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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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外伝
外伝1:フェイト編
  第12話:そして廃工場へ


1週間後・・・
廃工場への監視カメラによる偵察により、エメロードが廃工場に居ることと
大体の戦力がつかめたことから、グライフとミュンツァーは捕獲作戦を
実行に移すことを決定した。

ミュンツァー以下のシャングリラ魔導師隊全員が第27管理世界に降り立ち、
廃工場から1ブロックほど離れたところにあるスポーツ施設で待機していた。

ゲオルグは自分の右腕に巻かれた腕時計に目を向ける。

(あと30分・・・か)

作戦開始時刻が迫り、高ぶる神経を落ちつけるために何度か深呼吸する。

(よし、落ちついた・・・。 あとは・・・)

ゲオルグは隣に座るフェイトへと目を向ける。
その表情からは感情が読み取れないが、ゲオルグはここ1週間の出来事を思い返し、
作戦の行く末にわずかな不安を覚える。

監視カメラへのハッキングによる情報収集が始まると、ミュンツァーやヒルベルト、
ゲオルグとともにフェイトもその映像を見ていた。
初めのうちは、ゲオルグやヒルベルトと作戦をどう進めるべきかについて、
活発に意見を交わしていた。
ヒルベルトの冗談に笑顔を見せる場面もあった。

そんな中、ニヤケた顔で座るエメロードが映し出された瞬間から、
フェイトの態度は一変する。
押し黙ったまま、自分からは一言も発しなくなったのである。
ほかの3人がフェイトに意見を求めても"ええ"とか"まあ"といった生返事を
返すばかりになり、厳しい表情で俯き何かをじっと考えているように見えた。

話に参加しようともしないフェイトに怒りを覚えたヒルベルトが
フェイトを怒鳴りつけようとするのをゲオルグが抑え、
それでその日の会議は一旦お開きとなった。

後日、最終的な作戦案の策定のための会議が艦長のグライフも交えて
行われたのだが、その席でもフェイトの様子が変わることはなく、
結局そのまま作戦実行の日を迎えてしまっていた。

(きっと、エメロードのことで頭がいっぱいなんだろうけど・・・)

B分隊に所属する隊員の一人に声を掛けられて二言三言交わし、
ゲオルグはもう一度フェイトの方に目を向ける。
そして、クロノからの頼まれごとについて思い返しながら小さくため息をついた。

(クロノさんからの返事はないし・・・人に頼みごとをしといてさ・・・)

ゲオルグは作戦会議のあと、すぐにクロノへフェイトの状態について報告していた。
ゲオルグからの報告を受けたクロノが言ったのは要約すれば、
"フェイトの親友に意見を聞いてみる"というもので、
フェイトへの対応に迷っていたゲオルグとしては"フェイトの親友"からの
アドバイスを心待ちにしていた。
だが、クロノからの返信は一向になく、結局今日の作戦実行の日を迎えていた。

(必ず昨日までに返事をくれるって言ってたのに・・・まったく!)

ここには居ないクロノに向かって、心の中で思い切り悪態をつく。
とはいえ、そのような状況でもクロノとの約束を果たそうとするあたりは、
バカ正直というか律義な性格のゲオルグ少年ではある。

もっとも、クロノとの約束だからというよりは、友達の様子が心配だから
という感情が強く働いての結果ではあろうが。

とまれ、ゲオルグとしてはフェイトの様子がどうしても気になり、
ちらちらと何度もフェイトの横顔に目を向ける。
こうなんども見ていれば1度くらいは目が合いそうなものだが、
ゲオルグとフェイトの視線が交錯することはない。
フェイトがじっと床を見つめているからである。
その様子こそがゲオルグをさらに不安にさせ、そのため息を深くさせる。

(作戦が始まる前に一度くらいフェイトと話しておきたいな・・・)

ゲオルグが立ちあがりフェイトに声をかけようとした時、
ミュンツァーからの通信画面がゲオルグの前に現れた。
ミュンツァーの顔を見た瞬間、ゲオルグの表情が一瞬曇る。

『作戦開始時刻だ。 準備はいいな、シュミット』

「・・・はい」

ゲオルグの返事が遅れたことにミュンツァーは渋い顔をする。

『何かあったか?』

「いえ。 予定通り作戦行動を開始します」

今度は即座に返事を返し、画面の中ミュンツァーは満足げに頷く。

『偵察は十分に行っているが、想定外の敵戦力が出現することもある。
 慎重にかかれよ』
 
「はい、判っています。 それでは」

通信画面が閉じ、ゲオルグは立ち上がってフェイトの肩に手を置く。

「行くよ、フェイト」

ゲオルグの声にフェイトはゆっくりと立ち上がり、黙ったまま小さく頷いた。

(やっぱり、いつもと違うな・・・。注意してないと・・・)

ゲオルグは鋭い目でフェイトをちらりと見やってから、
彼の側に集まっているB分隊の面々の顔をじっと眺めた。
分隊員たちもゲオルグの方をじっと見ている。

「皆さん、作戦は事前に説明した通りです。
 エメロードは工場の3階にある一室に居ることが確認されています。
 彼以外で工場内にいることが確認されているのは10名程度。
 ですが、監視カメラの死角に伏兵がいる恐れもあります。
 十分に注意してかかりましょう。 いいですね?」

ゲオルグが短く告げると、分隊員たちは声を揃えてそれに応える。
真剣な顔でゲオルグは頷くと、待機していたスポーツ施設の出口に向かって
くるりと向きを変える。

「では、行きますよ!」

ゲオルグはそう宣言し、廃工場に向かうべくその足を踏み出した。





同刻、クラナガンの地上本部。
その高層階にある一室で、男はひとりきりだった。
広い部屋の窓際に置かれた椅子に深く腰かけ、ぼんやりと外の景色を眺めていた。

(俺のやっていることは本当に正しいのか?)

男は小さく嘆息すると、机の上に置かれた書類を手に取った。
その中には次年度の時空管理局全体の予算計画が記されていた。

(だが、このままでは・・・)

男は何枚かをめくり、過去10年ほどの予算の推移を表すグラフを見た。
それは男が何度も見、そのたびに怒りの炎を静かに燃やす燃料となってきた。
今回も例外ではなく、男はその鋭い目をわずかに細める。

グラフには3本の線があった。
それらの傾向は明確に別れていた。
1本はほぼ水平に。
1本は緩やかに右肩上がり。
最後の1本は緩やかな右肩下がりのグラフとなっていた。

男は右肩下がりになっている一本を目でなぞるようにみると、
書類を机の上に放り投げた。

(普通の人々が生活を営むのは陸の上なのだ。
 その平和と安定を守らずして何が"法の守護者"か!)

男は再び窓の外を見る。
はるか下に見える街で母娘連れが手を繋いで歩いているのが男の目に留まる。
弾むような足取りで母親の手を引く娘とそれを微笑ましげに見る母親。
男が望む"日常"がそこにはあった。
だが、男はそんな"日常"が真っ赤に塗りつぶされる光景を何度も見てきた。

抱き合ったままこと切れた親子。
真っ赤に血塗られたぬいぐるみを握る手首から先だけになった小さな手。
犠牲者名簿に並ぶたくさんの家族。

地上本部に所属する指揮官として、常人ならば精神に失調をきたすであろう、
それらの光景を数多く目の当たりにしてきた男は、なお冷静で沈着であった。
そして、それ以上に怜悧であった。

人々の生活を守るための地上本部の増強。
それが、地上本部の高官となった男の目標だった。
そのためにはなんでもした。

同期入局の仲間を蹴落とし、なりふり構わぬ予算獲得に動き、
有望な若手には悉く勧誘の声をかけた。

だが、物事は彼の思惑通りには進まない。
時空管理局は次元世界の大局的視野でみた秩序維持機関であって、
小市民の安全を守るための機関ではない、という上層部の認識を覆すほどの力を
彼が持ち合わせているわけではなかった。

本局こそが時空管理局の本来機能であり、地上本部はその補助的機能を
持つだけである。
従来は暗黙の了解であったそれが上層部によって明言されたことに対する、
時空管理局中央の反応は迅速であった。

より多くの予算と人を本局へ。
その流れは明確で、抗うのは困難だった。
だが男は己の信念のもと、この流れに立ち向かった。

"これ以上、地上本部が弱体化すれば最低限の治安維持機能すら維持できない"

男にとってその主張は全身全霊をかけた魂からの叫びだった。
僅かでも現状を好転させることができれば・・・。
そんな藁にもすがるような期待を込めた主張は、本局と中央の冷笑という形で
無残にはねつけられた。

思えばその時だったであろうか。
男が"たとえ法を犯してでも地上の平和は守る"という悲壮な決意を持ったのは。

優秀な魔導師の代替としての魔道機械と生物兵器。
その開発に秘密裏に着手して以降、男にのしかかるものは重くなる一方である。
自分が"罪を犯している"という意識はある。
だが、その罪の意識を"地上を守る"という義務感が押し流していく。

『閣下』

男の前に眼鏡をかけたやせ形の男が映る通信ウィンドウが現れる。
突然現れた通信ウィンドウであったが、男を驚かせるには不足であった。

「どうした?」

その低い声は冷静そのものであった。

『件の次元航行艦がエメロード博士の捕縛作戦を開始したようです』

「そうか・・・」

男の薄い反応に画面の中の男は何度か目を瞬かせる。

『よろしいのですか?』

「なにがだ?」

『博士の研究がここで中断すれば、生物兵器計画はとん挫しますが・・・』

「やむを得んよ。 それに魔道機械と戦闘機人の方は順調だ」

『閣下がそうお思いならいいのですが・・・。そういえば!』

「どうした?」

『ポー1佐の処遇はどうなさいますか?』

画面の中の男に問われ、男は一瞬目を窓の外に走らせた。

「決まっているだろう。 わざわざ言わせるな」

『・・・かしこまりました』

眼鏡の男は恭しく頭を下げると通信を切った。
再び静寂が戻った部屋で男は椅子から立ち上がり、窓の側へと歩く。

「俺はいつからこうなったんだろうな・・・、なあゼスト」

男はそう呟くと、自嘲めいた笑みを浮かべた。





スポーツ施設を出て5分後。
ゲオルグ率いるB分隊は廃工場とは通りを挟んだ反対側にある路地に
集結していた。
先頭、すなわち廃工場に面した通りとの角地に膝をついて屈み、
廃工場の門の様子を覗っていたゲオルグの耳に、通信音声が届く。

『B01応答せよ』

その声に対してゲオルグは首を伸ばして廃工場の方を見ながら答える。

「A01、どうしました?」

『A分隊は予定通りの配置を完了。 そっちはどうだ?』

B分隊の状況を問うてくるヒルベルトに対し、ゲオルグは冷静に応えを返す。

「B分隊も配置完了です。いつでも、計画の通り突入できます」

今回の作戦におけるA分隊の役割は、B分隊の突入を援護である。
そのため、ヒルベルト率いるA分隊は廃工場の正面にあるビルの屋上で
待機している。

『了解した。 気をつけろよ』

「わかってます。 援護はお願いしますね」

『任せとけ』

最後にニヤッと笑ってみせたヒルベルトとの通信を終えて、
ゲオルグは自分の後ろを振り返る。
そこは薄暗くて狭い路地で、ルッツをはじめとするB分隊の隊員たちが
真剣な表情を浮かべて腰をおろしていた。
その先頭、ゲオルグのすぐ後ろにはフェイトもいる。

「みなさん、準備はいいですか?」

落ちついた口調でゲオルグが問うと、彼の10人の部下たちは引き締まった顔で
それぞれに頷く。

「では、これよりB分隊は廃工場への突入を開始します。
 第1目標はあくまで次元犯罪者エメロードの捕縛です。
 エメロードが3階の工場長室に居ることは確認できています。
 迅速な作戦遂行が成功のカギです。
 道中、攻撃を受けることも予想されますが、彼らの撃破は本作戦の
 主目標ではありません。
 前進の妨げになるようであればやむをえませんが、極力戦闘は避けましょう。
 いいですね?」

ゲオルグが最後の確認とばかりに問う。
分隊員たちは再び黙して頷いた。

「いいでしょう。 では行きますよ」

ゲオルグはそう言ってフェイトに目を向ける。
ゲオルグと目が合うと、フェイトはその顔に微笑を浮かべて大きく頷いた。

(フェイトも大丈夫みたいだね・・・。 よしっ!)

ゲオルグはレーベンを強く握りなおすと、ゆっくりとその場で立ち上がった。

「B01より各局。 これより突入を開始します!」

ゲオルグは通信を介してそう伝えると、路地から通りに躍り出た。
同時にヒルベルトからの通信が彼の耳朶を打つ。

『A01より各局。 A分隊は援護攻撃を開始する。
 A分隊各員は、第1目標に集中攻撃を開始!
 B分隊! 射界に飛び込んでくるなよ!!』

その通信の直後、廃工場の門に向かって大通りを駆け抜けるゲオルグの眼に
固く閉ざされた門に向けたA分隊による攻撃が命中していく光景が飛び込んでくる。

(張り切ってるな、ヒルベルトさん・・・)

ゲオルグは走りながら廃工場の向かいにあるビルの屋上をちらりと見る。
そこにはA分隊の面々が居並び、タイミングを合わせて魔力弾を門に向かって
放っていた。
その中にバリアジャケットをまとったヒルベルトの姿をゲオルグは見つける。

(ヒルベルトさん・・・)

そのヒルベルトが一瞬ゲオルグの方に目を向け、小さく頷いた。
少なくともゲオルグにはそう見えた。

(援護、ありがとうございます)

ゲオルグはヒルベルトに向かって頷き返すと、再び真っ直ぐ廃工場の方を見る。
門柱の脇にたどり着くと、壁を背にして立ち止まる。
次々にB分隊のメンバーがゲオルグの側にやってくる中、ゲオルグの隣に
フェイトが並んで立つ。

やがてA分隊の攻撃によって門が破壊されると、ゲオルグは工場の敷地内へと
飛び込んだ。

『ゲオルグ、戻れっ!!』

通信を介したヒルベルトの声がゲオルグの耳に届く。
ヒルベルトは反射的に足を止め、敷地の外へと飛び下がると
壁の背後にその身を隠した。
直後、ゲオルグの立っていた地面がバシッと弾ける。

(実弾狙撃!?)

ゲオルグは地面にあいたこぶし大の穴を目を見開いて見つめる。
その間にも近くに何発もの銃弾が着弾する。

『B01、無事か!?』

「無事です。 しかし、あれをなんとかしないと突入できそうにないですね」

『だな。 こっちで狙撃手をつぶせないかやってみる』

「お願いします」

ゲオルグが通信を終えたとき、フェイトがゲオルグのすぐ隣に立っていた。

「うわっ!」

作戦をどう進めるか考え込んでいたゲオルグがふと目線をあげると
意外と近くに立っていたフェイトに驚き、声をあげる。

「どうしたのさ、フェイト」

ゲオルグが胸を押さえながら声をかけると、フェイトは色のない表情で
ゲオルグをじっと見つめる。

「突入しないの?」

フェイトの声は小さかったが、ゲオルグにははっきりと聞こえた。
ゲオルグはフェイトに向かって首を振る。

「フェイトも今の通信を聞いてたでしょ?
 向こうの狙撃手をつぶさないと突入したってけが人が増えるばっかりだよ」

ゲオルグの言葉を身じろぎもせず聞いていたフェイトは、
ゲオルグが話し終えると苛立たしげな表情を見せる。

「じゃあどうするの?」

「A分隊が狙撃手をつぶすための攻撃を試してるよ」

ゲオルグはそう言って廃工場の向かい側にあるビルの屋上を指差す。
フェイトが目を向けた先では、A分隊による狙撃手に向けた攻撃が始まっていた。
ビルの屋上からゲオルグの顔にフェイトは目線を戻す。

「あれでうまくいく見通しは?」

「さあ? ヒルベルトさんに聞きなよ」

肩をすくめて言うゲオルグを見るフェイトの眼がスッと細まる。

「そんなので作戦はうまくいくの?
 エメロードに逃げられるんじゃないの?
 迅速な作戦遂行が成功のカギだって言ったのはゲオルグだよね?」
 
矢継ぎ早に質問の形をとった非難を向けてくるフェイトに対して、
ゲオルグも苛立ちを感じ始める。

「ならどうするのさ?
 みんなを極力危険にさらさずに突入するいい案がフェイトにはあるの?」

険悪な雰囲気をかもしだし始めた2人の間に、ルッツが割って入る。

「今は揉めてる場合ではないでしょう。 2人とも少し落ちついてください!」

割り込んできたルッツを睨みつけるように見るゲオルグであったが、
ルッツの厳しい表情を見てフッと我に帰る。

「・・・すいません。 少し熱くなってました」

ゲオルグが俯きがちにそう言うと、ルッツは少し表情を和らげた。

「いえ。 判っていただけてよかったです」

続いてルッツはフェイトに目を向ける。

「少しは冷静になれましたか?」

「ええ・・・」

フェイトはどこか遠くを見るような目をルッツに向ける。
フェイトの表情を見ていたゲオルグとルッツは互いの目を合わせる。

[分隊長。ハラオウン執務官は冷静になったと思いますか?]

ルッツからの念話にゲオルグは一瞬フェイトの方に目を向けてから答える。

[わかりません。 ですが表情を見ると不安を感じます]

[自分も同感です。どうしますか?艦に戻ってもらいますか?]

[いえ。それではフェイトが暴走する可能性もあります。
それよりは目の届く範囲に居てもらうほうがましです。
それにフェイトの戦力はこの作戦を立案したときから計算内ですからね。
フェイトを欠いては作戦の成功率が著しく下がります。
当面は、僕と曹長で注意深く様子を見守ることにしましょう]

[大丈夫でしょうか?]

[フェイトを信じましょう]

ゲオルグの言葉にルッツは小さく嘆息する。

[了解です]

ルッツはゲオルグの目を見て小さく頷くと、フェイトの後に戻った。
ゲオルグは通信ウィンドウを開いてヒルベルトとの間で通信を繋ごうとする。
ややあって、ウィンドウの中にヒルベルトの顔が現れた。

『どうした?』

ウィンドウの中のヒルベルトは余裕のない表情でその目を左右に揺らす。

「狙撃手への攻撃はどんな感じかなと思いまして。
 ヒルベルトさんの様子を見るに忙しいみたいですね」

『まあな。 いろいろ試してみちゃいるが、今のところ芳しくはないな』

ヒルベルトには珍しくやや早口で話す。

「そうですか・・・」

ゲオルグは呟くようにそう言うと腕組みをして考え始める。
その間にヒルベルトはA分隊の部下たちに二言三言指示を出す。

「何が問題ですか?」

ゲオルグが問うと、ヒルベルトは一瞬その目線を宙にさまよわせる。

『さっきの狙撃の時の映像を見てはいるんだが、狙撃手の居る場所が判らん』

「なるほど。こちらでも少し考えてみますね」

ヒルベルトに向かってそう言うと、ゲオルグは後ろを振り返る。

「ルッツ曹長。 ヒルベルトさんによるとA分隊でも狙撃手の位置が
 把握できていないようです。 何かアイデアはありませんか?」

「そうですね・・・」

ゲオルグの問いに対してルッツは目を閉じて口の中で何かを呟き始める。
10秒ほどの間を置いてルッツは顔をあげた。

「先ほどの狙撃痕から弾道解析をしてはどうですか?」

ルッツの回答を聞いたゲオルグは小さく首を振る。

「それは僕も考えましたけど時間がかかりすぎます。
 それに、狙撃痕の調査をするためには敵の攻撃に身をさらす必要があります。
 ちょっと危険すぎませんか?」

「確かに・・・。 ではどうしますか? 他に自分に思いつくのは
 強行突入か誰かが囮をやるかぐらいですけどね」

「ええ、僕も変わり映えしませんね。 どうしたものか・・・」

ゲオルグとルッツが顔を突き合わせて考え込み始めたところで、
ルッツの背後からフェイトがヌッと現れる。

「ゲオルグ。 時間がないんだから強行突入だよ。
 私が血路を開くからみんなはあとに続いて」
 
フェイトは小さいがはっきりとした口調でそう言うと、
工場の建物に向かって駆けだす。

(しまった・・・!)

「待って!フェイトっ!」

ゲオルグはフェイトに向かって叫ぶと、その背中を追って再び工場の敷地へと
躍り出て行った。

(くそっ・・・速いなぁ・・・。 あれっ!?)

工場の建物に向かって走るフェイトの背中を追うゲオルグの視界の端で
何かがキラッと光った。

(あれは・・・?)

全力で走りながらゲオルグは何かが光ったほうに目を凝らす。
そこは工場の2階にある窓だった。
ガラスのないその窓の奥、暗闇の中からヌッと黒く細長い棒のようなものが
姿を現す。

(銃身・・・? 狙撃手かっ!?)

その銃身がフェイトの方に向かって動く。

(マズイっ!)

「フェイトっ!」

ゲオルグはフェイトの背中に向かって叫ぶ。

(ダメだ・・・こうなったら・・・)

ゲオルグの両目に覚悟の色が浮かぶ。

「レーベン。 飛行魔法の速度をあげられる?」

《カートリッジ1発ロードで可能です》

「じゃあ頼む!」

《はい》

レーベンからの返答を聞いたその瞬間、ゲオルグは地面を強く蹴り飛ばし
宙に飛び上がる。
同時に飛行魔法が発動し、ゲオルグの身体はフェイトの背中に向かって加速する。

《マスター、このままではフェイトさんの背中に衝突します》

「それでいいんだよ」

ゲオルグはレーベンに向かって短く答える。
その視界の端にある銃身の先端にオレンジ色の光が一瞬見えた。

(くそっ! 間にあえっ!!)

ゲオルグはフェイトの背中に向かって手を伸ばす。
その指先がフェイトの肩にかかった瞬間、ゲオルグはフェイトの身体を抱き寄せる。

「えっ!?」

思わぬ出来事にフェイトが驚きの声をあげる。
と同時にバランスを崩し、ゲオルグと絡み合うように地面に向かって倒れていく。

ゲオルグは自分の身体でフェイトを守るように抱きしめた。
地面と接触する寸前、ゲオルグの腕に鋭い痛みと軽い衝撃が走る。

(くうっ・・・)

痛みに顔をしかめながらもゲオルグはフェイトを抱きしめ続けた。
そして2人は絡み合ったまま地面へと落ちる。
慣性によって進み続ける2人の身体は工場の前庭にある花壇によって止められた。

ゲオルグが自分とフェイトの身を狙撃手から隠すように伏せると同時に
鋭い銃撃音が辺りに鳴り響いた。

「ヒルベルトさん! 狙撃手は2階の右から2番目の窓ですっ!」

『判ってる! そのまま伏せてろ!!』

ヒルベルトからの返答と同時にA分隊による一斉射撃が狙撃手のいた窓を襲う。
ゲオルグはフェイトを抱きしめたまま、そのさまを眺めていた。
やがて、狙撃手のいた部屋がボロボロに破壊されたところで、
フェイトが小さく声をあげる。

「ゲオルグ・・・なんで?」

フェイトの表情は先ほどまでの厳しい表情とは異なり、
大きく開かれた目でぼんやりとゲオルグを見ていた。

「なんで・・・か。 ねえフェイト」

フェイトを抱きしめていた手を離し、ゲオルグはフェイトと相対する。

「え?」

ゲオルグに呼びかけられたフェイトはこくんと首を傾げた。

「ゴメン。 先に謝っとくね」

ゲオルグの言葉の意味が判らず、フェイトは先ほどとは反対に首を傾げた。
直後・・・

「・・・いたっ!」

拳を握ったゲオルグの右手がフェイトの頭上に振りおろされ、
フェイトは痛さで思わず声をあげた。
そして目に涙を浮かべながらゲオルグの顔を恨めしげに見る。

「・・・なんでぶつの?」

ゲオルグは俯きがちで、フェイトはその表情をはっきり見ることができず、
覗きこもうとした。
そのとき、ゲオルグが勢いよく顔をあげる。

「なんで叩くのかって!? フェイトが無茶なことをするからじゃない!」

睨みつけるようにフェイトの顔を見ながらゲオルグは叫ぶ。

「フェイトの事情は知ってるからエメロードを許せないのは判るよ。
 でも、そのために自分の安全も省みないっていうのはおかしいよ。
 少なくとも僕はフェイトが怪我したり居なくなったりして欲しくない!」
 
「ゲオルグ・・・どうして、そんなこと・・・」

フェイトは茫然とゲオルグの顔を見ながら、たどたどしい調子で尋ねる。

「だって僕とフェイトは友達だろ? 友達が怪我したりするのを
 みるのはつらいに決まってるじゃないか!?」

口角泡を飛ばして言うゲオルグの両目には涙がにじんでいた。

「だから一人で突っ走らないでよ。 僕もヒルベルトさんもみんな
 エメロードを逃がすつもりなんてない。
 もし今回の作戦でエメロードを捕えられなくても、
 僕らはどこまででも追いかける。
 みんなフェイトと一緒に戦いたいんだよ」

ゲオルグの言葉にフェイトはゆっくりと頷いた。

「うん、ありがとう。 あと、ごめんね」

「いいよ、わかってくれたんだったら」

ゲオルグはフェイトに満面の笑みを向けた。

『いい雰囲気のところ悪いんだが、狙撃手はつぶしたんで、B分隊には
 工場内への突入をお願いしたいんだがな』
 
微笑を浮かべて話すヒルベルトの声に、ゲオルグとフェイトは慌てて立ち上がる。
2人ともその頬はほのかに赤く染まっていた。

「B分隊は総員前進! 工場内部に突入しますよ!」

照れ隠しのためか、半ば自棄になったような口調でゲオルグは
自分の部下たちに指示を下す。

それに従って壁の向こうから姿を現したB分隊の隊員たちは
例外なく全員がニヤニヤ笑っていた。

「皆さんなんですかその顔は!? 作戦は始まったばかりなんですよ!
 気を緩めないようにしてください!!」

ゲオルグがその腕を上下に振りながら言う。
だが、その顔は赤く染まっており隊員たちにはあまり効果がなかったようだった。

「分隊長、結婚式には自分たちも呼んでくださいね」

全員を代表するかのようにクリーグが言う。

そのときだった。
廃工場の中からずぅぅんという重く低い音が聞こえたのは。
その音で戦場に一瞬流れた和やかな空気は一気に押し流され、B分隊の全員が
その顔をこわばらせた。

自分たちがいるのは"最前線"なのだということを思い出して・・・。
 
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