が学校を捨てるという選択を採ったのには理由がある。

絶対能力者(レベル6)だなンだっつーのに関わンのはもうゴメンだからな。」

一応、直接的にその『実験』を行ってきた機関はもう潰れている。
しかし、妹達(シスターズ)を使った研究施設が消えたとしても呪縛が全て解ける訳ではない。
彼の通ってきた学校にも、規模の違いこそあっても『特殊開発研究室(とつべつクラス)』というものが存在する。
教室の生徒は彼一人だけという、実質的には実験動物を隔離する飼育小屋のような四角い空間が。
あらゆる意味で血まみれの世界と決別するなら、これまであった全てを捨てるしかない。
研究所も、学校も、学生寮も、その全てを、だ。
今度はそういった『強い意志』を持たない学校を選ぶしかない。
一方通行(アクセラレータ)という魅力的すぎる研究対象を前に、本当に目の色を変えない研究者など存在するかどうかは分からないが、探すしかない。
あまりにも特殊すぎる一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)は、学園都市の外には居場所がない。
そして、学園都市内部で学校を利用しなければ、後は路地裏の武装無能力集団(スキルアウト)のように生きていかなければならない。
学園都市最強の超能力者(レベル5)がそんな選択を採れば、待っているのは全ての破滅だ。
一方通行(アクセラレータ)は唇を歪めて、助手席に座っている桔梗に言う。

「で、今後はオマエの管理下に収まるっつーのが統括理事会の決定か?
 まァ、オマエだったら研究分野的にもおあつらえ向きだとァ思うけどよォ。」

桔梗はかつて『実験』に参加していた研究メンバーで、打ち止め(ラストオーダー)などのクローン製造の他に一方通行(アクセラレータ)のメンテナンスも行っていた。
絶対能力者(レベル6)関連の研究が中止になったとしても、彼は相変わらず学園都市最強の超能力者(レベル5)であり、優れた研究素材でもある。
桔梗に色々調べさせて、新たな能力開発技術に応用できれば莫大な利益が得られるはずだ。
どこまで行っても何者かの思惑や影響を感じ続ける。
まぁ、一方通行(アクセラレータ)がこれまで出会ってきた人間の大半は外道の一言に尽きるような連中ばかりだ。
そういった大人達の呪縛から逃れられると思えば、まだ桔梗の行動の決定権を貸しておいた方がいくらか気が楽かもしれない。
無論、彼女のやり方に納得がいかない場合はさっさと叩き潰して他を当たる予定だ。
しかし、桔梗は振り返りもせず一言で告げた。

「違うわよ。」

「あン?」

「わたしはキミの次の管理者ではないと言っているの。
 冷静に考えてご覧さないな。
 今の芳川桔梗は研究職を終われて無職に近い状態よ。
 しかも『実験』当時と八月三一日の二回もキミが中心となる事件に関与した。
 これで保護者や務まると判断したなら統括理事会は全員今すぐ首を切るべきだわ。」

「って事はナニか?
 オマエはただの使いパシリってトコか。
 これから俺達を見知らぬ研究者に引き渡すっつー訳だな。」

「猜疑的ね。
 キミの生活環境を見れば当然でしょうけれど。
 ただ、その意見には二つの間違いがあると指摘しておくわ。
 一つ目はキミも知っている人に引き渡すつもりだし、二つ目はその人は研究職の人間でもない。」

「・・・・・」

一方通行(アクセラレータ)は目を細めて桔梗の言葉を頭の中で珍味する。
信用ならない。
隣に座っているこのガキの存在が気に喰わないが、この程度のハンデを抱えていても敵対者を叩き潰せる。
これから長期間にわたって見えない襲撃者を警戒し続けるよりも、ここで顔を見てから丁寧に潰していった方が手っ取り早そうでもある。

(退屈な事になりそォだな。)

と、そこへ、完璧に無邪気な打ち止め(ラストオーダー)が呑気に言った。

「研究者じゃない人なんてヨミカワぐらいしか知らないかも、ってミサカはミサカは手を挙げてから発言してみたり。」

「正解。」

桔梗は楽しそうに答える。
ヨミカワというのは、芳川桔梗としても数少ない『表世界の友人』であり、学園都市の警備員(アンチスキル)を務める女性の事だ。
桔梗が倒れてからは、暫定的に病室の一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)の面倒を見ていた一人である。
言われるまでその可能性に気がつかなかった一方通行(アクセラレータ)は小さく舌打ちをした。
それを聞いた桔梗は楽しそうな声で言う。

「あと、今からキミが通う学校には彼もいるから。」

「おい、それってまさか・・・・」

「恭介も一緒なの!、ってミサカはミサカはテンションを上げながら聞いてみる!」

麻生恭介は一方通行(アクセラレータ)が戦ってきた相手の中で、完璧な敗北を与えた人物であり、入院していた時に愛穂と面倒を見てくれていた一人だ。
自分の言いたい事を打ち止め(ラストオーダー)に言われた一方通行(アクセラレータ)は、軽く打ち止め(ラストオーダー)を睨みつける。
が、当の本人は全く気がついてない。
睨む事が無駄だと分かった一方通行(アクセラレータ)に桔梗が言う。

「彼も時々、愛穂の家に来るだろうし仲良くしてね。」

確かに麻生は一方通行(アクセラレータ)の中でかなり信用できる人物になっている。
自分が麻生に負けた時でも、それを研究者たちに言う事もなく。
逆に自分達を世話をしてくれた。
しかし、今までの生活環境で暮らしてきた一方通行(アクセラレータ)も心のどこかで麻生の事を疑っていた。

「本当なンだろうな?」

「嘘かどうかはつけば分かるのだし、キミの場合、今後も他人からの甘い言葉に警戒する癖はそのままの方が良いかもしれないわね。
 守るべきものの価値を知っているのなら、特に。」

桔梗は先程と変わらない声で一方通行(アクセラレータ)に言った。
一方通行(アクセラレータ)は助手席から視線を逸らすように、忌々しげに車窓の外へ目を向けた。
打ち止め(ラストオーダー)だけはやり取りに気がついていないようで。

「え?ヨミカワと恭介じゃないの?、ってミサカはミサカはあなたの肩をぐいぐい引っ張ってみる。」

と、言っていた。 
 

 
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