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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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EpisodeⅡ:
Vixi et quem dederat cursum fortuna peregi
  Epos1夜天の主の下に集いし雲・守護騎士~Wolken Ritter~

 
前書き
大変お待たせしました。闇の書編EpisodeⅡ『Vixi et quem dederat cursum fortuna peregi』を開始いたします。

 

 
†††Sideルシリオン†††

グランフェリアを無事に救い、私は八神宅へと戻って来た。目前に佇む、この世界で1ヵ月と過ごした家を外から眺める。時刻は既に深夜1時。当然家の電気は消えているはずだが、リビングのカーテン越しから明かりが漏れている。はやてはまだ起きているか、もしくは以前のようにソファで眠りこけているか。
どちらにしろ、あまり良ろしくない。門構えを過ぎ、玄関扉のドアノブの鍵穴へ合鍵と刺し込もうとしたところで、そのまま動きを止める。ジュエルシードを回収し終えた今、ここに戻ってくる必要性はもうどこにも無いとも言えるんだが・・・。

(約束した・・んだよな。はやての誕生日を一緒に祝う、と。私の誕生日を祝ってもらう、とも・・・)

動物園ではやてと一緒に過ごした時間が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。ほら見ろ、私。もう決意が揺らいでいるじゃないか。“堕天使エグリゴリ”の救済にだけ集中していれば、はやてと関わりを持たなければ、こんなにも孤独になりたくないと後ろ髪を引っ張られる思いをしなくて済んだ。
ドアノブの鍵穴に向けていた鍵を降ろす。そしてドアにコツンと頭を降ろす。
優しいはやて。あの子の心をズタズタに傷つける行為――姿を晦ますという最低を犯すことになってしまうターニングポイントがここだ。アンスールとしてのルシリオンを貫くなら、今すぐにでも立ち去るべきだ。きっとそれが正しい道だ。そう、幼いはやてを傷つけようとも、だ。だと言うのに、一向に足が動かない。揺らいでいるどころじゃない。完全に崩れ去ってしまっている。

「ルシル君か・・・?」

扉越しから聞こえてきたはやての声に、「っ・・!?」ビクッと肩を跳ねさせて一歩二歩と後退してしまう。ガチャガチャと鍵を開ける音がし、扉がゆっくりと開いて行く。そして「おかえり、ルシル君」はやてが迎え入れてくれる。

「お疲れ様や。ちょう遅かったから心配してたんよ」

スロープを上がっていくはやての背中を黙って見送る。彼女の口にはヨダレの跡が付いていた。無理に起きていようとして、しかし眠ってしまったという様子だ。そしてこうして私が帰って来たことにすぐに気付いたということは、それだけ気を張っていたに違いない。可哀想に・・・。私なんかの為に。

「どないしたん?・・・ルシル君?」

私が何も言わずにただ突っ立っていることに対して何か思うことがあったのかはやてはこちらに向き直り、少し何かを考えた後、小指1本だけを立てた右手を掲げて見せてきた。約束の指切り。事あるごとにはやてと交わしてきたものだ。

「・・・ルシル君・・・」

不安そうに私の名前を呼ぶはやて。ズキッと胸が痛む。世話になってから今までの中で一番のものだろう。彼女のそんな表情を見たその瞬間、一瞬にして創り出される言い訳。私は誓ったじゃないか。この事件が終わったら、寂しさなど感じない程に付き合おう、と。それに誕生日を一緒に祝おうとも約束した。
下がった分だけ前進し、はやての目の前まで歩を進める。私を見上げるはやての目から不安が消えた。はやての小指に自身の小指を絡ませて「ただいま、はやて」とそう挨拶すると、はやては目に見えて喜色満面といった笑顔を浮かべた。

「っ! うん、おかえりやルシル君♪」

空いている左手ではやての頭を撫でつつ「無理して起きていなくても良かったのに」と靴を脱いで家に上がる。はやては「なんやヤな予感がしたんやもん」とまた表情に陰りを見せ、繋いだままの私の手を引っ張って、甲に頬を摺り寄せて来た。まるで猫の仕草。こういったところに安心感のようなものを抱け、妹のような存在に感じ、心が休まるというものだ。

「ルシル君・・・。目的を済ませばそのまま居らんくなるって・・・」

「・・・約束したからな。はやての誕生日を祝うと」

「っ・・・。憶えててくれたんやね。嬉しいわぁ~♪」

「忘れるわけがないじゃないか。これでも記憶力には自信があるんだぞ」

はやての誕生日。そして“夜天の書”の起動。それが6月4日。明後日だ。大切な約束という、はやての側(ここ)に留まる言い訳に使っている私にはほとほとする。ああ、そうだ。こう思えばいい。はやて、そしてフェイト達や管理局・・・いいや、この次元世界のすべてを利用するのだと。そう思えば、ほら、罪悪感が消えていく。

「そうやったな♪・・・ふわぁ。安心したら一気に眠くなってきたわ」

大きくあくびするはやて。私が車椅子を押して、はやての部屋へと向かう。はやての部屋へと着き、車椅子をベッド脇へと停めて「今日はもう遅い。もう寝ような」と彼女の横に移動すると、すでに船を漕ぎだしていた。

「はやて。ベッドに着いたぞ」

「・・・・」

反応が無い。「おーい、はやて~」呼びかけに応じてくれない。俯いたままだ。

「ほら、もうちょっとだから。まだ寝るな。ベッドに移らないと」

「んん、だっこぉ~」

反応したかと思えば、急に甘えん坊になったな。半分以上眠ってしまっている所為かもしれないが。両腕を私へと伸ばしてくるはやてに思わず失笑。しかしはやては腕を戻さず「ん、ん」急かしてくる。

「しょうがないなぁ」

まず布団を捲り、はやてを横抱きして抱え上げて「やった❤」と小さく両手を上げて喜ぶ彼女をベッドに移す。布団を被せて「おやすみ、はやて」と挨拶。布団を目の下まで上げたはやては、「ん。おやすみ、ルシル君」挨拶を返してすぐに寝息を立て始めた。私はそれを確認して踵を返し、はやての部屋を後にする。リビングのソファに一度腰を下ろし、一息つく。

「・・・、グランフェリア」

天井を仰ぎ見る。我が愛おしい娘、グランフェリアの消滅を直に肌で感じた所為か眠気が全く起きない。ちょうどいい。情報の整理をしよう。昨日今日と色々なことが起きすぎた。特に問題なのが「レーゼフェアとシュヴァリエル」だ。イリスからその名前が出た時、最悪な事態が脳裏に過ぎった。今でもそうだ。胸がざわつく。

(フェイトの側にグランフェリア。管理局側にレーゼフェアとシュヴァリエル。ならば、ガーデンベルグやリアンシェルト、フィヨルツェンもまた、なのは達と・・・)

これが偶然か必然か。偶然と言うにはあまりにも出来すぎている。ならば必然か? だったらどうやって、かつての私と関わりを持っていたフェイト達と関係を繋げることが出来た? 先の次元世界での私とフェイト達の関係を知ることが出来る術が在るとは思えない。やはり偶然なんだろうか。いくら考えても解は出ることもなく。

(もしかすると・・・)

あの子たちと関わりを持っていれば、 “エグリゴリ”の情報が入ってくるかもしれない。そんな願望が生まれる。いや、たとえ“エグリゴリ”の情報が入らずとも、少し準備期間が欲しいと言うのがある。

(体格は別として、魔力の出力制限がやはり痛い・・・)

ジュエルシードを使えば、十分この体や魔力制限でも戦い合える。それはグランフェリアを相手に戦って判明した事実。が、残る“エグリゴリ”の戦闘能力からして、出来れば温存したいと言うのが本音だ。最強にして最高の性能を有するガーデンベルグ。あの子を相手にする時にジュエルシードを使い潰しているような事が無いように。だから・・・

「・・・・決めた。私は・・・いや、俺は――・・・」

†††Sideルシリオン⇒はやて†††

カーテン越しから漏れる陽の光と温かさで目が覚めた。いつもより早く起きたんやなぁと思いながらもぞもぞと寝返りを打つ。いつもなら目覚まし時計の機能で起きるんやから。で、今の時刻を確認しようと時計を見ると、「うえっ!?」短針の位置を確認してビックリ。

「もう8時半やんか!!」

ガバッと跳ね起きる。もう一度時計を見てみれば、目覚まし機能を止めるボタンが押されてるのが判った。

「おはよう、はやて。朝早くから叫んでどうしたんだ?」

「ルシル君・・・! 朝早くって、もう8時半や!」

エプロン姿のルシル君が苦笑いしながらやって来た。完全に朝寝坊したことに対して「ごめんな、ルシル君」って謝る。

「はやてが朝寝坊した原因は、明らかに俺の帰りを待つための夜更かしだ。それはつまり俺の所為。だからはやては気にしないでいい。あと、目覚まし時計を止めたのは・・・俺だ♪」

キラン☆と歯を光らせるような笑顔を向けて、親指をグッと立てたルシル君。夜更かしはわたしの独断やから、ルシル君が悪いわけやない。目覚まし時計の件はちょうアカンと思うけど。むぅ、一緒に朝ご飯、作りたかったなぁ・・・。

「(ん? なんや妙な違和感が・・)ルシル君・・・今、俺って・・・」

「ん? ああ、変えることにしたんだ、一人称。少しの間、違和感を与えるかもしれないけど、我慢してくれな。・・・そうだ。朝食はもう出来ているから、用意が済んだら一緒に食べよう。はやてに話しておきたいこともあるんだ」

それだけを言うてルシル君は戻って行った。どんな心境の変化なんやろ。一人称を変えるなんて・・・。それにわたしに話したいことがあるってことやけど、なんやろ。とりあえず服を着替える。ちょうボサついとる髪に櫛を通して、髪留めを付ける。
ダイニングに行くと、ルシル君はご飯を茶碗によそてる最中。それを横目に洗面所へ。うがい手洗い、そんで顔を洗って、ダイニングに戻る。準備を終えてもう椅子に着いとるルシル君の向かいの椅子に座って、白いご飯、お味噌汁、出し巻き卵、野菜サラダが2人分並べられたテーブルを見回す。どれもこれも美味しそうや。
ルシル君と一緒に手を合わせて「いただきます」挨拶。いつものようにルシル君と2人きり、幸せな朝食時間をゆっくりと過ごす。

「そうや、ルシル君。さっきの話って、なんやったん?」

「ああ、うん。・・・俺がこの世界に来た理由はもう果たしたんだが。はやてさえ良ければ、君の誕生日を祝った後も、もうしばらくこの家で世話になりたいな・・・と」

遠慮がちにそう言うたルシル君。

「もちろんオーケーや! どんくらいでも居ってええよ! わたしとしても、ルシル君ともっと一緒に居りたいって思うてたんやもん!」

ほぼ毎日のように考えてた、ルシル君をどうやったらこの家に留めるか。ルシル君から次元世界の説明を聴かされた時はホンマどうしようかと思うた。人間が存在してる星が地球だけやなくていっぱい在るってゆうのはもちろんのこと、ルシル君がこの星の人やないってゆうのがショックで。
いつかお別れしても海外出身なら連絡くらいは取れる。そやけど異世界(フェティギアって世界らしいわ)の人ってなったら、一度お別れしたら連絡の取りようがない。けど、その大問題が解決した。しかもルシル君からの提案で。そやからわたしはルシル君に顔を近づけるようにして食い気味にそう言う。するとルシル君は「そっか」って微笑んだ。

「うん、ホンマにどれくらいでもええんよ? わたしはこれからもずっと独り暮らしやと思うし、そやから2人でゆったり過ごせると思うんよ」

「独り暮らしになると判っていて男を招き入れるか?」

ルシル君が俯き加減になんやボソッと言うた気がしたから「ん? なんか言うた?」って訊き返してみるけど、「いや、なんでもない」って苦笑いするだけやった。

「あと、もう1つ。しばらく八神姓を使わせてもらいたいんだ。そう、八神ルシリオン、と名乗らせてほしい」

「八神、ルシリオン・・・。大歓迎や! 姉弟らしくなるな!」

「はやてが姉で、俺が弟だな。ま、悪くはないかな」

「そやろ♪」

なんや今日は。ルシル君はどれだけわたしを喜ばせたいんや。わたしはそれからずっとご機嫌なまま、今日の授業のことや夜ご飯は何にするか、いろんなお話をしながら朝ご飯を終えた。

「はやて。誕生日プレゼント、何が欲しい?」

食器の後片付けや掃除に洗濯と済ませて、ルシル君と一緒にソファに座ってお茶休みしとると、そんな質問をされた。そんなこと訊かれるん、石田先生くらいやったのに。それが新鮮で、すごく嬉しくて。じっくりと考えるために腕を組んでうんうん唸ってみる。服? 別段困ってへん。アクセサリー? あんま興味あらへん。日用雑貨? どんな嫌がらせや。本? いま欲しいのは無いし。さんざん悩んだ末に出て来たわたしが欲しい物。それは・・・

「ルシル君が一緒に居ってくれればそれだけで十分や」

孤独を癒してくれる家族。それが欲しい。でも、それはもう手に入ってるもんや。そやから「プレゼントは家族、ルシル君ちゅうことでお願いや♪」ルシル君に体を向けて、両手を合わせてお願いのポーズ。するとルシル君は、最初はポカンとして、そしてすぐに「良い子過ぎる」ってちょう涙声でわたしの頭を撫でてきた。

「じゃあ家族を増やそう、はやて」

「・・・・はい?」

ルシル君の言うことが理解できひん。家族を増やす。そんなことが出来るんは、ドラマとかでよく見る・・・「ちょっ、わたしとルシル君、まだ子供やから、子供なんて出来ひんよ!」子供を作るってことや。結婚もしてへんのに(とゆうかどうやって作るのかも知らん)。
そう言うと、ルシル君は「げほっ、ぶほっ、ごほっ」お茶が気管に入ったんか思いっきり咽た。わたしはルシル君の背中を擦って「大丈夫か!?」声を掛ける。

「えほっ、げほっ、はぁはぁはぁ・・・ああ、大丈夫だ。確かに俺の言い方が悪かったのは認める。だけど違う。俺が言いたかったのは、別のことだ。はやて。君の部屋に、分厚く、十字架の装飾があしらわれた本があるだろ?」

一瞬でどんな本か思い浮かべることが出来た。物心ついた時にはもう家に在った、鎖で縛られた綺麗な本。以前から興味は有ったけど、どうしてか鎖を解こうとは思えんかったから、もちろん中身は読んだことない。その本が一体どうしたんやろ。

「ルシル君、あの本の事、知っとるん?」

「・・・・アレも魔法に関係した物なんだ。名称は闇の書」

「へぇ、そんなんやぁ~」

「・・・驚かないんだな。知って――というよりは気付いていたのか?」

そう訊いてきたルシル君に「全然♪」ってお茶を啜りながら答える。とゆうより見えへんかも知れへんけど、これでも一応は驚いてる。

「初めて見て触れた時から妙に惹かれててな。不思議やなぁくらいは思うてたんよ。そやからかなぁ、妙に納得できてる自分がおるんよ」

そう微笑みかけると、ルシル君からは「君は本当にすごいな」って微笑み返し。それからわたしは“闇の書”(なんや嫌な響きの名前やなぁ)の説明を聴いた。ルシル君の言うてた家族ゆうんは守護騎士ってゆう人たちのこと。騎士。おとぎ話や伝奇とかでお姫様とかを守ったり、悪い怪物と戦ったりする英雄さまや。

「で、だ。闇の書ははやて、君を主として目醒め、そして守護騎士も君を主として守り、敬うだろう」

「ほぁ~・・・。じゃあわたし、お姫さま?」

そうなるとちゃうんかなぁ~って思うて、ルシル君に訊いてみれば「ははは。そうだな」って笑った後、ソファから立ち上がってわたしの前に来て片膝立ちした。

「はやて姫。バースデーケーキは如何なさいますか♪」

「苦しゅうない。良きに計らえ~♪」

「・・・ははーーっ。恐悦至極にございます~♪」

時代劇で観たセリフを思い出して詳しい意味も知らずに言ってみると、ルシル君がノッてきてくれた。でも、このやり取りは「騎士やなくてお侍さんやなぁ~」洋風やなくて和風や。ルシル君も片膝立ちから慌てて時代劇のようにひれ伏す格好になったし。

「はやてはどっちの姫も似合うと思うぞ。ドレスも着物も」

「えっ!? あ、ありがとう」

嘘でもええからそんな嬉しいことを言ってくれたルシル君にお礼を言う。熱くなった顔を手うちわで扇ぎながら「えっと、ケーキのことやけど・・・」本題に戻す。自分のバースデーケーキを自分で作るなんてなんや悲しいし、そもそも作れへん。ルシル君はどうか知らへんけど、もし作れへんのに頼むのもなんか悪いし。

「美味しいケーキを作ってくれる店に心当たりがあるんだ。味は保障するよ」

得意げに語るルシル君。あの料理好きなルシル君がそう言うなら、美味しいんやろうな。今から楽しみや。そうゆうわけでルシル君が「注文しに行ってくる!」バタバタと慌ただしく出掛けて行った。

「・・・~~~~~~っ、やっっっったぁぁぁぁーーーーーーっっ!!」

ひとりっきりになったところで、わたしは大きく万歳しながらルシル君が残ってくれること、そんで新しい家族が出来ることに大喜びする。ソファから車椅子に移って、わたしの部屋に向かう。机の本棚に収めてある1冊の本を手にする。分厚い本で、金(本物かは判らんけど)の十字架があしらってある。コレが“闇の書”。魔法の本で、守護騎士ヴォルケン・・・リットル?とかいう人たちが中に住んでるって。

「この鎖、ん~~っ。・・・取れへんなぁ~」

とりあえず引っ張って見るんやけど、さすがにわたしのような子供に壊せるわけもなく。今度はペンチでも使ってみようか。どうしても中身を見てみたい。ヴォルケンリットルが住んでるってことやから、どうゆう風に住んでるのかめっちゃ見たい。ページを切り抜いてシルバ○アファミリーみたいな小っちゃい部屋があったりして。想像してみる。小っちゃい騎士が生活してる本とか・・・・めっちゃ面白そうや。

「・・・アカン。なにをやっても切れん・・・」

ペンチで切ろうとしてもビクともせえへん。やっぱりわたしの誕生日が来ぇへんとアカンみたいや。鎖を切るんを諦めて、勉強の自習を始める。今日は国語と理科の予定や。まず漢字の書き取りをし始める。次は音読。続けてその感想文。それで1時間目の自習を終えた。

「ルシル君、どこまで行ったんやろうな~・・・?」

国語はわたし1人でも十分できるけど、今ルシル君に教わっとる理科ってちょう難しいで、1人やと苦戦してまう。と、「ただいま」ルシル君が帰って来た。部屋の入り口からリビングに顔だけを出して「おかえり~♪」お出迎えの挨拶。ケーキ屋さんに行った時とは違くて、なんや気落ちしとる。出掛けてから帰って来るまでに何かあったんかな。

「ケーキの注文、してきたぞ。ショートケーキのホールを1台」

「・・・・ホール1台!? そんなに食べれへんよ! わたしとルシル君の2人やと!」

太る! ホールケーキを半分こにして食べるとしたら、わたし、絶対に太ってまう。ただでさえ運動が出来ひんから太りやすいゆうのに。

「いやいや。いくら甘いモノ好きな俺でもホールを半分食べる自信は無い。増える家族分も入っているんだ。俺が知る守護騎士は全部で5人。石田先生も入るかもしれないから、その分を考えたんだ」

「あ、なるほど~。うん、それならちょうどええ大きさになるな♪」

「ああ。・・・」

ルシル君は微笑んどるけど、やっぱりどこか気落ちしてる感じがする。そやから「なんかあったん?」って訊いてみる。けどルシル君は「いいや。なんでもないよ。物理の授業を始めよう」わたしの頭を撫でた後、わたしの部屋に向かう。
一緒に暮らし始めてまだ1ヵ月ちょいやけど、それでもルシル君の感情の揺らぎは気付けるくらいは見てた。何かあった。そやけど隠す。魔法関連のことやと思う。また危ない事をするつもり・・・やったらどうしよう。

「ルシル君!」

「ん? どうした」

「あ・・・えっと、な。その・・。あ、明日の診察ん時に石田先生にヴォルケンリットルのみんなこととか話さなアカンな」

「だな。それにはやての誕生日パーティへのお誘いだ。あとリットルじゃなくてリッター、騎士を意味するリッターだな」

「oh」

そのまま授業、夕ご飯の買い物、いつも通りになったルシル君と夕ご飯を一緒に済ませて、昼間のことを訊けへんまま今日は終わった。

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

はやての診察日の今日、大学病院を訪れている俺とはやて。石田先生と話をしているはやてを眺めながら、昨日の・・・翠屋での出来事を思い出す。

◦―◦―◦回想だ◦―◦―◦

はやてのバースデーケーキの注文をするために翠屋へとやって来た。俺も一応ケーキくらいは作れるが、プロのパティシエールであるなのはの母親、桃子さんに比べれば格段に味が落ちる。スィーツは俺じゃなく、姉のゼフィ姉様の方がずっと上手い。それ以外は俺の方が上だと確信を持てるが。

「いらっしゃ――お、君は。久しぶりだね。ランチかい?」

「いえ。バースデーケーキの予約・・・をお願いしたいのですが・・」

ショーウィンドウの奥に居るなのはの父であり、この喫茶・翠屋のマスターでもある士郎さんにそう返す。すると「ああ、もちろんだとも!」と嬉しそうに応えてくれた。急で申し訳なく思ったが、6月4日であることを告げても「全然かまわないさ」と快諾してくれた。本当に良い人だ。実に羨ましいよ、なのはが。こんなに素晴らしい父親を持てて。

「お父さんかお母さんにかい?」

「いいえ。いもう――じゃなかった。姉、ですかね」

「・・・お姉ちゃんにかぁ。ロウソクは何本にしておこうか?」

「9本でお願いします」

答えると目に見えて士郎さんが驚きを顔に浮かべた。察したのかもしれない。9歳という幼い姉の誕生日を祝うために、それ以下の歳の幼い子供――俺がケーキを買いに来た。頭の回転が速い人なら辿り着くだろう。ここで「両親は居ないので」と告げる。士郎さんは優しい。子供である俺に両親が居ないことを言わせたことに傷つくだろう。

「でも、両親が居なくても俺は毎日が楽しいです。今度祝う姉、さらに上に3人の姉、妹が1人。ペットが1匹。ええ、実に楽しい毎日です」

正確には予定。しかし、楽しい日々になるのは間違いないだろう。だからこそシグナム達は騎士の誇りを捨ててまで犯罪に走ったのだから。はやてを救うために。

「・・・・そうか。じゃあ喫茶翠屋が誇るパティシエール・桃子が腕によりをかけて美味しいケーキをご提供させて――」

「いただきます♪」

桃子さんがひょっこり顔を出してきた。そして士郎さんの隣に来て、「いらっしゃいませ~♪」と微笑んでくれた。士郎さんが桃子さんに注文内容を告げ、そして支払いとなる。レジを担当する士郎さんに代金を渡していると、「最近、外国のお客様が増えて、なんだか嬉しいわぁ♪」桃子さんが嬉しそうに微笑む。日本人の舌だけでなく外国人の舌まで満足させる事が出来ている。日本人パティシエールとして誇らしいんだろうなぁ。

「特にレーゼフェアさんなんて。一気に30個以上も食べてくれるんだもの♪」

「ははは。そして支払いのシュヴァリエルさんにいつも怒られていてね」

「っ・・・!」

ここで反応してはいけない。2人の口からなのはに伝わるかもしれないからだ。銀髪に虹彩異色という特徴の塊である俺が、管理局に目を付けられたレーゼフェアとシュヴァリエルのこと「を知っている、と。それにしてもこんな不意打ち、待ち構えられるわけがない。変身魔法でも使っていれば、詳しく訊けたかもしれないが。だが、だからと言ってこのまま引き下がるわけにはいかない。

「そうなんですかぁ。すごいですね。その人はいつも来ているんですか?」

「え? えっと、4月中旬に1回、5月に2回かな。つい先日に来たばかりだよ」

俺がこの街に居ることを知っての行動だとしたら、随分と挑発的なものだな。気付かなかった俺もどうかと思うが。とにかく。レーゼフェアとシュヴァリエルがなのはの両親が居るこの店に訪れている。また来るかは判らないが、念のために監視のための魔術イシュリエルを、ステルスレベル最大で翠屋に設置しておこう。

◦―◦―◦回想終わりだ◦―◦―◦

「――それじゃあ、はやてちゃん。お大事にね。ルシルちゃんも、気を付けてあげてね」

いつの間にか話が終わっていたようだ。俺は「もちろんです。帰ろう、はやて」と応じ、石田先生と別れの挨拶を終えたはやての乗る車椅子を押して退室する。病院の廊下を進む中、「石田先生、誕生日パーティ、来てくれるって♪」嬉しそうに言うはやてに「腕に縒りをかけて御馳走を作らないとな」と応じる。ヴィータは食いしん坊だし。シャマルは料理の腕、落ちていないだろうな。いや、落ちていても、今度ははやてが教授するだろう。

こうして昼は過ぎ、夜となる。夕飯をはやてと済ませ、今は一緒にソファに座ってテレビを観ている。時刻は22時。“夜天の書”の目醒めまで、あと2時間。はやては“夜天の書”の起動まで起きていると聞かず(ま、眠っていようと起動時に起きてしまうから一緒だが)、こうして「ふわぁ」大きなあくびをしながらも未だに起きている。

「なぁ、ルシル君。守護騎士って、どんな人たちなん?」

「う~ん、よくは知らない。闇の書のこともデータで知っているだけだし。でも騎士って言うくらいだ。きっと良い人たちさ」

「そっかぁ。でもルシル君の言う通りやと思う♪ わたしもな、なんかこう・・・良い人たちやって思えるんや♪」

期待に胸を膨らませているはやては頬を上気させて、今か今かと時計を何度も見る。

「そうだ、はやて。1つ、教えておきたい事がある」

「ん?」

「闇の書が起動した時、かなり驚くことになるだろうが、心配する事なんてないから安心してほしい」

「ん。了解や♪」

先の次元世界でのはやては“夜天の書”の起動時に、驚き過ぎて後頭部を壁に強打、気絶したという話だ。最初から伝えておけば、そのようなことは起きないだろう。俺の肩にもたれ掛かってきたはやての軽い体の重みを感じながら、ただじっと待つ。そして時刻は23時58分。 コチコチと秒針の音と、ソファに横になっているはやての「すぅすぅ・・・」寝息だけが耳に入ってくる。やっぱり起きていられなかったよ。

「さてと、少し席を外しておくか」

まずは主はやてと守護騎士だけで顔合わせだ。はやてが主であることを騎士たちに確認させる。かつての主、オーディンと同じ顔をした俺(というか本人)が居ては、こちらにばかり意識が向くからだ。
リビングを出、玄関へ移動。そして間もなく、“夜天の書”が起動したことで魔力が発生したのを確認。リビングの入り口から顔を半分だけ出して室内を見る。ソファに眠るはやてが寝返りを打ち、そんな彼女の前に“夜天の書”が転移して現れ、脈動している。次いで縛っていた鎖が弾け飛び、勢いよくページが捲れていく。そしてここで「ふぇ・・・?」眠り姫(はやて)がお目覚めだ。

起動(アンファング)

はやては上半身を起こし、自分の胸から浮き出て来たリンカーコアに目を見開き、目の前に浮遊している“夜天の書”へ向かって行くのを見詰めている。

「ルシル君・・・!?」

俺を捜すように辺りをキョロキョロ。大丈夫だと言っておいたが、やっぱり不安になってしまったか。俺は壁をノック。その音で俺に気付いたはやてが「なんでそこに居るん!? もしかして避難か!?」と問い質してくる。

「大丈夫だ! まずは主である君と守護騎士の顔合わせだ。その後にちゃんと俺を紹介してくれればいい」

「・・・う、うん! でも・・・そうゆうことは先に言ってほしかったわぁ・・・」

少し文句を垂れたはやてだったが気を取り直して強く頷き、光を発し始めた“夜天の書”を見詰め直す。はやてのリンカーコアが一際強く輝き、シュリエルリート――いや、“夜天の書”の管制人格の魔力光・深紫色の、六芒星型のベルカ式魔法陣が展開された。はやてが宙の“夜天の書”に釘づけになっている間に、床に展開されている魔法陣上に・・・彼女たちが創り出された。

(久しぶり・・・って感じでもないな)

フィヨルツェンに殺されかけてから数百年が経ったが、その間は眠りについていた。彼女たちと逢うのは感覚としては1ヵ月ぶりと言った感じだ。ここではやてもようやく「わっ!?」片膝立ちで居る守護騎士のみんなに気付いた。

「闇の書の起動を確認しました」

シグナムが口火を切った。

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にございます」

次いでシャマル。

「夜天の主の下に集いし雲」

そしてザフィーラ。

「我らヴォルケンリッター。何なりとご命令を」

最後にヴィータがそう締めた。俺の時と同じ言葉、順番だ。さぁ、はやてはどう出る?

「ほわぁ~。・・・・あ、わたし、八神はやていいます♪ みんなのお名前、訊かせてもらってもええかな?」

超にこやかに自己紹介した。そして騎士たちに名を問う。騎士たちは顔を上げ、はやての顔をポカンと見上げていた。改めて「訊かせてな? これから家族になるんやから♪」笑顔でそう訊かれたことで、

「守護騎士ヴォルケンリッターが将、シグナムです。我らが主、ヤガミハヤテ」

「シャマルでございます」

「ヴィータ、です」

「ザフィーラです、主」

若干困惑しながら自己紹介を終えたシグナムたち守護騎士。

「シグナムさんにシャマルさんに、ヴィータちゃんにザフィーラさんやな。・・・ん? あと1人おるって話やったけど・・・。一緒やないの?」

「え? 何故それを・・・?」

はやての言葉にシグナムが守護騎士を代表して訊き返した。らしくない、動揺しているからだろうな。普段のシグナムなら真っ先に質問に答えるだろうに。

「えっとな。わたしにみんなのこと、闇の書のことについて教えてくれた人が居るんよ。みんなにその人、もう1人の家族を紹介するな」

はやてが俺に向かって手招きをしたことで、シグナム達の視界に入るように全身を現す。シグナム達がこちらへと顔を向け、そして俺の顔を見、「っ・・・!」全員が一斉に目を見開いた。

「うそ、だろ・・・オーディン・・・!?」

真っ先に声を出したのは、ヴィータだった。

「はじめまして。この家に居候している、八神ルシリオン。本名、ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードです」

俺も自己紹介をする。そう。シグナム達とは初対面であるという事を強調するように。


 
 

 
後書き
スラマッ・パギ。スラマト・テンガハリ。スラマト・ペダン。
長らくお待たせしました。本日より本作『魔道戦記リリカルなのはANSUR』の更新を再開いたします。
負の遺産は未だに片付いていませんが、これ以上更新ストップ期間を伸ばしてしまうと、どう執筆していたのか忘れてしまいそうだったので、慌てて書き上げました。
ああ、今度からは1話上げたら即修正を入れるよう、習慣づけなければなりませんね。

 
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