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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第108話

場所は変わり、キオッジアのとある海岸。
そこには四つの影が砂浜を歩いていた。
先頭を歩いているのは少女だ。
髪は桃色で、身長は一五五センチと小柄な身体をしている。
服は桃色の髪に合わせているのか、ピンクのフリルを着ている。
その後ろには、女性がその少女を見守るように歩いていた。
身長は一六五センチでメガネをかけている。
服装は足首まである黒いワンピースを着て下には白いシャツ、上半身を紫のストールが覆っている。
髪色は黒色でショートヘヤーだ。
そう、あの学園都市で子供達を拉致した女性だ。
その二、三歩後ろには二人の男性が横並びに歩いていた。
一人は一七六センチぐらいで髪は銀髪。
上下には黒のジャケットスーツを着ている。
もう一人は一八五センチとかなり長身。
髪色は黒色で、青のコートを着ており、長さは足首まで伸びている。
下も青色のチノパンツを穿いている。

「ねぇねぇ、砂浜で遊ぼうよ!」

小柄の少女は後ろを振り向いて、三人に言う。
それを聞いた女性は軽くため息を吐いて言う。

「駄目ですよ、アンナ。
 私達は教皇様のご命令で例の場所(・・・・)を調査したばかりで、まだ結果を報告していません。
 早く帰って、報告をしないといけません。」

どうやら、少女の名前はアンナという名前らしい。
アンナはその説明を聞いて、駄々をこねる。

「いやだ~いやだぁ~!!」

それを見て、もう一度ため息を吐いて、後ろにいる二人に助けを求める。

「ディーズ、サイキ、何とかしてください。」

その姿はまるで子供の対処に困って、助けも求める母親の様だった。
だが、銀髪の髪をしたディーズという男も面倒くさそうな顔をして言う。

「あぁ?そんなクソガキ放っておけばいいだろ。
 勝手に遊んでいたら帰ってくるだろ。
 というより、アイツのお守りはフレア、お前の仕事だろうが。」

そう言われ、ぐうの音もでないフレアという名前の女性。
隣にいるサイキという男は何も答えない。
この光景を傍から見たら仲のいい家族か何かに見えた筈だ。
現に、彼らの取り巻く雰囲気はそれと変わりないように感じる。
だが、突然駄々をこねていたアンナの声が途切れる。
三人はアンナに視線を集める。
先程の子供の様な表情はどこへ行ったのか、無表情のまま暗い海を見つめていた。

「星の守護者が戦っている。」

その一言だった。
その一言で彼女らの雰囲気は一変した。
どす黒く重い雰囲気が辺りを包み込む。
真面な人間ならこれを感じ取ったら真っ先に逃げ出すか、腰を抜かすだろう。
それほど、尋常ではない雰囲気なのだ。

「どこでだ?」

今まで沈黙を守っていたサイキがアンナに問い掛ける。
依然と暗い海を見つめながらアンナは答える。

「此処より沖の海で戦っている。」

「なるほどな。
 こりゃあ、挨拶に行かないと失礼だよな。」

革の手袋に手を入れながらディーズは楽しそうな顔を浮かべる。
そのまま海に足を入れようとしたところを、フレアが止める。

「待ちなさい。
 貴方が海に入れば、大変な事になるでしょう。
 北極と南極の氷を溶かすつもりですか?」

「そうなったらそうなったで下等生物を絶滅させれるだろう。」

「私が言いたいのは抑止力のことについて話しているのです。」

フレアの抑止力、という言葉を聞いて動きを止める。

「あれがどうなっているのかまだ教皇様でも分かりません。
 その為に私達はあの場所に行き、調査をしたのです。
 だからこそ、事を慎重に運ばないといけません。」

ディーズは舌打ちをすると、海面から少し離れつつもフレアに聞く。

「だが、どうする?
 このまま見過ごすのか?」

振り替えると、フレアは腰の後ろに手を回すと、一つの巻物を取り出した。
その本は人間の皮で出来た一冊の魔導書だった。
名をルルイエ異本と呼ばれている。
その本に魔力を込めながら、笑みを浮かべて言う。

「誰が見逃すと言いましたか?
 ようは、抑止力を発動させなければいいのですよ。」

いあ るるいえ くとぅるう ふたぐん いあ いあ

常人には聞き取れない呪文だが、その場にいた三人にははっきりと聞こえた。
そして、その意味も。
ディーズはその呪文を聞いて、少し驚いた顔をしている。

「テメェ、俺に海に入るな、とか言いながらテメェはクトゥルー様を召喚するつもりか?
 あれを召喚したら抑止力もクソもねぇぞ。」

「分かっていますよ。
 あの呪文を触媒にして別のモノを召喚します。
 あくまで、あの呪文はそのモノを強化するための呪文ですよ。」

怪しげな魔力が周囲に漂う。
フレアは巻物を広げると、その巻物の中から何かが海に向かって飛び出した。
その影は沖に向かって移動して見えなくなった。

「さて、どうなるか楽しみではありますが、先に教皇様に報告しましょう。
 それから行動しても遅くはありません。」







場面は元に戻り『女王艦隊』。
『女王艦隊』の旗艦に向かおうとした上条達だったが、数十人のシスター達が立ち塞がった。
ルチアやアンジェレネと同じく、黒を基調とした修道服に黄色の袖やスカートを取り付けた、この艦隊の労働者達。
そして、アニェーゼ部隊の人達の筈だ。
おそらく上条達が何のためにここへ戻ってきたのかを知っていながら、シスター達は一言も言葉を交わさず武器を突きつけた。

「アニェーゼがどうなるか分かってんだろ。
 それでも協力する気はねぇのか!!」

上条は叫ぶが、シスターの一人が首を横に振った。

「残念ですが、仕事に情を入れる余裕はありません。」

彼女は、その場を代表して告げる。

「あれはきっと裏返しでございますよ。
 ご本人達も気づいていないのでしょうね。
 ですけど、彼女達は確かにアニェーゼさんを認め、その下についていた方々です。
 リーダーならこれぐらい乗り越えてくれると信じているからこそ、辛く当たっているのでございましょう。
 打ち破ってくれる事を、どこかで願いながら。」

オルソラは、むしろ痛々しそうな口調で話した。
言葉に表す事が許されなかったからこそ、言葉とは違う方法で放たれたSOS信号。
想いとは裏腹に、互いを傷つけあわなくてはならない状況。
それを思って、上条は思わず強く拳を握りしめた。
呼応するように、数十のシスター達は一歩距離を詰めてくる。
敵の壁までの距離は、ほんの七メートルもない。
そんな中、ヒュン!!と上条やシスター達の頭上に小さな影が走った。
見上げれば、一〇メートルぐらいの高さを飛んでいるのは、投げられた馬車の車輪だ。
バン!!、と車輪が勢い良く爆発した。
それは上条やインデックス、オルソラだけを避ける奇妙な軌道を描いて、大量の木の破片を真下へ突っ込ませた。
文字通り破壊の雨だ。
シスター達は武器や術式を使ってこれを防ごうとしたが、それでも全体の隊列が大きく揺らぐ。

「こちらへ!!」

叫び声に振り向けば、別のルートからこの船に渡ってきたルチアとアンジェレネがいた。
ルチアが使う魔術は聖カテリナの『車輪伝説』をモチーフにした物で、木製の車輪を爆発させ散弾銃のように数百という鋭い破片を飛ばすという物である。
また破片はルチアの号令一つで元の車輪に再生させる事が可能。
彼女達のすぐ後ろは甲板の縁で、そちらには木で作られた橋が隣の船へ接続されている。
その直後だった。

「第四一番艦は至急退避、不可能なら海へ!
 本艦隊はこれより前述の船を沈めたのち、再構成し直します!!」

周囲に緊張が走った。
船の詳しい番号は知らないが、おそらく狙いはここだ。

「早く!!」

ルチアが橋へ誘導するように叫んだが、その時怯んでいたシスター達が一斉に動いた。
逃げる為でなく、上条らを逃がさないためだ。
複数のシスター達が一つの生き物ように上条達を包囲する。

「この・・・馬鹿者どもが!
 それだけの度胸があるのなら、なぜシスター・アニェーゼを助ける為に動けないのですか!!」

ルチアが手をかざすと、周囲に散らばっていた木の破片が集まって車輪の形を取り戻す。
彼女らが戦闘状態に入る前に、砲撃音が炸裂した。
稲妻のような轟音と共に、すぐ近くにいた護衛艦が砲弾を撃ち込んできた。
船の腹に直撃したのか、甲板全体が横へ大きく揺れる。
第二波はすぐに襲う。
今度は甲板の上のターゲットを直接潰す気か、ギチギチと音を立てて砲が上を向く。
砲口が上条達にピタリと合わせられる。
黒い穴が怪物の眼光のようにこちらを覗いた時だった。

「きたれ! 一二使徒のひとつ、微税吏して魔術師を撃ち滅ぼす卑賤なるしもべよ!!」

叫んだのはアンジェレネだ。
彼女の魔術は『十二使徒マタイの伝承』を基にした、硬貨袋を触媒とする魔術を使用する。
頭上に投げた硬貨袋から六つの翼が生え、砲弾のような速度で相手を追尾し攻撃する。
四つの金貨袋は赤、青、黄、緑、四色の翼を生やした重たい小袋が、それぞれ鉄拳のように手近なマストへ突っ込んだ。
氷の柱の根元を叩き砕かれた、巨大なマストは大きく斜めに傾いだ。
倒れつつあるマストに大量の砲弾が突き刺さった。
上条らを真っ直ぐ狙っていた氷の爆撃は、アンジェレネの一手によってかろうじて防がれる。
盾となったマストが、甲板に倒れる前に砲の衝撃で砕けた。
バラバラに散らばった破片が降り注ぐ。
破片と言っても、一つ一つが冷蔵庫より大きな物だ。

「ッ!!」

ルチアが巨大な車輪を頭上に掲げ、一気に爆発した。
大量の木片が破片にぶち当たるが、それでも全ての氷の塊を弾ける訳ではない。
撃ち漏らした氷の塊が、ローマ正教のシスター達へ向かった。
かつてアニェーゼ部隊と呼ばれた修道女の集団へ。
それを見たアンジェレネは、敵であるはずのシスター達の元へ走っていた。

「ちょ、どこに行くのです!?」

ルチアは驚きの叫び声をあげる。
ギョッとする修道女を無視して、アンジェレネは四つの金貨袋を呼び集める。
それで降り注ぐ巨大な氷を弾こうとしたが、バラバラと金貨服の布地が破けてコインが飛び散った。
マストを砕いた衝撃に、すでに金貨袋の方が限界を迎えていたのだ。

「退きなさい、シスター・アンジェレネ!!」

手を失ったアンジェレネに、ルチアが叫ぶ。
彼女が周囲を見れば、上条がこちらに走ってくるのが見える。
おそらく、アンジェレネを突き飛ばすために。
しかし、アンジェレネは下がらなかった。
アンジェレネはさらに一歩前へ踏み込む。
歯を食いしばって、一番近くにいたシスターの胸を突き飛ばした。
突き飛ばされたシスターは後ろに弾かれ、甲板の上に倒れていく。
アンジェレネは、それを確認してから身を伏せようとして、その一歩手前で、冷蔵庫のような氷の塊が彼女のすぐ横に墜落し、甲板に激突した氷が、さらに岩のような破片の雨を撒き散らし、ゴン!!と。
彼女の小さな身体が、鈍い音と共に宙を舞った。

「シスター・アンジェレネ!!」

ルチアは信じられないものでも見るような叫びをあげて、倒れたアンジェレネに駆け寄る。
その光景を見たシスター達の動きがわずかに揺らぐが、それでも任務と立場を思い出したのか、それぞれが武器を構え直そうとする。

「ったく、心の底からつっまんねぇモンをこの俺に見せんじゃねえのよ!!」

よその船から木の橋を作って飛び乗ってきた建宮と天草式の面々が、アンジェレネとシスター達の間に壁となって塞いだ。
彼はポケットの中から紙束を取り出すと、それをまとめてルチアに投げ渡して言った。

「脱出用の上下艦ってヤツよ。
 まともな設備もないが敵地の真ん中よりゃマシだろ。
 一隻だけで使うな。
 火船を周囲にばら撒いて探査をごまかすだけで撃沈率は格段に下がんのよ!!」

駆け寄ったルチアは紙束を袖へ仕舞う。
建宮はそう言ったが、簡単にこの札を使わせてくれるほどアニェーゼ部隊の戦力・思考は共に甘くない。
気を焦って上下艦を出しても、集中攻撃によって沈められてしまう危険もある。
しかし、今はそれどころではない。
数字の上の勝算よりも、もっと重視しなくてはならない事がある。
ルチアはアンジェレネの前で屈み込む。
ぐったりとした彼女の手を取るルチアに、アンジェレネは薄く笑った。

「シスター・ルチア。
 手が、震えてますよ。」

「当たり前でしょう!!」

「や、だな。
 こんな所で、死ぬはずがないのに・・・・みんなで、帰るんです、よね。
 シスター・アニェーゼも、私達も、そして、あそこで戦っている人達も、本当の意味で、みんな一緒に。」

アンジェレネは一言一言を噛み砕くように言った。
ギチギチ、と隣接する船の砲が軋んだ音を立てて照準を合わせる。
第三波の準備が整えられていく。
それでも、ルチアはアンジェレネから視線を外さない。

「だったら、私は、死にません。
 それを約束してくれるのなら、絶対に、私も、貫きます。
 だから、お願いします、シスター・ルチア。
 敵とか味方とか、そういうんじゃ、ないんです。
 もっと単純に、みんなを守る為に、一緒に戦ってくれませんか?」

ルチアは奥歯を噛みしめ、そして真っ直ぐアンジェレネを眼を見て言う。

「はい、約束します。
 皆を守る為に、戦います。」

船の砲が完璧に照準を合わせ、砲弾を撃とうとした時だった。
その艦隊を数発の魔弾が貫通する。
貫通した艦隊は、凄まじい爆音を起こし、海に沈んでいく。
その光景をその場にいた、全員が唖然と見つめている。
艦隊の後ろには漆黒の服で身を包んだ、麻生が空に浮いていた。
麻生はそのまま上条達がいる甲板に移動する。
着地した瞬間、麻生を中心に衝撃波が発生して、シスター達だけがその衝撃波を受けて、海に投げ飛ばされる。

「ギリギリ、間に合ったみたいだな。」

さっきまでの光景を見ていたのか、そんな言葉を洩らす。
ぐったりとしているアンジェレネを見た麻生は、そのままアンジェレネに近づき、頭に掌を乗せる。
すると、アンジェレネの全身にあった鈍い痛みが突然消えた。
意識も朦朧としていたが、今ははっきりしている。
いつの間にか、麻生の手には四つの金貨袋が持たれていた。

「ほら、これを使え。」

アンジェレネにその金貨袋を渡す。
受け取ったアンジェレネはゆっくりと立ち上がる。

「シスター・アンジェレネ!?」

突然、起き上がったアンジェレネを見てルチアは驚きの声をあげる。

「私は大丈夫です。
 彼に触れた瞬間、痛みがどこかに消えました。」

まだ、信じられないような顔をしているルチア。

「貴方がアンジェレネを助けてくれたのですか?」

「まぁな、今は人手が足りないからな。
 あと、シスター達は全員無事だ。
 海に投げ出されたが、核となる霊装が破壊されない限り、艦隊が復活して拾われるだろう。」

その言葉を聞いたアンジェレネは安堵の表情を浮かべる。
ルチアは麻生に一礼をして言う。

「ありがとうございます。
 彼女を助けていただいて。」

「そんな事は後だ。
 早くしないと、また標的にされるぞ。」

上条らは周りを見ると、別の艦隊がこちらに砲弾を撃ってきた。
その砲弾を麻生の能力で防ぐ。

「さっさと、終わらせて帰るぞ。」
 
 

 
後書き
後書き感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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