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少年は旅行をするようです

作者:Hate・R
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少年は剣の世界で城を上るようです 第三層


Side キリト

「や、キリト。お久~。」

「シュウマ、ノワールさん。と……アリアちゃんも?久しぶり。」

「相変わらずバーサークってるわね。この世界にそんなバフスキルあったかしら?」


あの森でパーティ・・・"月夜の黒猫団"と会ってから数日が経った。

昼は彼らに付き合い低レベル層で狩りを行い、夜はこうして最前線近くの高効率狩場でレベリングをしている。


そんなこんなで、今日は珍しいパーティと会った。リーダーは俺がシュウマと呼んだ、瞳も髪も真っ白な少女。

もとい男。見た目通りの年齢と性別では無いらしく、横に居る黒目黒髪の長身超美人、ノワールさんと同年齢。

そして、俺が珍しいと言った原因であるところのアリアちゃんは、ノワールさんの背で寝ていた。

この銀髪翠眼の美少女は夜九時となると眠くなってしまうらしく、今の様な深夜間近に彼等を見られるのは稀だ。

それでなくとも、こんな場所に来る事が天変地異並に珍しい。なぜなら―――


「お、おいアレ!攻略組の……!」

「"死神一家"じゃねぇか!ヒャッハッホゥ!眼福!!それに向うの、"黒の剣士"だ。有名人が集まるもんだな。」


付近のプレイヤー達が、一様に騒ぐ。最早SAO内で彼らを知らないのは、第一層で引き籠っている連中くらいだ。

最初は、その見た目から。そのゲームじみた美貌に"手鏡"を使っていないのではとの噂も立つ程だったが、

その話をされる度にウンザリしながら"手鏡"を出している所を多数のプレイヤーに見られ、その噂も消えた。

・・・その第一号は俺だった訳だが。まぁ、いつか語られる事もあるかもしれない。


次いで、話題になったのはそのプレイヤースキルから。俺は彼らから聞いたから知っているが、散々騒ぎになった

第十層まで起きた『ボス不在事件』・・・計九体のボスを倒した何者か。その犯人が彼ら三人なのだ。

俺含め、彼らの実力を知ったのは第十一層から。ボスの攻撃を単身、あるいは二人で弾き返し、異常なまでの

火力で薙ぎ倒す。それを可能としているのが、アリアちゃんのバフスキル"剣舞"だ。


「あ、アハハハハ。バフスキル持ちって言えば、この世界じゃアリアちゃん以外いないですよ。」

「そうでしょうねぇ。私達だってビックリだもの。ビックリさで行けばあなたも同じだけどねぇ~。

何よバトルヒーリングとか。マゾなの?」

「ソロしてたら自然と習得しちゃったと言うか、何と言うか……。」

「俺が死神なら、お前は狂戦士だよなぁ。いっそ大剣にすればいいのに。」

「勘弁してくれ……。」


言いながら、シュウマは背中の巨大な武器をガシャリとな鳴らす。"死神一家"と尊敬と畏怖、揶揄される武器。

ユニークスキルである≪センレン(戦鎌)≫と表記される柄の長さ1.7m強、刃渡り1.2mもの大鎌だ。

派生スキルは通常"エクストラスキル"と呼ばれるのだが、彼とアリアちゃん、そしてもう一人いるのだが・・・

まぁ、他にどのプレイヤーも持っていないエクストラスキルの事を、"ユニークスキル"と呼ぶのだ。

だが、この二人のユニークスキルは使い勝手の悪さ見ているだけで分かる。

シュウマの方はその特殊な攻撃判定から。アリアちゃんの方は攻撃用ソードスキルの少なさから。

と、俺達が長々と話していたら、アリアちゃんがむにゃむにゃ言いながら起きてしまった。


「・・・・・・・・・・・・・・・キリト。やっほー・・・。」

「やぁ、アリアちゃん。お久しぶり。」

「・・・・・・・・・んー・・・・・・・・くー・・・・・・。」

「あらあら、仕方ないわねぇ。私達は先に戻ってるわ。」

「ん、了解。俺も話し終わったら直ぐ行くから。」

「はい。それじゃあ、また。」


起きたと思った瞬間、また眠りに着いたアリアちゃんを背負い直し、ノワールさんは家へと帰って行った。

・・・普通のプレイヤーは宿屋に泊る。何故なら、家はものっっっ凄い高いからだ。

その代り、装飾の自由と何よりも安心感が持てる。あと、他プレイヤーからの羨望も凄いのは余談だ。


「……で、お前は何やってんのよ最近。昼間、前線でも狩場でも見かけないけど。」

「えっ!?あ、やー………なんつーか、アハハハハ………。」

「ハイハイ、相変わらずいらん事に首突っ込んでるのね。疲れたらメッセージ送れよ。

俺達となら狩りも効率よくなるだろ?」


シュウマの言葉に、思わず目を見開いて固まってしまう。・・・彼是、彼らとは第二層からの付き合いだ。

一見フレンドリーとも思える彼等だが、その実は排他的。それも徹底した。

そんな彼が気遣っているかのような(いや実際気遣ってくれているのだろう)事を、初めて聞いた。

彼の思惑通りなのかもしれないが、思わず笑みが零れてしまう。


「はは、ありがとう。その時は遠慮無くメッセ送るよ。」

「ヤレヤレだぜ、って感じだなぁ。じゃな、子供は早く寝ろよ。背が延びなくなるぞ。」


パタパタと手を振り、俺と似たような真っ黒なコードが翻る。その背には、彼らのギルドマーク・・・

鎌が翼の様に六対生えたガイコツが、刃の部分が翼の鎌を持った、"死神の翼(ゴッド・オブ・プテリュクス)"のマーク。

・・・と言うか、そんな見た目の奴に子ども扱いされたくねぇ!!


「……帰るか。」


独り言ち、"月夜の黒猫団"が泊まる宿屋がある第26層へ戻る事にした。・・・彼の言葉を気にした訳では無く。

今日ここに来た理由・・・彼等を騙している自分が嫌になり、それを一瞬でも忘れようと、あわよくば・・・

スッキリしようと思ったからだ。彼等と話したらスッキリさえしてしまったので、これでここに居る理由は

無くなった。ワープポートで26層へ移動し、宿屋の自分の部屋へこっそりと戻った。

剣とコートを外しベッドへ寝転がると、久しぶりに気持ちの良い微睡が直ぐに襲ってくる。

・・・明日は、良い一日になると良いな。

………
……


「あ、あ、あ……!!」

「サチ、逃げるな!まずは盾で敵の攻撃を防御するところから……って、ああもう!

キリトすまん、一端退避するか?」

「いや、この数なら俺とササマルで十分行ける。皆はサチを頼む!」

「分かった、二人とも無理はするなよ?テツオ、ダッカー。ウチの臆病なお姫様を迎えに行くぞ。」

「あいよ。」 「りょうかい~。」


俺とササマルの安否を気遣う一言を言い残し、ケイタ・テツオ・ダッカーはサチを追いかけた。

これで通算・・・何度目だろうか。サチ・・・黒髪ショートの、大人しそうな可愛い子だ。

俺がこのギルドに厄介になったあの日の夜、このギルドのリーダーであるケイタから頼まれてから連日この調子。

五人パーティなのに前衛が一人と言うパーティ構成だった為、ササマルより両手長槍の熟練度が低かったサチを、

盾持ち片手剣に転向させ、前衛として戦わせてくれ―――と言う事だった。


しかし、結果はこの通りだ。元々怖がりなサチを前衛にしようと言うのが間違っている。

大の男ですら、凶悪なモンスターと対峙し踏み留まるのは慣れと胆力が必要だ。

・・・ケイタとテツオにはそれと無く何度も伝えたのだが、その都度『お前にばかりしんどい役を押し付ける訳に

はいない』と言われてしまい、日々を追う毎にサチへの無言のプレッシャーは強くなっていった。


「そいっ!っと、これで全部みてぇだな。俺達も後追おうぜ、キリト。」
バシャァッ!
「ああ、そうだな。やれやれ、俺なら大丈夫だって何度言えば分かってくれんのかなぁ。」

「あー……だよなぁ。いっそ俺かダッカーが代わるって言ってみようか?」

「………いや、やめとこう。これ以上二人を刺激したら、サチへのプレッシャーが益々重くなるかも知れない。

もう少ししてあの二人の考えが変わらないようなら、また動こう。」

「お前がそういう言うなら。そん時は、俺も言うぜ。」


俺の言葉に、ササマルは頷く。・・・ササマルとダッカーは、女の子に前衛を任せて自分達が後ろから・・・

と言う戦法に、元々反対していたのだ。だが、リーダーと副リーダーであり高校の同級生と言う事もあり、

強くは言えず・・・今に至ってしまった。


―――だから、今夜。サチが宿屋から姿を消してしまったのは、俺達全員の責任なのだ。


メンバーリストからサチの居場所が確認出来ない為、一人で迷宮区に行っているものと思われた。

全員で迷宮区に行く事になったのだが、俺は頑として迷宮区以外を探すと言い張った。

表向きはフィールドにも追跡不能な場所があるからと言ったが、本当は≪索敵≫から上位派生する≪索敵≫を

習得していたからだ。だが、仲間に打ち明ける訳にはいかなかった。

何故なら・・・俺は彼らを騙していたからだ、ずっと。レベルも、情報も・・・俺の、醜い感情も。


彼らが迷宮区に駆けて行ったのを確認し、俺はサチの部屋の前で≪追跡≫を発動。視界に表示された薄緑色の

足跡を辿って行く。その行く先は皆と俺の予想に反して主街区の外れの水路へと消えていた。

中を覗き込むと、水路の縁、水音が響く暗闇に、最近手に入れた隠蔽能力付きマントを羽織って蹲っている

サチを見つけた。


「……サチ。」

「!?………き、キリト。どうしてこんな所が、わかったの?」

「えーっと、勘、かな?」

「……そっか。」


少々詰まりながら言うと、サチは薄く笑い、また俯いてしまった。

残念な事に、こういった事例に疎い俺では気の利いた言葉の一つも言って、彼女を元気づける事も出来ない。

それに―――


「………皆心配してるよ。あいつらは迷宮区の方を探しに行った。早く帰ろう。」


俺に、そんな資格は無い。当たり障りのない事だけ言って、サチを皆の所へ行かせる事しか出来ない。

しかし二分、三分と待ってもサチは一向に喋らない。

仕方なくもう一度言おうとした所で、サチの囁きが聞こえて来た。


「ねぇ、キリト。一緒にどっか逃げよ。」

「逃げるって、どこへ?………何から?」

「この街から、黒猫団の皆から、モンスターから……。SAOから。」


その言葉に俺の思考は暫く停止し、後にフル回転した。こんな状況でなければ、甘い誘いにでも聞こえただろう。

しかしこの場合考えられるのは、もっと別の・・・。


「……それは、心中しようって事?」

「ふふ、そうだね。それもいいかもね。………ううん、ごめん、嘘。死ぬ勇気があるなら、こんな街の圏内に

隠れてないよね。…………立ってないで、座ったら?」


相変わらず俯いたままのサチにどうすればいいのか分からないまま、少し間を空けて、隣りに座る。

水路の出口から見える街の明かりが、凄く遠いものの様に見える。


「私、死ぬのが怖い……。この頃、もっと怖くて……眠れないの。

……………ねぇ、なんでこんな事になっちゃったの?なんでゲームから出られないの?ただのゲームなのに、

本当に死ななきゃならないの?こんな事に、なんの意味があるの?誰が得をするの………?」


・・・・・サチの吐露は、恐らくSAOプレイヤー全員が抱いた事のある疑問だろう。

『たかがゲームなのに』

しかし、その考えを放棄した人間も多い事だろう。他でもない俺がそうだ。

モンスターと戦う事に興奮し、命のやり取りをする事に快感を覚え、そして・・・・・弱い彼らを護る事に、

愉悦を感じている。問われた意味に答えられるのは茅場だけだが、得をすると言う点では、俺は得している。


「……多分、意味なんてない。誰も得なんてしないんだ。この世界が出来た時にはもう、そう言う事は

全部叶って、終わってるんだ。」


もしも・・・もしも俺が誠意の一欠片でも持ち合わせていたのなら、この時全てを打ち明けておくべきだった。

俺の抱く醜いエゴを全て曝け出せば、少なくともサチはプレッシャーから逃れられた筈だ。

だが、俺はそうしなかった。代わりに出たのは、嘘と事実が綯交ぜになった一言だった。


「……君は死なないよ。」

「なんで、そんな事が言えるの?」

「黒猫団は今のままでも十分強いギルドだ。マージンも必要以上に取ってるし、あそこにいる以上安全だよ。

………無理に剣士に転向する必要なんてないんだ。」


サチは顔を上げ、俺に縋る様な視線を向けた。俺は一瞬眼を逸らして顔を伏せたが・・・もう一度、サチと目を

合わせる。今度は、本当の想いを乗せて。


「……ほんとに?ほんとに私は死なずに済むの?いつか現実に戻れるの?」

「ああ………君は死なない。死なせない。このゲームがクリアされるその日まで。」


その薄っぺらい言葉に、それでも涙を流し『ありがとう』と、サチはそう言ってくれた。

嘘ばかりの俺だったが、これだけは俺の胸の内に約束しよう。・・・必ず、君を守る。守ってみせる。

………
……


宿に帰った俺は皆にメッセージを送り、サチを先に部屋に戻らせ皆の帰りを待った。

そして帰って来た皆(主にケイタとテツオにだが)に、剣士への転向は時間がかかる事を告げた。

可能なら・・・いや、今のまま槍使いを続けた方が良い事、俺の負担は問題ない事も伝えた。

ササマルとダッカーが最初に頷き、ケイタとテツオも頷いてくれた事に、僅かに安堵した。


それからサチは夜更けになると俺の部屋にやって来て寝るようになった。『君は死なない』と、『君を守る』と

聞ければ眠れると言っていた。必然、俺は深夜の経験値稼ぎに行けなくなったが、罪悪感が消える事はなかった。

・・・これは多分、恋とか信頼とかそういうものではなかった。手を握るくらいはしたが、それでも相手を

見る事も、それ以外の言葉をかける事も無かった。


……
………

それから暫く。

「よっしゃぁ!んじゃ行ってくるな。」

「おう、財布落とさないように気をつけろよ!」

「バーカ、リアルじゃねぇんだから落とすかよ。」


ギルド資金がギルドハウス購入の目標金額に到達したので、売りに出していたプレイヤーの元へ出発したケイタを

軽口を叩きつつ、皆で見送った。俺達はゼロになったギルド共有コルの残額を見て笑ったが、ふとテツオが

いい考えが浮かんだ、とばかりにいい笑顔をした。


「そうだ!ケイタが帰ってくるまでに迷宮区で金稼いで、家具全部揃えちまおうぜ!」

「お、いいな。あいつきっと腰抜かすぜ!」

「そりゃ構わないけど……そんなに稼ぎいい所あるか?」

「2時間弱で家具買い揃えられるくらいの稼ぎの良い場所な……。ない事も無いけど。」

「マジか!?流石キリト!」


思わず口に出してしまった情報にハッとするが後の祭り。俺が挙げたダンジョンは、27層のトラップ多発地帯だ。

黒猫団もギリギリマージンは取れているから、トラップにさえ気を付ければ大丈夫か・・・。


「んじゃ、いっちょ稼ぎに行きますか!」

「「おぉー!」」


小イベントに湧く三人だが、代わりにサチはいつも以上に怯え、俺のコートの裾をちんまりと握って来る。

此方に気付かない三人が一足先に行ったのを確認し、そのサチの手を握り返す。


「大丈夫だよ、サチ。今までよりちょっと上の層だけど、戦法も変わらない。」

「う、うん………。分かってるよ、キリト。大丈夫………。」


大丈夫と言いつつも、やはり体の震えは止まらない。俺が半歩近寄ると、サチは今にも泣きそうな目で

此方を見上げて来る。


「……安心して。君は死なない、絶対に。俺が護るから………。」

「…………うん、ありがとう。……ありがとう、キリト。」


僅かに笑うサチはもう泣いても、震えてもいなかった。安堵した俺は、サチの手を引いて三人の後を追った。

Side out


Side サチ

「せりゃぁぁああああ!!」
バシャァッ
「よーっし、こんなもんだろ!そろそろ街に戻って買い物しとかないとな。」


宿を出てから一時間くらい。家具を買う分のコルを稼いだ私達は、街に戻る事にした。

出て来たモンスターはゲームだとよく見るオークとかコボルトで、強さも今まで戦って来たモンスターと

大差なかった。やっぱり少し怖かったけど、キリトを見たら震えたりしなかった。私、やっぱり・・・。


「お、レア箱発見!ダッカー、頼む。」

「あいあい、了解。中身によるけど、ベッドを1ランクずつ上げられるな!」

「待てダッカー!テツオ、目標金額は集め終わったんだ、余計な危険は避けるべきだ。」


いきなりキリトが叫んで、テツオとダッカーの手が止まった。金色のレアな宝箱は入ってるアイテムこそ

高く売れるアイテムだったり大量のコルだったりするけれど、開けるのに失敗したら罠が発動しちゃう。

よくあるのが毒とか爆発だけど、アラートだったりしたら最悪。モンスターが集まってきちゃうから。


「つっても、今まで失敗した事ないだろ?大丈夫だって。」

「まぁ念には念を、だ。アラート鳴った時の為に宝箱壊す用意してくれ。」

「仕方ないな……了解。サチとササマルで背中を見張りを。」


決めると、渋々宝箱のある部屋に入る。部屋に入った時点でモンスターが出てこない事に安心したけど、

なんだか変な事に気付く。宝箱が・・・妙に大きい?


「おい、なんかアレ変じゃね?超レア箱とかそんなんあるのか?」

「そんなの聞いた事無いぞ……。危うきに近寄らず、って事か。撤退しよう。」

「あ、ああ、そうだな。キリトとダッカーを殿に―――」


撤退を決めると、直ぐにテツオが陣形を指示する。でも、そんな事をしている暇は、なかった。


『グゲッ!』


その奇妙な音に、みんなの動きが止まる。音のした方を見ても、あるのはあの宝箱だけ。

自然とみんなが後ずさる中、キリトは剣を抜いて構えを解かない。


「き、キリト、何してるの?逃げようよ!」

「いや………後ろを見せたらやられるぞ。全員武器を構えろ!」

『ヂッ……!』


キリトの言葉に反応したみたいに、また宝箱の方から、今度は舌打ちが聞こえて来た。

次の瞬間、ベキベキベキと凄い音がして宝箱から手足が生えて来る。

そして蓋が開くと、縁に牙がズラッと生えて長い舌が垂れ下がる。あ、あれって・・・!!


『ゲギョオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「ミ、ミミック……!?てかキモッ!」

「くそっ、まさか噂が本当だったなんて……!!」


RPGとかで出て来る"ミミック"。宝箱に化けて近づいた冒険者を食べるっていう設定だけど、

今目の前にいるのは本当にそんな感じ。SAOはそういうセオリーは守るゲームだから、この場合・・・。


「キリト、アレ、倒せるミミックだと思う?それとも、絶対倒せないレベル差のだと思う……?」

「……茅場は最初からSAOをデスゲームにするつもりで開発したんだ。理不尽な設定はしていない筈……。

だとすると、倒せる方である……と言うか、あって欲しい。扉は開くと思うか?」

「倒せる方なら開かない、倒せなければ開くと思うが………どちらにしろ、あそこまで行って確認しないとな。」

「仕方ない、サチ。俺達がアレを食い止めるから、扉が開くか確認して来てくれ。

出られるようなら、先に逃げてくれ。」

「わ、分かった………。」


ミミックから目を離さないように、でも早く後ずさる。あの気持ち悪いのをずっと見てるのは嫌だけれど、

目を離す方が・・・怖い。キリト達もゆらゆらしてるだけでその場から動かないミミックから目を離さないで、

ゆっくり後ずさって来る。そして扉まであと5mくらいの所で、チラッと扉の方を見た瞬間―――


「サチっ!」
ガギィン!!
「きゃあっ!?な、何……!?」

「呆けるな、扉まで走れ!!皆も早く!!」

「あ、ああ!」


私のすぐ後ろで、キリトの剣とミミックの腕がぶつかり合った。腰を抜かしそうになるけど、キリトの怒声で

立て直して、扉までの5mを走る。扉を開けると、いつも通りに開いて、凄く安心した・・・。


「き、キリト!扉開いたよ!」

「よし!俺もすぐ行くから皆は部屋の外を見ててくれ!!」

「ったく、いっつもカッコつけやがって!」


尚もミミックと切り結んでるキリトを置いて、私達四人は部屋の外に出てモンスターが居ない事を確かめる。

すぐにキリトも、部屋から転がる様に迷宮の回廊に出て来たけれど、ミミックは扉が狭いらしくて、

外には出てこなかった。


「危なかったな……。つかキリト、お前どんだけ速いんだよ。」

「あ、いや、必死だったもんでな………。それより、とっとと転移結晶使って帰ろう。」

「だな、疲れた。」


安堵した所で、皆がそれぞれ転移結晶を取り出す。漸く街に帰れる―――と思ったその時、

聞き慣れない警告音が回廊に響き渡った。

ビー! ビー! ビー! ビー!
「な、なんだこれ!?まさかアラートトラップか!」

「二段構えとは恐れ入るぜ……。ミミックを倒さないで部屋から出れば、アラートとはな!転移できるか!?」

「『転移、アストラント!』……だ、駄目だ。結晶無効化空間だ!

どうする、前からも後ろからもワラワラ出て来やがったぞ!」

「クソッ!ここからだと、ボス間から次の層に移った方が早いか……!皆、最深部へ向かうぞ!」


叫ぶと同時にキリトは左のモンスターの群れに突っ込んで行った。

その勢いに私達は押されたけれど、後を追って走った。・・・そう、ほぼ走っただけって表現が正しい。

湧き続ける敵をバッサバッサと斬り倒して行くキリトの後をついて、HPの残ってる敵を処理するだけだった。


―――いつかの夜、キリトがウィンドウを操作してるのを後ろから見て強いのは分かってた。

けど、こんなに強かったなんて・・・。


「そりゃぁっ!キリト、次はどっちだ!?」
バシャッ
「二つ先を右!その後突き当たりを左!」


活路を開いて行くキリトとダッカー。この二人、いつからこんなに息が合うようになったんだろ?

二人を見てると、なんだか・・・変な気分になる。悔しい・・・嫉妬?

そうだ。私もあんな風にいつかキリトの隣に―――


「あったぞ、ボス間の扉だ!流石にあそこの先からはモンスター湧いてこないらしいな!」

「そこまで無礼じゃないらしいな、ミミックも。皆走れ!」


前に居る最後の一体を倒して、みんな全力で走る。と、私達がボスの間に入った途端、私達を追って来ていた

モンスターの群れが、急に引いて行った。アラートも鳴り止んでるし、もう安全みたいだね・・・。


「よ、よかったぁ~……。走り疲れちゃったよ……。」

「だなぁ、ったく。これを教訓に余計な欲は出さない様にしないとな。」

「悪かったよ……。ケイタに笑われちまうぜ。」


皆が安心して、広々としたボスの間をトコトコ歩いてく。そして、部屋の真ん中に来た時、前方に

光りが降りて来て何かが形を成していく。あれは・・・あの、ついさっき見た・・・!!


『ゲゲゲギョオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「「「また出たぁあああああああああああああああああああ!!」」」

「結局倒さないと駄目なのかよ!!」

「ほ、骨折り損……。」


口々に文句を言いつつも、それぞれ武器を構える。今度こそ倒して、買い物に行くんだから!

Side out 
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