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26歳会社員をSAOにぶち込んで見た。

作者:憑唄
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第二話 HeavensDoor

 
前書き
独自解釈として、原作でキリトが知る限り一年はPKが無かった、となっていますが、認知されてないところでPKがあった可能性は否定できない、ということで書いております。 刀については、スキルがなくても装備は出来るだろう、という独自解釈です。 ただし戦闘においてのマトモな使用はできないだろうと踏んでいます。 投擲スキルについては独自解釈が強いです。 どうでもいい補足:アルスの車→MR2 SW20 GT 97年式 バイク→GSX1100KATANA Final 税金だけで7万コース、車検だけで20万超え、リアルに戻った時、火の車確定状態となっております。 

 

 広場の時計が朝9時を指す。
 まだPTメンバーは集合していないみたいだ。
 サニーさんは金使うのが面倒だと言って野宿、桜花とホイミは宿だ。
 
 さて、月日が経つのは早いもので、なんだかグダグダと同じPTで狩っていたら、いつの間にか一ヶ月以上が経過していた。
 仕事が無い分、基本的に早起きする必要が無い。
 目覚ましをセットする必要もないし、明日の天気で悩むこともない。
 ある意味ここは楽園だな……。
 あー、そういえば現実に車置きっぱなしにしてきたな……。
 ローンもまだ一年分くらい残ってるってのに。 どうするんだよ、リアル……。
 車検も再来月にあるんだぜ。
 いや、よそう、こんなこと考えるのは……一々そんなことで鬱になってたらマジに持たない。
 いつも思うが、こういう時社会人ってのは駄目だ、文明の理に頼りっぱなしになるからな。
 自分の足で出来る限り歩きたくない、原付でもチャリでもいいから足がほしい。

 まぁ、流石に一ヶ月このゲームを続けたら慣れては来た。
 一応このゲームにも気候があるらしいが、俺はまだよくわからない。
 風の噂じゃ、もう第一層のボスは突破されたらしい。
 で、ついでに副産物として、ベータ上がりの俺らが肩身の狭い思いをする言葉が生まれた。
 ベータプレイヤーとチート、つまりチーターを足した言葉、『ビーター』とかいうらしい。
 おかげで俺とサニーさんはPT以外じゃベータプレイヤーということを公言してない。
 どこのどいつだよ、そんなこと認証しやがったのは……。
 言ったやつも頭悪いな……嫉妬すんのはわからないでもないけど、それを公言して回るのは痛々しいぜ。
 まぁ、そもそもPTメンバー以外と喋る機会が殆ど無いのだが。
 情報収集のために広場で会話を交わす程度か。

 レベルはこの一ヶ月で12レベルくらいまでは上がった。
 他のメンバーも同じくらいだ。
 一先ずの目標はこれで達成できただろう。
 しかし流石に一層じゃそろそろ厳しいものがある。
 経験値の量の少なさもそうだし、レベルの上がらない、経験値の少ない狩りのモチベーションは凄まじく下がる。
 しかも同じ武器を使うのにもそろそろ飽きてきた。
 お陰で防具は一層で買えるものでは最高だけどさ。
 ただまぁ、このゲームのクソ面倒なところは、武器や防具に、耐久値ってもんが存在してることだ。
 使い続けてればこれが減って、0になれば壊れる。
 武器も防具も同じだ。
 完全に手元に武器がなくなることを避けるために、手元に同じ種類の武器、もしくは安価な武器を持つことが推奨されてる。
 それに従って、俺も幾つかは所有してるが……ゴミばっかだ。
 金はあるんだけどな、どうしても、次に進んだ時に使うんじゃないかと思って貯めてしまう。
 こういうところは俺の悪い癖だ。

 そんなことを思ってると、遠くから見知った顔が並んで歩いてきた。
「おはよ」
「あの、えとー、ごめんなさい、準備に手間取っちゃって」
 桜花とホイミだ。
 こいつらも防具と武器はやたらしっかりしてる。
 プレイヤースキルとしてのレベルもそれなりに高いと思う。
 特にホイミの盾役はPTで非常に使える。
 このPTにホイミは必須だったとも言えるな。
 対して桜花は無難も無難だ。
 とりあえずやるとこキッチリやってますって感じ。
 しかしまぁ、一番の主力は……。
「やー、どーも、寝坊しちゃってさー」
 眠そうな顔で現れた、サニーさん、この人だ。
 この人、見かけによらず、プレイヤースキルが凄まじい。
 俺らの中で一番レベルも高く、既に15レベだ。
 二層のボス攻略に単独で参加もするらしい。
 とんでもない人を味方に引き入れてしまったな、とつくづく思う。
 マジで女装してたのが嘘みたいだぜ。
 ま、それは兎も角、だ。
「んじゃまぁ、今日は二層に行くポータルも出来たっていうし、二層に行ってみようと思うんだが」
 そう、今日はこれが目的。
 基本的にSAOの世界ではボスはリスボーンしない。
 そのため、一度倒せばそこは普通に通れるのだが。
 基本的にボスがいる部屋はダンジョン内とかにあったりして、そこまでの道のりが辛かったりする。
 そのため、移動ポータルというのがあって、誰かが次の層で作ってくれれば、いつでもそこに行くことが出来る。
 最終的にはエレベーターみたいな感じになるのだろう。
 ということで、今回は安全安心に二層へと行こうと思ったわけだ。
「いいけど、あんまり無茶はしたくないよ」
 そう突っ込んできたのは桜花だ。
「まぁ、わかってる。 死んだら元も子もないしな。 ヤバくなったらすぐに逃げるか」
 俺がそう説明すると、サニーさんはニコニコと笑顔でこちらを見た後。
「まぁまぁ、大丈夫大丈夫。 ボクがいるから。 スキルも上がってきて、一層の雑魚なら大体一撃だからね」
「い、一撃? す、すごい!!」
 胸を張り、ドヤ顔をするサニーさんに、ホイミは目を輝かせながら賞賛の言葉をかけた。
 いやぁ、ああやって信頼されるってのはいいもんだな……。
 きっとサニーさんはリアルでも優良社員だったんだろう。
 俺はこっちでもリアルでも信用が足りない不良社員だぜ……。
 あんまりこういう劣等感ってのは感じたくないな……。
 ゲームなんだから、こういうのに囚われずラフに行きたいとこだ。
「ま、サニーさんがいれば安心ってことで、行ってみるか、二層に」
 俺のそんな言葉と共に、一同は動き出す。
 初の層移動となる、第二層へと……!





 ―――第二層、広場―――





 正直、町並みの雰囲気自体は一層と大して変わらない。
 しかし、心なしか、窓を開けた部屋のように、開放感を感じる。
 人もそれなりいるが……。
 すげぇ、見たことも無い装備をつけるやつもいる。
 特に目についたのは、黒いコートを着てる見た感じ中学生くらいのやつ。
 あんな防具、一層には売ってなかった。
 俺もほしいけど、あいつ一人しかあんなもんつけてるやつがいねぇってことは……。
 ボスからのドロップ品か?
 だったら、あれが手に入る可能性は皆無か。
 いや、待て、諦めるのは早い。
 大体のネットゲームってのは、同じ見た目で色違いや性能違いが存在するもんだ。
 もちろん、例外もあるけどな……。
 ま、似たような防具も探せばあるだろ。

「んじゃまぁ、とりあえず武器と防具揃えにいくか。 大して性能変わらないかもしれないけど、気持ち一新できるぜ」
 俺がそう言うと、桜花は素直に頷いたものの、サニーさんは少しだけ悩んだ仕草をした後。
「んー、まずはこのまま雑魚と戦うのも手じゃないかな? ほら、今の装備でどこまで通用できるかってのも調べられるし。
その後に変えたら、その後の変化もわかりやすいと思うんだよね」
 ……なるほど、それには一理あるな。
 しかし、俺は保守的にいきたいところがある……。
「ウチはアルスに賛成かな、ホイミは?」
「え? えっとー僕はー。 サニーさんかなぁ?」
 ここで完全にPT内で意見が別れる。
 こうなると、無駄な論争とかが起きるんだよなぁ……。
 できればそれは避けたいところだ。 無駄な争いなんかしても時間の無駄だ。
「じゃあサニーさん。 俺と桜花は武器と防具調えてから行くから、そっちはそっちでって感じでいいか?」
「ああ、いいよ。 すぐに戻ってくるし、お互いのため、円滑に進めるため、そうした方がいいだろう」
 自分に言い聞かせるようにそう口にしながら、サニーさんはホイミと一緒に歩き出す。
 残った俺と桜花は、早速、武器と防具を買いに行くことにした。



 結論から言えば、二層だけあって、あまり売っている武器はいいものではなかった。
 ただ曲刀でカタナとオオタチが売ってたのには少し興奮を覚えたが……。
 俺は大剣使いだから、こんなもん持ってもしょうがないんだよな。
 と言っても、ここは日本人の俺。
 使いもしないのにカタナをちゃっかり購入してたりする。
 実際今、街で装備してるやつはそれなりに多い。
 いわゆる、街装備ってやつだ。
 某ネトゲではロビー装備と言って、実際に狩りをする時とは違って、街中でおしゃれでつける装備だ。
 少しでも気分を紛らわすためのオマケみたいなもんだが。
 いやぁ、つけてみるとこれが中々にいい感じ。

 日本人ならやっぱ刀だよ!
 俺も同じ名前のバイク持ってるし!
 ああ、リアルに置いてきたんだったな……あんまり長く置いておくとキャブが死んじまう……。
 いや、そういうリアルに関しての考えは捨てるんだ、今はゲーム中なんだから……!
 そう思っていると、隣でオオタチを購入してる桜花の姿が!
 あれ高いんだぞ!

「おいおい! お前曲刀スキル上げてないだろ。 刀を使うための刀スキルは曲刀スキルを上げないと出てこないんだぞ。
ここは大人しく、お前の持ってるスチールレイピアの上位武器の、エストックをだな……」
「じゃあこれ使うために曲刀スキル上げる。 上げるために曲刀のタルワールも買う」
 そしてこの言い草である。
 ああいえばこう言うっていうか、なんだ……。
 スキル上げるのがどんだけ面倒だと……。

 一応補足ではあるが、SAOの世界は、レベルでスキル割り振りではなく、基本的に使用回数等においてスキルレベルが上がる。
 そこからスキルが派生等をし、上位スキルが開放されるのだが……。
 武器スキルは特に敵と戦闘する回数がモノを言うため、途中での武器変更はあまり好ましくはない。
 もっと言えば、SAOはスキルを使わないと基本的にマトモな戦闘が出来ない。
 その代わり、スキルを使うのにはポイントが不必要で、いつでも、好きなだけ使うことが出来る。
 ただし、発動中は基本的にシステムに沿って動くので、その間のキャンセルは不可能だ。
 まぁ幾らか、修正は出来るが……。

 しかしまぁ、本人が使いたいと言っている以上、俺があんまり口出すのもな……。
 まぁなら、桜花にはここでいつも以上に頑張ってもらわないとな……。
「まぁいいや……じゃあ後は防具と回復アイテム買って、サニーさん達と合流するか」
「あ、ウチ今のでお金少なくなったから、回復アイテム少し奢って」
「……わかったよ」
 飄々とした態度の桜花に怒る気も失せ、ため息を吐く。
 コイツは本当に……。
 ああ、俺の金が人のために飛んでいく。
 まぁ背に腹は変えられないよなぁ……。

 そんなこんなで、桜花に回復アイテムを渡し、自分の分のアイテムを買ったところで。
 俺の所持金はついに二桁になった。
 敵からなんかドロップしなけりゃ、このままだと今日泊まる宿やら飯にすら困るんだが……。
 最悪、サニーさんから少し貸してもらうか……。
 そんなことを思いながら、広場にてサニーさんを待つと。

 げっそりした顔のサニーさんと、震えているホイミが帰ってきた。
 なんだ?
「おい、サニーさん! どうした? 敵がめっちゃ強かったとか……」
 俺がそう言いかけた瞬間、サニーは顔を横に振った後。
 落ち着いた声で、ゆっくりと、言葉を喋った。
「いや……敵はまだ対処できたんだけど……もっと厄介なのと出会ってね……」
 そこで一度区切った後。
 小さく吐き出すように、けれど、はっきりと、耳に残る声で呟いた。

「PKに狙われたんだ……まさか、こんな早くからいるとは思わなかったよ」
 PK……!?
 おいおい、まだ二層、みんな低レベルだってのに……PKだと!?
「マジかよ……」
 俺が唖然としていると、隣にいた桜花が首を傾げながら、俺へ向けて聞いてきた。
「アルス、PKって何? サッカー?」
「いや、違う。 そんなスポーティなもんじゃない……。
PKってのは、プレイヤーキラーの略だ。 まぁつまるとこ、相手のキャラクターを殺すってことだな……」
 俺がそう言うと、桜花は暫く固まり、考えたように首を何度か右に左に傾けた後。
「え? でもSAOでキャラクター殺したら、中の人も死んじゃうんじゃない?」
「……まぁ、そうだ。 というか、それが大問題だ。 このゲームの初め。
チュートリアルでHPが0になったら人生から永久退場するって宣告されておきながら、そんなことをするやつは……。
マジな殺人鬼ってことだよ……!」
 もしくはマジで現実と空想の区別がついてないシュミュレーテッドリアリティに陥ってるやつのどっちかだ。
 どっちにしろ、正気の沙汰じゃない。
「しかしまぁ、よく生き残れたな……低レベル同士だと厳しいもんがあるだろ……」
 俺がそう口にだすと、サニーさんは大きく息を吸った後、特大のため息をついて、力が抜けたように、その場に座った。
「いやぁー、ホント、厳しかったよ! でもこっちは2人だったし、ホイミ氏がうまく盾役をやってくれたお陰で、逃げ延びたよ!
盾役はホント必須だね! あっちは素早さスキル上げてるみたいでやたら早かったし、武器が投擲メインだったから、槍でも厳しかったよ。
ああ、できればこのコトはあまり言いふらさない方がいいかも。 ゲーム内の不穏を誘っちゃうし」 
 サニーさんは少しだけ声のトーンを下げながらそう口にして、人差し指を口に当てた。
 ああ……そりゃあ厳しいな……それに、言いふらさないことにも賛同だ。
 そんなのがいるってわかったら、一般プレイヤーが混乱に陥る可能性もある。
 しかし、生きていたからこそ、こんな会話が出来るものの、死んでたらマジで洒落にならなかったな……。
 そう思っていると、ホイミが唐突に泣き出した。
「本当に、死んじゃうかと思った……! 僕、まだ死にたくない! ゲームの中で死にたくない! 生きて現実に帰りたい!」
 そう泣くホイミに、周りから視線が集まる。
 まさかPKのことなんかとは思わないだろうが……俺が泣かせたみたいで、なんか気まずい。
 正直、ここで優しい言葉でもかけてやるべきなんだろうが……。
 それで、本当にいいのか?
 臆病は、臆病なままで、いいのか……?
 この先、生き残れるのか……!?

 そう思っていると、サニーさんがホイミに声をかける。
「大丈夫だよ。 ホイミ、絶対に生きて帰るから。 頑張ろうよ」
 そんなサニーさんの言葉に、ホイミは安心したのか、サニーさんに抱きついて泣き始める。
 ……今は、まだいい。
 サニーさんが正解なんだろう。
 まだ一ヶ月、不安も募ってくる頃だろうしな……。
「おい、桜花。 行くぞ、暫く二人きりにさせてやろうぜ」
 今日の狩りはどの道、この分じゃ中止だ。
 様子を見て明日あたりだろうな。
 そう思っていると、隣にいた桜花がニタニタしながら俺へと視線を向けてきた。
「あ、もしかしてアルス妬いてる?」
 コイツは……この飄々とした態度もどうにかならねーもんかな。
「妬いてねぇって。 むしろ、二人の今後を祝ってミサイルでもぶち込んでやりたい気分だ。 末永く爆発しろってな」
「妬いてんじゃん」
「いや、マジで妬いてないから。 壁殴りたいとか思ってないから。 それより今日の飯と宿代がやばいんだって」
「素直じゃないね。 じゃあ、一層の雑魚で稼ごう」
 地味にうるさい桜花を適当にあしらいながら、俺は桜花と一緒に今日の飯と宿代分だけ、一層で稼ぐことに決めた。






――――――





 目の前で逃げるやつがいる。
 目の前で叫ぶやつがいる。
 目の前で反抗するやつがいる。
 それらは全て、リアルで、どこまでも鮮明だった。
 結論から言えば、私はこのゲームを始めてよかった。
 このゲームは、合法的に人を殺せる。
 このゲームは、合法的に犯罪を行える。
 警察なんかいない。 捕まえるやつもいない。
 もちろん街に入れなくなるのは少しだけ痛いけど、そんなのはどうにでもなる。
 目の前にいるカモ達は命乞いをしながら必要なものを落としてくれるから。
 みんなはゲームをゲームの型に嵌ってやるのはおかしいと思わないのか?
 自由度が高いゲームで、なんでわざわざ型に嵌ろうとするのか。
 リアルと数分違わぬ世界で、ゲームという非日常にいるのに、日常に依存するのか。
 私はそれが理解できない。
 わからないなら、わからせるしかない。
 危機感の薄いやつら、日常に使っているやつら。
 それらに私は、余すことなく非日常を見せてあげよう。
 今日会った二人、槍使いと盾役は仕留め損なったが、次はない。
 レベルを上げるのは、潰せる範囲が広がるから。
 スキルを上げるのは、全て必要だから。
 突き詰めてしまえば、このゲーム、基本的に素早さがモノを言う。
 速さもそうだが、素早さもそうだ。
 反応速度が高ければ高いやつほど、このゲームでは強くなるだろう。
 だからこそ、私は速さを、徹底的に上げる。
 高速移動系のスキルは全て既に300を突破した。
 スキルレベルの限界が1000のこのゲームで、第二層においてここまでのものは私しかいないだろう。
 レベルにおいて上げるステータスも基本的に素早さにしか振ってない。
 寧ろこのゲーム、レベルアップボーナスのステータスアップは筋力と俊敏にしか振り分けが出来ない。
 しかも1レベル上がる毎に3のみだ。
 その中のほぼ全てを俊敏に振り、アップした数値だけで40を超えてる私を抜ける者は早々いない。
 しかし私の名前が公に出ることはない。
 PKである、この私が。
 出会ったものは基本的に殺すこの私が。
 天国に誰よりも近い、私が。
 攻略するしか脳の無い、生きることしか考えていない、のうのうと過ごすことしか考えていない、そんな、地を這う者達に、認知できる筈など、無いのだから。
「ひぃ! やめろ! やめろ! 死んだら、リアルで……!」
 目の前で必死で逃げているやつが、そんなことを吼える。
 リアルで死ぬ、なんてことはとっくにわかりきっていること。
 それを承知で、こちらはそれをやっているのだから、物分りが悪いやつだ。
「そ、そうだ! 交渉だ! 交渉! 俺の有り金と、装備品全部渡すから! アイテムも渡すから!」
 その交渉に、私は一度だけ足を止め、一言だけ口にする。
「目の前に置け」
 私のその言葉に、相手は顔を明るくし、嬉々として、アイテム類を全て目の前に差し出した。
 全て売り切れば100kは硬いというところか。
 なるほど、確かに上物だ。
「こ、これで見逃して」
 目の前のヤツが、そう言いながら逃げようとしたその瞬間に。
 私は、片手から出した三本のナイフを相手に向かって投擲した。
 当然、ナイフは相手の体に突き刺さり、相手のHPが0になる。
「な、なんで……?」
 ただ、わけがわからないという顔をしながら消えるソイツを横目に。
 私はソイツが置いていったアイテムを全て回収した。
「別に、見逃すとは一言も言ってないからな」
 誰に言うわけでもなく、口にしたその言葉に。
 ただ一人、反応した人物がいた。
 私と同じ、オレンジカーソルの人物。
 私はコイツを知っている。
「相変わらず素晴らしい手口だな、『HeavensDoor』、いや、『天国の扉』、と言った方がいいのかな?」
 私の名を口にする、フードを被ったその人物に、私はしばし無言のまま視線を向けた後。
「一層以来か。 何の用だ? 私はあまり群れるのは好きじゃないものでな、貴様のギルドには参加しない」
 そう口にし、懐から何本かのナイフを取り出し、刃を向けた。 
「そう脅かすな。 今回の本題は、情報の共有化が目的だ。 どうだ? ソロのお前には悪い話ではないだろう」
 情報の共有化。
 確かに、メリットは大きい。
 泣き叫ぶやつを脅しても、たまに日本語を喋ってくれなかったりもするし、発狂するやつもいる。
 それに、天敵となりうる攻略組との接触を控えるためにも、確かに悪い話ではない。
 コイツもどうせオレンジ、同じ犯罪者同士、日の目を見ることもないだろう。
「……いいだろう。 了承してやる」
「よし、なら、有益な情報があったら連絡しろ。 こちらからも有益な情報を提供してやる。 まぁ犯罪者同士仲良くやろうぜ」
 目の前のソイツはそう言って、私に向けて、フレンド登録画面を押し付けてきた。
 ……なるほど、コイツの名前は初めて知ったが、まるでHP0を並び替えたような、イカれた名前だ。
 それを見ながら、私は片手にナイフを構えたまま、了承する。
 ソイツはそれを見届けた後、その場から去っていった。
 皮肉にも、このゲームで初のフレンドか。
 しかし、悪くない。
 このイレギュラーな感じ、この非日常感。
 ぞくぞくする、この感覚。
 最高だ、どこまでも、私に刺激を与えてくれる。
 このゲームは最高のステージだ。
 そんなことを思いながら、歪んだままの口元を正すことなく、私は次の獲物を探すために、歩き出す。
 新たな非日常を、刺激を、自由を得るために。
 プレイヤーを見せてあげよう、本当の、『天国の扉』を。 
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