IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年
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第13話
前書き
いや、本当に申し訳ないです。
何だかんだで多忙で、執筆ができなくて。
これからは毎週2話更新は無理かもしれません。最低限、一週間一話で頑張っていくのでお願いします。
では、本編どうぞ。
本日は土曜日。IS学園は午前中授業があって、午後から放課、という形になっている。それが良いのか悪いのか分からないが、世間一般の学校では休みなので普通の学校が羨ましかったりする。だが、仕方ないか、とも思ったりもする。正直なところ良くわからないのだ。
なんやかんやで、土曜の授業も終わり俊吾は校門に向かっていた。校門に着くと、何人かの生徒が待ち合わせをしているのか、結構の生徒が待っていた。みんな水着を買いに行くんだろう。特別おかしくはない。
俊吾は誰かいないかと探すと、シャルロットがいるのに気づいた。
「悪い、待たせたか?」
そう言いながら俊吾はシャルロットに近づく。途中でシャルロットも気づいたようで、俊吾の方を向く。
「ううん、僕も今来たとこなんだ」
「そっか。じゃあ、あと二人か……」
「そうだね。……それよりも、日本はやっぱり暑いね」
手をパタパタとしながらシャルロットは言った。七月に入り、気温もだいぶ高くなって来ていて日本らしい暑さが肌で感じられるようになってきた。ヨーロッパはそこまで湿度が高くないので、やはり種類の違う暑さにやられているようだ。
「まぁ、最近は暑くなってきたけど、もう少し暑くなるぞ」
「……はぁ、日本って良い国だけど夏の暑さだけは勘弁して欲しいな~」
「仕方ないんだよ、島国だから。湿気が入り込んでくるから自然と湿度が高くなるんだ」
ちなみに、アマゾンに住んでいる人でも日本の暑さに耐えられなかったりする。ある意味、治安的には住みやすく気候的には住みにくい国かもしれない。
「へぇ、俊吾って物知りなんだね」
「自分が興味のある分野に限ってだけどな。意外とこういうのは知ってると面白いのも事実だしな」
「ふぅ~ん。僕も何かそういうの調べてみようかな」
シャルロットがそう言うと、遠くから見慣れた姿がこっちに近づいてきているのに気づいた。
「ごめんね~、遅れちゃって」
「大丈夫ですよ、楯無さん。まだ待ち合わせの時間じゃないですし」
「シャルロットちゃんもごめんね?」
「えっと、それはどういう……?」
シャルロットがそう言うと、楯無はシャルロットに耳打ちする。
「俊吾君と二人で買い物行くの邪魔しちゃってって意味」
「いえ、僕は、別に……」
見るからに動揺するシャルロット。それを見て楯無は少し笑い続ける。
「でも安心して。別に邪魔しないから」
「お、簪~こっちだ」
俊吾はキョロキョロしている簪にそう呼びかける。すると、簪はこちらに気づいたようで駆け寄ってきた。だが、途中でその動きが止まる。
「……何でお姉ちゃんが」
「あ、悪い。連絡入れるの忘れてた。ごめんな」
俊吾はわざと楯無が来ることを言わなかったが、それに簪も気付いたようでどこか戸惑いを見せた。俊吾は簪の近くに行き、楯無たちには聞こえない程度の声量で言った。
「勝手なことして悪いとは思ってるけど、俺はそろそろ時期だろうなって思ってやったんだ」
「それはそうだけど…………心の準備が……」
「今回はちょっと楯無さんにも相談受けてな。簪と仲直りしたいって」
「お姉ちゃんが……」
俊吾のその言葉で簪は腹が決まったようで、楯無に近づいていった。
「お、お姉ちゃん…………」
「なぁに、簪ちゃん?」
「えっと……その…………今まで、ごめん」
「ううん、謝るのはこっちよ……ごめんね、簪ちゃん」
取り敢えず、仲直りをしたように思われたので俊吾は声をあげた。
「よし。じゃあ、そろそろ行こうか」
俊吾の声にみんな従って駅に向かい始めた。楯無と簪が先を歩き、たどたどしいが話している。これから、今まで悪かった仲も良くなっていくだろう。二人共、仲直りをしようと必死なのだから。
その様子を見ながら俊吾は一安心した。いつの間にか、シャルロットが隣に来ていた。
「ねぇ、俊吾。あの二人を呼んだのって……」
「ああ、予想してるとおりだよ。仲直り……って表現はおかしいかもしれないけど、仲直りってのが一番しっくりくるかな」
「……何か複雑そうだね」
「まぁな。今日一日じゃ全部は元通りにならないだろうから、時間はかかるけど。きっかけでも作れればって思ったんだ」
「……やっぱり、俊吾は優しいね」
「そんなことないよ。正直、お節介かもしれないからな」
「でも、二人の様子を見てよ」
楯無と簪は、先程よりも楽しそうに話している。時々、笑い声も聞こえ、仲睦まじい姉妹のように見える。
「あれでもお節介だと思う?」
「……まぁ、上手くいってよかったな、としか思わないよ」
「もう、素直に喜びなよ」
シャルロットはそう言ったが、俊吾が嬉しそうな顔をしているのを見て、どこか嬉しくなった。
◇ ◆ ◇ ◆
駅でモノレールに乗ってから、電車に乗り換え、ここら辺で一番栄えている駅に着いた。ここでの買い物と言ったら駅ビルの『レゾナンス』で、基本的になんでも揃っている。服にしろ食製品にしろレストランにしろ。ここが都会ということを思い出させてくれる。IS学園は人口の浮島で緑もかなり多いので、どうも都会ということを忘れてしまう。
「さて、どうしましょうね?」
実は、IS学園で昼食を食べようと思っていたのだが、色々と手こずってしまいお昼を食べ損ねたのだ。他のみんなはどうかは分からんが、確認するに越したことはないだろう。
「私、お昼食べてないのよね」
「あ、じゃあ、最初はご飯食べに行きましょうか。僕も軽くしか食べてませんし」
「簪はご飯食べたか?」
「ううん……私も食べてない……」
「じゃあ、先にご飯に決定と。どこ入る?」
このレゾナンス、レストランだけでも5個あり、ファミレスからちょっと洒落たレストランまで完備している。正直、このメンツだと小洒落た店の方がいい気もする。と言うか、これは俺が奢ったほうがいいんだろうか……?正直、割り勘は男としてどうかと思う。けど、四人分となると少し辛いのも現状。まぁ、黒天慟の稼動実験での試験料は貰ってて、普通の高校生では考えられないくらいの金は貰ってるけどさ。ただ、それは全員同じなんだよな……。
「じゃあ、レストランでも行きましょ」
楯無の一言で、移動し始めた。
◇ ◆ ◇ ◆
「さて、何食べようかな……」
レストランに来た一行は、メニューをそれぞれ見ている。値段は財布に優しいとは言えないが、普通の値段で高校生にはちょっと辛いかなくらいの値段である。席は二人ずつ、俊吾、楯無とシャルロット、簪と別れた。
「私はこれがいいな~」
俊吾の見ているメニューを横から割り込んできて密着して、指差しながらそう言う楯無。指差す先には、このレストランで一番高いメニューがあった。
「頼めばいいんじゃないですか、別に。ただ、それ食べるなら自分で払ってくださいよ?」
値段は3000円。他のセットも一緒に頼むとプラス500円。別に払えなくはないけど、正直俺よりも金もらってる人に奢るのは何か嫌だ。
「え~、俊吾君のケチ」
「ケチじゃありません。と言うか、離れてくださいよ。メニュー開くんで」
「このままでいいじゃない。見やすいし」
「俺が見づらいんですよ……」
正直、このまま密着されてちゃ心臓に悪い。あんまり、こういう風にされるの得意じゃないし。
「あ、そういえば、二人は頼むの決まったか?」
「「…………」」
あれ…………何か、怒ってらっしゃる?何で……って、そりゃそうか。二人そっちのけで話してるわけだし。
「決まってるなら、店員呼ぶけどどうする?」
「……僕は別に大丈夫だよ」
「私も……大丈夫」
「じゃ、呼ぶぞ」
「って、私まだ決まってないんだけど!」
「そんなの呼ぶまでに決めてください」
問答無用で俊吾は店員を呼んだ。10数秒すると店員が来た。
「ご注文は?」
「え~と、日替わりランチを一つ」
「私は……シーフードグラタン」
「僕は、トマトクリームパスタで」
「で、楯無さんはどうするんですか?」
「ん~。じゃあ、私も日替わりランチで」
「以上でお決まりでしょうか?」
「はい」
「それでは料理が来るまでお待ちください」
そう言って店員は下がった。
「そういえば、良かったんですか?楯無さん」
「ん~?何が?」
「いえ、ランチセットでよかったのかって意味ですよ」
「ああ、別に私もそこまで高いの食べたいわけじゃなかったし、手頃なやつでいいかな~って思ったの」
「ふ~ん……あ、そいや、シャル。今日って何買いに来たんだ?」
「今日は臨海学校で着る水着買おうかなって思ったんだ」
「ああ、自由時間あるんだっけか。なるほど、だから学校の生徒が多いわけだ」
ここに来るまでに結構のIS学園の生徒を見かけた。何故かその生徒からの視線が変なものを見る目だった気もするんだけど、それは気にしない。理由はわかるから。
「ちなみに私もよ~」
「別に楯無さんには聞いてません」
「……何か最近、私の扱い悪くなってない?」
「そんなことありませんって。普通ですよ普通」
「あれ、先輩も水着買うんですか?」
何だかブツブツ言っている楯無にシャルロットはそう聞いた。
「そうよ。私も一緒に臨海学校行くからね」
聞かれた瞬間、普通に戻った楯無はそう言った。
「そうなんですか?」
「ええ。丁度、試作段階の武器来ちゃって。それで試験内容が水が多い場所での試験稼働だから、どうしようかなって思ってたんだけど臨海学校あったから、申請しちゃった」
改めて思うけど、それで許可もらえるんだもん、すげえよな。この学園の生徒会長は伊達じゃないってか。まぁ、実力ないとこの学園の生徒会長は務まらないけど。
「何というか……大変ですね。僕もたまにそう言うのあったから分かります」
「……私の苦労を分かってくれるのはシャルロットちゃんだけよ」
そう言ってシャルロットの手を掴んだ。
「どっかの誰かさんは、興味なさそうに聞いてて、私の扱いが悪なって流すようになったけど」
「誰でしょうね、そいつは。酷いことする奴もいたもんだ」
「……何か俊吾。先輩のあしらいかた、上手くなったね」
「それはありがとう。そう言われると、自信持てるよ」
「俊吾くん……それ、褒めてないと思う」
「本人が褒め言葉だと感じれば、それは褒め言葉になるんだよ」
「何とも、変に前向きなだけど、弄れてる考えね」
「ほっといてください」
そんな会話をしてると、料理が運ばれてきた。最初はシャルロットの物だけが来たが、次々と全員分が運ばれてきた。俊吾と楯無の日替わりランチはハンバーグとサラダ、野菜スープにライスといったラインナップだ。俊吾はハンバーグに箸を入れる。すると、肉汁が溢れてきて、唾液が自然と出る。ひと切れを口に運ぶと、予想通り肉汁が溢れ美味しかった。
「お、結構美味しいな」
「そうね。正直、期待はそこまでなかったから良かったわ」
まぁ、IS学園の料理食べてれば大体の料理は『こんなもんか』程度になるから、楯無さんの言ってるのも分かる。実際、俺もそんな感じだったし。
「二人のどうだ?」
「うん、美味しいよ」
「私のも…………美味しい」
「そっか、良かった」
家族とか男友達と来るときは、みんなで回し食べとかするけど、流石に女子相手にやるわけにもいかないしな……。う~ん、パスタとグラタン食べたかったな。
「あの、俊吾。良かったら食べる?」
「え、悪いから良いよ」
「でも、凄く食べたそうな顔してるよ?」
そんなに顔に出てたかな……。まぁ、食べたいのは事実だけどさ
「別に貰えばいいんじゃないの?シャルロットちゃんの好意を無駄にしたいなら別にいいけど」
楯無さん……あんた分かってて言ってるだろ…………。顔ニヤけてるしな、この野郎……。まぁ、でも確かにシャルが提案してくれたわけだし……素直に貰おうかな……。
「……じゃあ、貰おうかな」
「うん!」
と言っても、どうやってもらおうか……。あ~、取り皿でも貰えばよかったかな。
「じゃあ、あ~ん」
「…………」
…………どうしろと。俺にどうしろと。いや、どうしろと。これは食べるべきなのか……。いや、止めといたほうが良いだろ、うん。
「どうしたの?食べないの?」
いや、小首を傾げて言われましても…………。というか、無自覚ですか、シャルさん。何というかこの子、変なところ抜けてるからなぁ……。
「……普通に食べたら?俊吾君」
迷ってると楯無が俊吾に耳打ちしていた。
「シャルロットちゃん、無自覚みたいだし、別に問題ないと思うけど」
問題あるのは俺の方なんですよね~。……まぁ、意識したら負けか。よし。
「あ、あ~ん」
シャルロットの出しているフォークを食べる。トマトクリームと魚介系のダシが効いていて美味しい。
「ね?美味しいでしょ?」
「ウン、オイシイデスネ」
何かカタコトになったけど気にしないで。結局、意識しちゃったから。…………全く、心臓に悪い。
「あ、あの……俊吾くん」
「ん?」
「私のも……食べる?」
◇ ◆ ◇ ◆
「はぁ……何で、飯食べるだけでこんな疲れてるんだろ」
現在、遅めの昼食を終え、水着コーナーへ移動中である。簪のグラタンは食べたかって?当たり前だろ。…………食べたよ、うん。ちなみに、楯無さんのは食べてないっす。いや、だってメニュー一緒だし?
「っと、ここか」
目の前には海水浴シーズンを控えて、フロア一面が水着だけで埋まっていた。まぁ、もう海開きしてるところもあるけど、それは知らない。
水着の男女比が2:8と、やはり女性待遇社会を感じさせる構成だ。仕事の関係もISがかなり中心になりつつあるから仕方のないことなのだろう。
「で、水着買うにしても俺は何してればいいの?」
大方、荷物持ちとかそんな感じだろうけど。
「折角だから、俊吾に水着選んで欲しいな」
「俺に頼んでいいの?言っとくけど、そこまでセンスよくないぞ、俺」
「まぁ、それはそれで良いよ。一緒に回ってくれればそれでいいから」
何か、今の一言に何かダメージを受けたんだけど……。気にしないようにしよう。
「じゃあ、まずあっち行こう」
そう言ってシャルロットは歩きだした。
まぁ、このフロアのほぼ全体が水着コーナーだし、どこ行くかは最初に行かないと的絞れないよな。逆に男は一角だけだから迷う必要ないけどな!……これは嬉しいんだろうか、それとも悲しいだろうか。良く分からない。というか、男の水着って基本トランクスタイプだから種類少ないよな。たまにブーメランタイプも売ってるけど、あれはほとんど競泳用だからなぁ。女性用が増えるのは必然なのか……。まぁ、良く分からんから気にすることないか。とりあえず、付いていこうか。
俊吾は女性用の水着コーナーに入っていった。そこで、問題と言えるかはわからないが俊吾の心の中で問題が発生。
そいや、忘れてたけど……超気まずい。『何で野郎がこんな所にいるんだよ?』みたいな視線が周りから来る。これが一夏だったらまた反応が違うんだろうな…………。ここは戦略的撤退をしなくても良いのだろうか、いや、しなくてはいけない。というわけでで、Uターン……。
「俊吾?どこ行くの?こっちだよ?」
畜生、何でこういう時だけ……というわけではなく、いつもだがシャルさんは気配りが出来るんでしょうか。普通なら嬉しいのに、こういう気遣いは全く嬉しくない。あれか、神が俺に腹くくれと言っているのか、そうなのか。……あ、そんなことはない、すいません。
俊吾は渋々、シャルロット達についていった。
~数十分後~
「ねぇ、俊吾!こっちとこっちどっちがいいかな?」
「ウーン、ドッチモニアウンジャアリマセンカネ」
「もう、さっきからそればっかり!真面目に選んでよ!」
「いや、そんなこと言われても…………」
このくだり何回目だよ……。言っとくが、二十回目から俺は数えてないぞ。……ある程度は予想してたけど、予想以上だったな、全く。でも、まぁ…………シャルが楽しそうならそれもいいか。
シャルロットは水着を見ては悩み、そして微笑み悩みを繰り返している。それほど良い物が多いのだろうか。フランスの方がそういったセンスは良さそうなのだが、と俊吾は思ったのでシャルロットに聞くことにした。
「なぁ、シャル。こういう水着ってフランスとかじゃあんまりないのか?」
「え?ううん、別にそういうわけじゃないけど、日本の方が繊細に作られてるだよね。しかも、デザインも結構いいし」
なるほど……。流石はメイドインジャパンなのか。と思ったが、基本的に海外で生産してるから厳密に言えばメイドインジャパンではないのか。結局、支配人は日本人だから大差ないけど。
「う~ん、俊吾。どっちが良いかな~。この二つが最終候補なんだけど……」
シャルロットは両手に水着を持ってそう言った。右手には水色のビキニタイプの水着。枠に濃い目の青で縁どられ、シャルロットの金髪に映え良く似合いそうだ。左手には上は黄色を主とし、黒で縁どられ、下は黄色と黒のストライプのビキニだった。こちらはこちらで、シャルロットに良く似合いそうだ。
……まぁ、何というかどっちも露出高いですね。ビキニの時点で仕方ないんですが、何とも言えないっす。…………と言うか、俺に選べって何というか性癖を晒すようで忍びないんですが……。まぁ、買い物終わるなら選ぶか。
「俺は……水色のほうがいいと思うけど」
「そっか……じゃあ、こっち買うね」
そう言ってシャルロットが持っていったのは、黄色のビキニだった。
「って、俺とは逆の方かよ!」
「え、だって、俊吾、さっき自分でセンスないって言ったでしょ?だから、こっちにするの」
え~、理には適ってるかもだけど、それってどうなん…………。そんな事言われるとダメージが凄いんだけど……。俺、泣いちゃうよ?
「ふふ……嘘だよ」
そう言うと、シャルロットは水色の水着を取ってレジに向かった。
「ちょっと、意地悪しただけだよ。ごめんね?」
「……そういう冗談はやめてくれ。結構、本気で傷ついた」
「ホント、ごめんね?でも、俊吾の困る顔見たかったんだ」
いや、それはどうなんだ。人の趣味をとやかく言うつもりはないけど、それはどうなんだ。……まぁ、いっか。
「別にいいけどさ。と言うか、試着しなくていいのか?サイズ合わなかったら大変だろ?」
「う~ん、大丈夫だよ。多分だけど」
「…………良いのかよ、それで」
「うん。あ、もしかして、僕の水着姿見たかったの?」
「いや、まぁ、見たいかと言われたら見たいけど……」
あ~、俺何言ってるんだよ。これじゃ、ただの変態じゃないか……。
「そっか……。じゃあ、臨海学校までのお楽しみにしててね」
そう言ってシャルロットはレジに向かっていった。
「……さて、さっさと退散するか」
何というか、色々精神的に辛い。早く抜けるに越したことはない。
そう思い、歩き出すと、何だかヒステリックな声が聞こえた。
「あなた、これ片付けておいて!」
声の聞こえ方的に、俺には言ってないんだろうが、如何せん、嫌な予感がするのは何でだ。……取り敢えず、確認するか。
俊吾は声のする方向チラッと見ると、女性と一人の見知った顔があった。
「一夏……絡まれたのか。お気の毒に」
俊吾は薄情と思いながらも、さっさとその場から退散することにした。すると、一夏と目が合ってしまった。
『俊吾!?良かった!助けてくれ!!!』
『嫌だよ、面倒臭そうだし。適当にあしらえば何とかなるって』
『その適当が思いつかないんだよ!』
と、アイコンタクトで会話をして、仕方ないか、と俊吾は思い一夏に近づいていった。
「お、一夏じゃん。何してんだ?」
「お、おお、俊吾か!いやな、連れに置いてかれちゃってさ」
取り敢えず、偶然を装い会った感じを出す。一夏もその意図を読んでくれたみたいで何とか不自然なく会話が続けられる。
「そっか。じゃあ、一緒に探さないか?俺も似たようなもんだからさ」
「じゃあ、そうするか」
そう言って、一夏はその場から離れようとする。が、
「あんた!ちょっとどこ行くのよ!これ片付けなさいよ!!!」
と言われ逃がしてくれなかった。まぁ、正直これで上手くいくとは思わなかった。
「片付けろって……それって、あなたが使ったものですよね?」
「そうよ。でも、あんたらは男なんだから私に従うべきでしょ?」
ああ、やっぱりアホの子か……。こういうのが一番面倒くさいんだよな……。地元の学校にもいたわ、こういう勘違いちゃん。女性が待遇されてるのは、あくまで『ISが使える女性』だけだ。そうでもないただの一般市民はそんなことはないんだけどな。
「はぁ……いい年した大人が何言ってるんですか。自分の使ったものくらい自分で片付けて下さいよ。それすら出来ないって、ただのガキでしょ?今時、片付けなんて幼稚園生でも出来ますよ?」
「っ……!この…………!!!」
あ、必要以上に焚きつけちゃったかもしれない。
「警備員呼ぶわよ!今、ここであんたに襲われたって!!!」
あ~、やりすぎたか……。どうするか…………。いやまぁ、一番楽な方法があるんだけどなぁ。でも、使いたくないし、でも使わないと面倒だし……。仕方ない、か。
「どうぞ、別に呼んでください。俺は困らないので」
「なっ!」
「なんせ、俺はゲイなので。あなたを襲う理由がないんですよ」
「…………え」
今の声は一夏だ。正直、こんなこといきなり言ったら、固まるのが普通だよな、お前男だし。
「そ、そんな嘘すぐにバレるわよ!」
意外とあっちも驚いたらしい。だが、まだ終わらんよ?
「いえいえ、すぐに証明できますよ?俺の携帯見てもらえば良く分かります」
俊吾はそう言って携帯を操作して、あるフォルダを見せた。
「ほら、これが証拠です」
そこには、お察しかもしれないが男と男の濃厚な絡みの画像があった。それを見ると、ヒステリックな女性もドン引きして帰っていった。色々とブツブツ言いながら。
「はぁ……ホント、ああいうのは困るよな。な、一夏」
そう言って、振り向くと一夏が遠くにいた。
「あれ、何でお前そんな遠くにいるの?いじめか?」
「あ、いや、その……」
あ、そうだ。俺、今ゲイ宣言したばっかりか。そりゃ、引いても仕方ないか。
「一夏……お前、もしかして、俺が本当にゲイだと思ってるのか?」
「…………い、いや、そんなことないぞ!」
今の間は何なんでしょうね、全く。
「嘘に決まってるだろ、全く」
「で、でも、あの画像は?」
「あれは痴漢対策だよ」
「痴漢対策?」
「そう。結構、電車って冤罪の痴漢で捕まる人がいるからこう言う対策するんだよ。ほら、痴漢されたと思った男がゲイ宣言してそんな画像見せられたら普通は信じるだろ?」
「な、なるほど。そういうことか」
まぁ、すぐには信じてもらえないかもしれないが、これでいいだろ。これ以上、ムキになって言っても疑われるだけだろうし。さ、シャルの所行くか。
そう思い、踵を返すと見知れた三人の姿があった。
「俊吾……」
「俊吾くん……」
「俊吾君…………。っぷ、クスクス」
おい最後!分かってて言ってやがるな!!!……とはいえ、前二人の誤解はとかないとな。俺が学校でゲイだって言われるのは嫌だし。
◇ ◆ ◇ ◆
「うぐぁ……疲れた…………」
帰りの電車の中で俊吾はくたびれていた。結果だけ言うと、ゲイ疑惑は晴れた。が、それにかなりの労力を使い疲れていた。途中で楯無が茶々を入れたりなどの妨害もあったせいで余計にだ。
俊吾は電車の中で席の隅に座っている。他のメンバーは一夏達と合流したので女子だけでワイワイと話している。一夏もそこにいる。簪も最初は戸惑っていたが、今は溶け込んでいるように見える。楯無はそれを見て微笑んでいる。
あと、何か知らないけど、さっきシャル達に水着を渡された。理由を聞くと『折角海に行くのに泳がいのは勿体無いよ!だから、これ着てね!』らしい。俺も悪いと思って金を返そうと思ったらいらないって言われるし。
「はぁ……これ、着ないといけないパターンだよな…………」
あの地獄の中に入れと。そう言ってるわけで、鬼畜以外の何者でもない。あ、別に一緒にいなくてもいいのか。どっか適当な場所に水着を着て避難すればいいのか。それなら失礼にならない。いや、失礼だけどさ。
「俊吾君、今日は大変だったわね~」
色々と考えているとニヤニヤしながら楯無が近づいてきていた。
「……半分は楯無さんのせいな気もしますけどね」
「だってみんなの反応が面白いだもの」
「悪びれないんすか…………。全く、俺じゃなかったら怒ってるところです」
「俊吾君だからあんな風に遊んだのよ」
「そんな信頼はいりません」
「そうは言いながらも、俊吾君は結局、私を助けてくれるじゃない。私、そういうところ大好きよ」
…………何か、反応に困る言い方されたなぁ。まぁ、返しは決まってるんですけど。
「そんな都合よく好きになられても困ります。利用されるだけ利用される結末が見えてるじゃないですか、そのセリフに」
「あら、バレちゃった?」
てへっと言いながら楯無はウインクした。
全く、この人は……。俺で遊ぶのも大概にしてほしい……。
「でも、俊吾君が好きってのはホントよ?」
「…………はい?」
…………それって普通に親愛とか友情とか利用しやすいとか、そういった感じですよね~。…………一瞬、マジかと思ったのは内緒。
「だって俊吾君、文句言いながらも私を助けてくれるじゃない。簪ちゃんのことだって、この前のことだって」
「あれは成り行きですよ。結果、成功しただけでどっちも賭けに近かったじゃないですか」
「でも、成功させるために俊吾君は努力して、あの結果になったじゃない。今日だって、ある程度は計算してたんでしょ?」
「いや、まぁ…………計算というか……信じたというか」
「え?」
「いや、楯無さんにしろ簪にしろ、二人共仲直りをしたいって思いながら過ごしていたわけですし、ああいう機会があって、二人共仲直りしようと努力したわけですし。その…………何というか……この二人なら絶対仲直りできるって確信があったんですよ。だから……信じたというか、何というか……」
あー、何か言ってて自分でも分からなくなった……。と言うか、変なこと言ってないかな。そっちが心配だ。
「……ふふ」
楯無は微笑むように笑った。そして、俊吾に向かって言った。
「やっぱり、俊吾君のそういう所、大好き」
そういった顔はどこか、暖かい笑みに包まれていて、魅力的だった。ほんの数秒だが、俊吾も見惚れていて、すぐに我に返る。そして、楯無に何か言おうとするとちょうどIS学園駅に着いた。そのせいで、何も言えないまま、電車での出来事は終わった。
◇ ◆ ◇ ◆
「…………疲れた」
部屋に着くなり、俊吾はベットにダイブした。疲れたというのが大半だが、今は楯無の電車での言葉が心に引っかかっていた。
…………まぁ、落ち着いて考えると、あの人の事だから愛の告白ではないんだろうな。弟とかそう言った家族を見るような目だった気がする。俺が男として見られてるわけないだろうし。…………それにしても、楯無さんってやっぱり綺麗だよな。さっき改めて思ったけど。……うん、まぁ、関係ないか。別に俺があの人と付き合うなんてことは一生起きないだろうし。
「俊吾~、早くシャワー浴びたらどうだ?」
一夏は部屋に着くと、すぐにシャワーを浴び、俊吾が考え事をしている間に浴び終えたのだろう。シャワー室から出てきながらそう言った。
「ああ、そうだな~」
このまま寝っ転がってると寝そうだし、早めに浴びとくか……。
俊吾はシャワーを浴び、ベットに寝ころだりながら携帯をいじっていると、いつの間にか寝落ちしていた。
後書き
いや~、途中で何を書きたいのか良く分からなくなってしまいました。
まぁ、そこは暖かく見ていただけるとありがたいです。
あと、最後の楯無さんはどういう意味で言ったんでしょうかね。作者の自分でも良く分からないまま書いたので、親愛なのか愛情なのかは分かりません。
正直、こういう風なセリフでやっとラブコメなのかな、とか思ったりします。ラブコメになるかもわかりませんが(笑)
安定の俊吾くんで書いていきたいと思ってるので楽しみにしていてください。
あと、痴漢のくだりは意外と効果あります。あれで冤罪まぬがれた事例あるので。別に、あれな画像じゃなくても虹画像でも効果あったりします。いざという時のために、あったほうが便利かもしれませんね。
では、次回の更新で。
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